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星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第二章:星まもる犬 海月の骨の 枯れ尾花

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20/23

新:3

※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。

※誤字脱字があれば申し訳ないです。

 朝起きて、シルエットは朧気に耳の端で弟たちの騒ぎ声を聞いていた。


「えー!これが星なの?」


「すげ!マジの魔法使いじゃん。初めて見た!」


 魔法?星?


 どっかで盗んだ本でも読んでいるのかと、寝ぼけながら服を着替え終わったその時。


 まさか!


 と、目が完全に覚醒した。


 そして、慌ただしく居間へと走る。


「おい!」


 そう叫んだ先には、やはり星を操る美少女がいた。


 しかし、その髪はあの鮮やかな金色ではなく艶やかな黒だった。


 黒い髪に真っ青な瞳があるので、どこかミステリアスな雰囲気がある。


「あっ、兄貴起きた」


 長女のルノアが星を手で遊びながら振り向いた。


「こんな可愛い子を待たせるなんて、我が兄貴ながら呆れたわ」


 シルエットよりは小さい耳と尻尾で呆れを表現する妹に腹を立てつつ、シルエットはその少女に歩み寄った。


「お前ラヴか?」


 念のため尋ねる。


 少女は可憐な笑みを浮かべて頷いた。


「ええ。金髪のままでは目立ちすぎるから、シャルドネ様がこのようにしてくれたの」


 この女もだが、矢張り爺さんも大概怪しい奴だなとシルエットは改めて思う。


 なにせ、あの金髪から黒髪に染めるには時間と金もいるし、こんな綺麗にはまず無理だ。


 魔法でしたのだろう……


 魔法と魔術両方使えて、魔物を退治する方法を熟知している爺……


 普通に考えてまともではない。


 だが、シルエットは彼に助けられたし金をいっぱいくれる良い奴だと知っていたので深掘りはしなかった。


「で?それでなんでここに?爺さんが俺の家教えたのか?」


「ええ、町の見学ついでに迎えに行けって。途中まで着いてきてくれたわよ」


「あの爺さんが?」

「山中までだけど」


 ならあり得るか、とシルエットは納得する。


「ねえねえ兄貴……」


 三女のマノンが耳打ちしてきた。


「あの嬢ちゃんとどういう関係なの?」


 シルエットは妹の小さな毛深い耳に耳打ちする。

 

「シャルドネの野郎に頼まれたんだよ世話を……」


「ええ!あんな綺麗な子の世話できるの?」


「馬鹿にすんな!お前らの面倒誰が見たと思ってんだ」


 その時シルエットはふと察した。


 シャルドネはそこを見込んだのかもしれない、と。


 ニ男三女をまとめて、常識的なこと、金の稼ぎ方や狩りの仕方……これら教えたのは母でも父でもなくシルエットだった。


 母はとても情緒不安定で、父に怯えてばかりだったから教育など出来る状態ではなかった。


 ラヴを見る。


 穏やかに弟たちの相手をする彼女は表面上は普通に見える。


 しかし、昨日見たあの顔はとても不安定で……


 ラヴもシルエットを見つめた。


「今日は何をするの?」


 えっ、と彼は尻尾を下げて悩んだ。


 正直、何も考えていなかった。


 狩りをするにしても、まだ早いかもしれないし……


「逆にお前なにかしたいことはないのかよ。旅に出るんだろ?そしたら、目的があるんだろうから。何かないのかよ、覚えておきたいこと」


 ラヴの顔に苦悶の表情が浮かんだ。


 そして、数秒考えてから彼女は口を開いた。


「お金の管理の仕方を教えてほしいかな。私そういうの、あまり詳しくないし自信がないから……」


 やけに現実的な提案で、シルエットは少し驚いた。


 だがそういうのは嫌いじゃないので、シルエットは胸を張って頷く。


「よし!じゃあ、金の使い方から、交渉の仕方まで全て教えてやる」


 そして、家の掃除をしていた末の弟に向かってシルエットは言い放つ。


「ロンド。お前も手伝え」


 家族で唯一の折れ耳をしたロンドは眠たげな眼をこすりながら近寄ってきた。


「こいつは、ロンドだ。末の弟で身体が弱えから出稼ぎには出られなくてな。番犬の役割をしている」


 ロンドは元々、死産の予定だった。

 父がそう仕向けた。


 けれど運とシルエットの悪知恵のお蔭で産まれた。


 ただ父がそう仕向けたせいか、気が弱く、心臓も弱い。


 薬を常備していないと身体が上手く動かなくなる病気だった。

 

 ラヴは可愛い折れ耳の少年に、可憐な笑みを向けると挨拶した。


「初めましてロンドさん。ラヴといいます。よろしくお願いしますね」


 えらく硬く苦しい挨拶にロンドは戸惑いつつ、一つ頷いた。


「その硬い挨拶もやめたほうがいい。人によるが……」


 呆れながらシルエットがそう注意すると、ラヴの方が戸惑って頷く。


「そっそうなのね。分かったわ。よろしく、ロンドくん」


 ロンドの方はすっかりシルエットの袖に縋りついて固まっていた。


「しゃあねえな。もういいや、さっさと行くぞ」


 言って、シルエットは二人を外に連れ出した。


 この町は国境付近だけあり、様々な店が繁盛しており人も多い。


 とくに、ルメブレット聖帝国の吸血鬼が多い。


 吸血鬼の見た目は様々だか基本的に、赤毛で癖毛のものが多い。目は緑色で、肌は白。顔立ちが独特で、目が吊り上がっていて、堀が深く、牙が鋭い。


 ぱっと見怖いのだが、喋ってみると案外陽気な人たちが多い。


 そう、ラヴに説明していると一つの店に辿り着いた。


 そこは雑貨店だ。


 店内に入ると、中古品から新品までが揃えられていて老いた店主の女が一人いる。


「ありゃ、シルエットとロンドじゃないか」


 店主は二人に気がつきそう喋りかける。


「そちらの別嬪さんは?」


 ラヴは前に出て自己紹介した。


「ラヴといいます」


「ラヴ?聞いたことがない名前だね。外のもんかね」


 彼女はにこやかな笑みを浮かべて頷く。


「はい。家から出て旅をしている途中なんです。今は――」


 そこで、シャルドネのことを言いそうになっているのに気がつき慌ててシルエットはその口を閉ざした。


「あの爺さんのことは言わないほうがいい。あいつ、この町の住民から気味悪がられてるから」


 意外そうな顔をしたあとラヴは頷いた。


 シルエットは一先ず胸を撫で下ろし、店主に言う。


「ちょっと見させてもらうぜ」


「勝手にしな」


 そして、店の中を見て回りながらシルエットの授業が始まった。


「まずだ、お前手持ちはいくら持ってる」


「シャルドネ様から1000リングのお小遣いはもらった」


 の(・)ではなく、も(・)なのだが……


 呆れてロンドと目を合わせたシルエットは言う。


「あのなあ、1000リングってのは俺たちが1日働いてやっと稼げるか稼げないかなんだよ」


「でも、シルエットはシャルドネ様から貰ってたじゃない」


「ありゃあ爺さんがおかしい」


 ラヴは怪訝そうに袋の中の金を見た。


「じゃあ、いくらが妥当?」


 シルエットは考えた。


「まあ、お前へのお小遣い程度なら100リングくらいじゃねえかな」


「100リング?それで何を買えるの?」


 こいつ……!と苛立ったが、至極真面目に訊いているようなのでこたえる。


「食料、安い衣服とかだろうな。今じゃこうやって――」


 中古品の雑貨を手に取る。

 値段は10リングだった。


「中古品やらが出回ってるから節約しようと思えば幾らでもできる」


 なあ、と家事や買い物を任せているロンドに言うと、彼は一つ頷く。


「……値切ればもっと節約できる。あとは、ゴミから漁ったり、要らなくなったものを譲り受けてもらったり。100なら1日くらいは何とでもいける」


 ラヴの表情が強張っているのが面白く、シルエットはクスクスとほくそ笑みながら言う。


「まあまあ、そんな顔すんな。とりあえず、今から100リング以内で買い物をする。雑貨店に来たのは、まずロンドの手本を見せるためだ」


「俺の手本?」


 ロンドは不思議そうに首をかしげる。


「ああ。この、500リングの食器を値切れ」


 そう手渡したのは柄のない普通の食器。傷もないが、埃が被った普通の食器。


「これを値切るの?どこにも不備はないけど」


 心底不思議そうにラブはそうシルエットに尋ねた。


 しかしシルエットは得意げに胸を張ると、ロンドの背中を押して言う。


「さあさあ、それを値切ってこい。お前が満足したらするまでな」


 ロンドは従順に頷き、店主に近づいた。


 二人は物陰から見学しており、シルエットは声を潜めながらラヴに言う。


「ロンドは自分の可愛さを利用して値切る方法を誰よりも熟知している。だから、お前もその方法をよく見て学べ」


 その端正な顔は少し嫌そうだが、そうは言ってられないと自覚しているらしく黙って首肯した。


 まず、ロンドは眠っていた店主の肩を優しく叩いた。


 店主は起きて上目遣いで見上げてくるロンドに微笑みかけた。


「なんだね、折れ耳のロンド」


「この食器、どうしてこの値段なのか気になったの」


 店主は一瞬怪訝な顔をしたが幼いロンドの質問にこたえる。


「そいつは古いからな。随分前からここに置いてある」


「有名な人が作ったの?」


「いいや。恐らく名もなき職人だろうが……。まさか、ロンド値切るつもりかい?」


 その時、眠たげな眼をしているロンドの目がキラキラと光った。


「だって、これ……500リングもするんだよ?少しくらい良いじゃない」


「いいや。ダメだ」


「40」


「ダメだ」


「50」


「ダメだ。それ、もとは500だぞ。そんな値段で売るわけにはいかん」


 むっとロンドは眉間に皺を寄せて反発したが、少し残念そうな顔を見せた。


「じゃあ……55」


「……ダメだ」


 その可愛い耳と尻尾まで垂れて来たので店主も押されてきた。


「……69」


 段々ロンドの瞳が潤んでくる。


「ダっダメだ」


「90……お願いおばちゃん」


 最後に、とでも言わんばかりの上目遣いに店主は眉間を皺をよせ数秒悩んだ。


 そして、埃をかぶった食器と、可愛いロンドを見比べたあと……渋々と言わんばかりの溜息が出た。


「分かった。90で売ってやる。今回が特別だからな」


 ロンドは飛んで喜び何度も店主に感謝を言った。


 店主はやれやれ、と苦笑を浮かべて食器を梱包するとロンドに手渡した。


 そして、三人は一旦店を出る。


「見たか?俺の弟の勇士」


 ラブは苦笑しながらも頷き、100リングをロンドに渡した。


「多めなのは気にしないで。今回、元々100リングの予定だったのに90にまけてもらったし」


 ロンドは兄を気遣わしげに見上げた。


 シルエットは肩をすくめるだけ。


 そして、ロンドは喜色満面の笑みを浮かべて10リングのお小遣いを大切に懐へ閉まった。


 「じゃあ、今度はお前だな。次は八百屋に行くぞ、飯を買う」


 ラヴは気が付いていないが、シルエットはラヴの高額な小遣いを良いことにそこから今日の飯や、割れた食器の代わりを買わせているのだった。

読んでいただきありがとうございます(o^^o)

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