↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/74

第13話 背の低い空の下で(1)

2001年5月、18歳のセハ


 久しぶりに会う友達と、朝早くからロッテワールドへ行った。そのあとの飲み会でも、セハは疲れさえ忘れて楽しく過ごしていた。試験期間が終わったおかげで、親の小言もずいぶん減った。勉強するときは勉強して、遊ぶときは思いきり遊んでいい。今日はその言葉が、いつになくありがたかった。


 みんなのいたずらに、夢中で笑い、おしゃべりした。あまり遅くならないうちに帰らなければいけないのに、もう十時が近づいていた。

「マジかよ。『火花』見てないの? イ・ヨンエが出てるんだぞ?」

 十代の話題は、迷路のようにあちこちへ散っては、いつの間にかまた同じ場所へ戻ってきた。決まった話題はなかったが、ドラマの話をしていたデヒョンが、女優イ・ヨンエの美しさについて熱く語っていた。

「世の中には、三種類の女がいる。イ・ヨンエと、イ・ヨンエに似てる女と、イ・ヨンエに似てない女」

 みんなの視線が、一瞬でデヒョンに集まった。指を一本ずつ立てながら、話を続けた。

「イ・ヨンエと、イ・ヨンエに似てる女は、きれいな女。イ・ヨンエに似てない女は、ブサイクな女」

 突拍子もないことを真顔で言うデヒョンに、みんなは手をたたいて笑った。笑っている中から、デヒョンはジュミョンを見据えた。

「何笑ってんだよ。お前はイ・ヨンエに似てねえぞ」

 インスが誰よりも大きく笑ってしまい、ジュミョンは呆れたように笑って拳を握った。インスとデヒョンを交互にたたくので、飲み会は大騒ぎになった。

 息の詰まる毎日の中、友達に会うと感じられる、このかすかな解放感が好きだった。


「ねえ、私、そろそろ帰らなきゃ」

 時間を確かめ、セハは泣きそうな顔をした。みんながそれぞれ残念そうに声を上げた。

「ええ、もっとセハと遊びたいのに。もう帰っちゃうの?」

 ソヒョンが一番名残惜しそうだった。学校や塾に追われ、こうして集まれる日は少ない。だからか、なかなか立ち去れなかった。それでも、また次に遊ぶためには、遅くなりすぎないうちに帰るほうがよかった。

「私もソヒョンともっと遊びたいよ。また遊ぶためにも、早めに帰ったほうがいいんだ。ごめんね」

 ソヒョンに片目をつぶって挨拶し、立ち上がった。


「おい、イム・ジフン。立って、送ってきなよ」

 ジュミョンに言われ、ずっと考え込んでいたジフンが「俺?」と聞き返した。

「そう、あんた。朝から一緒に遊んだんだから、夜まで責任持ちなよ」

 そんなことしなくていいと、セハは手を振った。

「そうだな。イ・ジュミョンなら顔が凶器だから一人で帰れるけど、もう遅いし、セハは送ってやろうぜ」

 ヒジェまで口を挟んだ。そのせいでジュミョンはまた拳を握り、勢いよく立ち上がった。近づいてくるジュミョンを見て、ヒソルは笑いながら席を離れた。


 騒がしい中、ジフンがシャツと斜めがけのバッグを手に、近づいてきた。

「どうせ遠くないし。行こう」

「ほんとに大丈夫なのに……ありがとう」

 セハは笑って答えた。振り返ると、ジュミョンとヒジェはまだやり合っていた。その間にソヒョンとジニョン、ヒソルが玄関まで見送りに来て、最後まで名残を惜しんだ。一人ずつ目を合わせて挨拶し、靴を履いた。

 その間にジフンは、もうドアを開けて廊下を歩いていた。

「ねえ、イム・ジフン。一緒に行こうよ」

 振り返ったジフンは、照れくさそうにした。

「あ、エレベーター止めておこうと思って」


 セハの家までは二ブロック。信号を二つ渡れば着く距離だった。勢いよく走る車が切り裂いた夜の空気が、鼻先をかすめた。

「ああ、夜の空気、気持ちいい」

 セハが沈黙を破った。ジフンはジュミョンの家で遊んでいる頃から、急に口数が減ったようだった。もともとよくしゃべる子ではないが、一日一緒にいると、感じ取れるものがあった。

「そうだね。少し酔いもさめる」

 ジフンは小さく咳払いをして、空気を吸い込んだ。

「どうしたの。急に何か悩みでもできた?」

 ジフンは首を振り、セハを見た。

「いや、別に。たいしたことじゃないよ」

 何かを考えている顔だったが、それ以上は聞かなかった。


 ジフンがバッグからごそごそと何かを取り出し、渡してくれた。

「これ飲みなよ。少し酔いがさめると思う」

「わあ、チョコ牛乳。私、これ好きなの、どうして知ってたの?」

 うれしくて、チョコ牛乳を受け取った。

「俺が飲もうと思って買ったんだけど。いいよ、飲みなよ」

 セハはそれを手に、鼻歌を歌った。

「でも、ストローないね」

 ジフンは、しまったという顔でセハを見た。

「いいよ。そのまま飲めばいいし。男の子って、あんまりストロー使わないよね?」

 一つ目の信号で立ち止まり、パックを開けようとした。ジフンが手を伸ばして止めた。周りを見回し、言った。

「ちょっと待ってて」


 どこかへ走っていったジフンは、すぐに戻ってきた。片手には新しく買ったチョコ牛乳、もう片方にはストローがあった。

「はい、これ使って」

 ジフンは牛乳のパックを開け、ストローを差して、ひと口吸った。

「サンキュ。ちょうどコンビニがあったんだね」

 二人は並んで、また信号が変わるのを待った。


 しばらくして横断歩道を渡りながら、セハが口を開いた。

「今日、すごく楽しかった。ロッテワールドも、ジュミョンの家でも……」

 ジフンはうなずいた。

「うん。ロッテワールド、ほんとに久しぶりだった。高校生になって来ても楽しいんだね」

「ね。二十代になってから来ても楽しいかな?」

 ジフンは何度もうなずいた。

「もちろん。四十代でも五十代でも楽しいよ。夢と冒険がいっぱいの国なんだから」

 セハは笑った。

「二十代か……。みんな、どうなってるんだろうね。考えたことある?」

 ジフンはストローから口を離し、急に真剣になった。

「二十代って……明日のことだってわからないのに」

「もう、ばか。想像してみるんだよ。みんな、どんな仕事してるのかなとか。結婚してるかなとか。私の隣には誰がいるのかな、とか」

 ジフンはしばらく黙っていた。何を考えているのかはわからなかったが、セハの言葉に、いろいろ想像しているようだった。やがて考え終え、口を開いた。

「同じだと思う。今みたいに集まって遊んで、悪態ついて、ふざけたりしてるんじゃないかな」

「そうかな。そうだったらいいな」

 家に近づくにつれ、あたりは静かになり、二人の足音だけが響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。