第18話 十字架に咲いた花(4)
「おーい。聞こえる?」
デヒョンは小さな声であの子を呼びながら、脇道のあちこちを見て回った。去年、姉が聖句を見つけた方角と、敷地を囲む柵の辺りへ向かった。
山道を十分ほど駆け上がると、幸いにもすぐに見つかった。あの子はデヒョンの姿を見るなり、小走りに雪をかき分けて近づいてきた。確かに、かなり奥まで入り込んでいた。
ズボンは汚れ、顔には乾いた涙の跡があった。泣いていたのだとわかった。デヒョンはようやく胸をなで下ろした。
「班のみんなが探してるよ。ここ、帰り道がわからなくなりやすいんだ」
「ごめんなさい……去年、山の中で誰も見つけられなかった聖句を見つけたお姉さんがいたって聞いて、すごくうらやましくて、つい……」
やっぱり姉は厄介な人間だと思った。去年、聖句探しが終わっても、まだ戻らないとわめいて山を探し回っていた。それが、こんなバタフライ効果を生むとは。
「早く戻ろう。まだ先生たちは、いなくなったことを知らないから。今戻れば叱られないよ」
あの子にも笑顔が戻ってきた。
「ありがとうございます。どうしてここにいるってわかったんですか?」
デヒョンはため息をついて答えた。
「去年のそのお姉さん……うちの姉なんだ。近道で帰ろう」
それ以上は説明しなかった。長く話していたら、本当の気持ちまで知られてしまいそうだった。
デヒョンは雪をかき分け、道を作ってやった。あの子は慎重に、一歩ずつあとをついてきた。
雪解け水が流れる小さな沢で、岩から岩へ飛び移らなければならなかった。幅を見ると、あの子にも問題はなさそうだった。先に大きく跳んで渡り、振り返った。
あの子は靴が濡れるのを心配しているのか、ためらっていた。少し待ってから、手を差し出した。
あの子は礼を言い、その手を握る代わりに、手首をつかんだ。岩を跳び越えられるよう、軽く力を入れて引くと、ぶつっと小さな音がした。
無事に渡ってきたのを見届けてから、デヒョンは手首を見下ろした。長く使っていた時計の革ベルトが切れ、地面に落ちていた。
「どうしよう……私のせいで……」
デヒョンは何でもないように時計を拾い、土を払ってポケットに押し込んだ。
「大丈夫。もともと切れそうだったんだ」
また先に立って歩いた。平らな道を少し進むと、講堂の建物が見えた。二人はそっと扉を開け、何事もなかったようにそれぞれの班へ戻った。
思ったより早く戻ってきたデヒョンに、班長は礼を言った。短く微笑んで応え、デヒョンも劇の準備に加わった。
午後のそり遊びと聖書の勉強が終わると、いつの間にか夜になっていた。二日目の締めくくりは、キャンプファイヤーだった。
高く積まれた乾いた薪がぱちぱちと鳴り、最後の息を空高く吐き出していた。みんな指揮に合わせて聖歌を歌った。温かな熱が顔に触れた。
デヒョンは、キャンプも案外悪くないと思った。
レクリエーションの先生は、両親を思い浮かべて祈るよう促すことも忘れなかった。デヒョンは頭を垂れ、両親のことを考えながら、キャンプで過ごした時間を振り返った。
キャンプが終わったら、聖職者になりたいと打ち明けよう。そう決めていた。
それなのに、得体の知れない感情の波が押し寄せ、足元をそっとたたいた。何世紀もの季節をくぐり抜けた木を揺さぶったのは、その下で黙って顔を出した白い花だった。
キャンプファイヤーの途中、山で迷っていたあの子と目が合った。あの子は、そんなことなどなかったように、友達と笑っておしゃべりをしていた。
デヒョンは目をそらしたが、あの子は近づいてきて、何かを差し出した。
みかんだった。
短く「サンキュ」と答え、コートのポケットへ入れた。
キャンプファイヤーの炎は、いつまでも消えない勢いで、夜の終わりを彩っていた。
二日目の夜も、静かに過ぎた。頭を空っぽにして、余計なことを考えず眠れるように、わざと予定をぎっしり詰めてあるのではないかと思った。
最後の夜を惜しんでひそひそ話していた子たちの声も、次第に静まった。デヒョンも、今夜はすぐに眠りについた。
短い夢を見たようだった。
デヒョンは交差点を歩いていた。トンネルの出口のような明るい光が、デヒョンを待っていた。ためらわず、道に沿って歩いた。
交差点の真ん中へ来ると、地面を突き破って、小さな白い野の花が咲いていた。
もう一歩進めば踏んでしまうかもしれない。デヒョンは、その場に立ち止まった。
最終日は、朝食のあとにミサにあずかった。班ごとに集合写真を撮り終える頃には、みんな別れの挨拶をするのさえ名残惜しそうだった。
寄せ書きの時間にもらった紙には、別れを惜しむ言葉と電話番号がぎっしり書かれていた。デヒョンも、同じ班の子たちと目を合わせて挨拶をした。
それぞれの教会のバスが、順番に入ってきた。姉はようやく弟を見つけたのか、首の後ろを軽くたたき、一足先にバスへ乗り込んだ。
教会名の書かれたバスに一人、また一人と乗り始めると、神父様たちも握手を交わして別れを告げた。
帰りも、かなり時間がかかるはずだった。デヒョンは帽子を目深にかぶり、ポケットに手を突っ込んだ。
バスがそれぞれの道へ散っていくと、キャンプファイヤーで歌った聖歌を思い出し、つぶやくように歌った。
……遠い未来、あなたの前に立つとき、どうか私を抱きしめてください……
ポケットの中で、ベルトの切れた時計とみかんに指が触れた。




