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※この作品には性別転換・ダークファンタジー要素があります。
※誤字脱字があれば申し訳ないです。
「やっと見つけた……」
そうシュベールが呟いたのは、あれからまた散々歩き回った末、やっとのことで不動産屋を見つけたからだ。
二人はくたくたになりながら中に入って行った。
「いらっしゃいませぇ……」
案内人の綺麗な女の人がそう二人を出迎える。
同時に眼鏡を優雅に外したラヴを見て瞠目し少しの間見惚れたようだ。
ラヴはその視線に気が付くと笑みを保ったまま、責任者はいるか訊ねた。
女の人は言葉に詰まりながらこちらですと更に中へ案内した。
「良かった、中々良いところみたいね」
急に敬語じゃなくなったことに少し驚きながらも、シュベールは黙って首肯した。
あるアンティーク調の大きな扉の前に来ると、女の人はノックを三回すると言った。
「お客様がお見えです」
すると中から中年男性の声がきこえてきた。
「何方だ?今日はなんの予定も無かったはずだが?」
次に声を発したのは案内人の女の人ではなく、ラヴが柔らかでまた淀みのない美しい声で言った。
「突然のご訪問お許しください。少し事情がありまして」
「君は?」
「ラヴベリーと申します。ラヴベリー・ゲルドとでも申しましょうか」
少しの間間が空いたあと返事が来た。
「入ってください」
そして扉がきしみ音を上げながら開く。
その先には白くなりかけている無精髭を生やした黒髪黒目がちの男が坐っていた。
男は椅子から立ち上がると、使用人たちに手を振って外に出させた。
そして、ラヴの前まで歩いてくると膝まずき手の甲にキスをした。
「ようこそおいでくださいました。ラヴベリー・ゲルド・フォン・アンジェ様」
生成手の甲にキスをされても動揺の一つも見せていないラヴの姿を見て、シュベールはやっぱりラヴは貴族なのだなと改めて実感した。
「私はランドルと申します以後お見知り置きを」
ランドルと名乗るこの不動産屋の責任者は立ち上がるとそう自己紹介をした。
ランドルにさあさあと促され、長椅子にラヴとシュベールが並んで坐る。
その丁度真ん中に位置する向かいにランドルが姿勢良く坐った。
「では、早速本題に取り掛かりますが。今回はなんの御用でしょうか?」
その前に……とラヴは出された紅茶が入っているカップを持ち続いて言う。
「あなた方が私たちの個人情報をちゃんと守ってくれるという保証は?」
その上流貴族特有の鋭い目つきにランドルは背筋を凍らせると、息を吐きながら慎重に言葉を選んで言った。
「弊社ではご契約前に、安全やプライバシーを守る魔法の契約書へご署名いただいております。なお、織り込まれた魔法の詳細は企業秘密につき、たとえアンジェ家のご令嬢であってもお教えいたしかねます」
少しの間ラヴはランドルの挙動や表情をカップ越しに見つめた。
そして、態と音を立てながらカップをコースターに置き先程までの表情とは打って変わって朗らかな笑みを浮かべ言った。
「そうですか。どうやら嘘はついていないようですし。信用することにいたしましょう」
さらに背を伸ばすと、ラヴは隣で黙りこくっているシュベールを紹介した。
「こちらは、私の数少ない友人であるシュベール様です」
ランドルが苗字を言わなかったのでラヴもシュベールの苗字を態と省いた。
シュベールはこういう取り引きの場に慣れていないのか無言で軽く頭を下げた。
「実は彼がある事業を立ち上げようとしておりまして。そこに私はその事業を隠密に投資をしようと思っているのです。彼、最近都市に来たばかりなので住居もなくまた中々良い物件が見つからない物で――」
芝居がかった仕草をして悩むふりをするとまた朗らかな笑みに戻り続いてラヴは言う。
「そこで彼の住居と店を両方活用出来る物件を探しているのですが、ありますでしょうか」
公爵令嬢が隠密に物件を探すというものだからてっきりシュベールという男と怪しいことをするのかと思いきや、ちゃんとした物件探しで拍子が抜けたランドルはゆっくりと首肯した。
「はい。もちろんでございます。それでは、今からでもご案内いたしましょうか?」
ラヴとシュベールは顔を見合わせるとやっとだ!とお互い心の内で歓喜しながら、そうしてくださいと言った。
まず一番最初に紹介されたのは都市の中心部に比較的近く人通りも多い場所だった。
だが建物の外装は見るからにボロボロで中もネズミが住み着き、更には平民の中でも下位層の人たちが大体で貴族は滅多に通らない場所なので商売には向かないということで最低でも候補の一つとして一旦置いておくことに。
次は先程と比べれば都市の中心から離れるが貴族は良く通る場所ではあった。
だが両隣の店が大きく、また同じ魔道具を売る有名店で目立ちにくいためラヴがその店と物件の外観を見た瞬間即却下した。
シュベールは疑問に思いラヴに理由を訊くと――
両隣の店の常連はプライドが高く己が一番崇高だと思い込んでいる貴族辺から一目置かれている店で、その真ん中に新人が入ると興味本位で入ってくるだろうが天文学の魔道具と知られた瞬間馬鹿にして何も買わずに速攻帰り。
挙句の果てにその貴族のせいで店の評判が瞬く間に地に落ちる――
と、つらつらと一喝されたと思うとラヴは更に念を押す。
「あぁいう貴族達は妙に人脈が広いから、悪徳記者の耳にでも入れば一貫の終わりです」
物件の外装がラヴとは反対に気に入っていたシュベールだがその理由を聞き、渋々引き下がり次の物件に行った。
が、次の物件は上記の悪い所は全てクリアしているが新たな問題があった。
それは物件の辺には危険な絶滅危惧種や天然記念物が良く出るという点だった。
理由は物件の後ろにある保護地区だった。
その保護地区は例えラヴでも立ち入れることは許されないところで、一応柵や魔法で対処はしているがそれでも、絶滅危惧種の中には珍しい幻獣が居り、その幻獣の一種が目の前に立ちはかだる障害物全てを無視できるという厄介者の為その対処も虚しく意味がなくなっている。
何よりも迷惑千万なのはその幻獣達が物件に傷をつけたり侵入して来たりすることだ。
建物自体が壊れないにせよ、壁に傷がつけば矢張り見栄えが良くなくなり良客が来る確率が格段に少なくなる。
「こんな所で誰が店をやるのよ……」
とラヴは虹色に輝く幻獣たちが物件の周りを飛び跳ねる様子を見て呟いた。
そんな悪条件でもこの場所にいるのは、地元から離れがたい人、その幻獣達を見に観光しにくる馬鹿たち、その馬鹿に浸け込む悪徳業者ばかりなのでラヴはまた却下した。
「言いにくいのですが。次が最後になります」
馬車に揺られながらランドルがラヴの顔色を伺いながらそう言った。
ラヴは顔を顰めながら肘掛けに肘をつき、手のひらに顎を乗せると歪んで見える窓の外を見つめてこたえる。
「分かっています。ちゃんと決めますよ」
不機嫌になるほどラヴが悩んでいるのも仕方がなく、店だけをするために使う物件ならまだまだ沢山あるだろうが、ラヴがランドルに提示した条件が――
シュベールの住居と天文学の魔具を売る店を両立出来る物件――
なため、紹介出来る物件の数も限られ、また公爵令嬢に見せられる物件となると数は更に少なくなる。
現に最低でもこの四つの物件しかラヴに見せられないのだろう。
そしてラヴはそのどれも気に入らず次の物件も気に入らなかったら、その四つの中から決めないのかと不安で仕方がなかった。
隣でその様子を横目にシュベールはずっとラヴ任せきりで少し罪悪感を覚え気まずい気持ちを抱きながら馬車に揺られる。
馬車が出発してから五分半ほどで止まる。
扉が開くと同時に清涼な水の匂いと、微かに匂う磯の匂いが風に乗って漂ってきて、ラヴとシュベールは慣れないその匂いに驚きながら馬車から降りる。
謎の眩しい光が目を襲い二人は目を瞑り、だんだん慣れて来ると瞼を上げた。
「うわあ」
そう感嘆の声を出したシュベールの茶色の瞳の先には――赤、青、黄、緑と様々な鮮やかな色の家が下り坂に沿って並び、全ての家にあるバルコニーにはまた更に鮮やかな色をしている花々が飾られていて、風が吹く度に花弁が見事に散り坂に色をつけていた。
またこの街の特産品なのか目が痛くなるほどのオレンジ色をしているシャツや、青いサングラス等数え切れないほどの色とりどりな土産が出店に陳列している。
そして何よりも、ため息が出るほどに美しいのは坂の先にある広大な湖だ。
『ルーメル湖』と言い、この国最大の湖になっていて様々な生き物や植物が共存しており環境保護地区にも指定されている。
特に、『ルーメル湖』の名物は朝日と共に水面から顔を出し湖の水面を飛び跳ねる、鱗は金で目は銀、尾鰭は珊瑚で出来ている『朝光魚』またの名『コリールフィッシュ』で見た者は幸福になると言われているほど。
その他にも名物は沢山ある。
湖の周りの林に住む、体の半分以上が黒色の『マシヨシカ』
『ルーメル湖』にしか生息しない『ノゲイノシシ』など、そうした貴重な動物が湖の水を飲みにやってくる姿に魅了されて訪れる人も少なくない。
そしてそんな湖に向かうための一本道である、虹色の花弁に彩られている下り坂を馬車は通行禁止なため歩いて降りていき湖の目の前まで来ると、ランドルはある物件の前に立ち止まった。
その物件の外観は先程見てきた家々よりも落ち着いた水色で、物件の傍らには大きな花壇があり更に物件の中に入っていくと、中は清潔で建てられてから間もないとのことだ。
一階は二部屋あり内装は緑と赤に塗られ、天井には黒のキャンドルのシャンデリアが明るい。
さらにシュベール達のように店を開くことを目的に建てられたらしく、入っていくと真正面にカウンターがあり奥には棚が壁一面にある。
カウンターの手前には背の低い赤のショーケースがあり中に魔道具を飾れそうだ。
また、ショーケースの他にも壁には棚がありそこにも色々と工夫出来そうに見える。
カウンターの奥にある部屋に入ると、そこには何も無くてあるのは小さな棚一つだけ。
ラヴはこの部屋の用途についてシュベールに問われた。
「シュベール様の好きなように使ったら良いと思いますよ。多分そういう部屋だと思いますから」
ランドルもラヴの意見に同意し皆大抵こういう部屋は物置だと助言をした。
しばらくシュベールはその部屋を眺めるとそういう物か……と呟いた。
続いて三人は二階に行くために一同外に出て外階段を登り二階に入って行った。
二階にも二つ部屋あり、まず一つが寝室になっていて、小さなテーブルと椅子が窓際に一つずつあり奥には木製で出来たベッドが一台。
出入り口の傍らには本棚があり中々の大きさだ。
「うん。全然気にせず住めるね。後でまた少し家具とか買ったら。うん都だよ」
とシュベールは満足そうに幾度も頷いた。
シュベールの中ではもうここに決めたも同然なのだろう。
もう一つの部屋は主にリビングのような場所になっていて寝室よりも広くあるのは暖炉と竈門、横長の机と二つの椅子が並び食器などを入れる大きい棚が二つある。
「この他にも建物の裏には倉庫が一つありまして。魔道具を保管できる思いますよ」
とランドルは勧めた。
しばらくの間ラヴは黙りこくったが、一つ頷きシュベールに訊ねた。
「シュベール様はなにか不満などはありますか?」
「僕?僕は……うん、ないね。ここで十分だよ。目の前が大きな湖だから星もきっと良く見えるだろうしね。動物もいるし、文句なしだよ」
明るい笑顔でシュベールはそうこたえた。
「なら決まりですね」
ラヴはランドルの顔を見ると言った。
「ここに決めようと思います」
ランドルは当然だなという風に満足気にうなずいた。
「では、今日は一度戻りまして契約書や注意事項などを確認したいと思いますが。よろしいですか?」
二人は同時に首肯した。
そして一同は建物を出て坂を登った。
「この坂だけ、少し、勘弁してほしいね」
とシュベールは息を切らし汗を拭きながらそう言った。
確かにとラヴはうなずいた。
――が、それはシュベールのように坂を登るのが大変というよりはこの坂のせいで客が魔道具を買うのを嫌がらないかという懸念だった。
馬車を通れなくする意図は分かる。
この坂は地元民や稀に動物が歩いているし、子供も駆けっこなどをして遊んでいるのでもし馬車を走らせ、馬が何かの拍子に暴れ出したら大惨事になるのを防ぐためなのだろう。
だからあれほどの良物件に誰も店を開こうとしたがらなかったのだと思う。(一方ラヴ達はこの四つの条件の他選択肢が無かったためこれにした)
だが……
唸り声を上げながら対策案がないかと考えていると、背後から風がふわっと下から上に吹いた。
この現象は湖の中にいるある動物のせいだと言われているが、未だに解明されていない。
「この下から来る風、『虹幸風』という風は街の名物になっているんですよ」
とランドルが背後に光る湖を見て言う。
坂には花弁が風に乗って踊るように舞う。
美しくまた楽しげだ。
「この風景を見られるのは三ヶ月に一回あるかないかなので運が良かったですね」
シュベールはそのランドルの説明に感心しているがラヴはそれどころではなく、その花弁が舞うように踊るのをみて何かを掴みかけていた。
「ラヴ様どうかしました?」
とランドルが立ち止まっているラヴに声をかけた。
ラヴは何でもないと頭を振り二人の後ろを静かに着いてった。
が、内心後ちょっとでこのもどかしい問題を解決出来そうだったのに、とため息を幾つも零していた。
馬車まで来るとラヴは大人しく乗り頭を悩ませながら揺られる。
――物を簡単に運ぶ……お客にも安心してもらわないと意味がない。
何か何か、星、天文学もついでに広められたら、いや欲張りすぎかな。高品質ってことも分かってもらわないと意味がない。星達にも手伝って貰えたら。物を簡単に運ぶ……
配達とか?でも、どうやって?人は無理ね、自分のことが噂になったら取り返しがつかない。信頼出来る人もいないしな、人……
「人じゃなくても良いか」ポツリとラヴは呟いた。
天文学を広めて且つ信頼できる更に何処でも配達出来る……
ラヴは、フフフ……と奇妙な笑みを零し思わず頬を緩ませながら流れる窓の外を見た。
「どうしたの?」
シュベールがそのラヴの様子を不思議に思い訊ねると、ラヴは少し間を開けてからシュベールの方に向き直りニヤリとして言った。
「また、後で教えます」
読んでいただきありがとうございます(´∀`)♡




