↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星公女の凱旋〜最悪の運命から這い上がった公女は、やがて後世に名を轟かせる〜  作者: 三神サク
第一章:星の嫁入り 芙蓉に根ざせば 件は死する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/23

10:後編

※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。

※誤字脱字があれば申し訳ないです。

 少ししてラヴは足を止めシュベールと向い合せになると言った。

 

「月と太陽から離れたわけを知りたい顔ですね」

 

 思っていたことを言われドキッとしたシュベールは、唾を飲み込んでラヴに訊ねた。

 

「理由あるの?」

「いえ特には」

 

 目をぱちくりさせジュベールは戸惑う。

 

「えっないの?」

 

「はい、ただ今から少しダンスの練習をしておきたかったので」

 

 ラヴの意図を完全に理解したシュベールはなるほど、と頷いた。

 

「僕が大コケするところを月と太陽に笑われないための配慮ってことね」

 

「言い方に配慮しなかったらそうなりますね」

 

 とラヴは苦笑いしながら言った。

 

 シュベールは口元を緩ませそれで?と切り出した。

 

「ダンスってどんなのなの?」

 

 難しい顔をしながらラヴはその疑問にこたえた。

 

「『真夜中過ぎのワルツ』という仮面舞踏会定番のワルツでして、スピードがとても速い曲なんですが……」

 

 まあ取り敢えず。と、ラヴは手の内に星を出して五回ほどトントンと星を叩いた。すると星はくるくると周りだしオルゴール調のワルツが流れた。


 その星はジュベールが開発した魔法の一種で、ラヴはそれを教えてもらっていたのだった。

 

 ワルツは、落ち着いた高音が流れていたが次第にスピードを上げ歌を奏でる。

 

 ラヴはシュベールに手を差し出した。シュベールは戸惑いながらその白い手に己の手を置いた。

 

 そしてラヴはシュベールの手を自分の腰に当て、ラヴはシュベールの腕に手を置き、もう片方の手を二人は繋ぐとラヴは鼻歌を歌いながらシュベールをリードした。

 

 最初は凄く緊張し幾度もラヴの足を踏んでは、ごめんと謝っていたシュベールにラヴは全く痛い素振りを見せず大丈夫ですよと微笑んだ。

 

 ぎこちなかった足取りはその柔らかな微笑みに和んで冷静になってきたのか、段々ラヴの足を踏まず、まだ躓くがそれでも上達してきた。

 

「そうです。しっかり背筋を伸ばして息をつまらせていけませんよ」

 

 シュベールは素直に言う通りに背筋を伸ばし幾度も深呼吸をした。

 

 まだ曲の途中だがラヴは一度休憩とワルツを止めた。


 シュベールは疲れたとため息をつきながら腰を床に下ろしそのまま寝転んだ。

 

「水ないのかな、ここ。水、がほしい」

 

 息を切らしてシュベールは言った。

 

 確かに、とラヴはヒールを脱ぎ坐るとあたりを見渡す。

 

 だが予想通りなにもない。ただただ、だだっ広い満天の星が広がる夜空だけが広がっている。

 

 すると、夜空に一線の光が流れたと思えば、唐突に小さな星になってまだ間もなそうな、名も無き星がラヴとシュベールの前に一つ現れた。

 

 シュベールはその星を見つけると満面の笑みを浮かべながら上半身を上げ、この星を知らなそうなラヴに言う。

 

「この子は稀に生まれるんだ。願いを気まぐれで叶えてくれる流れ星の類だよ」

 

 幼き流れ星は何やら挙動不審で、僅かに震えながらラヴ達のさらに近くまで浮遊した。

 

 ラヴはなんとなく両手をすくうような形にして星に差し出した。

 

 星はしばらく間を開けたあとその両手の上まで来て、何かを口ずさみ始めた。

 

『我ら星人夜

 愛(は)しきやし金色の蝉鬢を持つ星人夜

 我ら尊き友人

 幾星霜とことわ千秋に過ごす友人

 

 明るい満月の下で雨が降る

 それは星 金色に光る糠星 または流星群

 願いを言ってごらん

 月と太陽は常に耳を傾ける

 さあ、願いを言ってごらん』

 

 その言葉を聞き終わったあとシュベールとラヴは顔を見合わせた。

 

 シュベールはせっかくだしと続いて言った。

 

「えっとじゃあ、水を」

 

 星は眩く光り輝くと、ジュベールの腕に一つの壺を抱かせた。


 その壺はとても深い青に虹色に輝く宝石が小さくまばらに埋め込まれており、兎や馬などの動物が流星の如く走る様を描いていた。


 そして、壺の中には澄んだ水がたくさん入っておりシュベールは恐る恐るそれを飲んでみた。


 ラヴがそれを羨望の眼差しで見守る。

 

「うわあ!」

 

 シュベールが感嘆の声を出したかと思えば勢い良くその壺の水を飲み出した。


 しかし、壺の水は無くなるどころを知らなかった。

 

 幼い星はそれに構わず今度はラヴに訊ねた。

 

『我ら最後の星人夜

 温かな暁月夜が貴女を見守る

 我ら星人夜

 貴女は何を望む』

 

「何でも良いの?」

 

『ただし、一つだけ

 欲深ければ我ら王たちが然るべき望みを与える』

 

 欲深いの定義とは、と訊ねそうになったラヴだが、不毛だなと我慢し少し考えた。

 

 そして顔を上げ幼い星に向かって願いを放った。

 

「私の母上……アンジェ公爵夫人がどうして」


 拳に強く力を入れアゼリアを亡くしたことへの怒りを青い目に灯して続いて言った。


「どうして……死んでしまったのか、教えて!」

 

 幼い星はその目を見つめ何かを見定めているように黙りこくったが遂には言葉を発した。

 

『我ら星人夜

 我ら愛しの星人夜を殺した犯人

 それは』

 

「それは?」

 

 その時ザッザザと砂嵐のような雑音が流れた。

 

『——

 狡猾で欲に忠実な——

 であり純白の——

 その二種を併せ持つ崇高な生き物

 また大罪を冒したネルマンの愛子

 愛する人に裏切られ罠に嵌った愚か者』

 

 ラヴとシュベールはその言葉を聞き息を呑んだ。

 

 幼い星はそれきり言うと薄っすらと消えていく。

 

 だがその様子を見たラヴは瞠目し、待って!と叫んだ。


 しかし星はその声を聞かず金色の粉になって消えた。

 

 ラヴは絶望したかのようにその場にへたりと坐り込み下を向くとポロリポロリと涙を流した。

 

 得たものは不確定でさらに頭を悩ませる言葉。


 ネルマン……この国の神の名だ。

 

 ヒントは得た。


 けれどそれでも……

 

「こんなのってない」

 

 期待しすぎた己が悪い。

 ラヴはそう言い聞かせるがそれでも悔しくてたまらなかった。

 

 ――あと少しだった、あの雑音さえなければ犯人を殺せたのに。犯人に会ったら生かすわけがない。母上にやったことよりも、もっともっと醜い方法で殺してやる。なのに、なのに……

 

 ラヴは煮えきれない気持ちでいっぱいだった。

 

 その様子をシュベールは哀れな眼差しで見ると優しくラヴの背中を撫でた。

 

 その手はとても優しく温かでまるで、ラヴのことを憐れみ慰めていた。


 あの時のアゼリアの手のように。

 

「実は僕も、他人に母さんを殺されたんだ」


 そうシュベールは穏やかに語りだす。


 その声は少年のようでもありながら、長い年月を星と過ごしていた故の達観した声色でもあった。

 

 ラヴは顔を上げ黙ってその話しに耳を傾ける。

 

「僕が生きていた時は丁度『ナルシア民主主義国家』との戦争真っ最中だったんだ。

 

 あっナルシアはねこの国、『クレミアン王国』と隣接してた国だったんだ。今はクレミアンに吸収されたけどね。

 

 その戦争で東南にある『朝霧』がクレミアンに支援して、その時に送り込まれていた戦士が僕の父だったんだ。

 

 父と母の馴れ始めは省くけどなんだかんだあって僕が産まれた。

 

 最初にも言ったけど僕が誕生したときは戦争真っ只中で、父は何時も戦争に駆り出されてて僕の世話は殆ど母がやってくれてた。

 

 それで……多分僕が五歳なったくらいのとき『クレミアン王国』が勝利を収めたんだ。

 

 うん、記憶が正しければそう。

 

 それで、父さんは朝霧で暮らさないかって母さんに勧めてた覚えがあるけど、母さんは頑にいかなかった。理由は知らないけどね。

 

 結局、母さんの願いで僕たちは山奥にある集落で暮らすことになった。そこはとっても居心地良かった覚えがある」


 次第にシュベールの顔が暗くなる。


「ある日、その時が来た。


 なんの前触れもなくただただ唐突に。

 

 戦争に勝った喜びで山の懐にある町でも一ヶ月はどんちゃん騒ぎだったんだ。

 

 多分そのせいなんだろう。町に潜んでいたナルシアの戦士が山奥に逃げ込んできた」

 

 ラヴは言葉の意味を察し、顔を真っ青にしてさらに涙を潤わせ口に両手を当てた。

 

 シュベールは淡々と果てしない満天の星が光る星空を見上げて続いて言った。

 

「運悪くその時父さんは山に山菜を収穫しに行っていた。母さんは僕だけでもって僕を大きなゴミなどを入れるそれはそれは醜い壺に隠した。

 

 ……母さんはあれでも天文学者で。ある程度天文学の魔法が使えたから足止めしていたんだ父さんが戻って来るまで。

 

 だけど、父さんが戻ってきた時には、時既に遅し。


 母さんは死んでしまった。それでも二、三人殺していたんだからすごい人だよ。

 

 父さんは怒りに任せて近くにあった鎌で次々にナルシアの戦士を薙ぎ倒して行った。

 

 父さんは全員殺した。けれど、ナルシア人が使っていた特有の毒に侵されて僕の看病も虚しくその戦いから三夜も経たずに亡くなってしまった」

 

 シュベールはどこか遠い目をした。


 だが、その目には悲しみはもうなく、彼の中ではもう過去のことだと割り切っているようにもみえる。

 

 が、それでも何故かラヴは悲しく胸を締め付けられる思いでいっぱいだった。

 

 その様子を横目にシュベールは、でもね。とさらに穏やかに言う。

 

「確かに父さんが死んでしまった一週間は皆の供養も忘れてしまうほど途方に暮れていた。

 

 けど、ある日夜空がこれでもかってほどに晴れ渡った。


 そして夜空に無数の流星群が、『希望の雨』を降らせて通り過ぎたんだ。


 あたりは一面『希望の雨』で虹色に輝いて、空には絶えず星が流れてた。


 それはそれは美しくて、枯れてしまっていた涙がまた出てきたほどだった。


 僕はその流星群に心を奪われまた希望をもらったんだ。

 

 それからは父さんたちが死んでしまって以来、初めてベッドでぐっすり寝て、起きて。


 滝に行って血泥塗れの身体を洗って、皆を火にくべて供養した」


 なかなか大変だったけど、とシュベールは苦笑した。


「けど、僕はその火を見てなんだか吹っ切れた。


 お陰で今度は寝る間も惜しんで母さんが遺してくれた天文学の本を読み漁って天文学を学んだ」


 あの宿のこともここらへんかな、とシュベールは懐かしそうに笑みを浮かべる。

 

「そんなある日、僕はオリジナルの魔法盤を作ろうとした。


 まず、契約した星をチョークで書いた盤の上に置いた。

 

 そしたら、なんと本当に偶然、その盤は星にピタリとハマり占星術の基礎が出来上がった」

 

 少し間を開けてからシュベールは続いて言った。

 

「……この先は君の知ってる通りだよ。


 僕は馬鹿にも嵐の後外の様子を見に家から出てたところで土砂崩れに押しつぶされた。


 目が覚めたらここにいて、当時は月が物腰の柔らかい印象で太陽が少し愛想悪い人だった。


 その二人は僕に占星術を教えて欲しいってお願いしたんだ。

 僕としては尊敬する二人の願いだし、断る理由もなかったから承諾して……」


 両手を背中に回してシュベールは続いて言う。


「報酬としてここにいつまでもいさせてもらえることにした。君も分かると思うけどここは僕にとって理想地だった。

 

 そりゃ天国で父さんたちと暮らしたいと思わないことはなかったけど。

 

 それでも僕はエデンの園よりも父さん達がいる天国よりも、何よりもこの星の都で暮らしたかった」

 

 絶え間なく流れる流星群が川の清流のように星空を駆け抜けていくのをラヴは肩で息をし、目にたまる涙を手首で拭きながら見上げた。


 シュベールはそれに気づいているが態と振り向かないでラヴと同じように星空を見上げて続いて言った。

 

「君にこの話をしたのは特に特別なことがあったわけでもなかったけど。ただ、僕も分かるから……。最愛の家族を殺され、何も出来なかった無力感と、何もかも後の祭りだという悔しさが……」

 

 大体ね、とシュベールは苦笑する。

 

「こんな、気持ちほとんどの人は分からないんだと思うんだ。そりゃ貧民街の子たちも労働とかで家族を殺されたかもしれないけど。でも、違うじゃないか。

 

 僕たちはちゃんと幸せで、お金にも特に困ってなく。ただただ平凡な暮らしをしていただけだったなのに。

 

 ある日突然、なんの前触れもなく赤の他人にその平凡の生活が奪われた。

 

 僕の場合は目の前で殺されたけど。君だって悔しいだろ?

 

 あの日、行くのを止めてたらとかさ」

 

 ラヴは心を見透かされたのかと驚いてシュベールの顔を見つめた。

 

 だが、シュベールは何か悲しそうな表情で首を横に振った。

 

「僕は占いが出来ても心の内は見られないよ。

 

 占いは無数にある人の運命の中にある内のたった一本の道を教えて上げるだけだからね、そこにエスパーはない。

 

 ただの経験からくる予想だよ。


 君を見つけたとき一瞬僕を楽園に連れて行くお迎えかと思ったけど。


 それ以上に似てたんだ。


 両親を殺された時期の僕に。

 

 本当に瓜二つだったんだ。悔しさと憎しみが目の淵ギリギリまで溜め込んだ目が」

 

 シュベールは地面に人差し指を当て、そこに広がる波紋に反射する長い前髪から覗く茶色い目を見た。

 

「あの時僕も同じこと思ってた。


 父さんと一緒に山菜を採りに行ってたら父さんは早く帰ったんじゃなかったとか風邪をした振りでもして少しだけ行くのを遅らせたら助かったんじゃないかとか。


 本当は開けられた壺から出て母さんと一緒に戦っていればとか……」

 

 ただ君の気持ちが分かるから。


 とシュベールは膝を抱え、大きく広がり次第に地面に馴染んでいくように消えた波紋を遠く見つめて呟いた。

 

 そこでシュベールが語りだして以来ラヴは初めて言葉を発した。

 

「そういう時はどうしたんですか?その気持ちが泥沼化して抜け出せないときは」

 

「そんなの――」

 

 シュベールはにこやかに笑いながらまた星空を見上げた。

 

「星空を見る。

 

 でしょ?逆に他にある?」

 

 僕はないけど……とシュベールは生真面目に考え出した。

 

 すると、シュベールはあっと、声を出し眩しい笑顔でラヴの顔を見ると明るい口調で言った。

 

「あとは、親友といることとか」

「親友?」

 

 唐突な言葉にラヴは思わずオウム返しした。

 

 シュベールはあれ?と首を傾げラヴに訊ねた。

 

「僕たちって親友じゃない?」

 

 ラヴは数秒沈黙すると、頬を赤く染めて下を向いて言った。

 

「私……恥ずかしながら親友、という物が具体的にどんなものなのか私にはサッパリで。シュベール様が言う『親友』は『友達』よりも上で何でもかんでも言わないといけない関係なのか、それともただただ『尊敬しあっている人』なのか。私には『親友』というものの定義が、本当に、分からなくて……」

 

 今までラヴは『小公爵』や『公爵令嬢』『公爵家の奇跡』などなど大袈裟な肩書を無理矢理背負わされてきた。


 その分、シュベールのようにタメ口で更に「僕ら友達だよね」なんて気軽に訊いてくれる相手もいないし、その言葉を疑心暗鬼にならず素直に信じられるほど気軽な立場ではなかった。

 

 なので、『親友』という言葉をなんの抵抗もなく言えるシュベールに対して絶句しまた更に尊敬をした。

 

 シュベールはその様子を黙って見ると、無知な己が恥ずかしいのか目をそらすラヴをまっすぐ見つめながら尋ねた。

 

「君は、僕のことどう思っているの?」

 

「私?私は。シュベール様のことは、占星術を作った尊敬する方だと思っています。

 

 それに私がすぐ落ち込むのをめんどくさがらないし責めずただ慰めてくれる……友達で――」

 

――友達ってなんだっけ。そもそも親友って友達となんの違いがあるの?親友だと信じて裏切られたら?もし、男だったってバレたとき傷つくのはお互い様なのに、なのに、親友なんておこがましい。私はなにも明かしてない。一番重要なことを言ってない。無理、親友なんて無理よ。

 

「友達で?」

 

 それっきりラヴが少しの間黙ってしまったのを不思議に思いシュベールはそう訊いた。

 

 ラヴは顔を上げ笑みを浮かべながら嘘を言った。

 本当は親友だと名乗りたいのをぐっと堪えて。

 

「人生の先輩です」

 

 シュベールは少しの間はラヴの目を見つめて嘘か本当か見分けようとしたが、ラヴの演技は中々でシュベールは心から言ったのだと心の内で勝手に納得した。

 

「そっか、確かに身体自体は十三歳で止まってるけど。僕の精神年齢は計り知れないからね」

 

 と胸を張って言うシュベールを見てラヴは内心胸をなでおろしながらも仮面を被って微笑んだ。

 

 それにしても、とシュベールは両手を頭の後ろに回して寝転ぶと続いて言った。

 

「友達なのは当たり前だとして、人生の先輩か……。なんか硬苦しくて嫌だな」

 

 最後、ボソリと呟くとシュベールはそうだと勢い良く上半身を起こした。


 ラヴは何を言いたいのか分からず身体を引きながらもシュベールの言葉に耳を傾ける。

 

「じゃあ取り敢えず君と親友になるための一歩としてタメ口で言い合おうよ」

 

 余りにも突拍子もない言葉にラヴは流石に言葉が出なかった。

 

「え?だめ?嫌なら無理には言わないけど」

 

「いやいや、無理ではないんですけど。その、私。ほんとうに敬語が口癖みたいなもので……」

 

 そこまでラヴが言おうとしたところでシュベールが、嘘だねと言葉を断ち切った。

 

「君、何時も太陽とか月たちと話しているときはタメ語だったよ。それだけじゃない、確か君の兄にもタメ口だった」

 

 思っていた以上に記憶力が良いことへの焦りと騙した罪悪感でラヴは視線を泳がせ言い訳を頭の中で考える。

 

 その様子を見たシュベールはため息をついて、別にいいけどさと続ける。

 

「どうして嫌なのかはハッキリしてほしいな。別に僕のことが嫌いってわけじゃないんだろ?」

 

 それはもちろんとラヴは頷いた。

 が、理由をどう話そうかさらに迷った。

 

 ラヴがシュベールと親友になりたくてもなれない理由はちゃんとある。

 

 さっき思ったこともそうだが、特に誰になんと悩みの種を言っても相手からしたら自慢としか受け入れられないかもしれない恐怖がラヴが足踏みとどまらす理由のひとつだ。

 

 特に、容姿や好きなもの、好きな生き方、好きになる相手、好かれることへの恐怖心。

 

 それら全てが悩みの種でもラヴより不幸な思いをしてきた人はたくさん居て、それも、ほとんどがラヴと真反対の悩みを持っているため誰も共感し理解しようとしてくれないことがほとんどなのだ。

 

 それに、好かれまた己も好いてしまったら、誰にも言えないあの秘密を言わないといけなくなる。

 

 だからこそ、シュベールのことが友達として人ととして大好きだから、ラヴは躊躇し嘘を重ねるか本当のことを言うか沈黙するかで迷う。

 

「ただ……私には、親友や友達が昔から少なくて。そういうなんと言ったらいいか分からないんですが、怖くて」

 

「こわい?友達になるのが?」

 

「いえ、友達になるのは全く問題ないんですが。その、私の中では『親友』というものは余りにも恐れ多くて」

 

 シュベールは、ふむと少し沈黙した末分かったと顔を上げた。

 

「人間不信ってわけか。なら仕方ないね」

 

 そいうものではない、と急いでラヴは弁解しようとしたがシュベールは完全に勘違いし。

 

 大丈夫大丈夫と幾度も頷いた。

 

「僕の時代にも何人かいたからそんなに気にしなくて良いよ。君は貴族だし何より公爵令嬢なんだからどうせ、社交界でなんかあったんだろ?良く新聞にもあったよ、どこかの良いとこの貴族の家系とおえらいさんの家系の令嬢二人がある貴族の娘をいじめてたとかさ。だから大丈夫だって」

 

 その勘違いぶりにラヴは弁明しても聞かないなと諦めて、こくりと頷いた。

 

「じゃあこうしよう。出来るだけタメ口にすることを意識すること。良い?」

 

 また唐突なことに、ラヴは啞然としたがこれ以上わがままを言うのは気が引けたので分かりまたしと首肯した。

 

 決まりだねとシュベールは膝を抑えながら立ち上がるとラヴに手を差し伸べ言った。

 

「さあさあダンスの練習を再開しよう」

 

 頷きかけたラヴだが直ぐ口をつぐみその手を取りながら言った。

 

「う、うん」

 

 そして二人はここで怪我などしても現実世界に影響がないことを良いことに、太陽が水平線から顔を覗き出すまでひたすら練習した。

 

読んでいただきありがとうございます(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。