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星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第一章:星の嫁入り 芙蓉に根ざせば 件は死する

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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。

※誤字脱字があれば申し訳ないです。

 仮面舞踏会当日。

 

 開始時刻は夕方からなので、その時までに準備をしなくてはいけない。

 

 パートナーが外部にいる者は申請をすれば外出を許可されれば会いに行ける。

 

 ということでラヴは昼食を食べて、いい頃合いになると、早速申請して、現在シュベールが開店準備をしているあの建物に荷物を持って行った。

 

 久しぶりの虹色の街だが、相変わらず坂は色とりどりの花弁のベールで包まれ、色彩豊かな家々からは鼻歌や音楽などが聞こえてくる。


 坂の向こうには鏡のような大きい湖が広がり、その周りを森林が囲っている。

 

 こんな街に住めたら素敵だろうな、と少しシュベールを羨ましく思いながらラヴは坂を降り、例の建物に向かおうと湖に沿って歩いた。


 すると、森林の中から唐突に立派な牡鹿が飛び出してきた。

 

「うわ!」

 

 キャラメル色の毛並みに赤みがかっている大きな角、ラヴを警戒しているのか真っ白な尻尾を上げ、女の人の叫び声のような声を上げた。

 

 逃げなきゃ、とラヴは思うが恐怖で足が竦み動けないため、荷物を下に置いて敵意はないことを伝えるくらいしかできない。

 

「本当に、通りかかっただけなの。何にもしないから。餌は持ってないのごめんなさい。お願い通らせて友達に会いに来ただけなの」

 

 その瞬間「バン!」と銃の発砲音が聞こえたかと思うと鹿は声を上げて森林に引き返した。

 

 ラヴは胸をなでおろし銃声の主を見た。


 なんとそこにはショットガン片手に満面の笑みで手を振っているシュベールが居た。

 

 ラヴは瞠目し下に置いた荷物を持ち直すと、シュベールに駆け寄って尋ねた。

 

「シュベール様?!さっきの貴方が撃ったんですか?」

 

 シュベールは得意気に胸を張ると、まあねと言った。

 

「でもこれ空砲だから実弾は入ってないんだ。空に向かって撃ったしね。ショットガン自体は街に居るおじいさんが猛獣対策にってくれた」

 

 その使い慣れている感からして恐らく銃を使うのは初めてじゃないのだろう。

 

「なっなるほど。動物が良く出るみたいですしね」

 

 森林を見つめてそうラヴは言うとシュベールはラヴが持っていた荷物の一つを持った。

 

「重っ。これ何が入ってるの?」

 

「そっちは化粧品ですね」

 

「化粧品だけでこれだけ重いの?嘘だあ」

 

 二人は建物に向かって歩き出した。

 

「私が服もアクセサリーも選べば軽いかもしれませんが、今回は服もアクセサリーも全て太陽と月が決めたので服装似合うメイクが分からないんです」

 

「えっでも仮面するんでしょ」

 

 それにラヴは、分かってませんねと得意げに言った。

 

「もし、何かの拍子に仮面が外れたら?もし、月と太陽が作った仮面から目が見えたら?その時目になんの色取りもなければ減点ですよ。まあ、色々言い訳を並べましたけど一番の理由は――」

 

「理由は?」

 

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、踵を返しシュベールを指差して言った。

 

「シュベール様をめかしこむためです!」

 

 それだけ言うとラヴはまた踵を返し、スカートを上げ淑女らしかぬ速さで建物まで走った。

 

 それは、シュベールだから見せられるラヴの本音で、女にも男にも完璧になれないラヴのやりたいことの一つだった。

 

 そのラヴだとは思えない大胆な行為にも驚いたが何より、め(﹅)か(﹅)し(﹅)こ(﹅)む(﹅)という言葉に仰天したシュベールはラヴの後を追って走った。

 

「ちょっ!僕をめかしこむ⁈まさか僕にメイクする気⁈」

 

 その仰天具合が面白可笑しくラヴは笑いながら言った。

 

「男がメイクしたら駄目だなんて法律はありませんよ!それどころかさらに格好良くなって良いではないですか!」

 

 二階まで急いで駆け上がるとラヴは息を切らし柵にもたれ掛かった。

 

 その後をラヴよりも先に体力を切らしたのか、手すりを持って階段を上がりながらシュベールが追いつき、同じように柵に凭れ掛かると言った。

 

「全く、急に、走らないでよ。あと、なんだっけ、僕にメイクする?馬鹿なことはやめなよ。僕なんかを、メイクするだけ時間の無駄だよ」

 

 そう言い終わるとシュベールは扉を押し開け建物に入った。

 

 その後に続いて行きラヴは首を横に振る。

 

「そんな訳ありません。だって私の勘が言っているんですもの」

 

「なんて?」

 

「貴方はとびきりイケメンだってね!」

 

 そのあまりにも自信たっぷり具合にシュベールは呆気にとらわれた。

 

「えっ、僕がイケメン?やめてよ。期待されるほどの顔じゃないよ、本当に」

 

 ラヴは本当かな?と、シュベールに近付き顔をマジマジと見ようとする。


 それを恥ずかしく思ったのか、なんなのか、シュベールは顔を手で覆いしっしっと手でラヴを遠ざけた。

 

「うわ!」

 

 唐突にそんな叫び声が部屋の奥から聞こえてきた。


 二人はその声がした方を見た。

 

 するとそこには太陽が月に押しつぶされていた。

 

「ちょっと!早くどけなさいよ!」

 

 何か太陽と月の声に何かが足りないような気がするのをラヴのシュベールは不思議に思った。どうやら声に魔力がこもっていないようだ。

 

「そんなこと言われなくとも分かっている」

 

 相変わらず見た目と反した言動をする二人に、ラヴとシュベールは顔を見合わせ微笑み合うとシュベールが言った。

 

「ちょっとだけ遅かったね。昨日は僕がラヴを迎えに行く前には居るって意気込んでたのに」

 

 とシュベールは二人をからかった。

 

 月はフンと鼻を鳴らし太陽を尻目に言った。

 

「此奴が、書いたドレスやらタキシードを書いているスケッチに対して、これでもないあれでもないとうるさかったっからな」

 

 それに太陽は月を睨み言った。

 

「じゃあ、ラヴ達の服が成功しなくてもいいと?」


 さらに月に詰め寄って太陽は畳みかける。


「天文学が流行らなくなり、可愛い可愛い私達の同類を見殺しにしろと?!」

 

「いや、別にそこまでは……」


 その勢いには流石の月も狼狽えた。

 

 まあまあ、と宥めながらラヴは尋ねた。

 

「それで?そのドレス達は?」

 

 待ってましたと言わんばかりに、その言葉を聞いた瞬間太陽は魔法で二枚の紙を取り出した。


 月は、パチン!と指を鳴らすと無数の星たちが現れ、ラヴとシュベールをそれぞれ光の渦に取り囲ませた。

 

「なっ、なに?!」と戸惑うシュベール。

 

 すると、星たちは二人の服を剥ぎ取った。

 

「ちょっ、ちょっと!急になに?!」

 

 そのラヴの問を無視して月と太陽は二手に分かれて二人をめかしこむ。

 

「そこは下半身、そこからは上半身、靴作りもお願い。この子のアクセサリーはこうね、君たちは石をとってきて。うん、一番熱々で長生きのをね」


 と太陽はシュベールを取り囲む星たちに、淡々と命令する。

 

「お前達はラヴの髪の毛をセット。お前達はアクセサリー作り。お前らは靴。お前達はドレス。お前達は石を、ああ、一番光ってうんと綺麗のを。ラヴに負けないほど美しいのを持って来い」

 

 ラヴとシュベールは、石とは何だろうと内心首を傾げた。

 

「僕の服はどんなの?」

 

 とシュベールは光の渦越しに太陽に尋ねた。

 

 太陽はニヤリとすると「出来てからのお楽しみ」と言った。


 赤色の大きな布を魔法で出し、それを星たちに分け与える。

 

 星たちは笑い声を上げながら、その布を綺麗に切っていくと、蝶のように舞いながら金色の糸で布同士を繋いでいく。


 アクセサリーを命令通り作っている星たちは何やらチェーンのような物を作っている。


 そのチェーンにはにこやかな顔をしている太陽のチャームに六角形の星のようなチャーム、真っ赤な太陽石という太陽に当たると青からオレンジになる石も下げられ、それらを星たちが作った赤色のズボンにつける。


 よくよく見るとそのズボンには赤い刺繍が施されていて、それは蔓のように上へ上へと伸び、途中から枝わかれし太陽を表しているような、円の周りに波打つような模様がある。


 それをジュベールに着せる。


 さらに星たちは白いウイングカラーシャツをシュベールに着せると、その上に赤色のズボンと同様の赤い刺繍がされ、それはズボンの同様に蔦のように伸びているが右背中から左肩まで伸び左胸で大きな花を描いている。


 更に、右肩には真っ赤な真紅のマントを羽織る。

 右肩の部分にはレースが重ねられており、そこの部分だけ盛り上がっていた。

 

 マントには虹色に輝く太陽の刺繍が施され、その盛り上がっている部分には、真っ赤に燃えているようなガラスで出来た花が飾られていてとても絢爛だ。


 そして星たちはシュベールの耳たぶになんの断りもなく穴を開け魔法で癒すと、オレンジ色の宝石が埋め込まれているピアスを刺した。


 それには流石にシュベールはびっくりし「何か一言は言ってよ!」と叱った。


 だが星たちは反省した素振りを見せずに黙々と今度はシュベールの手に指輪を幾つも嵌めていく。

 

「後は仮面と石ね」と太陽はその出来栄えに胸を張って言った。


 

 一方月は、己の銀色の髪の毛を一房手でつかみそれを、鋏で豪快に切るとそれを星たちに与えた。


 (だがその切った部分は瞬き一つした瞬間には元通りに)


 星たちはその髪の毛をまるで糸のように練ると細かく分け、糸同士を繋げ、その糸よりもどことなく色が違う銀色の布に刺繍していく。


 さらにそこに己たちの金色の鱗粉を練り合わせていく。


 そして月が、その刺繍された布を頭上に放おる。


 布は空中でクルクルと周り、キラキラと光りを発し、大きさと艶やかさを増させていた。

 

 月が布を掴むとラヴを囲んでいた星たちがタイミング良くラヴから離れ、月はその布をラヴに巻きつけた。


 すると、その布はひとりでにみるみる広がり、月がラヴの手を取りダンスをするように身体を捻らせ一回転させると、布は銀色の光を放ちながら大きく広がり銀のレースがラヴを包んだ。


 その様子を見た星たちは、キャハハ!と笑い声を上げながらそのスカートに触れると、まるで吸収されるようにぴたりと引っ付いた。


 そして、胸元には青い花々がぽつぽつと咲き誇り、二の腕を包んでいるかぼちゃ袖の中には謎の液体が湧き出てら中には丸い月や星が泳いでいる。


 そして、星たちはラヴの穴が空いた耳たぶに、ピアスを刺し胸元に銀色のチョーカーを着け、髪の毛はくるくるに巻く。


 靴は硝子で出来ていて、踵から上に向かって青の蔦のような模様が描かれている。

 

 その出来栄えに月はフンと鼻を鳴らす。


「完璧だな、流石我が考案しただけある。後は仮面と石か」

 

 その独り言に太陽は寄ってきて、そうねと同意し宙を見ると「少し時間がかかっているようだわ」と言った。

 

「らしいな。まあ、条件が条件だからな。お前らは少し休憩しとけ」

 

 その言葉を待ってましたとばかりにラヴとシュベールは椅子に腰掛けた。

 

 シュベールはラヴの姿を横目に見ると微笑みながら言った。

 

「凄い綺麗だよ」

 

 それにラヴは破顔一笑しながら、ありがとうと言った。

 

「シュベール様も服似合ってますよ。でも、前髪を上げないとですね。この際切ります?」

 

 その提案にシュベールは顔色を一変させ、勢いよく首を横に振った。

 

「いや、良いよ」

 

「でも、どちらせよ仮面を着けるとき邪魔ですし」

 

「本当に本当に良いよ」

 

「では仮面を着けるときどうするんですか?どのみち上げないと」

 

「その時は……仮面を着けたあとに前髪を出したら」

 

「どうやって?」

 

「それはだから、まず仮面を目につけるだろ?」と次の瞬間、前髪を上に上げた。

 

 その時のシュベールの顔と言ったらそれそれは見物で、口は半開きに目は大きく開いてその顔から己は一体何しているのかという自問が聞こえてくる。

 

 だが、それよりラヴはシュベールの顔についている傷に目がいった。

 

 それは、右瞼に縦についている、それほど大きくない黒い傷痕。


 もう一つは、左目尻についている小さな黒い傷痕。

 

 その傷痕が何を意味しているかはラヴでさえ知っていた。


 それは、魔物などが持っている瘴気という物を浴び、細胞が壊死して出来てしまう痕だった。

 

 シュベールは、バレたら仕方がないかと苦笑しながら前髪をかき上げた。

 

「僕が戦時中に産まれたっていうのはこの前話したでしょ?……そうだねこれは多分僕がまだ母さん達と、ある街で暮らしていた時の話し」

 

 そうシュベールは静かな声で語りだす。

 

「僕がまだ離乳食から離れたばかりの時だったかな。魔核爆弾が落ちてきたんだ」

 

 魔核爆弾とは、魔物の瘴気や魔力を絞り出すだけ絞り出し、それを核爆弾に注入した魔核兵器のこと。

  

「普通の核爆弾でも威力が半端ないんだからそこに魔物の力が入ったら化け物だろ?

 

 そう、本当に化け物だったんだ。


 僕が住んでいたところから魔核爆弾が落ちた所は、取り敢えずとてもなーく遠い場所だった。

 

 その、とてもなーく遠い場所に落ちた魔核爆弾は風に乗って僕たちの街までやって来たんだ。文字通り、瘴気やらがね。

 

 僕らの街はそのせいで一気に紫と悪臭に包まれて皆傷が一つでもつかないよう細心の注意を払い国から支給されたガスマスクを着けて生活する他なかった。

 

 ある日、大きな嵐が街を襲った。


 余りにも無慈悲だよね、瘴気がそこら中に漂ってるっていうのに……。


 殆どの家の窓にヒビが入り、僕の家も窓が壊れ、外から瘴気が入り込んできた。その瘴気に気付いた母さんは冷静に僕にマスクを着けさせて窓になんだったかな?何かを貼っつけた。その時だった。

 

 僕はリビングの椅子の上で母さんと本を読んでいた最中でその僕の席の後ろにはもう一つ窓があった。母さんはその壊れた窓に夢中で気付かなかったんだろう。仕方がないよね。

 

 そう、その窓の閂が壊れて外からものすごいスピードで瘴気に汚染されたガラスが僕に襲いかかってきた」

 

 シュベールはタキシードの袖をまくり右肘をラヴに見せた。その肘は真っ黒に焦げているようだった。

 

「これはその時ついた傷の手当てが遅れて広がった物。この肘だけ痛覚がなくてね、左肘に比べるとあまり曲がらない」


 そうシュベールは右肘と左肘を同時に折り曲げした。


「隠していた理由は、君なら分かるだろ?」

 

 魔核爆弾でついた傷痕は感染するという俗説のせいだろう……とラヴは心のなかで思い黙々と頷いた。

 

「本当に俗説だよ?根拠もなければ感染もクソもない。信じるかは君次第だけど――」

 

 とそこまでシュベールが言った瞬間ラヴはその右肘に叩くように触れた。


 さらに、パチン!という音を立てながら己の右肘にその触った手を置いた。

 

 そして涙をこらえながらラヴは言う。

 

「信じるに決まってるでしょ!なんてこと言ってんのよ!」


 その怒り具合にはシュベールは少し後ずさりした。


「貴方が私にどんな気持ちでその傷痕を見せてくれたか、察せないほど私は鈍感じゃないわ!何より、そんな俗説、今じゃとても古臭いわよ!流行遅れにも程があるわ!私だって、貴方に言えてないことはある。これは何時までも言えないかもしれない。けれど、貴方は!」

 

 その瞬間ラヴの瞼の縁から涙がぶわっと溢れ出した。

 

「きっと!嫌悪を抱かずにずっと親友で居てくれるって信じてるから!だから、私だって貴方のそんな傷如きで嫌いになるわけない!」


 ラヴの瞳に深い哀しみが一時だけ宿った。

 まだ、そのことは言えないから……


「それに、そんな傷痕!私のメイク技術で陶器肌に戻してあげるわよ!さっさと来て!」

 

 思っていた反応と違い口をあんぐり開けてシュベールが固まっていると、ラヴは怒りながらシュベールの手を引いて鏡がある場所まで移動させた。


 そこに椅子を置くと坐らせ、あの大きなバックからメイク道具を入れる箱を幾つも取り出し机の上に置いた。

 

 そして、愛想悪く箱からパフなど様々な物を取り出すと、目を瞑ってとら指示してシュベールが目を瞑ると、まず白い絵の具のようなものをたっぷりとパレットに取り出し、それを筆のような物につけてシュベールの右瞼にある傷痕になぞるように塗っていく。


 どうやらこそばゆいらしくシュベールは頬を緩ませ「こちょばい」と言うがラヴは矢張り無愛想に「動かないで」と叱る。


 左目の目尻にある傷痕にも同じように白く塗ると、メイク道具が沢山入っているあの箱の中からある物を取り出すとそれを開けた。


 それは白粉のようなものだった。

 ラヴはそれをパフにつけると一部だけ異様に白い傷痕部分に優しくポンポンと当てた。

 

「もっと白くならない?」

 

 そのシュベールの疑問にラヴは笑みを浮かべながこたえた。

 

「この粉は不思議な粉でして。周りの肌色に合わせて粉の色が変わるの」

 

「高そう……」

 

「現に、これを買うのに宝石を二つ売りました」

 

 それに、シュベールは身を強ばせ言った。

 

「君、メイクしてなくても十分可愛いだろ。なのに、メイク道具使うんだ」

 

 その疑問にラヴは唸り声を上げながらこたえた。

 

「うーん。まあ、私の場合だとメイクは遊びというか趣味のような物なので。収集癖で集めている物です」

 

「それそれは全く、羨ましい遊びだよ」

 

 とシュベールはため息をついた。

 

 すると、ラヴは出来た!と叫ぶと「まだ目を開いてはいけませんよ!」とシュベールに言い、今度はシュベールをめかしこむ為に持ってきていたワックスなどをカバンから取り出しシュベールの前髪につけた。


 そして櫛で上手く梳かしオールバックにすると、このままでは堅い印象を覚えてしまうので上手く崩し、最後に薄く固めると。

 

「目を開いていいですよ」

 

 と許可が下りたのでシュベールは目を開き鏡に映る己の顔を見た。


 その変わりように思わずシュベールは「この人誰だ?」と声に出して仰天した。

 

「この人はシュベール・ナナホシと言います。偉大なる占星術の始祖ですよ」


 そう仰天するシュベールに優しくラヴは囁いた。


 そして私思うんです、と続いて言う。

 

「その人が美しくなるかどうかは、その張本人がどれだけ周りに優しく接してどれだけ、好かれているかで決まると思うんです」

 

「それは……つまり?」

 

「だから」と言いながらラヴはシュベールの横にある椅子に腰を下ろして言う。


「貴方は私とその私よりもずっとずっったと美しい星たちと星空の王たちから愛されて好かれているのだから、綺麗に、そしてイケメンになるのは必然だって言ってるんですよ」

 

 シュベールは鏡を横目に見るとフッと笑う。

 

「確かに」

 

 そう微笑むと、あることに気づいたらしくニヤリと微笑んで言った。

 

「そういえば、僕のこと親友って言ったね」

 

 そう言われ初めて気づいたらしくラヴは目を見開き、観念したように言った。

 

「ああ、言いましたね」

「ならもう、僕ら親友だね」

 

「まあ、そうですね」と満更でもない表情でラヴは言った。

 

「タメ語は?」

 

「いやそれは、少し未だにハードルが高いのでゆっくりとで……」

 

「ええっ……そんなに僕に対してのタメ語はハードル高いの?」

 

 そう残念そうにシュベールは言った。


 ラヴは苦々しい顔をしながら頷いた。

 

「貴方は私の間違いなく親友ですが、それよりも、それ以前に私からしたら貴方は掛け替えのない占星術の師でもありますから」

 

 すると背後から太陽と月の声がした。

 

「石が届いたから二人とも、こちらへいらっしゃい」

 

「おっシュベール!見違えたな!」

 

 月がそう感嘆しているのにラヴとシュベールは満更でもないようだった。

 

 そして二人は月と太陽の前にそれぞれ立つ。


 太陽は魔法でボロタイをシュベールの首に巻き付けた。


 そして星たちが深紅に、また琥珀色に燃えるように光る拳よりも少し小さい石を持ってきて太陽に手渡した。


 その美しさにラヴも興味をそそられ太陽の手を注視した。

 

 太陽はその石に息を吹きかけると、シュベールのボロタイにその宝石を付けた。

 

「まあ!『リオスフィオリア』じゃない!初めて見たわ!」

 

 ラヴがそう叫ぶがシュベールはその宝石の名をはじめて聞き首を傾げた。

 

 すると、太陽がシュベールのタキシードを手で払いながら説明した。

 

「『リオスフィオリア』別名『太陽神石』と言われていて、365日、24時間太陽に照らされていないと変化しない石なの。


 ある山脈の頂上でしか採取できないから幻の宝石なのよ。身につけた本人に太陽神の加護が授けられ、どれだけ極寒の地でも温めそして見守り災厄を払ってくれる。本当に特別な石なの」

 

「へぇ~すごい石なんだ」と余り価値を認識できていないシュベールにラヴは言った。

 

「ハツメタケノコを百個売ってもお釣りが来るレベルの貴重石ですよ」

 

 ハツメタケノコは一年に一度しか採取できないこの大陸特有のハツメタケの竹の子だ。


 その一瞬を逃せば目にも止まらぬ速さで竹になるので幻の竹の子と言われている。

 

 その説明を聞いたシュベールは顔色を一変させ傷がつかないよう背筋を伸ばした。

 

 それに太陽は微笑みながら言った。

 

「大丈夫よ、誰かに傷つけられないために星たちには一番頑丈で一番綺麗で一番燃えてるのを言ってきたからそ、そう易々と壊れないわ。さて、次はラヴの番ね。私はなんの石か聞いてないから楽しみだわ」

 

 太陽の言葉を挑発だと受け取った月はむっとしながら魔法で、そこまで大きくない針金のクリノリンを出したそれにラヴは仰天し「パニエ履いてるじゃない!」と言った。


 ラヴはクリノリンが好きじゃないのだ。

 

 だが、月は至って冷静にまともに違うと言った。

 

「これは下に履くんじゃなくてそのスカートの上に履くんだ」

 

「はあ?」

 

 そう言ったのはラヴだけじゃなく太陽もだった。一方シュベールはクリノリンが何かがいまいち理解出来てないようだ。

 

 まあまあ、と言いながら月は星たちにクリノリンをラヴに着せるよう指示し、星たちは無理矢理ラヴの両腕を上げさせクリノリンを履かせた。


 すると、月はパチン!と指を鳴らし大量の星たちを出現させた。だが、その星たちは金色ではなく微かに銀色にも光っている。


 星たちは笑い声を上げながらクリノリンにひっつくと一斉に離れた。

 

 クリノリンを見ると三人共思わず息を止めた。

 

 クリノリンの針金の間には銀の蜘蛛の糸のようの物が張り巡らせられ、その蜘蛛の糸には小さな銀の宝石がキラキラと虹色に反射させて光っている。


 そしてラヴが動くたびにシャリンと鈴がなるような音が鳴るが、その正体は蜘蛛の糸が張られていない針金の部分にぶら下がっている銀色の宝石達が蜘蛛の糸に当たることで発せられる音だった。

 

「すごいだろ、しかもその蜘蛛の糸はとても面白い性質を持っていてな。銀の虫以外、近づこうとしてくる物から出来るだけ避けるんだ。面白いだろ?その性質のおかけで椅子に座る時も踊る時も邪魔にならない。そして、その宝石は『ルーナロゼタッリ』と言ってな――」

 

「えっ『ルーナロゼタッリ』?」

 

 月の説明を遮って太陽が唖然とした。そして、月に詰め寄ると言った。

 

「『ルーナロゼッタリ』⁈アンタなに考えてるの⁈まさかだと思ってたけど、『銀の世界』の物を使うなんて!頭イカれた?老いぼれ過ぎてついにはイカれたの?!こたえなさいよ!この傲慢ババアが!」

 

 その怒り具合にラヴとシュベールは驚きを隠せないがまずは太陽を落ち着かせた。

 

 そして、シュベールが『銀の世界』というものへの説明を求めた。

 

「『銀の世界』はいわばパラレルワールドの一つだ。その世界はこの世界が滅んだ世界線で全ての生物が銀で出来ているんだ」

 

「そして、パラレルワールドへの移動は私達でさえ容易に行ってはいけないのに。なのに……」


 太陽は真っ赤な髪の毛をバッ!とさらに燃えるように赤くさせて言った。


「そこの生物たちの物を取ってくる何て!なに考えてんのよこの馬鹿!くそったれ!老いぼれの傲慢野郎が!お前のせいでここが滅んだらどうするつもりだったんだよ!考えもしなかったのか⁈あっ⁈」

 

 その言葉を聞きラヴとシュベールはその怒りは最もだなと納得した。

 

「いや、ちゃんと対処はしたさ。——の——に——を——してもらって——から——を貰ったから大丈夫だよ。——がああ言っていたんだから。な?」

 

 頭に響く雑音がラヴとシュベールを襲った。

 

 すると、みるみる太陽の頭は元通りになり腑に落ちたようだった。

 

「あの人たちがそう言うなら良いんでしょうね。はあ、全く心配して損した」

 

 シュベールがなにか訊きかけたが太陽が唐突に振り返りシュベールの口に人差し指を当てると、ラヴにも向かって囁いた。

 

「この世の全てを知らないほうが良いこともあるわ。シュベール君は何時か知るときが来るかもしれないけどそれは今じゃない。もう少し貴方の精神が成長してからじゃないとあなたたちの精神が壊れてしまうからね。だから我慢して頂戴。良い?」

 

 二人は大人しく首を縦に振った。

 

 その反応に満足した太陽は微笑んでありがとうと言った。


 そして月の方向へ振り向くと「後で説教ね」と月を睨んだ。

 

 月はすっかり落ち込んでいるようでその月の様子が面白おかしく、ラヴとシュベールは顔を見合わせ微笑んだ。

 

「仮面は?」とシュベールが訊ねた。

 

 あっそういえば、と月と太陽は思い出して二人で何やら話し合い出した。

 

 そして、振り返るとラヴとシュベールを手招きした。

 

 二人は不思議に思いながらも太陽と月に近付いた。

 

 すると、月はラヴの頭の後ろに手を回し仮面を着け、太陽も同様にシュベールに仮面を着けた。

 

「さあさあ、鏡をご覧なさい」

 

 と太陽がまた二人を手招きした。


 ラヴとシュベールは仮面を少し手で触りながら鏡を覗くと二人は一緒に「おお!」という歓声を上げた。

 

 ラヴの仮面は矢張り銀色で、うさぎが駆け出す様子が彫られ、金色の星の鱗粉が塗されており仮面の端には雫型の青い宝石がぶら下がっている。

 

 シュベールのは、淡いオレンジ色で琥珀色の烏が羽ばたいている様子が彫られ、更にラヴの星の鱗粉よりもさらに光る鱗粉がかけられ、またラヴのと同様に仮面の端には雫型の赤い宝石がぶら下がっている。

 

 シンプルながらも目を見張るほど恍惚と美しい。

 

「ありがとう。二人ともこんな素敵な物を作ってくれて」

 

 ラヴがそう月と太陽にお礼を言うとシュベールも後に続いてお礼を言った。

 

 月と太陽は満更でもなさそうに別に良いよと微笑んだ。

 

 そして、空が段々と赤く染まってきているのに気づいたラヴは早く馬車に乗らないとと三人を急かした。

 

 だが、月と太陽は得意気に顔を見合わせるとパチン!と指を鳴らした。


 そしてラヴとシュベールが瞬きをした時には、足元は木の板ではなく何処か不明の森の中にある一つの山道だった。

 

 さらに四人の前には立派な白馬が五匹と顔を大きなつばのある帽子で隠している御者のような人が一人が座る、大きな馬車があった。

 

 ラヴがこの男の人は誰かと尋ねる前に月がこたえた。

 

「こいつはたはだの依代だ。いわば我らで作った魔法人形だ。顔を作るのがとてもとてもめんどくさかったのでひどい出来栄えだから帽子で無理矢理隠している。さあ乗れ、遅れるぞ」

 

 二人は不思議に思いながらも、ラヴはシュベールの手を借りて馬車に乗った。

 

 そして二人が乗ると馬車が走った。

 

「0時に帰ってこいとかは無いからゆっくりして来いよ〜」


 と月は冗談混じりにそう良いながら手を振った。

 

 ラヴとシュベールも手を振り返し、会場に戻るまで楽しく談笑した。

読んでいただきありがとうございます(o^^o)

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