↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/111

第81話「夜への返答」


 「答えよ、登る者」


 マーネが、繰り返した。


 「外の朝に、何がある」


 俺は、剣を、下ろした。


 後ろで、誰かが息を呑んだ。構わない。これは、剣の間合いの問いじゃない。


 「————何も、ない」


 正直に、言った。


 「外の朝には、たぶん、大したものはない。督促は続く。嘲笑もある。飯は一人分で、部屋は六畳で、桜は年に一回しか咲かない。……お前の夜の方が、豊かだ。認める」


 『ならば——』


 「——だが、あの朝は、俺のだ」


 白の海が、初めて、ざわ、と揺れた。


 「借り物じゃない俺の名前で、俺の字で、俺の飯を食う朝だ。誰かが掘ってくれた夜じゃなく、俺が起きて、俺が作る一日だ。豊かさで負けてても——あれは、俺の、だ。それだけで、帰る理由になる」


 「理解、不能——と言いたいところだがね」


 マーネは、茶を、飲み干した。


 「……その理屈は、知っている。昔、同じことを言った者がいた。あの朝は俺のだ、とね。————その者が朝にどうなったかも、私は、知っている」


 「だろうな。……もう一個、言ってやる。お前は優しさでできてる——それも、認める。ここは、いい夜だった。落ちた俺を、受け止めてくれた。だから」


 俺は、白い獣を、真っ直ぐ見上げた。


 「——だからこそ、出ていくんだ。受け止めてもらった側の礼儀ってのはな、受け止め場に住み着くことじゃない。……立ち上がって、出ていって、いつか誰かを受け止める側に回ることだ。夜の恩は、朝で返す。それが筋だろうが」


 「————」


 「……否」


 マーネの声が、初めて、低くなった。


 「否。否。否——去る者は、皆、そう言った。礼を言い、出ていき、そして、忘れる。夜を。私を。ここで得た全部を、朝の光の中で、なかったことにする。————忘れるんだよ、登る者。人は。どれだけ大事だったものでも」


 最後の一節だけ、声の温度が、違った。


 誰の話をしてるのか、聞く前に——男は、湯呑みを、静かに伏せた。


 「なら、引き留めさせてもらう。————優しさの、全力でな」


 白い巨獣が、腕を、振り上げた。海の全部が、その腕に、集束していく。


 「——ここに、いろ!!」


 「来るぞ!! 総員——」


 振り下ろされた白の大質量を、受け止めたのは、俺たちじゃなかった。


 光だった。


 百人の足元から立ち上った、読み合いの光。ミナの守りが、朗読の声と重なって、今までの何倍もの厚さで、白の一撃を、正面から、受け止めてた。


 「————忘れる、ですって?」


 ヴェラの声が、光の中で、通った。


 「冗談。全部、書いてあるわよ。——この人たちの書に、あなたの夜が。一ページ残らず」


先輩冒険者Aのメモ

(なし。もうちょいだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。