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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。
ラヴはナタールと共に一度部屋に戻った。
そしてナタールの風魔法の応用でガラスを一度端に寄せ、未だに涙が止まっていないラヴをベッドに坐らすとクローゼットから適当なドレスを探しそれを渡した。
ラヴはドレスを着るのを手伝ってくれないのかと訊ねたがナタールは嫌だとキッパリ言い切りメイドを呼んでくると言ち一度ラヴの自室から出て行った。
ラヴは乱雑としている部屋を見渡し、中々止まらない涙が落ちて濡れている膝を見つめると何とか息を整えようとするが更に涙が出てくる。
どうしようもないのにラヴは胸の前で手を組んで祈った。
「我ら星人夜。我らの月と太陽よ、母上を安らかに眠らせて。これはお願い。命令じゃないの、お願い。私を恨んでいても良いの、ただもう苦しまないように守って、お願い」
ラヴは震える声で続ける。
「ナタも守ってあげて。もう誰も失いたくない、これは懇願よ。お願い我らの月と太陽よ。どうかどうか」
月と太陽は決して約束しない。
だが聞くだけ聞いてくれる。
崇高な者は決して返事はしないそう昔から母上に聞かされていた、ただ耳を傾けるだけ。
それはラヴも分かっているがそれでも祈らずにはいられない。
その刹那ラヴは契約して以降初めて月と太陽の声を聞いた。
『守ってあげる。けれどラヴベリー・ゲルド・フォン・アンジェ。貴女は何を私達にくれる?』
困惑しながらラヴは顔を上げた。
すると、上方には丸い白い光を放つ球体と真赤に燃える球体があった。
「あっ貴方達は月と太陽よね」
強張った声でラヴは球体に尋ねる。
『君がそう思えばそう。違うというなら私達の姿は見えない』
真っ赤に燃える太陽がそう言う。
「ナタが来たら消えちゃうの?」
『彼には少しばかり面倒事をしてもらっている』
次は月が言った。
面倒事というのは何だろうかと少し興味が湧いたが、訊くのは野暮だろうと思ったラヴは言う。
「そうなのね。それで守ってくれるってどういうこと?まずそれを教えて」
すると月はふわふわと浮きながらラヴの顔の前まで来ると言った。
『口の利き方には気を付けろ我が契約者』
だがラヴは臆することなく逆に月を睨みつけて言った。
「嫌よ。私は飽く迄も貴方達の契約者、主人なのよ。本来なら私が貴方達の気を遣うのではなく、貴方達が私に気を遣う筈なのよ」
何か月が口を開こうとしたが遮りラヴは「それに口の利き方なんて契約書に書いてなかった」と語尾を強めて言い切った。
月は正論にぐうの音も出ない。
太陽はそのやり取りフフッと微笑み言った。
『良いわよ月。それが私達の契約者の可愛いところじゃない』
太陽は月の横にふわりと来ると続いて言った。
『守ると言っても簡単じゃないの。貴女、女になるために魔法をかけて貰っているでしょう?』
ラヴは無言で頷いた。
『それにはね、私達のような超自然的な存在を妨害する作用もあるの。例えば新月に貴女が男に戻るのもそれのせいね』
えっ?とラヴは思わず目を見開いた。
『まあ驚くのも無理はないわね。貴女達人間に性別と云う物があるのは勿論人間たちの増殖のためでもあるのだけれど、何より貴女達人間を守るためでもあった』
暖かな太陽の周りを小さな星が笑い声を上げながら囲む。
『というよりも、性別を転換させること自体それほど悪いことではないの。問題なのはその魔導書だったのよ。私達も今色々調べては居るんだけどあれ多分貴女を吸い付くしてる』
「どういう意味?」
太陽は少し声を落として言った。
『ごめんなさい私達も良く分からないの。けれど、貴女の何かがなくなっているの』
「なにか……」
ラヴはそう呟きながら何がなくなっているのだろうかと考えた。けれどラヴにはサッパリ分からない。
『大丈夫よ、私達にも分からないのだから仕方がないこと。一つ訊いて良い?』
ラヴはまた無言で頷いた。
『性別を元に戻すっていう考えはない?』
その言葉にラヴは息を呑み首を横に振った。
「そんなの考えたくもない。やっと普通に近付いたのに」
『けどね、ラヴベリー。このままでは貴女が貴女ではなくなるかも』
「どういう意味なの?」
黙り込んでいる太陽と月を交互に見るとラヴは怒りを灯した瞳で言った。
「それもまだ分からないのでしょ?不確定なのにそんなこと言わないでよ」
『けど、私達には分かるの。なんて言ったら良いか。猫が危険を察知するみたいな感じなの、私達は貴女と契約しているから貴女の身体の状態も心の状態も感じるの』
「私は猫じゃないから分からない。それに私は何処も悪くないよ?」
すると月がピカッ!と眩しい白く光ったと思うと怒鳴って言った。
『身体のことを言ってるんじゃない!心のことを言ってるんだ!』
その必死さに流石のラヴは己を心配して言った。
「そんなに私悪いの?」
太陽は月を宥めると、『聞いて』とラヴにふわりと近付いた。
真っ赤な光の色は強まる。
『私達にも何がどうなっているのか良くわからない。けれど、私達には感じる。
貴女の魔力の根源よりも深い深い何かが何かによって吸われている。分かってる、あの魔導書が理由でも性別を戻すつもりはないってことは』
そして太陽は、けれど、と月の傍らに戻ると二人は声を合わせて言う。
『我ら主人であり友よ。私達は貴女を守る義務がある。
我ら星人夜。貴女は私達を守り守られる義務がある。私達太陽と月は「星人夜会会長」として貴女に警告する』
太陽と月は神々しい光を放ち、真剣な眼差しを向けているラヴに続いて言った。
『貴女は我ら『星人夜会』の最後の一人だ。
我らも死して欲しくはない。だが、だからと言って貴女に降り掛かる危険や不幸の全てを取り除けはしない』
『星人夜会』それは天文学が生まれた理由でもあった一つ。
この会が出来た経緯としては宇宙の絶対的王者である太陽と月が人間を知ろうとしたからと古代天文学書には書いてある。
この会に入会するには三日三晩純白のシルクの衣を纏うこと。
また、昼間は快晴で太陽だけが良く見え夜は星が月を囲むように見えてなければならないということ。
食事時や入浴時でさえいつどんな時でも絶えず太陽と月に祈りと感謝を捧げなくてはいけないということ。が条件であった。
ラヴはその儀式を五歳でアゼリアと共に成し遂げたが、現在この儀式を成功させ加入しているのはアゼリアが死した今ではラヴたった一人だけ。
加入するメリットしては月と太陽の加護が受けられこと。
ラヴのように月と太陽と契約する時に出される提示が低リスクになるというお得。
あとは、古代のように『星人夜会』に大勢が入会していれば月に一度月と太陽が主催するパーティがある。
そこでは多種多様な恒星や衛星等と交流ができ、運が良ければその場で契約も出来たりと天文学が好きな者なら喉から手が出るほど欲しくなる条件があるのだが。
現代の人の多くは天文学には興味がない。
汎用がよく効く風魔法や火魔法や解明出来ている古代ルーン文字を使った魔術等が主流になっている。
天文学が余り人気がないのは単純に面白くないという意見が多いからだった。
このように、天文学の魔法や魔術を使うには条件が数多く、星との契約が必須。
尚且つ太陽と月に気に入られないと上手く使いこなせない。
更に習得しようのしても習得する条件の全てが自然による影響で左右されることが多いので面倒くさく人気がない。
そんなに面倒くさいのに変わらず天文学を好み愛しているラヴに、月と太陽は少なからず感謝しまた守ってあげたいと思っているのかもしれない。
『愛しの我が星人夜。一つ貴女に予言をしてあげよう』
眩しい光がラヴの部屋を包み思わず目を瞑った。
そして、ラヴは目を開き辺りを見渡すとそこは息を呑むほど美しい宇宙の中だった。
四方八方星が煌めき、笑い声を上げながらラヴを取り囲んだり、流星の如く走り回ったりしている。
床は歩くたびに水の波紋のような物が広がり、謂わば占星術をするのにピッタリな場所だった。
ラヴは破顔一笑しながら辺りを見渡していると、ある星達が愉快な声で言った。
『なにこのドレス』『ズタボロだー』『こんなのここに合ってない』『私達が直してあげたら良いのよ』
すると星達は声を合わせて――
『そうね、そうよ、そうしましょう』
とラヴのドレスの周りを目にも留まらぬ速さで円をかくように周る。
一つの星が床に着くと、また上がり水滴がポタポタ落ちてきたかと思えばそれはみるみる水滴自ら綺麗に光る青の糸を己を使って紡ぎその星の後を着いていく。
ラヴが思わずそれをもっと近く見ようと身体を動かすと一人の星が『動かないでよ!』とラヴに怒鳴った。
ラヴはごめんなさいと謝り突っ立る。
すると、ラヴのドレスを直している様子が気になり様々な星達が自分も直すと寄って集って来た。
ラヴは少し嬉しく思いながらも戸惑う。
数え切れないほどの星たちが水滴から紡ぐ。
言葉では言い表せない程美しい糸をラヴのドレスに次々に縫っていくのを見惚れた。
そうすると、キラキラと音を立てながら何かが舞い降りてくる音が聞こえラヴは音のする方を見た。
そこには星たちが何かを囲みながらラヴに向かって来ていたのだ。
ラヴは不思議に思いながら見つめていると、その星たちはラヴの胸元に来て何か――恐らくブローチみたいなものなのだろう。
それを外しては付けるを繰り返している。
よく耳を澄ますと星たちの会話が聞こえてきた。
『ほら、ここにさ』『ええーでもこっちの方が』『いや、こっちの方が合ってるよ』『でも……』『絶対ここだって』『いやいやこっち!』『違うこっちだって!』『だから――』
すると星たちは段々言い合いになり、ラヴが困っていたら何処からともなく『コラッ!』と太陽が叱る声が聞こえてきた。
ラヴは声のする方を見た。
そこにはアラビアンパンツに上半身は軽く白いトガを着ている褐色の肌をした燃えているような赤髪の男性?が居た。
そしてその後ろには、足元につきそうなほど長い銀髪、深い青の瞳、白い肌をしてしっかりトガを着ている女性?のような人が近づいてきた。
そのブローチの周りにいた星たちはその二人気が付くと『ウワッヤバイ散れ散れ!』と一斉にラヴから離れて行く。
その胸元を見てみると、丁度谷間の間に挟むようにある、澄んだ青の大きい星座盤をブローチに嵌めこんだ煌めくブローチがあった。
ブローチの周りには金の縁にリボンのレースが装飾されていてとても可愛らしい。
「うわあぁ。凄い、本当に星空みたい」
思わずラヴは余りに美しさに感激し呟いた。
『喜んでくれて良かったわ』
あっそういえば、とラヴは頭を上げて声のする方を見た。
「えっと……何方が月で太陽ですか?」
は?見て分かるだろ。と銀髪の女性が悪態をつきながら床に足を着くと続いて言う。
「我が月でこの赤髪が太陽だ」
えっ意外とラヴはぽろりと言ってしまい。直ぐ様口を塞いだ。
その仕草に赤髪褐色肌の太陽は微笑みながら言う。
『驚くのは無理ないわね。私も昔は月みたいな性格だったのだけれど、今はもう黒歴史だわ』
ホホホと笑い声をあげた。
『逆に月は昔、私みたいな性格だったのよ』
『もう何年も前の話だろ。それに人間の姿にわざわざなったのは、こっちの方が予言しやすいからだ。じゃなかったらこの姿になるか』
その悪態に太陽は、はいはいと宥めた。
星たちがラヴを囲むように円をかきながら頭の上まで来ると、キラキラの粉のような物がラヴに降りかかった。
その様子を見た星たちが笑い声を上げながら言う。
『出来た、出来た、ここにふさわしいドレスが出来た、綺麗だね、綺麗だよ、とっても綺麗だよ、星空みたい』
次々に星たちはラヴの周りを笑いながら周り、ラメのような物が付いている金髪を風に靡いているように遊ぶ。
「綺麗、なにこれ」
ラヴは己の髪に付いてる光る粉を手に当ててそう呟いた。
『それはその星たちの祝福よ。この夜空の中にいる星たちは大体は契約していた人間が死んで居場所が無くなってしまった子達だから。きっと久しぶりの人間に喜んでいるのよ』
「そんなことが……」
『まぁ知らないのも無理はないな。お前達人間は死ねばそれだけだから』
月は長い銀髪の中に入ったり出たりする星たちを手で撫でるような行為をして続いて言う。
『我ら星は死なない。消滅してもまた何光年先に新しく屑として産まれる』
星たちは月の長い銀髪で遊んでいた。
『この星たちはその転生と言われる物を何回も繰り返し。その度に新しく契約をしていたから、誰が本当の契約者が分からなくなってしまい、人間界に居られなくなったんだ』
「どういう意味?契約者が居すぎて分からなくなったってこと?」
違う、と太陽と月は首を横に振った。
『月の説明は少し複雑だから分かりにくいのよ』
全くと太陽は呆れると続いて言う。
『つまり、この星たちには愛する人間が居る。けれど人間はいずれ死ぬそして記憶も持たないままいつか転生する』
空に流星群が通り過ぎた。
『星たちは一度その死んだ人間と契約している。そして同じ魂だった者に契約は更新出来ない。
だけど屑になれば違うの。
この星たちはその人間と共に居たいが為に、私達に頼んで屑にしてもらいまた星になるとその人間に会いに行く』
だけどねと太陽は少し複雑な笑みを浮かべて宇宙を見上げた。
『それを何光年も続けているとね、段々星は崩れるのよ。貴女たち人間が疲れ果てて壊れるように』
ラヴはその複雑な笑みの先を見上げた。
星たちは競争しているかのように流星群になっている。
そして笑い声を上げながら太陽と月に近付きちょっかいをかける。
それに太陽は笑いながら受け流し、月は少し怒ったように手で払うけれど何処となく楽しんでいるようだ。
『そして私達はその星たちを助け保養する。そしてその保養する場所がここ。「星人夜会、舞踏会場」なの』
それにラヴは思わず太陽の顔を見つめた。
太陽も笑みを浮かべてラヴの顔を見つめ返す。
「古代天文学が主流だったころあったと言われている月に一度貴方達に招待された者だけが来られる舞踏会場。
数多の星たちと契約出来、様々な星人夜の人たちとも交流が出来ていた場所……それがここという訳ね」
そういうこと、と太陽は頷いた。
その頷きにラヴは、なるほどねと近寄ってくる星たちを指先でもて遊びながら微笑む。
「それなら星たちが私のドレスを縫い始めた理由も納得だわ。ここは舞踏会場だもの、あんなドレスじゃここに合わないよね」
ラヴは新しく作られた星空のようなドレスを見た。
そのドレスには星のような物ががたくさん散りばめられ、不思議なことにそれらはラヴが動くと本当に星空まで歩いているように景色が変わる。
更に胸元にかけて星の形のしたラメがついている大きいフリルがある。
よくよくブローチを見ると、ブローチの中に何か液体のような物が入っていてラヴが位置を変えると中に入っている星座盤までもが位置を変えた。
この液体があるお陰で星座盤が正常の位置に行き、どこになんの星があるか分かるという訳だと思う。
それで?とラヴは咳払いをした。
ドレスとブローチを輝く目で見ていたのを、生暖かい目で見守られていたのに気が付いたのだ。
「預言って何をしてくれるの?」
すると何処からともなく水が滴る音が聞こえたと思えば、眩しい光がラヴの目に襲い掛かり思わずラヴは目を瞑った。
光の勢いがなくなるとラヴは目を開けた。
そこには非常に大きいホロスコープがあり、その内側にはⅠからⅫまでの数字が書き込まれ、さらに外側には黄道十二星座それぞれの動物を形どった金の模様がある。
「占星術?」
確かにここは星空が常にあるので占星術をするのにはピッタリだ。
『そうよ。これで貴女を占うの』
後ろに振り向くと太陽と月がラヴに向かって歩いて来ている。
ラヴは二人に笑みを向けて言った。
「貴方達に占星術をしてもらえる人類なんて余り居ないでしょうね」
『そうだな、お前で二人目だ』
月はラヴの横に来るとそうこたえた。
「二人目?最初の人もここに来たの?」
当たり前だと月が頷いて言った。
『さあさあ、雑談はそこまでにして占いするわよ』
太陽は張り切っているらしく笑みを浮かべてそう言う。
ガシャンガシャン、そう機械的音を立てながらホロスコープが動きだした。
月と太陽はホロスコープの上で星を一つ取り、その星を糸にして編み出すと糸をラヴの周りに円のようにして置く。
太陽がラヴにその円の中に坐ってと命令しラヴは大人しく言う事を聞いた。
ホロスコープの中にある大きい針は次第にゆっくりとなりラヴから見て真反対に止まる。
月は黄道十二星座達を呼び出すと、それぞれの配置に坐らせた。するとラヴの周りを囲んでいた星の糸は七色に光り出す。
『星空の王、月と太陽は、我ら星人夜を守るために予言し保護すると誓う』
二人はそう声を合わせて言う。
その誓いが立てられるとホロスコープまでも光出しまた針が周りだす。
十二星座たちは聞いたことがない歌を美しい声で歌い出し、ホロスコープの上方には何か丸い円が出来た。
そうすると、ラヴの周りを取り囲んでいた糸は独りでに一つの線になるとその円に向かって飛ぶ。
糸は円に絡まるように結ばれていく。
太陽と月はその円の周りを浮遊し、糸が円に己を結ぶのを手伝っているようだ。
ラヴはその様子を興味津々に見つめていた。
糸は円に己を結び終わったようで動くのを唐突に止め、太陽は糸が最後に結んだ所を手に取る。
そして、それを引っ張り糸を強く張ると『出来た』と破顔一笑し言った。
月は十二星座達に帰れと一言だけ言い、十二星座たちは素直に空に向かって散っていった。
「これはなに?」
ラヴは立ち上がり糸が無規則に張っている円を見上げて二人に訊ねた。
『これこそ予言さ』
月はラヴの傍らに着地し円を見上げて続いて言う。
『この糸の位置全てお前がこれからぶつかる不運や事件を予言している』
「位置?私には良く分からないわね」
『そりゃそうだろうな。これは占星術の一環だが、大昔の占星術を作った奴だけがやり方を知っていたからな。まぁ我らは星のことに関しては何でも分かるから例外だが』
そう月が自慢気に言うのを無視してラヴは満点の星空を輝く目で見つめ言う。
「占星術を作った人……月と太陽じゃなかったんだ。古代天文学書にも産み出した人は不明って書いていたからてっきり二人なのかと」
まあね、と太陽はラヴの目の前に来て続いて言う。
『私達はその人にやり方を教えてもらっただけだから。作ったのは平凡で名も無い田舎に住んでいた、ただただ星が大好きな少年だったの』
「えっ少年?!」
思わずラヴは目を見開き太陽を見てそう驚いた。
太陽はそうと頷いた。
『彼には家族も居なくて、一人その田舎で星をひたすら研究していたの。でも、ある日彼は川に水を汲みに行く途中で自然災害にあって、そのままここに来てしまってね』
『来てしまったというか我らが招いたんだろ』
月が太陽の言葉を訂正して言った。
太陽は気にせず言う。
『そうだったわね。で、私達は彼に占星術を教えてもらったの。もちろん交換条件でね。彼はここでひたすら星を眺めて居たいって要求して、まあそんなことならって私達も了承したの』
「じゃあその少年は今もこの何処かに居るのですか?」
そのラヴの言葉に二人はさあ?と肩をすくめた。
『彼は星を見たいと言ったそれっきり一人で何処かに行ってしまったから。もしかしたら何処かで眠っているのかもしれないしまだ星空を眺めているのかもしれないしもしかしたら星自身になってるかもね』
なんちゃってと太陽は微笑んだ。
『まっ兎に角、私達にはそこまで踏み込む権利はないから。さあさあ予言を詳しく教えてあげる』
太陽はラヴに手を差し伸べた。
ラヴはその手を取る。
すると、下から風が吹いたかと思えば太陽は浮遊しラヴの手を引いた。
続いてラヴの身体も浮いた。
足元から襲ってくる浮遊感にラヴは思わず目を瞑った。
が、もう一方の手も誰かが繋いだのに目を開き見ると、月がなに食わぬ顔でラヴの手を優しく握っていた。
その手を見てラヴは微笑んで握り返す。
円の近くに来ると太陽は指先で円の中にある紐を指差しながら言った。
『貴女は朝方に産まれたのね。紐があちらに集結しているでしょう?』
確かにとラヴは頷いた。
『それに――』
『こいつが何時何分に産まれたかは置いといてさっさと予言を教えてあげないと兄が戻って来るぞ』
あっそうだそうだと太陽は更にラヴの手を引き円に近付いた。
ラヴは二人の手を更に強く握る。
『別に手を離しても落っこちないよ?』
太陽はラヴにそう言った。
いやいや、とラヴは首を横に振った。
「そういう問題じゃなくて怖いじゃないですか、地面に足がついてないのって」
二人はそういう物かな?と首を傾げた。
太陽は一度ラヴの手を離し円の中にある糸を一握りし、それを引っ張ると糸はまた更に伸びた。
太陽はその糸をラヴに握らせる。
「私はなにをすれば?」
『そのまま居れば良いんだよ。預言は我らが伝える』
すると月はなんの前触れもなくラヴの手を離した。
ラヴは目を見開いて驚き、息を呑んで目を瞑った。
だが、一向に落ちる気配がないので「ふぅ」と胸をなでおろしす。
月がその様子を見下ろして言った。
『落ちないって言っただろう』
「だからって急に手を離さないでよ!心臓が止まったかと思ったじゃない!」
ラヴはそう月に強く怒ったが、月は悪びれた様子もなく無視をした。
太陽はその様子に静かに微笑む。
強く握り締めている紐は青く光り円に結ばれている。
太陽と月はその円に近付くと、様々な星たちが二人の周りに集まり何やら話している。
二人は星たちを手でもて遊んだり撫でたり話したり様々な動きをしている。
ラヴはその様子を見つめ何をしているのか不思議に思った。
月はラヴが握っている糸をつまみ引っ張り離すと、糸はピンっと急速な速さで伸びた。
更にぐるぐると月がつまんだ場所だけ円になったかと思えばラヴにまで伝わってくる振動で糸は真っ直ぐ張る。
二人はその月が持った場所に集まり何やら話している。
すると太陽はラヴに手招きした。
「来てって言われてもどうやって行けば……」
そう呟くと星たちは笑い声を上げながらラヴの背に来て押してくれた。
太陽は戸惑うラヴの手を握り優しく近くに寄せると、ある場所を指差しながら糸を見て、と言った。
ラヴは言う通りに糸を見るとそこだけ玉になっているのが見て取れた。
恐らくの円になったときに玉になったのだろう。
「これがどうかしたのですか?」
月と太陽は顔を見合わすと太陽は言った。
『預言は少し……いえ。大分、良くない結果だったの』
その真剣な口調に思わず固唾を飲む。
『貴方が聞かないでいることも出来る。それが、貴方を守る手段の一つでもあるから』
聞くか聞かないか……選べということ。
ラヴは少しだけ沈黙して考えた。
どれだけ、悪いのか想像できないから。
でもどれだけ考えたところでも、ラヴの心にある好奇心と勇気が、聞かないという選択肢を選ばせてはくれなかった。
ラヴはその整っている顎を縦に動かした。
その選択に太陽と月は真剣な眼差しで一つ首肯させると、太陽から言う。
『……私達の予想では糸は真っ直ぐ張ってそれだけだと思っていたの』
そこで太陽は一つ息を吐く。
『真っ直ぐ何の手助けも無しに張るってことは何の予防も出来ない代わり、外部からの手助けは受け入れられるということだから。でも糸が円になって周り更に玉になるってことは――』
『これからお前には、それ以上の想像を絶する苦労が待ち受けるってことだ』
更に、と顔を顰めながら月は続けて言う。
『我らの手助けを回避しようと周ったということは、その藻掻く程の苦しみをお前一人で乗り切らないといけなくなる』
その預言にラヴは絶句し何も言えなかった。
しかし、しばらくするとラヴは小さく深呼吸をし二人を見て言った。
「でも、所詮予言でしょ?」
だが太陽と月は、首を縦にも横に振らず困った顔でラヴを見つめる。
どうしようもないんですか?とラヴは諦めたような笑みを二人に向けた。
月は黙って首肯し、申し訳なさそうにこたえた。
『予言をすれば、お前を励ませると思ったんだが……我らは長く人間と離れていたせいで解釈違いをしてしまった。すまない。アゼリアにも申し訳ない』
その素直な謝罪に、ラヴは慌てて首を横に振り謝らないでくださいと必死になった。
「そんな私の……私のせいでもありますから」
声を落としラヴは自嘲と絶望を織り交ぜたような笑みを浮かべ続けて言う。
「私が普通じゃないからなんですよ」
青い瞳が酷く憂いを帯びる。
「こちらこそ、こんな面倒なことになって。申し訳ないです」
気を取り直すように肩で息を吐き二人に訊ねる。
「貴方たち星には性別という概念がないんですよね」
その問いに月と太陽は戸惑いながら首肯した。
『我々は交わる必要がないからな』
良いなぁ、ラヴは思わず呟く。
方向感覚がおかしくなりそうなほど四方八方星空で満たされている頭上を見上げた。
「私たち人間にも性別なんてなければ良いのに。なら、こんな面倒な悩みを気にせず可愛い服を着て野原を駆け回ったりしても誰にも言われないのに、虚しい。虚しいことばかり……」
また目の縁からポロポロと流していく涙に、太陽と月はお互い困った顔で見合わせ少しの間沈黙した。
すると、太陽は何かひらめいたように月に耳打ちした。
月は目を見開いて驚いたが、仕方がないかとため息をついてラヴの手を握る。
ラヴは顔を上げて月の顔を見た。
『我ら月と太陽は、星人夜の一つお前の願いを叶えてやろう』
「願い?」
顔を上げ月の整った顔を見つめてラヴは訊き返した。
『あぁ預言は変えられない。けれど、息抜きは預言に左右されない』
だろ?と意地の悪い笑みを月は向ける。
ラヴは少し突拍子もない言葉に驚いたが、ですよねと吹っ切れたように微笑み目を少し拭くと続いて言う。
「何でも良いのですか?」
『ええ、何でも』
ラヴは少し間を開け、光り続ける星空や絶えず流れる流星群を見つめると言った。
「ここに、何時でも来られるようにして欲しい……というのは傲慢でしょうか?」
二人は顔を見合わせそんなのでいいのかと声を合わせて訊いた。
「そんなことで良いのです。だって息抜きってそういうものでしょ?」
ラヴは柔らかで可憐な笑みを浮かべた。
太陽と月は少し調子が戻ったラヴを見てホッとする。
そうすると、太陽は何やら星たちから耳打ちされ、そうだったと呟くと続いて言う。
『そろそろ貴女のお兄さんが戻って来ちゃうらしいから部屋に戻りましょう。ここへの行き方は簡単にここの風景を思い出すだけだから』
思い出すか、とラヴは星空を見渡すと心の中で簡単ねと微笑んだ。
眩しい光がラヴを襲い目を瞑う。
勢いがマシになると目を開いた。
そこはあのベッドの上でドレスを見るとズタボロなドレスに戻っていた。
「まっ待たせたな」
息切れをしながら入って来たのはナタールだった。
「ううん、それよりも何かあったの?」
するとナタールは聞いてくれよ!とラヴに飛びついてきた。
「メイドを呼びに行ったら城内に凶暴な犬が迷い込んだって言われるから仕方なく其奴を捕まえてお前のところに帰ろうとしたら次は泥棒に入られたってそれでそいつもまた捕まえて、やっとのことでお前のとこに来ようとしたらメイドを呼ぶのを忘れて……」
長々と語られるナタールの苦労話にラヴは苦笑した。
「まあ!どうしたのですかこの部屋は!」
部屋の扉付近を見るとそこにはメイドを引き連れている乳母がいた。
乳母はガラスと倒れたタンスだらけの部屋更にズタボロのドレスを着ているラヴを見て更に目を見開き驚いた。
「ラヴ様一体何が?!」
ナタールが説明に困っているとラヴは何の動揺もせずに説明した。
「契約しようとした星と苦戦したのです。それだけです」
大胆な嘘にナタールは驚いたが、乳母たちはそれ以上訊く権利を持ってはいない。
そうですかと頷きメイドたちはナタールを追い出してラヴの部屋の片付けとドレスを着せた。
部屋は掃除などが完了するまで部屋に戻れないのでラヴは庭を散歩することにした。
久しぶりの我が家の庭に少し懐かしみを思い出す。
少し不自然に茂みになっているところを掻き分けて歩くと、そこはブランコが一つある。
そのブランコの上に座り星空を見上げた。
預言が何を言いたかったのかは分からない。
月と太陽の予想を裏切るほどというのも気になる。
一体、私はどうなるのだろう……
そう、ラヴは漠然とした不安を抱えた。
母はどうして、ナルアカになんて行ってしまったのか……
自分たちの身体のことを解決するためと言っていたけれど、結局、こんな身体になれたのは父が魔導書を使ったから……
そういえば、月と太陽はその魔導書にも問題があると言っていた。
己を取り巻く全ての問題の意味が分からずラヴは地面に目を落とす。
自分の複雑な心のせいで母が死んでしまったという罪悪感は、どれだけ月光に照らされても拭えなかったのだった。
読んでいただきありがとうございます!




