我らの在りし日を
※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。
※誤字脱字があれば申し訳ないです。
『銀色に光る蜘蛛の糸が張り巡らされているクリノリンをスカートの上に履くという不可思議な身を包んだ「月」
幻の宝石「リオスフィオリア」を胸に付けガラスの花を煌びやかに光らせていた「太陽」
彼らの正体を知るものはいずれも居ず。
「月」の方は現在、話題沸騰中の「ラヴベリー・ゲルド・フォン・アンジェ」と言われているが定かではなく、また「太陽」の方はまるで誰も知らない。
何にせよ、今回のパーティーの花形はこの二人に決定されたのも当然……
「月と太陽」と言えば天文学において王者であり……』
学内新聞には二人の踊る写真が大きく載っており、生徒達はその華やかさに目が釘付けになった。
そして図書館に置いてある天文学の本は次々に貸し出し状態になり、更に学園外の貴族たちもどこからともなく二人のことを聞いたのか天文学の店に次々と貴族たちが押し寄せた。
もちろんシュベールもそのことを予測して既に開店済みで、ラヴとともに作り上げた魔道具や天文学に関する最新の図鑑を売っていた。
そして、ある一組の貴族がシュベールの店に天文学を買いに来ると図鑑を買おうか迷った。
だが、あの坂を登るのに分厚い図鑑を持つのはと迷っている所にすかさず、シュベールが緊張を飲み込みながら星が自宅へ配達に行くと教える。
それを聞いた貴族たちは喜んで買い翌日星が綺麗に包装された図鑑をその家に配達した。
さらにそれを聞いた貴族たちが、そのお手軽な価格と観光ついでに行けることから、シュベールの店に貴族たちが次々に押し寄せた。
何もかもが順風満帆に進んでくれる日かなと思っていた。
今思えばそれは嵐の前の静けさだった。
天文学も流行り星たちはみるみる元気になっていたし学園でも過ごしやすい日が続いていた。
なのに、なのに。どうしてこうなっているのだろう。
どうして、私『ラヴベリー・ゲルド・フォン・アンジェ』は「死刑」か「国外追放」まで追い詰められ、やっと出来た友達の死を告げられ、その上に殺した犯人に仕立てられているのだろう。
事件はパーティーから数日後。
ラヴとシュシュは学園の中庭の隅にあるベンチに坐り、静かにお喋りをしていた。
「あのドレスはどこで作ってもらったんですか?」
シュシュが明るくラヴに訊ねた。
「星に手伝ってもらったんです」
「へえー星ってとっても多能なんですね」
その褒め言葉にラヴは少し誇らしくなった。
「シュシュのドレスも素敵でしたね、特にパートナーさんとシュシュのドレスがとても合ってました」
ヘヘっ、とシュシュは破顔一笑しながら言った。
「ありがとうございます。彼とたくさんサンプルを話し合ったので変ではないとは思っていたのですが、ラヴ様にそう言われると更に自信がつきました」
「仲が良いんですね」微笑みながらラヴは言った。
「ええまあ。私が神殿に入った時からの付き合いなのでお互い助け合ってます。ラヴ様もパートナーと仲睦まじそうでしたね」
「まあ、そうですね。でも彼とは親友なだけですから。少し前彼が困っていたところを手助けしたためそれのお礼でパートナーになってもらったんです」
「てことは、好いてはないと恋愛的に?」
「もちろんです。断じてないですわ」
そうだったんですかとシュシュはどことなく落ち込んだようだった。
「どうしたんですか?」
「ただ。ラヴ様の恋話を聞けると思っていたものですから」
それに、ラヴは声を潜めて笑った。
「私の恋話なんて面白くないですよ」
「いえ、そんなことはないです。だって高嶺の花であるラヴ様の恋話ほどこの学園内で気になるものはありませんよ!初恋などはないのですか?」
初恋か……とラヴは思い出すが、残念ながらラヴの初恋はまだなため彼女は首を横に振り続けて言った。
「ですが……理想の男性ならいますわよ」
「えっ!どんな方ですの?」
シュシュはそうラヴに詰め寄った。
そんな会話を昼休みが終わるまでして授業を受け、いつも通り寮に戻る道中。
茶髪黒目の顔にそばかすがある見知らぬ人に、結構な勢いで肩をぶつけられた。
(瞬間、その人を追い詰めていたらと思う。後の祭りだとは分かっているけれど。)
その際、私の長い髪の毛は幾つか肩にぶつけられた痛みと同時に引き抜かれていた。
予備ボタンを取るのは簡単だ。
何せその人はその後大げさに転んだのだ。
私は反射的にその人に歩み寄り、やめておけば良いのに大丈夫ですか、と手を差し伸べたのだ。
その人は私の手を掴もうとしたがよろけた振りをして私の左手首を掴んだ。
その人は謝ったが私は笑顔で大丈夫ですよと言った。
その時だった。
背後でも一人の女の子が転んで、私はそちらに視線を向けた。
恐らくその隙にボタンを取られたのだろう。
寮の部屋に戻った時にはなかったのだから。
それに寮に帰る道中には絶対あったのだから間違いない。
今ではどちらでも構わないが。
どうしてこんなことを一々説明しているのかと言うと。
友人を殺した犯人としての証拠に、そのボタンと私の鮮明な金髪を提出されたからだ。
いや、一から整理したほうが良いわね。
先程言った通り私は寮に帰った。
事件が起きたのはその晩、私の友、『プティシュシュ・ネルア・ベルダン聖女候補生』の部屋に、寝ている筈の私が訪れシュシュを殺害したとのことだ。
部屋には争ったのかそこら中に血や物が散乱していたらしい。
残念なことにその血に犯人の血液はなかったとのことだった。
そして、その散乱している物の中から私の予備ボタンと髪の毛を見つけたらしい。
事件が発覚したのはシュシュが朝食に起きてこないことを不思議に思った寮長が、なぜか開いているシュシュの扉に入った。
そして余りにも酷い現場に叫び声を上げ、寮長の声に気づいた警備員がシュシュの部屋に行くと、その有り様を見て事件現場を警察に知らせたとのことだった。
そして、その金髪があったため容疑者が私だと間もなくして分かったらしく。
私が、優雅に朝食を食べ終え一度部屋に戻りカバンなどを取りに戻った時には部屋の前に警察がわんさか居て私を牢獄へ連れて行った。
事情聴取にも私は知らないの一点張りだった。
当たり前だが。
ボタンなどを見せられても「知らない、私のじゃないわ」と抗議した。
だが、その鮮明な金色の髪の毛を見せられた時には私は心の何処かで抗議するのを諦めた。
この学園にも金髪はいるが『アンジェ家』特有の金色はこの学園にはいないからだ。
これは自慢ではなく単なる事実だ。
代々、『アンジェ家』にはどうしてか特有の輝きを持つ金髪碧眼の男女が生まれる。
さらに、DNA検査もされたようだ。完全一致らしい。
今はこうやって冷静に淡々と話しているが、当時の私はお見せできないほどぐちゃぐちゃに泣いてやってないと叫んでいた。
何より、シュシュが死んだということが当時の私は実感が湧かなかったのだから。
正直今でも湧かない。
それから一日経った頃には涙は枯れ警備員に連れられ、王宮の近くにある裁判をする『審議の間』に連れられた。
公爵令嬢が親しかった聖女候補生を殺害したということで間の外にはマスコミがたくさんいて、眩しいほどのシャッターの光があり、取材もされたが全て無視をした。
『審議の間』の中には、公爵である我が父と双子の兄のナタが上から傍聴していた。
この一大事には王も出席し、その立ち位置は最終的な判決を出す裁判長だった。
裁判の内容はうろ覚えで、ひたすらやったかやってないかを問われ私はやってないの一点張りで反論など出来なかった事くらいしか覚えてない。
たまに、痺れを切らした警備員に打たれたが傷がつかなかった。
それに、傍聴していた者たちから気味悪がられ魔女だと言われた。
次第に私の別名は『公爵家の奇跡』から『天使』から『美の魔女』と変化しそう言われるようになったらしい。
(牢獄の見張りから聞いた)
『美の魔女』とはその美を保つため友までも殺したたいうことも含まれているらしいが、名付けた奴はきっと馬鹿なのだろうと嘲笑っている。
そういや一度ナタが面会に来た。
私は薄汚れた服にボサボサの髪だったが、ナタは艶々の髪の毛を掻き上げ、ぴっしりと制服を着ていて本当に双子か疑った。
ナタは私を牢獄から出してあげる代わりに、それから一生自分以外誰とも喋るな口を利くなと言ってきた。
なに言ってるのよ?と思わず私が眉をひそめて言うと彼はそれ以上は言わず、また明日来ると踵を返した。
本当に翌日来て、どうするかと訊かれたがどうするもなにも、意味不明な要求を引き受けるほどの気力も残っていなかったので私は「やめておく」と言った。
だが、ナタは引き下がらなかった。
「このままじゃお前は死ぬんだぞ?死刑だ。聖女候補生を殺したんだから」
「どうかしら、国外追放ぐらいで落ち着くんじゃないの?だって私、こんな成りでも公爵令嬢だったんだしね」
「そんなの死刑と変わらないじゃないか」
「そうね。じゃあ、貴方が私の無罪を主張してくれたら良いじゃないの?ならまだマシでしょうね、一人も私の無罪を主張してくれないよりは」
ナタは黙った。
私の裁判で彼が私の無罪を主張したことは一度もなかった。
言ったら己の立場が危うくなるからだろう。
あれほど確定的な証拠だ。無罪だと言う私のほうが気が狂っているのだろう。
もしかしたら私は二重人格なのだろうか……もう一つの人格がシュシュを殺したのだろうか。
だったら自殺してやろう。とっておき苦しい方法で自殺してやろう。
ナタは黙って帰って行った。
父上がどう思っているかは知らない。きっと失望しただろう。だから会いに来てくれないのだろう。
時々マスコミがやって来て今の気持ちは?なんてアホなことを訊かれるのだがその度に私は……
「本が読みたいです」
と言う。
有罪判決がほぼ確定らしいがと訊かれたら。
「だったらどうなるんでしょうね」
と本当に気が狂った振りをする。
夜は寒かった。牢獄の中はほぼ外のようなものだったのでとにかく夜が寒かった。
時折、心配したシュベールが星を使わせて温かい食べ物を届けてくれるのは涙が出るほどありがたかった。
その時手紙がついていて大体。
『何もできなくてごめんね。何時でも星空に来てよ待ってるから。本当に何もできなくてごめんね。僕は君が無実だってこと、ずっと信じてるから』
と力になれないことを申し訳なく思っているようだ。
けれど、私の方が申し訳なかった。
二人であれだけ頑張って開店の準備をして、魔道具を開発して、やっと軌道に乗れたのに……私のせいで全部ぶち壊しになったから。
だから、星空へは行けなかった。
紙やペンなどがないので『私は大丈夫』と書く代わりに牢獄の柵の近くに咲いている『ヒメユリソウ』という白く小さな花を添えて、星をシュベールの元に返した。
私は毎日祈った。
もし、本当に私に天使の血が流れているのなら神は聞き入れてくれるはずだと……そう思っているからだ。
だが、祈りは届かなかった。
シュシュの死が確実になった。仮死状態ではなかったのだ。そして、葬式が執り行われるらしい、私はどうしても行きたかった。
だが、きっと叶わないのだろう。
その訃報を聞いた晩は、牢獄中に響き渡る声で私は泣いた。
一週間も死刑というものを覚悟していると段々死刑が以前よりも怖くなくなった。
だが唯一まだ怖いのが、このまま私が死ねば天国でシュシュと会うのが何より、本当に何より怖い。
もし、会ったらシュシュは許してくれるだろうか。
私はしてないと言ったらそうだよねと抱きしめてくれるだろうか……怖い、怖い。
私はシュシュを殺害しようとはしてない……
これは神も聖母も周知の事実として見ているだろうからきっと私は天国に行ける……
大丈夫。死刑になっても大丈夫……
あの世で母上と暮らせる。そう思えば更に気が楽。
新月の日、私はずっと布団の中で過ごしていた。
警備員にどうしたのかと聞かれると、少し狡いが自分の顔を利用して、一人になりたいと告げて追い払い、ひたすら黙々と布団にくるまった。
そして、更に己のことが嫌いになった日でもあった。
何と、一ヶ月で判決が決まった。
判決は
「死刑」
だった。
どうしてなんだろうか、私はシュシュを殺してないのに……と思った時王は言った。
「本来なら死刑だ。だが、貴様はその成りでも一応公爵令嬢だ。最終判決は国外追放。隣国ルメブレット聖王国に流刑とする」
誰も歓喜の声を上げなかった。
ただ、重苦しい空気だけが漂う。
ルメブレットは吸血鬼が七割住んでいることで有名の吸血鬼の国だ。
別に彼らは人の血を吸わないが。何より恐ろしいのはルメブレットには私の母上を殺した憎き魔物が蔓延っていることだった。
私は黙りこくりその刑を引き受けようとした――その時だった。
『我ら星人夜』
その男性の声が、どこからともなくした時私は思わず顔を上げた。
『我ら愛しき星の子を殺そうとするとは
荒んだ者よ
クロリンの子よ
聖母クロリンがその判決をしたかどうか今一度よく考えるのだな』
恐らく『審議の間』はざわめいていただろう。
私は立ち上がり、鎖をじゃらじゃらさせながら必死に太陽と月を探した。
「誰だ?!」王がそう叫んだ。
その瞬間、身体が焼き尽くされそうなほど暑い光の玉と、身体が凍てつきそうなほど寒い銀色の玉が私の頭上に光った。
『我らの名を忘れたか!
この外道めが!』
月が眩い光を照らしながらそう怒鳴った。
「月!太陽!どうして、駄目よ。出てきたら……!」
私は泣きそうな顔をして両側にいる太陽と月を見上げた。
こうは言うが心の中は嬉しくて仕方がなかった。
どことなくこんな騒ぎを起こした罪悪感があったのに。
その名を聞いた時、王は顔を青ざめさせたのを今でもしっかり覚えている。
『ほう。我らとの約束を忘れたと思っていたが。覚えているのか
クロリンは言ったな。
我ら星の子を傷つけはせんと。
代わりに、我らはこの国に豊作と天からの安泰をできる限り授けると約束した。
そのおかげでこの国は他国と比べてもずっと豊作だった』
『我ら星人夜
月の髪を梳き
太陽と戦い
二人を守る者
そして、太陽と月から守られる存在』
『星人夜はそれらを破ったことはない
我らの願いを叶えた
しかし、貴様らは破ったのだ』
眩しいほどの銀と赤の光が間を照らすと、二人は人の姿になり私の両手をそれぞれ握ってくれた。
私の手についていた鎖は砂になり飛んで行った。
『これより!
クレミアン王国への擁護及び加護をクロリンの約束を破ったとして』
二人は声をあわせて言った。
『解く!』
瞬間、窓の外はどんより灰色になったかと思うと豪雨が降った。
その異常な光景には流石の私も息を呑み、何より見物だったのが王の焦り具合だった。
王は被っていた王冠を脱ぎなにか言いかけたがそれは届かず、太陽と月は私の手を引いてどこかへ連れて行った。
その時、父上がなぜか潤んだ瞳で私を見て何かを言っていた。
そしてしっかりと目を見合わせた。
が、私は父上に対して裏切られた思いでいっぱいだったため、精一杯顔を歪めて――
「無実だったのに」
と作り笑顔で言ってやった。
性格が悪いと言われようが、私は傷ついた。
友を殺害したと濡れ衣を着せられ、面会にも来ず、裁判中は目も合わせてくれなかった。
傷ついたのは事実だから、父上にも傷ついて欲しかった。
母上に謝りたい、こんなことになってしまったのを謝りたい。
何もかも申し訳ない。
男に生まれたのに女になりたいと願ったことも。
あの日、希望の蜜を使わせてしまったことも。
こんな騒ぎを起こしてしまったことも。
全て、私の存在自体を謝りたい。
産まれてきてしまってごめんなさいと謝りたい。
死ねと言われたら。
死ぬから……
今だけはどうしても……母上がわたしに失望していないか知りたい。
本当にごめんなさい、母上
読んでいただきありがとうございます(o^^o)




