第15話 十字架に咲いた花(1)
1999年12月、16歳のデヒョン
聖堂を埋めた子どもたちは、神父様の話が終わるのをひたすら待っていた。今回の冬のキャンプは、いくつもの教会が参加する教区合同のキャンプで、人数も多かった。何か問題が起きないかと心配なのか、神父様は同じ注意を何度も繰り返した。
「ですから、皆さんが主の愛のうちに共にいることを忘れず、どうかこのキャンプが、自分の中の光に気づくきっかけとなりますように……」
デヒョンは懸命に背筋を伸ばしていたが、そろそろ限界だった。それでも、なるべくよそを向かず、神父様から目を離さないようにした。
ようやく神父様が年上の班長たちに引率を頼むと、子どもたちは列になってバスへ向かった。四十人以上は乗れそうな大型バスだったが、中等部と高等部の子たちに、神父様とシスターたちまで乗り込むと、座席はすっかり埋まった。
やがてバスはゆっくりと滑り出し、教会をあとにした。みんなキャンプへの期待に浮き立ち、笑い声が絶えなかった。お菓子を回して分け合う子もいれば、席を移ってはふざけ合う子もいた。
デヒョンは窓際に座り、後ろへ流れていく景色を眺めた。街路樹の間に並ぶ、まだ開いていない店たちが、町は任せて行っておいでと見送ってくれているようだった。
幼い頃から通っている教会だから、誰もが見慣れた顔だった。それでも親しくしている子はおらず、日曜日に会えば目で挨拶を交わす程度だった。キャンプも信仰の一部だと思うと、行きたくないとは言えなかった。だから二泊三日が早く終わりますようにと、ひそかに祈っていた。
一緒に来た姉は、後ろの席で高等部の女子たちと、永遠に続きそうなおしゃべりをしていた。神様が大きく作りすぎたおしゃべりの袋を、姉が盗んでぶら下げて生まれてきたのではないか。そんなことを考えた。
隣の子がお菓子をくれたので、礼を言って一つつまみ、少し眠ろうと帽子を目深にかぶった。
途中でサービスエリアにも寄り、ようやく着いた黙想センターは、先に到着した他の教会の子たちでにぎわっていた。シスターたちの持つプラカードを頼りに講堂へ集まっていく姿は、あまりの人数に見ているだけで目が回りそうだった。
シスター・ソフィアも教会の名前が書かれたプラカードを掲げ、大きな声で呼びかけた。
「さあ、皆さん。順番に入りましょう」
デヒョンたちは班長たちに引率され、シスターのあとについて講堂へ入った。いよいよ始まるのだった。
講堂にはざわめきが満ちていたが、年上の男子たちが歩き回って注意しているおかげで、大騒ぎにはならなかった。デヒョンはシスター・ソフィアについて前方の席に座った。
みんな周りをちらちら見ながら、ぎこちなくおしゃべりを続けていた。神父様とシスターたちがにこやかに挨拶を交わし、前方に腰を下ろすと、ようやくざわめきも落ち着いた。
講堂に入って初めて、静けさが訪れた。神父様が一人の男性に、舞台へ上がるよう手で促した。男は舞台に立つと、さっそくマイクのテストを始めた。
「あー、あー。ワン、ツー。マイクチェック。主よ、聞こえてますかー?」
ただのマイクテストなのに、あちこちでくすくす笑いが起きた。
「さあ、皆さん、こんにちはー! 今日から冬のキャンプの進行を担当するレクリエーションの先生、パウロです!」
子どもたちは笑いながら、先生の話に耳を傾けた。デヒョンもいつしか、息つく間もなく続く言葉を聞いていた。
「たった今、集まったところですが、さて、今の時間はー……神様もおなかがすいて、祈りを聞いてくれない頃ですね! というわけで、手早く班を決めて、お昼を食べて! そのあと、さっそくオリエンテーションを始めましょう!」
レクリエーションの先生は、手際よく班を編成した。まず男子と女子を分け、同じ教会の子たちが一つの班に重ならないように振り分けて、それぞれの班に高等部の生徒を一人ずつ入れた。部屋は二班で一室ずつ割り当てられた。
第三班になったデヒョンは、同じ班の子たちとぎこちなく挨拶をした。姉を見ると、もう自分の班で盛んに自己紹介をしていた。どこへ放り出しても生きていけそうな性格がうらやましかった。
デヒョンも人見知りではなかったが、三日後には別れる相手と、姉のようにすぐ打ち解けるのは難しかった。それでもみんながためらっているので、先に挨拶をした。
「こんにちは。ヤンジェ二洞教会から来た、今年中学三年のカン・デヒョンです」
高校生の班長は、しっかり挨拶をするデヒョンに、目で礼を伝えて微笑んだ。
「こんにちは。私はテチ洞教会から来た、高校二年のハン・ウリです。じゃあ、デヒョンの右隣から順番に挨拶してもらおうかな」
デヒョンは、一人ずつ挨拶する子たちの顔と名札を交互に見た。教会名の下に、大きく名前、その下に小さく洗礼名が書かれていた。キャンプが終わるまでに、全部覚えられるだろうかと思った。
班のみんなは、高校生の班長に連れられて食堂へ向かった。中では順番に列に並び、仕切りのついたトレーに食事をよそってもらっていた。メインはわかめスープと魚のフライだった。
席に着くと、デヒョンは静かに十字を切り、スープをひと口飲んだ。
「おいしいな」
その言葉を聞いたみんなもひと口ずつ食べ、「ほんとだ」とうなずいた。食事がおいしいと気持ちもほぐれ、ぎこちなかった空気も消えていった。




