第10話 幻想の国(2)
「そういえば、セハもアイドル好きなんだね」
遊園地に入って三、四時間が過ぎ、腹が減ってきた。ハンバーガーの店に入り、セハとメニューを選んでいたジフンは、唐突に切り出した。
「え? 急にどうしたの、アイドルって」
地下鉄の中からずっとそのことを考えていたとばれそうで、耳まで赤くなった。
「いや、さっき地下鉄で話してたの、急に思い出して」
セハはようやくわかったという顔で、ぱっと笑った。
「何かと思った。えへへ。中学生の女の子なら、みんな一組くらいは好きでしょ。ジュミョンとは好きなグループもメンバーも全部違ったから、こっちのほうがいいって言い合ってたけど。むしろ、かぶらなかったから仲良くなった気がする」
何でもない話のように聞きながら、ずっと気にかかっていたことを尋ねた。
「それで仲良くなることもあるんだね。誰が好きだったの?」
夢中になっていた頃を思い出すように、セハは目を動かした。
「ウン・ジウォン!」
ジフンは顔をそむけ、窓に映る自分の顔をしげしげと見た。似ているところなど、どこを探してもなかった。これからあいつが出ている番組は、全部チャンネルを変えてやろう。そんな幼稚な嫉妬まで浮かんだ。
――まあ、そもそも芸能人だし……。
できるだけ平静を装って言った。
「顔で選ぶんだね」
「え? そうかな。えへへ」
こちらの気持ちを知ってか知らずか、セハは大きく笑って続けた。
「それもあるけど、リーダーシップのある人が好きなんだと思う。ウン・ジウォンってリーダーだったでしょ。学級委員みたいなタイプが好きだったのかな」
今度はリーダーシップか。聞くたびに自分から遠ざかっていく好みに、ジフンは考え込んだ。
「ジフンは? ジフンにもいたでしょ」
一人であれこれ考えていたところへ、セハの声が割って入った。
「あ……俺? 俺は、ええと。Fin.K.Lのイ・ジンだったかな」
芸能人を好きになっても何か得られるわけではないと思っていたジフンは、最新の歌にもアイドルにも興味がなかった。それでも、一時は胸をときめかせた名前を思い出して答えた。
「へえ、そうなんだ。ジフンも顔で選ぶじゃん」
セハはハンバーガーの載ったトレーを受け取り、いたずらっぽい目を向けた。
四人はそれぞれ注文を済ませ、席に戻った。
「インスは? 好きだったアイドルとか歌手、いる?」
さっきの話を続けたいのか、セハはインスにも尋ねた。
「俺はユジン。S.E.Sの」
インスは、今にも振り付けを踊り出しそうな大げさな身ぶりで答えた。
「ほら、二人も好みが全然違うね。それで仲良くなったんじゃない? 私とジュミョンみたいに」
セハの言うことだからか、何となくもっともらしく聞こえた。ジフンがうなずこうとしたところで、インスが答えた。
「関係あるか? どうせ芸能人なんだから、かぶってもいいだろ」
ハンバーガーを大きくかじり、続けた。
「でも、実際に会った誰かを……お前と二人で好きになったら、腹立つかもな」
そんな状況を思い浮かべると、たしかにそうだと思った。それ以上考えたくなくて、ジフンは首を振った。
突然、ジュミョンがインスの腕をたたいた。
「何それ。私のほかに、また誰かと付き合うつもりなの?」
「いや、たとえばの話だろ」
二人がまた言い合いを始め、ジフンとセハは顔を見合わせて困った。
「でも、考えるとぞっとするな。インスと本当に同じ人を好きになっちゃうなんて」
「うーん」
セハはその問題について、じっくり考えた。
「話すことが大事なんだろうね。そういうこと、友達とたくさん話しておけばいいんじゃない?」
「まあ、それは心配しなくていいよ」
セハは少しずつ飲んでいたジュースを一気に吸い上げ、ごくりと飲み込んだ。
「あれ? 誰かいるんだ?」
つい口から出た言葉とセハの反応に、ジフンは慌てた。
時々セハのことを尋ねていたせいで、ジュミョンにはとっくに気づかれていた。
「ねえ、セハのこと好きでしょ?」
と問い詰められ、誰かに話したくてたまらなかったジフンは、そうだと答えた。インスは、どうして自分にはもっと早く言わなかったのかと拗ねたが、セハには長く付き合っている彼氏がいると知っていたので、ひとまず様子を見ようと言った。
それからジュミョンは、時々セハを呼び出したり、近況を教えてくれたりした。今日の遊園地も、ジュミョンが作ってくれた機会だった。
「いや、違うって。誰かできたら、そうするって話」
セハはからかうような目で笑い、また二人のほうを向いた。
「ねえ、せっかく遊びに来たのに、ずっと喧嘩してるつもり?」
ジュミョンはインスの頭に腕を回し、ヘッドロックをかけていた。顔を見ると、インスの苛立ちは爆発寸前だった。ちょうどそこで、ジュミョンが腕をほどいた。
「もう終わり! 早く残りも遊んで、うちで一杯やろうよ! 今日、うち誰もいないって言ったよね?」
ジフンは忘れていなかった。セハも家まで一緒に行くのだろうか。そちらを見ると、満面の笑みでうなずいていた。
「行くよ。あとでデヒョンとか、ほかのみんなも来るんでしょ。楽しみ」
四人はテーブルを片づけると、残りの乗り物へ走っていった。




