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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素が含まれております。
※誤字脱字があれば申し訳ないです。
ノエルは教師たちに事情聴取されラヴは簡単なものに済ますよう教師を言いくるめた。
だが矢張り事が終えても面倒なことはある。
あの恐ろしいラヴの忠告に生徒たちは性格まで天使だと思っていたのに……と自分勝手に落胆しラヴを避けるようになった。
「ラヴ」
「何ですか?」
そんなことはお構いなしに次の授業のため教室を移動しているラヴの後を追いながら、ナタールは言う。
「お前は何にも悪くねえよ」
「もちろんですわ。私は一握りも傷付いていないのでお構いなく。ナタはどうぞ剣技授業に向かってくださいませ」
違うだろ!とナタールはラヴの手首を引っ張った。
「俺が言いたいのは何でそんな我慢するんだよってことだよ!何かしんどいことがあるなら言ってくれても良いじゃないか!」
悪気はないとは分かっている……
分かっているがラヴはその無神経な言葉に、擦り減らせていた神経を逆撫でされつい怒鳴り返した。
「じゃあ貴方に言ったら何とかなるの?全て上手くいく?良い方向に針が向う?ならないからこうやって踏ん張ってるのよ!上手くいくようにって思ってるから黙ってるの!」
ナタは仲のいい友達がいるから。
父親に愛されているから。
まだ、楽観的に生きられるから……
分からないのよ。
「……良い?誰もが貴方みたいに心から信頼出来る友達が居たり、何でも相談すれば上手くいって思ったり、きっと人生はどうにかなるって思うほど楽観的じゃないの!私だってこれでも精一杯なのよ!」
その必死さに思わずナタールはラヴの手を離す。
その青い瞳が怯えて震えているのにラヴの良心が痛いほど傷つく。
ラヴは息を切らして、目から溢れる涙を手首で拭き言った。
「ごめん。ちょっと疲れてるの、一人にして。ごめんね、本当に」
そのままナタールの顔を見ずに、踵を返してラヴは小走りに去った。
「はぁ……じゃあどうしろって言うんだよ」
小走りに走るラヴの背中を見ながら全く、と頭を掻きナタールは悩んだ。
すると背後から誰かの足音がして思わず睨みつけながら振り向く。
きっとラヴを悪く言って下手に自分を慰める女、だと思ったからだ。
だがそこにいたのは思いがけない人物だった。
青緑色に近い髪の毛をして黒い瞳の女の子。
ナタールはその珍しい容姿に直ぐ勘が働いた。
「聖女候補様……すいません。何か用ですか?」
「堅くならないで下さい。アカーシャで良いですよ」
聖女候補とは、今の聖女が御老体なため引退する予定で、その際、次の聖女を選抜しなくてはならない為に選抜された者のことだ。
アカーシャは候補者の中でも髄を抜いて神聖魔法が強く、それは次期聖女確定と言われているほどだ。
だがそれほど支持を受けているのにまだ聖女になっていないのは、現聖女がアカーシャを聖女にすることに反対し別の候補者を熱心に支持しているかららしい。
ナタールはその事を王太子から聞き不思議な印象を受けていたので一目見て分かった。
「では、アカーシャ様。何か御用ですか?」
いえ、と柔らかな笑みを保ちながらアカーシャは言う。
「ラヴ様に御用がありまして。こちらから声がしたので来たんですけど……勘違いでしたね」
一先ず先程の会話は聞かれていなかったと思いナタールは安心する。
「そうみたいですね。では私はこれで」
頭を下げナタールは踵を返そうとした。
「ナタール様」
まだ何かあるのか?とナタールは少しイラつきを感じながら振り返る。
「私ナタール様のこと好きなんです」
唐突な告白にナタールは少し間を開けからこたえた。
「はあ……それは、どういう好きなのかは知りませんがごめんなさい。私にも好きな人が居るので」
これはナタールが今まで告白されてきた時の決まり文句のような物だ。
「そうですよね。知ってます。だって貴方『――』のこと好きなんでしょ?」
突如、音が消えナタールは顔を真っ青にさせた。
「なんで……知ってる」
「それは言えません」
口に人差し指を当て悪戯な笑みを浮かべた。
アカーシャは可憐な笑みを浮かべて言う。
「あっ大丈夫ですよ?このこと誰にも聞こえないようにしてますので。そう誰にも……」
こんなことをこのタイミングで言う理由を察したナタールは、怒りの目を向け睨みつけた。
「何が目的だ」
「やだ〜そんな怖い顔しないで下さいよ」
ただ、とアカーシャは上目遣いでナタールを見て猫撫で声で続いて言った。
「彼女に、このことを言わないので私と付き合って下さいな」
「付き合う?」
「はい」
「それはどういう意味だ」
えー!とアカーシャは演技掛かった驚き方をした。
「そんなの彼氏と彼女に決まってるじゃないですかー」
ナタールは心底屈辱そうに顔を歪めた。
もう、とアカーシャは頬を少し膨らませて言う。
「良いじゃありませんか。どうせ、叶わない恋なんですから」
そして、ねっ、とアカーシャは笑みを浮べたまま首を傾げる。
ナタールは数秒考える。
秘密がバレることと、この鬱陶しい聖女候補と付き合うリスクを天秤にかけて。
そして、矢張りどう考えても天秤は片方にしか傾かない。
彼女にバレてしまうくらいなら、ナタールは死んだほうがマシだからだ。
そうすると、ナタールは負けたとでも言うように顔を横に向け舌打ちをした。
アカーシャはやったー!とナタールに抱き着いた。
「これからよろしくお願いしますねナタール君」
「お願いだからその呼び方はやめてくれ」
アカーシャの肩を持ち自分の身体から引き剥がすと、諦めたようにため息混じりにそう言った。
————
どうしてあんな言い方をしてしまったのだろうか。
ナタールはきっと心配してくれていた筈なのに。
そう、ラヴは授業が始まっても悶々と後悔をしていた。
自分が自分じゃないみたい。
……前の私ならあんなこと言わないのに、どうして。あぁ考えても分かんないよ、人から嫌われたりするのは別にどうってことない。けど家族からは嫌だ。
友達とか勉強とかこんな物のどれよりも家族が大切。特にナタールは片割れだしずっとしんどいことも楽しいことも言ってきた。なのになのにあんな言い方……
「はぁ、なんで……」
頭を抱えてラヴはそう呟いた。
すると隣の席から、あの、としどろもどろな声が聞こえてきてラヴは顔を上げて隣を見た。
「大丈夫ですか?ラヴベリー様」
あんなことがあったのに大丈夫な訳あるか、とラヴは思ったがぐっと堪えその女の子に笑みを向けて言った。
「はい、ご心配ありがとうございます」
女の子はそうですか良かったと、ニコリとはにかんだ笑みを浮かべると直ぐ様また勉強のため机に突っ伏した。
正直、ラヴは自分のような容姿よりこの女の子のように圧倒的に美しくはないけれど、どこか可愛らしく見ていて癒やされる顔のほうが充分羨ましい。
でも、こんなことを思ってしまうのは傲慢なのだろう。
充分理解してる。
だから誰にも相談出来ない。
授業が一通り終わりラヴは食堂に行ってご飯を取りに行った。
昼食は余り食欲がないのでちょっとしたステーキと小さなパンだけで事足りた。
黙々と飯を食べていると、あからさまに他生徒たちが己を避けていることを身に感じ少し不愉快に思った。
だが放おっておいてくれるならそれで良いか、とラヴは己を説得させた。
そもそも普通、公爵令嬢がこんな扱いを受けていたら大問題なのだが、学園内では飽くまでラヴも他生徒たちと同じ身分なので権力はものを言えなかった。
上記のことを承知した上でラヴはそれらの嫌がらせを全力で無視していると……
「ここ良いかな?」
洗練された優しい声が聞こえた。
この声は!とラヴは勢い良く顔を上げる。
そうするとそこには、紫がかっている黒の髪の毛にルビーのような目をしている、我が国の王太子レノンが居た。
ラヴは黙って頷く。
「いやはや、とんでもない綺麗な金髪をしている女の子が一人で黙々とご飯を食べているのに度肝を抜かれたと思ったら……まさかラヴだったとは」
笑いながら食器を机に置くレノンを見ながらラヴは内心、余計なお世話だと思ったが呑み込んでアハハと愛想笑いをした。
レノンは辺りを見渡し嘲笑を浮かべると言う。
「この学園はしょうもないことをする学生が増えたね。少しは反発したらどうなんだい?」
「そんなことをしたら火に油ですよ」
間髪入れずに言う。
どうして?と首傾げるレノンにラヴはため息混じりにこたえる。
「ほら、風魔法と火魔法の合同回路の理屈と同じです。そこに余計なことをしたら回路が継続出来ず爆発するでしょう?それと同じです」
根っからの男に女の事情など説明しても分からない、と思い回りくどい言い方をした。
「君は相変わらず大人だね」
レノンはラヴの顔を覗き込むようにして微笑む。
それにラヴは呆れたように、持っていたナイフとフォークを置いて、それで何か用ですか?と顔を上げて訊ねた。
余りにも変わらない美しい顔に少しの間レノンは見惚れ、ふむと謎の頷きを見せてから続いて言った。
「ラヴベリー、近々学園で執り行われるある仮面舞踏会で君のパートナーにならせてくれないかな」
おこ――とラヴが言いかけたところでレノンは先手を打った。
「ナタールならもう相手がいるらしいぞ?」
目を見開きラヴは言う。
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ何でも相手は聖女候補だとか」
ラヴは少し間を開けてからレノンに訊ねた。
「聖女候補……あっもしかしてアカーシャ様?」
「恐らくな。まあ彼奴もモテるしパートナーが居るのは不思議じゃないさ」
もという自分を含んだ言葉に少しラヴは不快感を覚えながら、そうですかと続けて言う。
「それでもお断りいたします」
「もう相手がいるのか?」
居ない……居ないが王太子なんかと踊れば嫌がらせしている奴らにそれこそ火に油を注ぐような行為だ。
ラヴ的にはそこまでリスクを冒してまで王太子と踊りたいとは思っていない。
「います」
少しテーブルから乗り出してレノンは訊ねた。
「え?本当か?聞いてないぞ?」
「言ってませんから」
「誰なんだ?この学園内か?」
確かに招待状を持っていれば学園外の者でも参加可能だが、何をそんなに気になるのか。
あっ!とラヴは察する。
分かった。
自分が王太子の婚約者候補に挙がってるんだ。そうに決まってる、そうじゃないここまで突っかかる意味が無い。
絶対絶対嫌だ。そんな面倒くさいこと絶対したくない!
「いえ、学園外です。普通の友人ですよ」
嘘だが、王太子と一緒に踊るのだけは回避したいラヴは背中に冷や汗を掻きながら嘘をついた。
そうなのかと、腑に落ちたようにレノンは背中を丸くした。
「用はそれだけですか?」
「あっああ……」
では私はこれで、とラヴは少し残ったご飯を返しに行った。
次の授業は専攻している天文学が二限ある。
が、専攻しているのが六人いる中でラヴ以外の五人全員不登校やらで単位を取るためだけに専攻しているので、いつもラヴと老いた先生が教室に二人だけで眠くなる授業を受けている。
そのあと、自由学習という名の本当にフリーな時間になり、その間ラヴは森林図書館に行き密かに自主勉強をしている。
実は、一時天文学の授業の廃止案が出たのだがラヴが権力を行使して食い止め、結局ラヴが卒業するまで継続となった。
森林図書館とは初代校長が魔法で作った校舎の傍らにある縦長の塔のこと。
内部が森林なのでそう名付けられた。
館内には木の幹の中に本などが敷き詰められるている本棚がある木。
それとまた違う種類の木には扉が付いていて、中は机と椅子が一つずつと丸いクッションが一つ。
本などを並べられる本立て。
出入り口の扉の横には本などを自動で元の場所に戻してくれるポストが。
また誰かが中に既に入っている場合外からは幹の扉は消え、完全に変哲も無い木に変化している。
そして部屋を使っていた人が取っ手を持った瞬間扉は現れる。
そしてまた違う人が取っ手を持ち中に入ろうとした瞬間、魔法が部屋を掃除するというサイクルを繰り返しているため個室の中は年がら年中綺麗だ。
ただし、木の中に入れるのは原則一名のみとなっており、それ以上入ろうとしたら木が魔法で追い出す仕組みだ。
ラヴはいつも通り適当な小説を二三冊腕の中に抱き、いつも使っている幹の扉を身体で押して本棚に並べると読み始めた。
数分クッションの上で本を読んでいたら、ふと星空の舞踏会場のことを考えた。
あそこには何時でも行けると言っていたのをすっかり頭から抜け落ちていたのだ。
もったいないしと、ラヴは舞踏会場のことを脳裏に思い出すことにする。
キラキラという音と共に、心地よい風がラヴの髪を靡かせる。
服が若干重くなり、靴の感覚がヒールになったのを感じるとラヴは目を開けた。
辺り一面星空が埋め尽くし、金色に光る星達が笑い声を上げながらラヴを迎い入れた。
『久しぶりだね』『来るって言ったのに中々来なかった』『本当だよ』
そう怒る星たちを指でもて遊びながらこたえる。
「ごめんなさいね。少し忙しかったの」
『何が忙しかったの?』
「色々よ、実家ではメイド達が何かと構って来て中々此処に来られなかったし、お母様のお葬式もあったり、学園も……もう本当に色々」
呆れた嘲笑を浮かべてラヴはそう言う。
『へえ、人間って大変なんだね』『ねぇ、僕たちはいつも生きることで精一杯だから』『人間って面倒だね』
「そうでしょ、本当にその通り。人間って面倒の塊なのよ」
はあ……とラヴは盛大なため息をつくと下を見た。
深海の色を移したような深い青をしているコーラルが埋め込まれているヒールをしばらくの間見つめると、突然それを脱ぎ両手に一足ずつ持ち星空に向けて投げた。
「もう!全部!全部!全部!面倒くさーい!」
星達はそのヒールを見事にキャッチしてラヴの周りを周る。
ラヴは愚痴を叫びながら裸足でドレスを持って走ったり、ジャンプしたり寝転んだりした。
舞踏会場は静かに星を瞬かせ、その様子を見守る。
寝転んだ先の星空の床に指を当て、その指から広がる波紋を見つめて呟いた。
「凄いね、これ。濡れないんだ。水が薄く張ってるのだと思っていたのに」
ラヴは寝返りを打ち仰向けになると、続いて星たちに向かって言う。
「ねえ、聞いて。私ね、女の子になりたかったけど別に公爵令嬢になりたかったわけじゃなかったの。ナタはきっと公爵になりたいんだろうけどね」
星たちはラヴの傍らにヒールを置き話しに耳を傾ける。
「ただ、女の子になるには公爵令嬢という通称も一緒に纏わりついてくるから仕方なく演じていたの」
でも、と果てしない星空に真っ白な手を伸ばし青いコーラルの瞳を潤わせながら言う。
「本当は、私、こんな風に走り回りたかったのかも。ねえ、なんで本当、私という存在はこれほど複雑に産まれてきたの?」
ラヴの頬を伝い涙の雫は波紋を広げながら星空の床に落ちる。
「きっと、男の子という者だったら私は今、ナタのように野原を走り回ったのかも。日焼けするのは嫌だけど、だからってナタのように遊び回るのが嫌いってわけじゃないの」
醜い感情が心から溢れ出して自己嫌悪が止まらない。
「毎日のように外から手を振ってきたナタのことがどうしても妬ましいの。もちろんね、あの子も複雑だけどけど、でも私に比べて何処か単純で楽観的で正義感に溢れてるの。羨ましいわ、私あんな風に笑えないもの」
ねえ教えてよ。どうして私はこれほど複雑なの?
問いかけに波紋は絶えず広がる。
星たちはキラキラと音を立てながら黙ってラヴの話しを聞く。
「なんで、片割れのナタはああなのに私はこんな」
両手を己の顔の前にやり手の甲を見つめる。
「こんな、ゴミのような構造になっているの?もっと、もっと単純で良かったのに、無駄に顔が良くて周りからどんどん偏見を向けられて、勝手に落胆されて、それで余計に傷付いて、でも無駄にプライドが高いからそれを認めたくなくて……」
しゃっくりをしながら更ににラヴは泣く。
「もう嫌よ。預言なんて物も、なんで私ばっかり、なんで、この世がどんどん憎くなる」
ラヴは遂には泣きじゃくった。
果てしない星空の中で一人の金髪碧眼の、少女にも少年にもなりきれない人の子は、理不尽な世に呪いの言葉を投げつける代わりかのように声が枯れそうになるほど大きな声で泣き喚く。
その声は余りにも広い星空に吸収され次第に消えて行く。
まるで預言が良くならない限りラヴの救いを求める声は誰も気付かないことを暗示しているかのよう……
星はそれを眺めるが何とも思わない。
理由は明確で星には感情がない。
持っているのは己への利益と契約者への利益と損失から受ける問題。
たったそれだけ、ただただ泣き喚くラヴを見ても同情し手を差し伸べようとは無慈悲にも思えないのだ。
それを知ってしまっているラヴは更に虚しくなり泣き喚く。
どうにもならない面倒が常に張り付く世の中全てを恨んで。
読んでいただきありがとうございます(*´∇`*)




