第82話「みんなの書」
光の攻防は、拮抗した。
拮抗——つまり、動かない。白の総量と、百人の読み合いの光が、真っ向から組み合って、軋んでる。均衡は、いつか、体力のある方に傾く。あっちは、奈落の全年月だ。
「核を、叩くしかない。あの獣の——胸だ」
積層の技で見えてた。白い獣の胸の奥に、一際、密度の濃い白がある。あそこが、堆積の芯。あそこに、届けば。
「だが大将、あの白の密度、近づく端から呑まれるぞ! 積層の技でも、単騎じゃ——」
「——単騎で行かせると、誰が言った?」
声は、ガルドだった。
大男は、自分の書を、開いてた。
「ノボよ。儂の書にはな——貴様が、書いてある。洞鬼の三撃。見切りの初日。折れた剣の話をした夜。……全部だ。貴様の背中は、儂の書の中で、もう何百ページも、守られておる」
書の——ガルドの書の、俺の名前が書かれたページが。
淡く、光ってた。
「僕のにもだ」ヴァーノが、書を掲げた。「余白を拾った男の話。四節の夜に、隣にいた男の話」
「私のにも、です!」ミナの書が、開く。「笑った日の話!」
「私のにも」ヴェラの書。「……引き留めなかった男の話」
百人の書が、次々に、開いていった。爺さんの帳簿。リタの見張り番の記録。天幕の交換日記。講習の受講録。——そのどれにも、俺がいた。俺の消えた書には、もう残ってない俺の日々が、百冊に、分散して、生きてた。
お前らが、俺のバックアップだ——いつか、俺はそう言った。
逆、だった。
俺が、みんなの書で、できてた。
光る文字が、ページから、浮き上がる。百冊分の「ノボ」が、光の粒になって、俺の剣に、集まってくる。剣が、白く——白の海とは違う、朝の色の白に、燃え上がった。
『————それは、何だ』
奈落が、初めて、警戒の声を出した。
「————読まれてる側の、俺だ。——百冊ぶんな」
俺は、燃える剣を、構えた。
「消せるもんなら、消してみろ。……こいつを消すには、この場の全員の書を、燃やして回るしかねえぞ」
「「「————道を、開けェェェ!!」」」
百人の咆哮とともに、光の防壁が、前へ——白の海を、割り開いた。
俺は、駆けた。
開いた道を。仲間の書でできた剣を提げて。白い獣の、胸の芯へ。
先輩冒険者Aのメモ
(なし。走れ)




