第20話 海は若さを運ぶ(2)
潮風はまだ冷たかったが、日差しだけは初夏のように額を温めた。友達は荷物を適当に放り出し、砂を椅子代わりに腰を下ろして、のんびり過ごしていた。
「民宿って、どこなんだよ」
「知らねえ。適当に入ろうぜ」
カンヌン駅からタクシーでキョンポデへ来ると、民宿の看板が数え切れないほど並んでいた。客引きは宿を決めたかとしつこくついてくる。一人ずつ断るのも大変だった。インスは、チョンウォンが着くまでひとまず海にいようと提案した。
「チョンウォンが、かなりいいとこ知ってるって言ってたんだよ。トイレもシャワーも俺らだけで使えるって」
宿選びを間違えると、物置のような狭い部屋で体を丸めて寝る羽目になる。隣の部屋で足をかく音まで聞こえるのは珍しくもなく、トイレも何部屋もの客と共用だ。それを知る彼らは、誰にでもついていくわけにはいかなかった。
「去年、ウ・ヒジェ、あのバカが何も考えずについてったせいで、ひでえ目に遭ったんだよ」
去年のことを持ち出してヒジェを責めるインスに、デヒョンも加わった。
「あそこは地獄だったな。刑務所のほうがましだ」
ヒジェは頭をかきながら煙を吐いた。
「俺は別に平気だったけど」
ジフンだけが知らない話をしているのが気になったが、当の本人は気にする様子もなく笑っていた。声を上げて笑っては、また苦笑いに戻る。いつの間にか、続けざまに三本目の煙草を吸っていた。
「おい、肺が腐るぞ。何本吸ってんだよ」
ジフンは落ちている吸い殻に一度目をやり、それを煙草の箱に押し戻した。もともと口数は多くなかったが、最近は何時間も黙ったままでいることがあった。何かあれば話してくれるだろうと、インスはまた海へ目を向けた。
「ところで、今年はどうする?」
デヒョンの問いに、ヒジェが「何を」と聞き返した。
「夜だよ。海で飲むだろ」
キョンポデには夜になると、砂粒よりも多くの若者が押し寄せた。誰も彼も人の波をかき分け、女の子に声をかけて回った。デヒョンが口火を切った。
「まず、声かけ担当は俺。ビジュアル担当で一人か二人、後ろについてこい。去年みたいにさえならなきゃいい」
友達の顔をひとわたり見た。
「ウ・ヒジェ……は彼女いるから、とりあえずイム・ジフンと回ってみるか」
インスは、まだ始まってもいない夜の景色に期待を膨らませた。
「でも、高校生って結構いるのかな」
インスがそう言うと、デヒョンは真剣な顔で立ち上がり、友達を振り返った。
「去年みたいに何も考えずにいたらだめだ。俺らも先に準備して、それに合わせて動かないとな」
作戦はこうだった。まずデヒョンが相手の年齢を聞く。大学生だったら、こちらもそれに合わせて大学一年生のふりをする。説明を聞き終えると、ジフンは顔をしかめた。
「大学生のふりするのか? どこに通ってることにすんだよ」
「そこが大事なんだよ。去年会った子たちともその話になってさ。ウ・ヒジェ、あのバカのせいで」
インスが口を挟んだ。
「ナクソンデって答えたんだよな」
地下鉄の駅の名前だった。
ヒジェは脚についた砂を払いながら答えた。
「ナクソンデって大学じゃねえの?」
一瞬、呆れた沈黙が流れたが、無視することにしたのか、デヒョンは話を続けた。
「とにかく、それも俺が答えるから黙ってろ。お前らはそうだって言うだけでいい。学科は経営学科にしよう」
ヒジェを見ると、ナンパにはあまり関心がなさそうだった。インスもただわかったと答えたが、内心では夜が楽しみだった。
チョンウォンが着いたのは、四時を過ぎてからだった。先に来た四人は宿も決まっていないので、荷物を浜辺に置いたまま遊ぶしかなかった。一人ずつ交代で荷物を見張り、残りの三人は海で遊んだ。水がまだ冷たすぎて、長く遊ぶことも深く入ることもできなかったが、十代の男の子たちの体は熱かった。チョンウォンが来ると、四人は荷物をまとめ、水道でざっと砂だけを落とした。
「ちゃんと言ったとおり、適当なとこ入らずに待ってたんだな」
「適当に入ろうってやつはいたけどな。去年のこと考えたら怖くて、待つしかなかったんだよ」
遅れたのが申し訳ないのか、チョンウォンは民宿を褒めちぎった。宿は浜辺からさほど離れていなかった。確かに、言ったとおりだった。二階建ての建物の屋上にある部屋は、他とそう変わらなかったが、男の子五人には十分な広さだった。
「うわ、すげえ。トイレやべえ。屋上もやべえ」
屋上はバドミントンができそうなほど広かった。長い物干しのロープも張ってあった。濡れた服を着替え、ロープに適当に引っかけて干した。
屋上の片隅には簡単なテーブルと椅子があった。椅子を並べて、海を眺めた。
「今日、何かいい感じだな」
東海から届く潮の匂いと風を、友達は深く吸い込んだ。ふと思い出したようにインスが言った。
「っていうか、飯食わねえの?」
五人は、今日まだ一度もまともな食事をしていないことに気づいた。持ってきた荷物にはガスバーナーとキャンプ用の鍋、米とキムチがあったが、誰も言い出そうとはしなかった。着いてすぐに買い出しをした品々が、こちらを見てくれと言わんばかりに置かれていた。
「腹減ってねえ」
ジフンは煙草をくわえ、つぶやいた。
「酒でも飲もうぜ」
インスは、このままではだめだと立ち上がり、辺りを見回した。
「おい、サムギョプサルの店に行こうぜ。飯でも酒でも、あそこなら済むだろ」
チョンウォンも一緒に周囲を見渡した。
「でも、酒売ってくれんの? 地元でも売ってくれるとこだけだろ。ここはわかんねえじゃん」
デヒョンも加わって言った。
「観光地ならどこでも売ってくれるよ。去年もそうだったし」
意見のまとまった三人は、ジフンのところへ行き、立てよと肩を軽くたたいた。
「行こうぜ。向こうで飲めよ。って、ウ・ヒジェはどこだ。おい、何してんの?」
ヒジェは片隅で、鍋を載せたバーナーに火をつけていた。
「飯食おうって言ったじゃん」




