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星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第一章:星の嫁入り 芙蓉に根ざせば 件は死する

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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。

 それから一週間後。

 

 二人は学園をしばらく休み家で過ごすことになった。


 ナタールは久しぶりに公爵や公爵家の騎士団の皆と手合わせ出来て気分が良さそうだ。

 

 ラヴは特に代り映えもない。


 部屋で刺繍や裁縫、読書などをして過ごして、時にラヴの部屋の窓から見える場所で手を振るナタールに手を振り返す程しか好んで人と関わらなかった。

 

 そしてこの日は侯爵家に行きラヴ達の母である公爵夫人の死を弔う葬式がある。

 

 最前列に公爵家一家と侯爵家一家が並び、それ以降にそれぞれの関係者や友人などが参列している。

 

 ラヴは白百合を両手に握り締め無惨になった母上を見た。

 

 矢張り魔物に喰われたのは本当らしく、メイクなどで綺麗にしてはあるが惨い傷跡が見て取れた。

 

 そのひどい有り様にラヴは涙を堪えながら青白くなった額にキスをし、棺桶の中に白百合を一本入れた。

 

 アゼリアは侯爵家の意向によって火葬された。

 

 ラヴはナタールに肩を抱かれ棺桶が火葬炉の中に入って行くのを見つめた。

 

 火葬は魔法ではなく家族が人力で付ける火で燃やす。

 それが最後のせめてもの世話だと言われている。

 

 火葬が終わるまでしばらくかかるのでそれまでは侯爵家に一度戻り皆でお茶会をすることになった。

 

「いやぁラヴベリーが更に美しくなっていて度肝抜かされました」

 

 侯爵家当主でありラヴ達の伯父が笑いを浮かべながらそう言った。

 

 ラヴは愛想笑いを浮かべ、ありがとうございますと返事をする。

 

 お茶会は侯爵家の庭にある花壇に囲まれた大きなテーブルで、アフタヌーンティーやらを食べていた。


 空は清々しいほど快晴だ。

 

 上座に前侯爵、その左右に公爵と現侯爵が坐っている。


 侯爵の横に赤髪の夫人と夫人譲りの真赤な髪をしているラヴ達の従弟である小侯爵トロトン。

 

 ナタールとトロトンの仲は良好だが友達と言う柄ではなく、トロトンが一方的にナタールのことを尊敬していてる。

 

 ラヴとトロトンの仲は普通だった。


 だが、トロトンは思春期の男の子らしくラヴに緊張し中々喋りかけられないようだ。

 

「ラヴベリーは婚約者はもう決まっているのですか?」

 

 侯爵夫人がなんの前触れもなくラヴに訊ねた。

 

 ラヴはこの手の話しを何万回と訊かれているので動揺一つせずに言う。

 

「いえ、現時点では勉学に集中したいと考えておりますので、学園生活を過ごした後にゆっくりと考えたいと思っております」

 

 女が勉強なんて……と夫人は思っているようだ。

 

 しかし、何より侯爵夫人が癪に障っているのはラヴの容姿だとラヴは勘づいている。


 おとぎ話でもあるように、老いを感じさせない若さの美貌に嫉妬しているのだ。

 

「ナタールは将来矢張り騎士になるのですか?」

 

 矛先を変えてラヴとは違い、心底気に入っているナタールにそう夫人は朗らかに訊ねた。

 

 その質問にナタールは笑顔で頷いた。

 

「はい。王家騎士団に入りたいと思っております」

 

 ラヴは紅茶を姿勢良く飲んで思った。

 

 そういえばナタールは王太子と仲が良く学園で一緒に居る所に見かける。

 

 この二人の女子人気が凄まじくいせいで、ラヴは何度も恋文を渡してくれと頼まれたことがある。

 

 そうすると、何か視線を感じた。


 その視線の先に目を向けると初々しい目でトロトンがラヴを見ていた。

 

 今年で十三歳のトロトンは先程ナタールにもうすぐ学園に通えると意気込んでいたことを思い出す。


 ラヴは紅茶を置きマカロンを取ると、マカロンを持っている手の指で軽く手を振ったような仕草をした。 

 

 トロトンはそれに気づくと顔を火照らせて下を向く。


 ラヴは内心満更でもないだが夫人の顔が怖いので表には出さない。

 

 どうしてそこまで夫人がラヴの容姿が気に入ららないのかはラヴ自身良く分かっていない。


 しかし、容姿に対する嫉妬は少年時代からもあったのでラヴはもう慣れていた。

 

「そういえばラヴベリーは天文学専攻を選んだんでしたっけ」

 

 またまた唐突に夫人がそうラヴに訊ねた。

 

「はい、星に興味があるので」

 

 星といえば、と夫人は少し意地の悪い笑みを隠すように赤い扇子を口元に広げ、ラヴに訊ねた。

 

「アゼリア様も星にご興味をお持ちでしたわよね。もしかしてアゼリア様のご影響ですか?」

 

 母上を話題に出すとは……


 そうラヴは内心夫人にイラつきを感じながらも冷静に返事をした。

 

「確かに、母上からの影響はあります。ただ、それよりも私は天文学や占星術という存在に深い興味を抱いておりますので、その点について更なる学習を行いたいと思っております」

 

 上手く母上からの話題から逸れた話しを出来たとラヴは己を安心させた。


 ラヴにとってまだアゼリアの死はまだ直視し難いことなのだ。

 

「その天文学とやらは一体何をするのですか?」

 

 やけに突っ掛かってくるなぁと、ラヴはまたもイラつきながらこたえる。

 

「主に星の研究です。『希望の蜜』などが落ちてくる理由や、どうして星は人と契約するのか、等です」

 

 本当はまだまだ理由は溢れているがそこまで語るほどの体力は今のラヴには無い。 

 

「星が契約することなら星から直接訊けば良いのでは?」

 

 喋る元気もないラヴの胃が痛みだした。

 

「星は語りません。星が契約してくれるのは飽くまで己に利益があるとみなしたからだと言われています。これが事実として、星たちはまず利益の無いことはしてくれません」

 

 月と太陽がラヴを助けてくれるのも利益があるから、それ以上でも以下でもない。


 これは真実。

 

 侯爵と公爵は上座に坐っている前侯爵に話している。


 そしてナタールとトロトンはまたそこだけで話している。

 

 消去法的にラヴは夫人と会話するしかないのだ。

 

 こんな時に母上が居てくれたらとラヴは一瞬思ったが直ぐにそんな考えを消し去った。

 

「しかし、天文学を選ぶ理由は何故でしょうか。星に興味があるからと言って、学生生活を天文学に捧げるほどの価値が天文学にありますでしょうか?」

 

「え?」


 思わずラヴは顔を上げ夫人の顔を見た。

 

「そんな驚くことでもないでしょう?今の社交界や実生活においても天文学が活躍する場所は限られているでしょう?なのに――」

 

 あぁ……この人は態々これを言いたくて話してるのね。


 ラヴは夫人に絶望し心底うんざりした。

 

「そんな出来損ないの魔法を勉強するなんて。いえ。私は伯母として貴女を心配している……」

 

 その刹那、その場にとんでもなく大きな魔力の塊が複数体現れた。


 そして、魔力の塊は七色の光を放ちながら様々な動物を形どる。

 

 ラヴの肩には氷で出来たオウムである水星。


 傍らで空中に浮かび、グツグツと何かが煮立っているうさぎである金星。


 ラヴの頭部の上に、足を組んで夫人を見下だすように坐っている水で出来た髪の長い妖精のような形をしている地球。


 ラヴの背後には気体が馬の形を描くように渦巻いている木星が夫人を睨みつけるように凛と立っている。


 ラヴの傍らから机の上に軽やかに登る、砂鉄のような真赤な毛が逆立っている虎の形をしている火星。


 火星は夫人に威嚇しながら向かう。

 

 その異様な光景に今までラヴが困っているのに見向きもしなかった男どもが目を見開き瞠目して注目した。

 

 ラヴはため息を零しながらゆっくりと立ち上がり、火星を優しく背中から尻尾まで撫でると言った。

 

「夫人、この機会に教えて差し上げましょう」


 侯爵夫人改めてシュルビアはラヴの顔を怯えながら見上げた。


 「これが星の利益です」

 

 今度はシュルビアがえ?と震える声で言った。

 

「そんな驚くことでもないでしょう?」


 魅惑的な嘲笑を浮かべシュルビアを見下す。

 

「星たちは己たちが人間に手を貸してあげているのにそれを、出(・)来(・)損(・)な(・)い(・)の(・)魔(・)法(・)と不本意に侮辱された」


 フッと、ラヴの口から無意識に笑みが零れた。

 

「心底腹が立ったそうです。貴女の言葉のせいで損害を受けたからです。良いですか?シュルビア夫人、星たちは私達よりも長く生き――」

 

 火星はテーブルの上にある皿やお菓子を粉々して夫人に一歩また一歩と近づく。

 

 刹那、ラヴは胸を張り美しい金髪の毛を手で払った。

 

「高潔です」


 一つ一つの行動が靭やかで高貴で息を呑みほど美しかった。

 

「その高潔さを赤の他人。それも――」


 呆れたような笑みを浮かべた。


「何も知らない人間に侮辱されたとなれば我慢ならないのも当然ではないですか」

 

 虎は唸り声を上げシュルビアを威嚇する。

 

「ごめんなさい。私が悪かったわ、本当に本当に」

 

 すると、虎は口を大きく上げ人の言葉を喋った。

 

『嘘をつくなこのアバズレが!』

 

 大きな虎が吠えると鉄が更に逆立った。

 

 シュルビアはごめんなさいと涙を浮かべている。

 

 ナタールはラヴの手を取り、もう良いだろと宥めた。


 しかし、ラヴの表情は変わらなかった。

 

「言ったでしょう。これは星(・)の利益の問題。私の問題じゃない。だから私に止める権利はない」

 

「でも、お前が契約してるんだろ?」

 

 そうナタールが狼狽えながらラヴを宥めようとする。


 しかし、次に声を発したのは地球だった。

 地球は水の髪の毛を逆立てるとナタールを見下し怒鳴った。

 

『黙れこの人間が!我らは「星人夜会員」の葬儀だからと特別大人しくしてやっているというのに、貴様らは敬意の一つも表しもしない!』


 他の星たちもナタールを静かに睨んだ。


『それどころか我らと、我ら星人夜を侮辱し傷つけ利益に損害を与えた!利益に損害を与えるなら我らは契約者の言う事は聞かない!これは契約書にあるれっきとした利益の一環だ!』

 

 良いか我らが守るべき星人夜、と地球は声をワントーン落し続いて言う。


 『これは君の預言にあった出来事の一端に過ぎない。この行動全て我らは助けている範囲に入っていない何故なら――』

 

「分かってます。これは利益なんでしょう?契約したあの日から耳にタコが出来るほど何回も聞きました。利益の行動は何物にも関与されない」

 

 ラヴは地球の言葉を繋いでこたえた。


 地球はそうだと首肯した。

 

「ほしびとよ?何だよそれ」


 ナタールは困惑しているようだ。

 

「ナタが知らないのも無理はないよ。これは古代天文学の知識だから」


 虎は聞いたかとシュルビアに向かって続いて言う。

 

『お前は古代の星を怒らせ損害を与えたんだ。それ相応の報いは受けてもらわないと我らが受けた損害の元が取れない』

 

「報いって?」

 

 その瞬間泣きそうな声が聞こえてきてラヴはハッとした。

 

「母上は一体なにを、したんですか?」

 

 そういえばトロトンは泣き虫で臆病だったとラヴは思い出し急いで火星を下がらせようと火星の身体を持ち後ろに引きずった。

 

 だが火星は嫌だと爪をテーブルに引っ掛け動こうとしない。

 

『まだ報いを受けてないじゃないか!』

 

 いいえ、とラヴも負けじと言う。

 

「良く周りを見て下さい!」

 

 ラヴの手のひらに鉄が食い込み痛いがそれでも傷はつかない。


 なんて都合の良い星なのか……とラヴは心のなかで自嘲した。

 

 火星だけでなく星達みんなが辺りを見渡し始めた。

 

 シュルビアの最愛の息子は今にも泣きそうだ。


 侯爵は明らかに軽蔑の眼差しをシュルビアに向けている。

 仲が良くなかったらしい。


 公爵はというと、娘であり息子がこれほどまでの強力な魔法?を使えていることに驚き感動しているようだ。


 だが少し複雑な思いも混ざっているように見える。

 

「今回の利益の損害は名誉毀損でしょう?ならもう充分ではないですか」

 

 火星は不服そうな唸り声を上げながらもラヴの傍らに大人しく坐った。

 

 その様子にホッとしたラヴは、火星の毛並み通りに頭を撫でながらシュルビアに言う。

 

「星たちは報いを受けたと認識したそうです。ですが――」

 

 刹那、やっと張り詰めていた空気が開放されたと思ったが、更に身体が動かないほど張り詰めた。

 

「私も星人夜として、今度我ら星たちの利益を損害させたその時は――」


 ラヴを取り囲むように存在する星たちは目だけをギラつかせていた。


「今度こそ、その真赤な髪の毛におさらばだと思って下さいね。これは警告です。私を傷つければ我ら『星人夜会会長』である月と太陽が必ず貴女に利益の報いを受けさせるでしょう。またその逆も然りです。そしてこれは少し個人的な感情ですが――」

 

 ラヴは渾身の睨みつけでシュルビアを見て言った。

 

「天文学は今は亡き母上の愛した魔法です。それを踏まえて、次私とお会いした際は良く言葉を咀嚼してみてくださいね」

 

 更にシュルビアは顔を真っ青にさせた。


 先程の火星を見ていると全て冗談には聞こえないのだろう。

 

 まあそれで良いのだが……

 そうラヴはため息を零しながら思った。

 

 貴方達にも言ってるんですよ、と公爵たちを見渡し男どもにもラヴは言った。

 

 男どもは自分にも?!という他人事のように受け止めているらしい。


 特に父は眉根を皺を寄せ、なぜそんな事を言われねばならないのか分からないようだった。


 母のことも自分たちのこともまともに向き合わなかったせいだ。


 向き合っていたら、母も死にはしなかったかもしれないのに。

 

 本当に馬鹿だわとラヴは呆れた。

 すると侯爵城のどこからか鐘の音が鳴り響いた。火葬が終わった合図だ。

 

 そして侯爵家並びに公爵家一家は気を取り直しアゼリアの遺骨を納めにお茶会を後にした。


 この事を見ていてた母はきっと頭を撫でてよくやった、と褒めてくれたはずだ。


 きっと……きっと。


 そうであるはずだ。

読んでいただきありがとうございます!(´▽`)

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