第6話「ヴァーノ参上(自称・宮廷魔術師)」
その男は、光とともに現れた。
「──窮地とお見受けした!」
岩棚の上。マントを翻し、宝石のついた杖を掲げ、どこから調達したのか照明の魔術で自分にスポットライトを当てて、男は名乗りを上げた。
「宮廷魔術師ヴァーノ! 縁あって諸君の旅に、この叡智を貸そ──」
足を滑らせた。
「あべしっ」
岩棚から転げ落ちてきた宮廷魔術師(自称)を、俺とガルドは無言で見下ろした。
叡智が鼻血を出していた。
「……大丈夫か」
「無論。今のは着地の高等技術だ。衝撃を全身に分散する」
「鼻に集中してたぞ」
立ち上がった男は、埃を払って、改めてこっちを見た。
装備が、目に痛かった。
金糸の刺繍が入ったローブ。柄に石が三つも嵌まった杖。磨き抜かれたブーツ。どれも新品同様で、どれも一級品で──どれも、傷ひとつなかった。
この深さまで来て、無傷の装備。
つまり、使われてない装備。
「見ての通り、僕は訳あって中央を離れた身でね。ここで会ったのも何かの縁だ。同行してあげてもいい」
「してあげても、ときたか」
ガルドの眉がぴくりと動いた。俺は少し考えて、言った。
「荷物、持てるか」
「……は?」
「人手は欲しい。口はいらない」
「ちょ、待ちたまえ、僕は魔術師だぞ? 荷運びなど──いや、待て、分かった、持つ。持つとも。適材適所という言葉を知らんのかね君は。まあいい、これも人生経験だ」
口はいらないと言ったそばから口が三倍になった。
こうして、パーティが三人になった。
──で、あった。意外な使いどころが。
その日の午後、行き止まりにぶつかった。崩落で道が塞がってる。迂回路を探して二時間、手詰まりになりかけたとき、ヴァーノが崩落跡を見上げて言った。
「ふむ。この積み方は〈古式の水抜き堰〉と同じだね。ということは、あの一番でかい岩は飾りだ。支えてるのは右下の小さいやつ」
「……なんで分かる」
「宮廷図書館で建築史を三年読んだ。まあ僕ほどの知性になると」
半信半疑で右下の小岩を突いたら、崩落跡に人ひとり通れる隙間が空いた。
通れた。全員、無傷で。
「ほらね?」
ヴァーノは胸を張った。張りすぎて反ってた。
……悔しいが、こいつの頭には何かが詰まってる。何が本物で何がハッタリなのか、境目が見えないのが問題なだけで。
その夜。
焚き火の番を交代しようと起きたとき、見た。
ヴァーノが、焚き火から離れた岩陰で、自分のぼうけんのしょを開いていた。
何かを書いて。
じっと見て。
消した。
また書いて。
また、消した。
声はかけなかった。かけちゃいけない気がした。
あいつの書は、今日もたぶん、白いままだ。
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。すごい奴に見える技術より、転んだあとに笑える技術のほうが、一生使うぞ。




