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第12話 幻想の国(4)

 「気配り」の講義は、バスを降りてジュミョンと先を歩いているときにも、また聞かされた。後ろのセハとインスに聞こえないよう、できるだけ小さな声で話した。

「さっきの絆創膏、すごくよかったよ。ああいうふうに気にかけてるところ、もっと見せてみなって。この前、セハの目がどうとか言ってたから、目薬買ってあげてみたらって言ったじゃん。ああいうこと」

「話聞いてると、バッグがドラえもんのポケットくらいないとだめそうなんだけど」

 何を言っているのか、という顔で、ジュミョンは苛立った。

「何言ってるの。そうじゃなくて、セハが普段何を好きなのか、どんな好みなのか、何か必要なものはないか。そういうことをよく見て、気にかけてあげなって」

 わかるような、わからないような話だった。ジフンがまるでつかめていないのを見て、ジュミョンはもどかしそうに続けた。

「ああ、もう。たとえば、セハはチョコ牛乳が好きなの。だから、さりげなく渡して、これ好きだよね、って。そういうことだよ」

「おお。何かわかったかも」

 そういえばセハは、飲み物を選ぶとき、いつもチョコ牛乳を手に取っている気がした。先を歩きながらひそひそ話しているのが怪しかったのか、後ろからセハが声を上げた。

「二人、何をそんなにこそこそ話してるの?」

 気まずくなって、ジュミョンから少し離れたが、答えがすぐには浮かばなかった。

「女の子の話!」

 ジュミョンがすかさず答えた。時々、ジュミョンのこういう返しに戸惑って、どうしていいかわからなくなる。

「ええ〜?」

 セハはからかうような声を出した。

「パク・ファヨビが好きなんだって」

 女の子二人は何がうれしいのか、「何それ」と声を上げて笑った。


「スーパー寄ろうぜ。俺とジフンが酒買うから、お前らはあとから入って、お菓子とか飲み物とか、つまみ買ってくれ」

 インスが先に店へ入ってしまい、ジフンも急いでついていった。今日集まる人数を数え、焼酎とビールを両手いっぱいに持った。

「あ、これも買う」

 チョコ牛乳を手に取るジフンを見て、インスが顔をしかめた。

「おい、酒だけ買えって。それはあいつらが買うだろ」

「買わないかもしれないじゃん。俺が飲みたいんだよ」

 少しして二人も入ってきて、お菓子や飲み物を選んだ。チョコ牛乳をめぐって言い合っているのを見て、ジュミョンが小さくつぶやいた。

「はあ……あの馬鹿」


 スーパーを出て、半ブロックほど先の横断歩道で、四人はまた合流した。ジュミョンは電話でチキンを注文するのに夢中だった。

 家に着く頃には六時半を過ぎ、友達も一人、また一人と集まってきた。チョンウォンが真っ先に来て、すぐにヒジェとデヒョン、ヒソルが着いた。最後はヒソルの親友ソヒョンとジニョンだった。

 ジフンは、男と女の数が同じだと、脈絡もなく思った。

 ――合コンみたいだな。やったことないけど。

 みんな、しょっちゅう会っている友達なのだから、意味はなかった。こんなに大勢で集まるのは久しぶりで、それぞれ近況を尋ねながら、にぎやかにグラスを満たしていった。


 ジフンは隣のソヒョンと、あれこれ他愛のない話をした。今日、最初の話題になったのは、青少年向けの写真コンテストに出した作品が入選したという、チョンウォンの話だった。

「じゃあ、お前、クラス移るの?」

 話を聞いていたヒジェが、それとなく尋ねた。

「たぶん、そうなるな。写真のほうで大学に進むなら、授業のカリキュラムも変わるから」

「まいったな。クラスの仲間が一人減っちゃうよ」

 デヒョンが笑いながら、ヒジェに返した。

「どうせお前、学校じゃ何もしてないだろ。放課後に集まればいいじゃん」


 ジフンはみんなと笑ったり話したりしながら、考え込んだ。

 写真コンテストなんて、準備していることも知らなかったのに、インスをはじめ、何人かは知っていたようだった。友達が何かを準備し、前へ進んでいく姿は、なかなかかっこよかった。一方、自分が今何をすればいいのかは、思い浮かばなかった。

 考えながら何杯か飲むうちに、少しずつ酔いが回り、向かいに座るみんなをぼんやり眺めていた。

 セハとデヒョン。その隣に、ヒソルとヒジェが並んでいた。ここでもセハの隣に座ったら、ついて回っているように見えるだろうか。そう思ってわざと離れた席を選んだのに、そんなことを気にしているのは自分だけらしかった。

 デヒョンとセハは、熱心に勉強の話をしていた。二人とも理系だからか、大学への進路について話す声が、かすかに聞こえた。


 デヒョンの隣で、ヒソルが顔をしかめて言った。

「ああ、唇ひりひりする」

 ヒジェの肩にもたれて笑っていたヒソルは、バッグから鏡を取り出し、乾いた唇をなめた。デヒョンはそちらを少し見てから、自分のポケットを探り、リップクリームを差し出した。

「おお、デヒョン。チャップスティック、いつもありがと」

 ヒソルは慣れた様子で受け取り、鏡を見ながら唇に塗ると、デヒョンに返した。ヒソルを見ていたデヒョンは、それを受け取り、また体の向きを戻した。


 その後もみんなはにぎやかだったが、何を話しているのか、よく聞こえなかった。

 ヒジェは何も考えずに笑っていたが、ジフンは何となく、もう一度デヒョンを見た。

 そして、さっきセハが話した「傘」を思い出した。デヒョンの様子をそっとうかがった。


 誰にも話せない何かを、見てしまった気がした。


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