第77話「白の再演」
白が、止まった——のは、朗読が効いたからだ。
そして、白は、学習した。
「————おい。白、動くぞ! 何か、形を——」
斜面の裾で、白の海面が、盛り上がった。捏ねられるみたいに、絞られるみたいに、無数の白が、形を、取り始めた。
最初に生まれたのは、半透明の、黒っぽい——いや、白い塊だった。地面を舐めるように這う、粘つく動き。
「……影スライム?」
白い影スライム。一体じゃない。十、二十、五十。次いで、白い犬の群れが、白の海から、頭を出した。白黒犬。その後ろで、丸太みたいな腕が、海面を割った。白洞鬼。翼の音。白い小竜の群れ。鎌の尾。白鎌尾蜥蜴——
この物語の、全部の魔獣が。
白く塗り直されて、海から、上がってきた。
「……ははっ」
ヴァーノが、嗄れた声で、笑った。
「懐かしの顔ぶれ、総出演かよ。——走馬灯なら、死ぬ前に見るもんだぜ?」
「逆だ」
俺は、剣を構え直した。分かった。分かってしまえば、これは——
「あれは、読まれたがってる。だから、俺たちに読まれた記憶の形を借りた。形のないものは殴れない。だが——形を取ったなら」
「————殴れる、ということだな!!」
ガルドの雄叫びが、夜明け前の斜面を、割った。
「全員、聞け!! 相手は全部、既読の敵だ!! 定石は、全部ある!! 壁に、書に、あんたらの身体に!! ——総復習だ!! 一体ずつ、読み終えて、閉じてやれ!!」
——総復習が、始まった。
白い影スライムの群れに、投石の雨が降る。天幕の常連たちだ。「核が浮いた時だけ! 硬いもので一撃!」——講習の受講生が、叫びながら石を叩き込む。っぱぁん! っぱぁん! と、白が弾け飛ぶ。
白黒犬の群れには、誰も背を向けなかった。百人が、目を切らずに、半歩ずつ、線を保つ。「走ったら死ぬんだよ!」——俺の台詞を、リグが叫んでた。おい、お前いつの間に来てた。
白洞鬼の丸太が、唸る。
一撃目——ガルドは、もう、避けなかった。
見切りの、その先。三撃目が来る軌道を、来る前に読み切って、大男は、振り抜かれる前の丸太の根本に、拳を、置きに行った。
「——儂はなァ!! 貴様の三撃を!! 百回、見切った男だァ!!」
白洞鬼が、砕けた。
砕けた白が、朝焼けの気配の中で、紙吹雪みたいに、舞った。
恐怖に、名前をつけて、読んで、返す。かつて俺たちを止めた全部が、今は、教材だった。
誰かが、笑いながら戦ってた。
誰か、じゃないな。——全員、だった。
先輩冒険者Aのメモ
※短いぞ。──昔ビビった敵に再会するのは、悪いことじゃねえ。今の背丈が測れるからな。




