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星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第一章:星の嫁入り 芙蓉に根ざせば 件は死する

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※この作品には性別転換・ダークファンタジー・残酷描写要素があります。

 馬車の中では二人は一言も喋らずただただ目にも留まらぬ速度で流れて行く外を見つめているだけだった。

 

 魔法で筋肉強化した馬を使ってでの道のりだったので普通の馬を使うとは比べ物にならないほど早かった。

 

 城の外にはメイド長と執事、そして二人の乳母が居たがラヴは一言も話さずに黙々と中に入って行きナタールは乳母にハグをして一緒に中に入って行った。

 

 広間には二人の父である公爵が待っていたが何時ものラヴなら城内でしか見せない無邪気さで飛びついてハグをする反対に、ラヴは公爵に対して礼儀正しくカーテシーをしたあとまた黙々と己の自室に戻った。

 

 その様子に城の皆は顔を見合わせ心配した。公爵はナタールにラヴの調子を訊ねる。

「大分ショックみたいで、知らせが来た時たくさん泣いていたし。何より、ラヴはこの城の誰よりも母上のこと愛していたから」

 

 ラヴとナタールの母の名はアゼリアという。


 アゼリアは八段ある魔法使いの階級の中で魔法使いの世界では大きな権力を持つ八段だった。


 公爵とは政略結婚をし、その後二人を産んだ。

 それから二人が育つにつれ二人の違和感やラヴの悩みを誰よりも早く気づいたのは他でもないアゼリアだった。


 ある時ラヴは、アゼリアを訪ねるとアゼリアの膝の上に坐りナタの身体の方が良いのに、きっと私だったらナタより上手く公爵令嬢として生活出来ると呟いていた。

 

 それでもアゼリアはラヴや、ラヴと同じ悩みを持ち僕の方が次期公爵として活躍出来ると呟くナタールのことも否定せず肯定だけをしていた。

 

ある時アゼリアは、ラヴがナタールのクローゼットからドレスを盗んで着ているのを見つけ、ナタールがラヴのズボンを盗んで着ているのを見つけた。

 

 そしてこのことを公爵に相談したが公爵は出来ることはないだろと諦めて何もしてはくれなかった。だがアゼリアは、二人がお互いを見るたびに少し気まずそうな表情をしているのに更に胸を痛め、二人を救う旅に出ることを決意した。


 公爵にはただ一つの手紙を残しただけだようだった。

 

  だがラヴがどうしてあれほどアゼリアの帰りを待ち望んでいたかは本人しか知らない。


——————

 

 ベッドに顔を埋め咽び泣いていた。心の中でどうしてと、嘆いて呟いている。


 周りには金の粒――それは、夜空を彩る星。

 星たちはラヴに寄り添っている。

 月と太陽が同時に空に上がるこの時間帯、豪奢な部屋は虹色に照らされていた。

 

 

 アゼリアが居なくなる夜、ラヴは寝室でナタールと寝ていると星たちがラヴを叩き起こした。

 

 ラヴは小声でどうしたのかと訊ねるとアゼリアが城から出て行こうとしていると星たちは言った。寝惚けていたからか、しばらくの間は理解に苦しんだが星たちが慌てているのを見て本当のことだと理解する。


 ラヴは一人で見に行くのは嫌だったので傍らで熟睡しているナタールを揺すり「ナタ、ナタ起きてよ。母上が」と縋った。

 

 だがナタールは「まだ小説見てるのか?もう夜更けなんだから寝ろよな」と寝返りをうっただけだった。

 

 確かにラヴは小説で衝撃的な展開があったときは思わずナタールを叩き起こして感想を伝えていたが、今は本当だとラヴは何度も言う。

 

 しかしナタールは「はいはい、また朝な、また朝に聞くから今は寝させろ」と手を払われてしまった。

 

 ナタールは起きないし、ラヴは居ても立っても居られず星たちに案内しろと命じて後をついっていくことにした。

 

 星たちが案内した場所は調理場にある裏口の近くだった。ラヴは星たちを光らせ辺りを照らすとそこには茶色の皮のローブを着たアゼリアが居た。

 

 ラヴはアゼリアに訊ねた。

「母上、そこで何を?」

 

 アゼリアはラヴが居ることに驚きながらも星たちを見て笑顔を表しラヴを手招きした。

 ラヴは星たちの灯りを落としアゼリアに近付いた。

 

 アゼリアはラヴを優しく抱き上げ裏口から外に出た。肌寒い風が二人を包むように吹き、アゼリアは着ているローブをラヴに被せた。

 

「母上何処に行くのですか?」

 

 アゼリアはラヴの金髪を優しく撫でると微笑みながら言った。

 

「ラヴベリー貴女はナタのことが好き?」

 

 その質問に、幼い少年は勢い良く頷きアゼリアに抱きつく。

「それはもちろんです。母上も大好きです」

 

 アゼリアは「ありがとう」と柔らかに言うと、その緑の目を輝かせながら「じゃあ、見ててね」と腰に掛けている小さな袋から何かを取り出し空にばら撒いた。

 

 それは虹色に輝き二人の周りをぐるぐる周る。

 

 一粒一粒それは煌びやかに輝いており、まるで雫のようにくっついては蕩けるように離れる。

 

「これ、私知っています!」

 

 ラヴはアゼリアから身を乗り出してそう明るく言った。

 

「星から採れる『希望の蜜』を魔法で溶かして固めて砕いたものですよね!凄い!初めて見ました」

 

 もっとよく見ようと、さらに身を乗り出してラヴは破顔一笑した。

 アゼリアはラヴが落ちないよう抱き直し微笑んで言う。

 

 「フフッ、ラヴは物知りね。そうよ『希望の蜜』またの名『星降る雨』一年に一度星から落ちてくる豪雨がそう呼ばれているのよ。この美しい景色を見た人々が元気づけられたから名付けられたの」

 

 辺りをぐるぐる回る虹色の粉々たちで遊んでいる星たちを輝く目で破顔一笑しているラヴの金髪を優しく撫でキスをし続いて言った。

 

 「ラヴ、愛しのベリーネ」

 

 ラヴはアゼリアの顔を見た。二人のお互いの顔は色々な色で照らされる。

 

「母上は今から少し旅をしてきます、大丈夫。ナタと貴女を生きやすくするために行くのだから」

「生きやすく?私は幸せですよ?」

 

 違うの……とアゼリアは何かを堪えるように顔に皺を寄せながら続いて言った。

 

「確かに今はそうかもしれない。けれど、きっと分かる日が来るわ。良い?学園に通い始めたらあなた達は公爵家の人間として扱われ、女として男として生きてかなければならない。あなた達自身の全てを受け入れて、見つめて、愛してくれる人なんて極々少ないの」

 

「でも、そんな。全てを分かって貰おうなんて。傲慢ではないのですか?」

 心配そうにアゼリアを見てラヴはそう訊ねた。

 

「人っていうのはそんなものなの、分かって欲しくて仕方がないのにそれは傲慢だし相手に嫌な気持ちにさせるだけ」

 

 アゼリアは少し悲しい顔をして言った。

 

「もしかしたら私達には全てを受け入れて愛して恋してくれる人が居ないのかも」

 

 でもね、とラヴの髪の毛を耳にかけ笑みを浮かべ続いて言った。

 

「あなた達には母上が居る。私はあなた達の全てを受け入れて愛してあげられる、だから行くの。あなた達が母上以外にも愛して貰えるように。大丈夫、私は必ず生きて戻ってくる、そしてあなた達にいっぱいハグしてキスして三日三晩くっついて居ましょうね」

 

 ラヴは涙を流してアゼリアに抱きついた。


 アゼリアもめい一杯ラヴに抱き着き額にキスをした。


 ラヴもアゼリアの額にキスをする。


 そして二人はお互いの額を合わせ古代天文学に伝わり、今は二人しか知らない秘密の祈りの呪文を呟いたのだ。

 

「我ら星人夜。太陽に庇護され、月に微睡む我らを、星々よいつまでも夜の帷に匿りたまえ。蝶々が夜に飛び朝に舞い降りるその僅かな間、貴方を見守る太陽系のご加護がありますように」

 

 周りを周っていた星たちや『希望の蜜』は二人の周りを上下しながら円をかいて周る。カラカラ。キラキラ。シャラシャラ。と音を立てながら。

 

「どうか愛する者を護らせて。遥かなる彼方から数多を見下ろす、我ら太陽と月よ叶え給え叶え給え」

 

『希望の蜜』の色は消えて、辺りは星たちが照らす色だけになったが二人はそれでも構わなかった。

 

 アゼリアは月光に輝く金髪を一つ撫でると、ラヴを腕から降ろし惜しむようなハグをして森の中に消えて行ったのだ。

 そして二度と戻らなかった。


——————

 

「我ら星人夜……私は星人夜。星を守り守ってもらう存在。夜には光る月と太陽に感謝のお祈りを捧げる。私は星人なの。だから……」

 

 ウワアア!とラヴはベッドの傍にあった皿やランプなどを全て床に落とし、棚も突き飛ばしアゼリアが帰って来たらと溜めておいた『希望の蜜』が入っている大きな瓶を割る。


 なのに、手を幾ら切ろうともカイロンという星と契約したから傷はつかないし血も出ない。

 

「どうして!どうして!」

 

 自害しようとしても痛いだけ、傷もつかない。

 

「私なんかがどうして!どうして!ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙!何で!」

 

 割れた『希望の蜜』がラヴの周りを音を立てながら周る。その度にラヴはアゼリアとの契約を思い出し藻掻き苦しんだ。

 

「うるさい!うるさい!黙ってよ!」

 

 星たちがラヴを静ませようと出てくるがそれでもラヴは絶叫する。

 

「何で!あぁ!生きにくくて良い!母上さえ戻って来てくれるならそれで良いの!私なんかどうでもいいから!」

 

 唯一私を理解してくれた。愛してくれた。

 

 父上が私よりナタの方を愛していることくらい知ってる。


 ナタは私より友達のことが好きなのも知ってる。


 良いのだって母上は何時も私の話しに耳を傾けていたから。


 こんな顔なんて無くて良いの。天使じゃなくて良いの。

 

 部屋がガラスの破片と『希望の蜜』の光に包まれるとその部屋を見渡しラヴは言った。

 

「我ら星人夜。私を殺してくれ給え。どうか、私を殺して、こんなの耐えられない」

 

 ラヴが心配で部屋に訪れたナタールは、七色に光る部屋とそれに反射している大量のガラスの中心に呆然と坐っているラヴを見て唖然とした。

 

「お願い、私だけを殺して。どうかどうか我ら月よ私を殺して、どうかどうか我ら太陽よ私を殺して。我儘言わないから私だけ殺して欲しいの、私が死んだら母上が戻って来る?ねえ、どうして守ってくれなかったの?教えて、教えてよ」

 

 ナタールはガラスを避けながらラヴに近付き言った。

 

「母上が死んだのはラヴのせいじゃない」

「わかってる、けど呪文が効かなかったのは私のせいよ。あの時、私のために『希望の蜜』を使ったから」

 

 ラヴは己の周りを周っている一粒の蜜を握ると潰した。そして次々に蜜を握っては潰してまわった。

 

「こんな、こんな、こんなこんなこんなこんなこんな」

 

 だが蜜は握っても握ってもその度に新しいのが増える。ナタールは辞めさせようとするがラヴはやめない。

 

「あの時、呪文を言った瞬間消えたのに。どうしてこんな悪い状況では消えないの?ふざけないで、ふざけないでよ」

 

 ラヴは涙も流さない。

 するとナタールはポツリと呟いた。

 

「希望は消えない」

 ラヴは目を見開いてナタールの顔を見ると言った。

「じゃあ私が今絶望してるこの状況はどう説明するの?」

 

 余りの突拍子もない言葉にナタールは絶句した。

 

「希望は消えない、ならこの世の人たち皆ハッピーで羨ましい」

 

 貴方はね、とラヴは立ち上がりナタールを見下ろすと続いて言った。

「羨ましいほど楽観的で愉快だから分からないと思う。けど覚えておいて。希望が死んで絶望に塗れてしまった人間もいるのよ。私の希望は母上だった、代わりなんていない」

 

 ラヴが裸足でガラスを踏んでも顔色変えずに部屋から出て行くので、ナタールはその後を何とか追うと蜜までラヴの後を着いてこようとした。

 

 それにラヴはうさぎの形をした金星を召喚し酸の雨を蜜の上からかけた。

 だが矢張り消えないのにラヴは切歯扼腕し諦めたようにため息をつくと。そのまま進んでいった。

 

 母上のようになりたかった、ただそれだけ。母上のように温和で優しくて強くて綺麗な人。なのに私がこんなだったから。私がせめて普通に産まれていればまだ生きていた。全部あの時私が行ったせいで。

 

「ラヴ……ベリーネ!」

 

 久しぶりに呼ばれた愛称に思わずラヴは振り返った。ナタールは足を見ろと言った、何だと思ったら足の裏から血がたくさん出ていた。

 

 どうして?と言おうとしたが直ぐに分かった。

 

「カイロン」

 ラヴの横に出てきたキラキラのラメが光っているような星にラヴは叱りつけた。

「今すぐ治して。さっきは無理矢理治していたでしょ。早く」

 

 だがカイロンはチカチカ光るだけで治さない。

 

「どうして?」

 

 カイロンはラヴの上を周り円をかいた。

 

「……月ね。どうして?治してくれないなら部屋に戻るから」

 

 星には階級がある、一番下は名もない若い星。

 次に、カイロンのような太陽を除く恒星。

 恒星の上に太陽系等の惑星。

 その更に上の一番上位が太陽や月が居る。

 

 恒星や惑星などの契約は比較的簡単の低リスクで契約出来るが月や太陽となるとまた別で、ラヴの場合月と契約する条件として提示されていたのが『命令をしない』だった。

 

 月はラヴに対して『契約はするが命令をするならしない』という主従関係を結ぶ儀式において無理難題な提示をしラヴは受け入れた。

 

 また月のような自然界で高位の存在は下の者に命令出来るのでカイロンはそれに従ったまでというわけだ。

 

 ラヴが踵を返し部屋に戻ろうとすると、ナタールはその手首を掴みラヴの足を止めた。

 

「離してよ」

「いやだ」

「何で?ナタに関係ないじゃん」

 

 その一言にナタールは思わず声を上げて怒鳴った。

 

「関係ない訳がない!お前は俺の、大切な双子の妹で弟だ!」

 

 ナタールの涙が頬に伝う。

 ラヴの手を優しく握り俺だってと弱々しく言った。

 

「俺だって、母上の死が悲しくないわけがない。だけど、もう死んでしたったんだから仕方がないだろ?」


 ナタールの目から涙が一粒零れる。


「ラヴが母上を誰よりも愛していたことは知ってる。だけど俺も母上のことが好きだった、大好きでいつか必ず帰って来るって信じてやまなかった。なのに死んで、もうどうしようもないんだよ」


 蜜はまだ周っていた。

 

「俺にはまだラヴが居る、ラヴにも俺が居る。母上の代わりなんて居ない、それは俺も同じだよ。お前にとって俺が何かは知らないけど、それでも、俺にはお前がいる。お前にも俺が居るから」

 

 だから死ぬなんて言わないでくれよ……とナタールはラヴに抱き着く。

 その時、ラヴはやっと真っ青で何の感情も籠もっていなかった瞳を潤わせナタールを抱き返した。

 やがて自分がどれだけ酷いことを兄に言ってしまったかを思い出して戦慄く。

 

「ごめんなさい。兄さん。私、私……」

 

「大丈夫、分かってる。分かってるから、だから俺の傍にいてくれ」

 

 ラヴはごめんなさいと連語しナタールは、大丈夫とラヴの背中を擦った。

 城の真っ暗な廊下には『希望の蜜』が七色に照らし上下に音を立てながら周る。

 傷づいていたラヴの足の裏はいつの間にか真っ白な元の綺麗な足に代わっていのだった。

読んでいただきありがとうございました!

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