開幕
※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素が含まれております
我ら星人夜。夜を愛し燃える日を守る存在。
星と遊びましょう、そしたら祝福されるから。
月の銀の髪を梳きましょう、そしたら月の口づけを貰えるから。
太陽と剣を交えましょう、そしたら精神が強くなるから。
愛しの星人夜の子。貴方は誰にも殺させない。星人夜の血を受け継いでいるあいだあなた達は太陽と月の子当然。
守りましょう。貴女が呪われてしまっても。天使でも悪魔でも守ってみせましょう。
代わりに貴女も太陽と月を守りましょう。
加護には加護で返しましょう。
星が笑って、月が絹を紡ぎ、太陽が燃えている時まで貴女は愛し愛される。
お眠り、我ら星人夜
目が覚めたらそこには太陽が燃えている。
お眠り、我ら星人夜
瞼の上では月が貴女の周りを監視する。
朝が来て、夜が来て、また朝が来る、星は絶えず笑う。屑になるまで笑う。
夜が明けるまで
昔々ある由緒正しい天使の末裔と言われている公爵家に双子の男女が産まれた。先に女の子が産まれその後を続くように数分後男の子が産まれた。
双子はその家系に繁栄をもたらすと言われ縁起が良いものとされているため公爵家一同領地内で祭りを開催するほど大喜びした。
それから数年後。
二人はそれはそれは美しく育った。
だが一つ問題が起きた。
二人の容姿がまるで真反対なのだ。女の子はまるで紳士や騎士のようにズボンを履き、凛々しい顔立ちに騎士団に劣らないほどの剣さばきを持つ子に育ち初対面の人は必ず(髪の長い男性)と間違うだろう。
一方、男の子は令嬢のように家に籠って本やら刺繍などをして過ごし、スラリと細い中性的な身体をし天使も恥ずかしがり羨んでしまいそうなほど美しく血色の良い顔をしている。その顔を見た人達は男女関係なく恋に落ちてしまうという。
それを見兼ねた二人の父親。つまり公爵は二人を書斎に呼び出し訊ねた。
「お前たちの性別を転換出来る魔法がある。ただし新月には元の性別に戻ってしまうためその日だけ何があろうとも家から出てはいけないよ。この魔法をかけるかはお互い良く話し合ってからにしなさい」
二人は顔を輝かせお互い顔を見合わせ満面の笑みを浮かべながらもちろんかけてもらおうねと満場一致でその魔法をかけてもらった。(もちろん世間にはバレないように隠密にだ……)
それからというもの男の子が持っていた『小公爵』という通称は性別を転換してからは女の子が持ち、逆に女の子が持っていた『公爵令嬢』という通称は男の子が持つことになった。
時を経て、二人は十三になり学園の通うことが決まった。その学園は寮制なため今までのように新月が近付くと部屋に籠もったり事情を知っている者と外泊するという計画が使えなくなる。
そのため公爵はある計画を二人に任せた。
まず、性別を転換し男の子から女の子になった子に新月が近付くと月のものが来る為その日だけ休ませてもらうという嘘をつかせることに。
女の子だった男の子には、公爵家に用事があると適当に嘘をつき公爵家か学園以外の宿泊施設に泊まるという嘘やどうしようもなければさらしを巻いたりするなどすることになった。
そんなこんな二人は十五歳に、三年間何とか嘘を突き通し何事もなく過ごせていた。
「でもさ、この新月はどうにかならんもんかね」
足を組みスプーンをコップの中で弄くり回しているのは元女の子のナタール。
「行儀が悪いですわよ兄様」
扇子を口に当てラヴベリーことラヴがピシャリと兄であり姉のナタールに言うとまあと続いて言った。
「私もそのお考えには同意見です。が、父上が仰っていたように新月に元に戻るのは魔力を一度リセットしなくてはならないからでしょう?リセットしないと私たちの中で魔力が暴走し、最悪の場合は命に関わると言っていらっしゃいましたよね」
非の打ち所がない正論にナタールはちぇっと言いながらスプーンをカップから出し、中に入っている紅茶を音を立てながら飲み干した。
「行儀が悪い!」
扇子の先をナタールの額に当てペシッと音を立てながら注意した。
「おい、扇子で人を叩くのは行儀が良いって言えるのかよ」
扇子を邪魔だと手で払う。
「これは最低限のマナーを守るために必要なことなので」
また口を扇子で覆った。
「全くお前の屁理屈も変わらずだなラヴ」
ラヴはフッと鼻で笑い言った。
「ナタの面倒臭がりで野蛮な行動の方が相変わらずですよ」
二人は少し沈黙すると、ほぼ同じタイミングでテーブルに置かれているアフタヌーンティーのマカロンを手に取り黙々と食べた。
そうすると、何かが流れ星の如く天井を舞い二人のテーブルの上に浮いた。それは茶色い手紙だった。
ナタールは不思議がりながらその手紙を手に持ち宛主を見ると急いで手紙を開けた。
ナタールはその内容を見て数秒沈黙してから、重々しくラヴに言う。
「母上の居場所が分かった……」
「ゴフッ」
紅茶を飲んでいる途中で言われた不意打ちの言葉に思わず紅茶を噴き出しそうになり、ラヴは颯爽とハンカチで口を拭くと戸惑いながら言った。
「あ、えっ?本当ですか?どこにいたのですか?」
ナタールは何か口を開きかけたが苦虫を噛み潰したような顔をすると、口を閉じラヴベリーに手紙ごと渡した。
宛主は母の父。つまり侯爵家元当主である二人の母方の祖父。手紙の内容は次のような物だった。
『拝啓、今般、お二人のお母様の居場所が分かりました。場所はナルアカ特別地区の洞窟でございます。その中にはお二人のお母様が倒れていらっしゃいました。このようなことをお伝えすることはお二人にとって辛いお知らせであると存じますが、はっきりと申し上げます。お二人のお母様は魔物に襲われ、その場で亡くなっておりました。神聖魔法ではどうにもならなかったのです……申し訳ございませんが、これ以上の詳細は諸事情によりお伝えできません。
せめてもの供養として、侯爵家にて葬儀を行うこととなりました。公爵様にはすでにお伝え済みでございます。ご参列いただくかどうかはお二人にお任せいたします。葬儀は一週間後に予定しております。まだお時間はございますので、ゆっくりとご検討いただきたく存じます。
敬具、
ブラッシュ・サフロ・ルート・レドレシアより
我が愛する孫たちへ』
ラヴは幾度も読み直すように目を上下させた。そして次第に母の死という言葉がラヴの胸に馴染み始めると、ラヴは目の端に涙を溜め始めた。
「え……どういうこと?」
やっと口から出た言葉だった。
二人の母親、公爵夫人の死。
幼いころに旅に出てから消息不明だった。
きっと、生きていると二人でそう願って待っていたのだ。
「ラヴ……」
妹を呼ぶナタールの声も震えており、彼はラヴの元に歩み寄りその肩をさすり優しく言う。
「一旦ここから出よう、目立ってしまう」
二人がいた場所は学生の休憩部屋だった。
今は多くの学生たちが気ままに過ごしており、公女であり天使の如く美しいラヴが泣いていると、それは目立ってしまう。
ラヴはしゃっくりを上げながら頷くと、席から立ってその部屋を二人で後にした。
二つの艶やかな金髪が太陽に反射する廊下で双子は静かに涙を流しながら会話をする。
「ラヴ、どうする」
美しい妹は身体を震わせて未だ現実を受け入れがたい様子だった。
ナタールの身体に寄りかかって、絶えず涙を流している。
「やっぱり……やっぱり、私のせいだわ。私が……私が……」
「ラヴ……違う。お前のせいじゃない」
「けど、母上が旅に出たのは私たちのせいで……母上が……し、死んでしまったのは……」
私のせいだわ。
そう、ラヴは震える声で繰り返した。
ナタールはその頭を抱きしめると否定する。
「違う、違う。誰のせいでもない……違うよ」
そして、ラヴの潤む碧眼の縁を優しく撫でるとナタールは言い聞かせた。
「ラヴ、よく聞いてくれ」
同じ色の碧眼どちらからも、涙が流れる。
「俺は今から教師のところへ行って事情を話してくる。お前は、帰る準備をしろ」
「ナタ……でも、でも……」
愛称で呼び合う二人は、そっと手を取り合った。
「大丈夫、俺がついてる」
そう言う兄の目が頼もしくて、ラヴはゆっくりと首を縦に振った。
そうして、二人は一度別れた。
ラヴの周りを舞う金の鱗粉は、少女を慰めるように寄り添った。それらを愛しく思いながら、ラヴは自室に戻る帰路を歩いた。
頭が朦朧として何も考えられないのを、何とか振り切りながら荷物をまとめ始める。
『大丈夫?』
幼子のような声がして、ラヴはまだ涙を流したまま振り返った。
そこには金色の粒が浮かんでおり、ラヴの涙を食べるようにして拭った。
粒を手のひらに乗せ、そっと頬の傍に当てる。
「……大丈夫じゃないわ。貴方たちは…………大丈夫?」
『大丈夫じゃないかも。もう、君だけだから』
そうね、とラヴはまた涙を流す。
もう、母はいない。
彼らにとってもその意味は大きかった。
『我ら星人夜。愛しき、星の友。泣かないで』
泣かないで……粒たちは巡りながらラヴに寄り添った。
ラヴの部屋は彼らに照らされて金色の模様を描いて輝いた。
まるで、夜空に浮かぶ星々のようだ。
「ありがとう。みんな……」
ラヴも彼らに寄り添った。
彼らが愛しいのはラヴも同じだったから。
空に浮かぶ金色の星々たちは、小さな粒となってラヴに寄り添い続けた。
ナタールが来た時には弾けるように姿を消して、空からラヴを見下ろす。
——これより、最後の星人夜と詠われ、天使と悪魔の因縁の末に産まれた公女の最悪な破滅と、それでも這い上がり後世にまで名を轟かせた『星公女』の凱旋の幕開けである。
読んでいただきありがとうございました。




