↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/111

第79話「積層」


 白の物量は、それでも、尽きない。


 倒しても、倒しても、海から新しい形が上がってくる。百人の体力は有限で、白の堆積は、奈落の歴史と同じ深さだ。長期戦は、負けだ。


 「削り合いじゃ、こっちが先に尽きるぞ!」「湧き口は!? 核はねえのか!?」——怒号の中で、俺は、海面を睨んでた。


 「本体を、叩く」


 俺は、白の海の中心を見た。海面の一点が、他と違う密度で、渦を巻いてる。あそこだ。あそこに、核がある。


 「道を、こじ開ける。——ついてこられる奴だけでいい」


 言ってから、一拍、置いた。


 ……いや。違うな。それは、独りで完結してた男の、昔の癖だ。癖は、直すと決めたんだ。


 「————訂正する。来てくれ。頼む。……俺一人じゃ、あの渦まで、届かない」


 返事は、五方向から、同時に来た。


 先陣を切って、俺は、白の海へ、踏み込んだ。


 白い魔獣たちが、群がってくる。斬る。避ける。手順。手順。手順。——足りない。密度が上がる。俺の剣速じゃ、間に、合わ——


 その時だった。


 身体の、奥から。


 何かが、溢れた。


 俺の剣が——俺の知らない軌道を、描いた。


 白鎌尾蜥蜴の三体同時の鎌を、半歩の管理だけで、すり抜けてた。俺の足が、俺の教わってない足運びをしてた。俺の左手が、投石の、俺の知らない指のかかりで、白黒犬の眉間を撃ち抜いてた。


 「————なんだ、これ」


 「————お前のだよ」


 並走する声。黒獣だった。俺の黒い獣が、白の海の中を、俺と並んで、駆けてた。


 「消えた書の、技だよ。一回目の消失。二回目。三回目。……書いた文字は消えた。でもさ、言ってたじゃない、お前。身体が覚えたものは、残るって。——残ってたんだよ。全部。三冊分の、お前が」


 消失は、喪失じゃ、なかった。


 積層(せきそう)、だった。


 地層と、同じ理屈だ。消えた日々は、消えたんじゃない。下の層になって——今日の俺を、持ち上げてた。


 白紙の下に、俺は、三層、積もってた。消された俺たちが、今、俺の身体の中で、一斉に、立ち上がってた。


 「——道が、開くぞ!! 続けェ!!」


 後ろで、ガルドの声。ヴェラの剣が、俺の右の死角を払う。ミナの光が、足元を照らす。ヴァーノの風が、背中を押す。Aが——薄れた右腕のまま、左一本の剣で、俺の左を、守ってた。


 白の海が、割れていく。


 中心の渦が、近づく。


 そして、渦の中から——それは、立ち上がった。


 白い、巨大な、獣だった。


 犬でも、鬼でも、竜でもない。二本の足で立つ、人の形に近い、獣。見上げるほどの高さで、輪郭は白く煮え立って、その顔は——


 俺の、顔を、してた。


 波の頂点の頃の、俺の顔を。


 獣は、奈落の全部を震わせる声で、吠えた。


 『——————金を、貸してくれ!!』


 『世界を!! 変えられるんだ!!』



先輩冒険者Aのメモ

(なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。