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星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第一章:星の嫁入り 芙蓉に根ざせば 件は死する

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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。

※誤字脱字があれば申し訳ないです。

「今回は誰が一番素敵かな?」


 「私は矢張り最近有名なナタール様とアカーシャ様が素敵だと推測していますけれど」

 「でもねえ」

 「やっぱり」


「ラヴベリー様が気になるわよね」


「去年は、『闇の騎士』と『光の女王』で大流行を起こしていましたが……」


「今回はパートナーが違いますからね」


「けれど、一番気になるのはパートナーがあの平民男性なのかという点ですわね」


「ああ、確かに」


「そうでしたら少し驚きを隠せないですわ」


「けれどパートナーの方ももちろん仮面をしているでしょうしあの平民なのかは確認しようがないですね」

 

 そこまで先にで来ていた令嬢たちが話していると扉が開いた。

 

 その二人はラヴとシュベールではなく、ナタールとアカーシャだった。

 

「テーマは『緑を告げる花の女王』と『青を告げる蝶の騎士』

 

名は、『花の女王』と『蝶の騎士』」

 

 と、執行委員の一人が読み上げた。

 

 若干去年のラヴとナタールのテーマに似ているなと既視感を覚えながらも、生徒達はその二人の服装と仮面に見惚れた。

 

 アカーシャのドレスは、薄い緑が基調で、ドレスの真ん中には裂け目があり、そこから足が見えないようにか、緑色の花々が満開に咲き誇りドレス全体はレースや、更に薄い緑色が覆い、肩からは白いトレーンが床まである。


 仮面の上部には王冠が乗っており、花が彫られていた。

 

 ナタールの服装は、黒い騎士服のようなものに青い鞘が腰にあり、タキシードの上には内側が真っ青なマントを羽織り、肩には幾つもの青い蝶が止まっている。マントには精巧な金色の模様が施されている。

 

 仮面の端の上部には大きな蝶が一匹止まり黒が基調だが青い蝶を描いている絵が描かれとても素敵だ。

 

 その優雅な二人と奇想天外なそのテーマに集まっていた人達は、この二人が優勝だろうと確信した。

 

 だが、その考えが覆ったのはナタール達から二組ほど経ったころだった。

 

「テーマ『太陽系の王』と『孤高の女王』――」

 

 余りの美しさに執行委員でさえ見惚れ、間を開けてから名を読み上げた。

 

「名は、『太陽』と『月』」

 

 扉の先から、赤と虹色に美しく恍惚とした光を放つシュベールが、銀のドレスに身を包み不可不思議なスカートを履いているラヴをエスコートして歩いてくる。


 更に、シャンデリアの光りがシュベールの肩についているガラスの花を反射し、シュベールの周りは赤く、また虹色に光る。


 その反射をさらにラヴのスカートが反射し、それそれは言葉には言い表せないほどの美しく神々しく輝かせた。

 

 ある場所まで二人は歩くと、テーブルに置かれている飲み物を手に取り口に含んだ。

 

「ねえ、ぼく変じゃないかな?歩き方とか大丈夫?」


 とシュベールは震える声でラヴに囁いた。

 

 ラヴはジュースを飲み込むと、二人に見惚れる参加者たちを横目に見ながらこたえた。

 

「大丈夫ですよ。このまま背筋を伸ばして優雅に飲み物を飲んでいたら誰だかはバレませんよ」

 

 するとシュベールは、えっ待ってとラヴを見た。

 

「僕なんか認知されてるの?」

 

 あっ、しまった!とラヴは心の中で思ったが、シュベールにも知る権利はあるかとため息をついてこたえた。

 

「……あの店を探している日、誰かにつけられていたんです。それで、あることないことを学園中に広められてしまって」

 

 しばらく沈黙したシュベールだが何かを察したようだった。

 

「この時代にもしょうもないことをする人達はいるんだね。そんなことをする人達も、もう少し大人になってもいいと思うけど。良くそんなことに時間を割けるよ。精神年齢が低いんだね」

 

 そのシュベールには珍しい毒舌にラヴは思わず口に手を当てて含み笑いをした。

 

 すると、間もなくして参加者が全員来たのか、執行委員の一人が司会を務め、学園長や生徒会長などが挨拶をした。

 

「あら」とラヴが独り言つとシュベールはどうしたの?と尋ねた。

 

「王太子殿下が……あれは恐らく『フェエリ公爵家』の令嬢とパートナーになっているので、矢張りかと」

 

「どういう意味?」

 

 ラヴは舞台上で長演説する学園長を見上げながらこたえた。

 

「私も彼にパートナーを申し込まれていたんですが……そういえば、三大公爵家はご存知ですか?」

 

 シュベールはラヴを見ながら首を横に振り、僕の時代はそんなの無かったと言った。

 

「ではご説明しますと。

 

 まず、私の家系である天使の血が流れる『アンジェ家』

 主に私が言うのもあれですが、美しい金髪碧眼に真っ白な肌が特徴で、常人より回復力が強く、生き物から好かれやすい性質を持っています。また俗説ですが運も強いと言われています。

 

 次に妖精の血が流れている『フェエリ家』ピンクの髪に緑の瞳と褐色肌が特徴で、妖精との会話が可能らしく、これまた俗説では妖精の森に入れることも可能だとか。

 

 最後に、海の怪物セイレーンの血が流れる『サイレン家』白銀の髪に淡い青色の瞳が特徴で世にも美しい歌声を持っています。昔は海の波を操れたんだとか。

 

 この三家ともに令嬢が存在していてその令嬢たちが王太子の婚約者候補に上がっているからだと思うんです。だから、三家の令嬢たちに申し込んだ中で承諾したのが『フェエリ家』の次女であるアデル令嬢と踊ったんだろうなと」

 

 そうなんだ、とシュベールは頷いたがすぐにあれ?でもと首を傾げた。

 

「公爵家と王家が結婚したら君たち貴族のピラミッドが崩壊しない?」

 

 すると、ラヴはその通りと首肯した。

 

「崩壊しますしもし、本当に『フェエリ家』が王家と結婚すれば残された私達、二家は地位を保つため他の国に手を出すか王太子殿下の弟君であるカルフォス殿下や、他の姫君、王子たちと結婚しなければいけなくなるかもしれません」


 ですが……とラヴは一息ついて続いて言った。


「年々王家に受け継がれている魔力などの力が私たち公爵家よりもさらに衰えてきていて、このまま他国から戦争をしかけられれば負けてしまう可能性が大きいので一刻も早く力を補充するために私達三家を使っているんだと思います」

 

「へえー、でもどうして王家特有の魔力が弱まってきているの?」

 

「これもまた推測でしかないのですが、私達三家が産まれたのは丁度シュベール様が生きていた時代でまだ百年少ししか経っていないのです。ですが、王家はそれよりもはるか昔から存在しているのが原因だと言われています」

 

「つまり、王家がめちゃくちゃ長く続いていてそのせいで血が薄くなってきているからってこと?」

「まあ、ザックリ言えばそうなりますね」

 

 本当は他にも理由らしき物はあるのだが、別にここで言うことではないだろうとラヴは思い黙っておいた。

 

 やっと学園長の話しが終わり、次は生徒会長が台本を手に話す。


 そして、間もなくして話が終わると執行委員がパーティーを開く準備を手伝ってくれた方々や金を出してくれた人達に向けて感謝を述べ――

 

「では、皆さん待ちに待ったダンスの時間です。紳士はパートナーの淑女の方をお好きな場所までエスコートしてください」

 

 それを聞いたシュベールはラヴに目配せし行く?と訊ねた。

 

 ラヴは首肯し、シュベールの手に己の白い手を置いた。


 そして、シュベールはぎこちない動きで会場の真ん中近くまで行き踊る体勢をとった。

 

「ふう、大丈夫大丈夫」とシュベールは深く深呼吸して呟いた。


 ピアノが小さく鳴ると。ヴァイオリンとチェロが一気に鳴った。太鼓も鳴りスピードが速くなるとシュベールはラヴの手を引いて踊りだした。

 

 前後にステップし円をかくように周るとラヴのドレスについている『ルーナロゼッタリ』がシャンデリアの光を反射し辺りを銀色に照らした。


 シュベールは心のなかで(123……123……)と数えながらラヴの足を間違って踏まないよう気をつける。

 

 背後にいる他のパートナーとぶつかりそうになったらラヴが機転を利かせて上手く避けたり。


 逆に、ラヴが慣れないスカートで転びそうになったときジュベールが機転を利かせたりと二人で支え合ってなんとか踊る。

 

 すると、ナタールらしき『蝶の騎士』とラヴは目があった。


 『蝶の騎士』は一直線にラヴを見つめると何故か苦い顔をして顔を背けた。

 

 その反応にラヴは(はあ?!)と心の中で激怒した。

 

――なに、あの反応!ふざけてんの⁈わたしなにもしてないんだけど!

 

 ラヴはあの反応に不思議と裏切られたと思ってしまい、ラヴも同様にナタールから顔を背けシュベールと踊った。

 

 一曲目が終わると少しの間休憩時間がありその後様々な余興がある。

 

 一方、シュベールはそんなことはお構いなしに豪快に椅子に坐りボーイ達が持ってきた飲み物を飲み干した。

 

「本当、緊張で死ぬかと思ったよ」

 

 それに、ラヴは微笑みながら隣に坐りお菓子を一口かじり言った。

 

「でも、上手かったですよ。一般貴族と言われても不思議じゃないくらい」

 

「そっそう?公爵令嬢の君にそう褒められたら不安感はなくなるね。ていうか、一般の貴族じゃない貴族っているの?」

 

「えっ?ああそれはですね……」

 

 その二人の会話を遠目に見つめて複雑な感情を抱いているナタールは、酒を手に椅子に坐り余興が始まるまで待つ。

 

 隣では、自分のドレスに満足なのかドヤ顔をしながらお菓子を食べるアカーシャがしきりに喋りかけてくる。

 

「ナタール様、このお菓子美味しいですよ。食べてみません?」

 

「いや、良い。それよりも少し黙ってくれ」

 

「相変わらず冷たいですねえ。そんなに彼女のこと引きずってるの?」

 

 すると、ナタールはアカーシャのことを渾身で睨みつけた。

 

 その目に臆することなくアカーシャは肩を上下させてお菓子を食べた。

 

「でも、あれは彼氏ではないっぽいですよ」

 

「そんなこと分かってる」

 

「分かってるのに嫌なんですか」

 

「じゃあ、お前は俺が他の仲が良くも悪くもない令嬢とこうやって喋ってて良い気分するのか?」

 

「しないですね」と間髪入れずにアカーシャはこたえた。

 

「だろ?それと同じだよ」

 

 ふーんと、アカーシャはもう一つお菓子を取り口に入れた。

 

「にしても、あのスカート。どうなっているんでしょうか」

 

 酒を一口含みナタールは言った。

 

「ラヴのか?」

 

「他に誰が」

 

「まあな。見る限り蜘蛛の糸のようだが。スカートの上にあるのはえーと……あれだろ?」

 

「クリノリンですよ。通常スカートの下に履くもので、戦時中を中心に大流行した物です」

 

 ああそれだそれだ、とナタールはさらに酒を飲み言う。

 

「スカートの下に履くものを上に履き更にそこに蜘蛛の糸のようなものを張り巡らせ宝石のような物までぶら下げ、豪華絢爛だな」

 

「全く、あれじゃあ私達は勝てないですよ。せっかくこのドレスを手に入れたのに」

 

 そう、アカーシャは爪をかみ悔しそうに言った。

 

 爪を噛むのはアカーシャが何やら不機嫌なときの癖だ。


 しかし、何時もは人が余りいない時に限ってしていたのに今ではそんなことはお構い無しにやっているのだからきっと、計り知れないほど悔しかったのだろう。

 

 だが、そんな様子は知らずにナタールは能天気なことを言う。

 

「でもまだ分からないじゃないか、投票はまだだし。何より、俺とお前だろ?いけるんじゃないのか?ラヴのパートナーは無名だし」

 

 アカーシャは鼻を鳴らして言う。

 

「ふん、きっと今に分かりますよ。私達は負け噂にもならない。こんなことなら、もっと調査させておくべきだったわ」

 

「お前にしては諦めが早いな」ナタールは嘲てそう言った。

 

「手は尽くしますよ」

「ラヴには手を出すなよ」

 

 その声はとても冷たく冷酷で冗談など微塵もなかった。

 

「あの新聞のことを俺が誰の仕業か知らないわけないだろ。次、あんなクソな真似したら殺すからな。アカーシャ」


 アカーシャは苦々しい顔をしながら蝶の仮面を被る騎士の横顔を見つめた。


「忘れるなよ、俺たちはビジネスパートナーだ。俺はお前に恋心のこ(﹅)も抱いていない」

 

 チッと小さく舌打ちするとアカーシャは言った。

 

「はいはい、分かってまーすよ。貴方は誰にも秘密がバレなければそれで良い。私は貴方と貴方の彼女という地位が欲しい。綺麗なビジネスパートナーですね~」

 

「なわけあるか。どう考えても俺のほうがデメリット多いだろうが」

 

「なら、別れたら?」

 

 しばらく沈黙したあと、ナタールは大きく舌打ちしアカーシャを睨むと小声で言った。

 

「この、ビッチが」

 

 それに怯むことなくアカーシャはハハハと乾いた笑みを浮かべ

 

「貴方が紳士だと言われる理由が全く分かりませんね」

 

 と皮肉った。

 

「それはこっちの台詞だ。何が聖女候補だよ。悪女候補のまちがっ――!」

 

 その瞬間アカーシャはヒールでナタールの足指を踏んづけ黙らせた。


 ナタールは足を抱えて悶絶する。

 

 すると、ラッパが鳴り余興が始まるのを知らせた。

 

 ラヴはシュベールの手を引いてもう少し前に行こうと席を移動させた。

 

「私達も移動します?」

 

 先程のことでナタールがとても苛立っているのを知っていながらアカーシャがそう聞くと、ナタールは黙って立ち上がり前へと席を移動した。

 


「最初は何をやるのかな?」

 

 その質問にラヴはえーと、と舞台の横に貼り付けられているプログラムを見てこたえた。

 

「どうやら詩人が来て詩やおとぎ話を聞かせてくれるみたいですね」


 瞬間、心地よいリュートの音がポロロンと聞こえてきた。

 

「今宵、語るは遥か昔のおとぎ話。それは、真実のようで嘘のよう。

 

 今宵、語るは、天使と悪魔の冒険話。

 

 純粋無垢な天使と狡猾な悪魔が不可不思議な冒険に出る話。

 

 紳士淑女の皆様、特とお聞きに入れてくださいまし……」

 

 リュートを巧みに操りながら詩人は優雅に語りだす。

 

「ある王国に病弱な王子様が居りました。


 王子様は齢十二でありながら、それそれは老人のように老け込んだ顔をしており国民から忌み嫌われていました。

 

 次期国王がこのままではいけない、と危惧した王は悪魔と天使を呼びこう仰りました」


 ポロロロンと優しい音色でリュートが鳴る。

 

「さあ、お行き。我ら可愛い王子のために。

 

 さあ、お行き。我ら可愛い王子の健康のために。

 

 さあ。その美しい足で王子様を元に戻す方法を探しに行っておくれ」

 

「ですが、悪魔は天使と一緒に病を治す方法を探すのを拒み言いました」

 

 今度は低く重い音色が鳴った。

 

「我ら崇高なる王よ。

 

 どうか、お許しください。私は天使とともに旅するなど、到底出来ません。

 

 理由など、単純明解ではありませんか。


 私は彼の者の真っ青な目が嫌いなのです。

 

 純粋無垢なその目が、私の名を呼び、その目が私を見つめ、その目が何かを見るだけで私は彼の者を殺したくなる衝動に駆られるのです。

 

 なので、どうかどうか。私を彼の者と同行させるのだけは」

 

「その必死な悪魔の懇願に聞いてやるべきかと悩む王でしたが、その話を黙って傍らで聞いていた天使が依然として優美な声で言いました」

 

 今度は高く艶美な音色が鳴り響く。

 

「我ら崇高なる王よ。

 

 哀れな悪魔の言葉を受け入れないでください。

 

 きっと、この哀れな悪魔は旅になぞ出たくないだけなのです。

 

 我ら崇高なる王よ。

 

 私が一人でこの広大な世界を旅しようものならきっと、直ぐに狡猾な奴らに騙されて殺されてしまいます。

 

 どうしても悪魔がこの目を嫌うなら、私は目に布を当てましょう」

 

「それなら前が見えないではないか。と王は言いました」

 

「ですが、私にはまだこの足、この手、この鼻、この耳、この翼、この魔力があります。

 

 たった一つを失うだけです。痛くも痒くもないです。我ら愛しき王子を救う方法を探しに行くのですから」

 

「王はその謙虚な心に胸を打たれ悪魔に命令しました」

 

「悪魔よ、これで良かろう。

 

 貴様も天使とともに旅に出るのだ。

 

 さあ、言い訳など聞きたくないわ。

 その、漆黒の翼を羽ばたかせ王子を救う方法を探しにお行き」

 

「まだ何か言いたげだった悪魔でしたが、口を閉ざし」

 

「王の意のままに」

 

「と天使とともに王子を救う旅に出ました……」

 

 ラヴとシュベールは椅子に座りながらその話しに熱心に耳を傾けた。


 ラヴは不意に辺りを見渡した。


 すると誰かがラヴに向かって小さく手を振っているのが見えた。

 

 一瞬、誰だか分からなかったがあれだけ友好的に手を振る人物といえば……とラヴは思いついた。

 

 その相手は、落ち着いたオレンジ色に、背中に大きなリボンが付いているドレスを着ていて、オレンジ色の犬の仮面を被る茶髪の少女だった。


 それは恐らくシュシュだろう。


 ラヴはその少女に優しく手を振り返した。

 

 また、灰色の長い髪の毛を一束にして、白いタキシードに縁が金色の白いうさぎの仮面を着けているシュシュのパートナーらしき人物がラヴにペコリと頭を下げた。

 

 ラヴも同様に頭を下げた。

 

「どうしたの?」とシュベールがその様子に気付き訊ねた。

 

「友達が居たので手を振っていたんです」

 

 とラヴがこたえると、シュベールはシュシュ達の方を向きその二人に気づくとシュベールも二人に向かって頭を下げた。

 

 ラヴは背もたれに身を任せ巧みに話す詩人の話しに耳を傾ける。


 それから、数十分後。

 

 最後、王子は悪魔と天使の苦労の末に完治した。

 

 その終わりに泣く者も入れば、話を真面目に考察し出す人までいる。

 

 そして、ラヴの真隣では号泣している『太陽』が居る。

 

「僕、まさか。天使がああなるとは……うぅ。悪魔も良いやつだったよ」

 

 少しその号泣具合に苦笑しながらラヴはそうですねと同意した。

 

 次は道化師が来るらしい。

 

 シュベールはやっと涙が収まったのかふうと息を整えながら飲み物を飲んだ。

 

「道化師か。僕の時代からいたのに、まだこの職業残っていたんだ」

 

「年々減少傾向にはありますがね」


 言うとラヴはレーズンのクッキーを食べた。

 

「開始まで少々時間がかかります」

 

 とだけアナウンスが会場に流れた。


 ラヴはおもむろに立ち上がる。

 

「どうしたの?」

「おや?シュベール様今回の目的をお忘れではないですよね」

 

 目的?としばらく沈黙したシュベールだが今回この豪華な服を着ている本来の目的を思い出し、彼も立ち上がった。

 

 そして、ラヴはシュベールの腕に己の腕を回すと、クリノリンを派手に揺らす。


 シュベールは事前にラヴから受けたアドバイスで、ラヴと仲良さそうに喋りかけ、胸元まで垂れているラヴの金髪手に取ってみたり、近付いたりと、周りを煽った。


 豪華な食事を置いている場所まで行くと二人は仲良く食事を皿に取った。


 見るまでもなく、周りの人達は二人に注目している。

 

 すると、二人の隣に一組の男女も食事を取りに来た。


 それは、例の『蝶の騎士』と『花の女王』だった。

 

 その、あからさまな妨害にラヴは二人に嫌悪を抱き無視をしてシュベールとともに席に戻ろうとしたが、それを『花の女王』が許さなかった。

 

「こんばんわ。『銀の女王』である『月』

 今夜は月が欠けていて残念ですわね」

 

 呆れた感情を押し込んでラヴはこたえた。

 

「ええ、こんばんわ。『緑を告げる、花の女王』

 

 ですが、三日月もまた幻想的で素敵ですわよ。何分、今の季節は枯れ葉が多く緑が少ないですがね」


 ラヴが言いたいのは、今の季節に『緑』というテーマは合ってないという事だ。

 

 その言葉に、アカーシャは目つきを鋭くさせながらも笑みを保ち、隣で二人のやりとりを静かに見守っていたナタールの腕に己の腕を絡ませ言った。

 

「つ、月は知らないかもですが。この季節に未だに根強く生命力を持ち青々としている物もいるのですよ」

 

 その動作を黙って目で追うとラヴは何がどうしたと困惑しているシュベールを横目に見た。


 早めに退かないとシュベールが貴族のマナーを全く知らない平民だとバレてしまうと危惧し、表面上は冷静に言った。

 

「そうでしょうね。緑は何時もどんな時にでも存在していますから。では、私たちはこれで。お料理が冷めてしまうので」

 

 行きましょう、とシュベールと手を絡めた。

 シュベールは戸惑いながらも頷き後に続く。

 

 その時、ラヴの反対の手が痛いほど強く握られた。


 その犯人はナタールだった。

 

 ラヴは酷く困惑し驚きを通り越して気味悪がり「なに?何の用?離してよ」と言ってしまった。

 

 しばらく、ナタールはラヴの瞳をじっと見つめたあと、苦々しい顔をしながらその手を離した。

 

 瞬間、ラヴは状況を良く飲み込めていないシュベールの手を急いで引いてその場を後にした。

 

 ナタールはその背中を黙って見つめ、仮面の外からでも分かるほど今にも泣きそうだった。

 

 その様子を心配したアカーシャはナタールの肩に手を置こうとしたが、それをする前にナタールは振り返り己たちの席に黙々と歩いて行った。

 

 その背中はまるで何かを決心したかのように逞しくも、何かを失ってしまったかのように深く傷を負っていた。


 そして、虎視眈々と真っ黒な悪意と呪いがその心を蝕んでいくのだった。

 


「大丈夫かい?あれ、誰なんだろう」

 

 ラヴの背中を擦り、水を渡すとラヴはその水を一口飲み自分の双子の兄だと告げるかどうか迷った。

 

 迷った末。

 

「知らないです。知りたくもありません」

 

 どうして、ナタールがラヴの手を強く握ったかは知らない。


 けれどラヴはあの態度に凄く憤怒した。

 

 何故かはラヴ自身良く分からない。だが、良く考えてこれ以上ナタールのことを嫌いになるのがいやだった。

 

「そっか」

 

 シュベールは誰か知っているんだろうな、と察しながらも無理に聞き出そうとせずただ頷いた。

 

 するとなんの前触れもなく愉快な太鼓の音がすると舞台上に煙と共に何かが爆発したかと思えばラッパを慣らしながら愉快なピエロが出てきた。

 

 ラヴは全く今は道化を見る気分じゃなかいが我慢してピエロを見た。

 

 お手玉をし態と間違えたりナイフを投げそれをギリギリで避けたり、何かをする度に笑いが起こる。

 

 シュベールも愉快そうに笑いその道化を見る。ラヴはその道化を笑いもせず黙って見つめ、しきりに出そうになるため息を堪える。

 

――どうして、ナタールは手を掴んだんだろう。どうして、アカーシャとなんかと付き合っているのだろう。どうして、いじめられているのに無視するの?前は助けてくれたのに……私がなにしたって言うのよ。唐突に無視してきて、なんでよ。なんで……

 

 分からない。分からないことが多すぎる。母上の死も。その詳細を隠す理由も。毎晩悪夢に襲われる理由も。みんなが寄って集って私をいじめる理由も。ナタールが急に冷たくなった理由も。月と太陽が私のために占ってくれたあの結果も。

 

 なにも、なんにも分からない。分からないのに、こんなにも苦しい。


 胸が痛い。どうして、私が女じゃなくて男に産まれたのかも分からない。そのせいで、新月の日男に戻る魔法を掛けなくてはいけないのかも分からない。

 

 ほんとうに分からないことが余りにも多すぎる。


 すると、大歓声が会場中に湧いた。


 理由は、道化師が大きな玉の上に乗りその上でナイフでジャグリングしていたからだ。

 

 その大きな大歓声にラヴはハッとして、シュベールのともに拍手をした。

 

 しばらくすると、道化師も全ての技を見せ終わり拍手と煙と共に姿を消した。

 

 シュベールは大分興奮していたらしく水を飲むと言った。


「ちょっと席はずよ。直ぐ戻って来る」

 

 道が分からなければボーイ等に訊けば良いだろうし。ここで何か言うのは野暮だ。


 ラヴは心の中の疲れを押し隠し、頷いて「いってらしゃい」と言った。


 

「えーと、トイレは。あっちか……」

 

「違いますよ」

 

 その声に思わずシュベールは肩をびくりと上げ、恐る恐る振り返った。

 

 そこには花だらけのドレスに青緑色の髪を下ろしている、先程ラヴにちょっかいをかけた『蝶の騎士』のパートナー『花の女王』ことアカーシャだった。

 

 さっきなんか居たなとシュベールは思い出しながらアカーシャと顔を合わせた。

 

「お手洗いは、そこを真っ直ぐ行って突き当りを右です」

 

「ご親切にどうも」


 とシュベールは礼を言うと踵を返して手洗いに行こうとした。

 

 すると、アカーシャはヒールを鳴らしながらシュベールに近づき猫なで声で言った。

 

「貴方は月とどういうご関係なんですか?」

 

 いきなり、何を言い出すのかと思ったシュベールは思わず振り返った。

 

「どういうとは?ただの親友ですけど」

 

 アカーシャは少し間を開けてから言った。

 

「親友?」

「はい、だから何ですか?」

 

 この人は何かがダメだ。そうシュベールの魔力の芯から叫ぶ。


 アカーシャはジュベールに手を伸ばし、妖艶な微笑みを浮かべて言う。

 

「いいえ。ただ――」

 

 その瞬間シュベールの胸元に光る『リオスフィオリア』がピカッと光った。

 

 さらに、アカーシャは何かに襲われたかのように膝から崩れ落ち顔を覆って何かの呪文を叫んだ。

 

 わけもわからずシュベールはアカーシャに手を差し伸べようとしたが、それを妨害しようとするかのように『リオスフィオリア』か目が開けられないほど眩しく光って、どこからともなく太陽の声がした。

 

『逃げなさい!そいつに近づくな!』

 

 声だけでも分かるその剣幕にシュベールは踵を返して走り去ってしまった。

 

 その時、シュベールの心の中では助けを差し伸べなくて良かったのか迷っていた。

 

「本当にあれで良かったのか?もし、僕だったら嫌だよ。なんで『リオスフィオリア』があれほど強く光ったのかは分からないけど……だめだ戻ろう」

 

 そうシュベールは呟くとアカーシャがいた場所に戻ろうとした。


 だが、アカーシャがいた場所にはもう彼女は居なかった。

 

 余りにも不気味でシュベールは肌を粟立たせた。

 

 しばらく呆然と突っ立ったが、どうしようもないことを悟り仕方なくラヴのもとに帰った。

 

「おかえりなさい」

 

 ラヴはジュースを手に舞台で有名オーケストラが弾いている優雅な音に耳を傾けていた。

 

「ただいま」

 

 言いながらラヴの隣に腰を下ろすと、長椅子の近くに置いてあるサイドテーブルからお菓子を一つ取って食べた。


 どことなく暗い雰囲気のシュベールを横目に見ると、ラヴは一つ提案する。

 

「ガーデンを散歩しますか?」


 ラヴの横顔を見てシュベールは言った。

 

「ガーデン?」

 

「はい、この会場にはそれなりに大きいガーデンがあり。さらにそこは『演芸会』が監修しているのでとても素敵ですよ?」


 しばらく何かを考えた末シュベールは頷いた。

 

「せっかくだし見に行こうか」

 

 二人は椅子から立ち上がりガーデンに出た。

 

 清々しい秋の匂いがする。


 風に揺られカサカサの音を鳴らしながら枝同士が美しい赤や黄色などに咲く花々を見てシュベールは癒された。


 虫の声が忙しなく、けれど控えめに鳴って沈黙を埋めた。

 

 ちらほら声はするが、それは大体お互いの時間に浸っているカップル同士の笑い声なのでシュベールとラヴは視線を気にせず二人でガーデンを見る。

 

 だが、その間二人は特に何かを話すということもなく。黙って枯れた葉や光る星などを見上げたりとした。

 

「もうすぐ獅子座の流星群だね」

 

 夜空を見上げて、ポツリとシュベールは呟いた。

 

「そうですね」

 

 ラヴも同様に夜空を見上げこたえた。

 

「綺麗だろうね」

 

「そうでしょうね」

 

「君は何座?」

 

「私はうお座です。シュベール様は?」

 

「僕は双子座。なんとなく君も双子座だと思ってたけど」

 

「双子だからですか?」

 

「かな、ちょっと決めつけてたね」

 

「私はシュベール様はどことなく獅子座かなと思っていたんですけど」

 

「僕が獅子座?イメージ沸かないなあ」

 

 笑みを浮かべてシュベールはそう言った。

 

 ラヴがガーデンにあるベンチに坐ると、シュベールもその横に座った。

 

 そして、二人は星空を見上げ静かに話をした。

 

「不思議なことが多いねこの時代」

 

「分からないこどのほうが多いですよ」

 

「それはあるね」

 

「ルールも多いし」

 

「害獣は駆除出来ないもんね、保護なんとかっていう法律のせいで」

 

「そうですね」

 

「ゴミは直ぐ溜まるし」

 

「人の視線を常に気にしないといけないし」

 

「トイレに行くまでの道のりもぐねぐねだし」

 

「兄妹とはすれ違うし」

 

「人が多いし」

 

「本当に謎が多すぎる」

 

「けどね」

「ですね」


 二人はお互い顔を見合わせ微笑みあった。


 そして仮面の間から見えるブルーとキャラメル色の目は、星空を眺めた。

 

「綺麗な星空を見られるし」

 

「太陽と月と知り合いだし」

 

「美味しいお菓子を食べられたし」

 

「親友も出来たし」

 

 ラヴはシュベールの肩に頭を乗せた。


 シュベールはその頭にさらに自分の頭を重ねて置いた。

 

「また僕は長く生きられてるし」

 

「言うほど悪くないですよねー」

 

「だねー」

 

「生きてるからまだマシですね」

 

「そうだね」

 

 その瞬間星空に流れ星が一つ流れた。

 

 それを見逃さず見つけた二人は声に出して

 

「天文学が流行りますように」

「天文学が皆に知って貰えますように」

 

 とほぼ同じ願いを言った。

 

 それに、二人は顔を見合わせ破顔一笑した。

 

読んでいただきありがとうございます(o^^o)

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