第50話「世界線の岬」
岬は、本当に岬だった。
最上層の北端。岩の大地が、すっぱりと途切れて、その先は——霧。白い、底のない霧の海。岬の突端だけが、細い舌みたいに、霧の中へ突き出してる。
そして、突端に近づくにつれ、霧の中に、見え始めた。
景色が。
無数の。
泡みたいに浮かんでは消える、無数の景色。どこかの街。どこかの部屋。どこかの奈落。そのどれにも——俺が、いた。
「うわ、っ……」ヴァーノが、後ずさった。「お、おい、今の見たか。僕がいた。すげえ痩せた僕が、どっかの牢屋みたいなとこに」
「儂も見えたぞ。……腕のない儂が、酒場で管を巻いておった」
ミナは、何も言わなかった。何かを見たらしく、袖を、久しぶりに、強く掴んでた。
「——よう。来たかw」
岬の突端の岩に、Aが座ってた。
フードは、被ってた。三人の手前だろう。
「A! あんた、こんなところで何を」
「番人みてえなもんだ、ここのな。……いいか、お前ら。岬の決まりを言う。よく聞け」
Aは、指を三本、立てた。
「一つ。見えるのは『ありえた道』だ。作り物じゃねえ。全部、どこかで本当に進行してる、本物の道だ。
二つ。干渉はできねえ。声も届かねえ。手も届かねえ。見るだけだ。
三つ。——これが一番大事だ。長く見るな。他人の道を見続けるとな……自分の道が、薄くなる」
薄くなる。
その言葉に、俺は、Aの右手の袖を見た。Aは、視線に気づいて、笑った。
「ま、そういうこったw」
「……見るのに、条件は」
「霧に向かって、問いを一つ、持ってくことだ。岬は、問いに応える。漠然と覗けば、漠然とした地獄を無限に見せられる。——で?」
Aは、フードの奥から、俺を見た。
「お前の問いは、何だ」
俺は、霧の海を見た。
無数の俺が、泡の中で、生きたり、死にかけたりしてる海を。
問いなら、決まってた。門に弾かれた日から、ずっと喉に刺さってるやつが。
「——俺が、一番強くなった道を見せろ」
霧が、動いた。
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。明日から数回、しんどい回が続く。──途中で閉じてもいい。ただ、戻ってこい。それだけだ。




