第32話「二度目の消失」
予兆は、静かに来た。
枠線の短縮。掠れの加速。書き味の、あの、砂を噛む感じ。観測表の数字が、揃って閾値を越えた。
「——来る。三日以内だ」
夕食の卓で、俺がそう言うと、パーティは戦争準備に入った。といっても、派手なことは何もない。ガルドが戦闘定石の写しを読み上げて最終確認。ミナが回復定石の照合。ヴァーノが地図の写しを広げ、俺が身体で覚え直すべき手順の優先順位を組む。淡々と。手順通りに。
二日後の朝、俺の書は、白くなった。
そして——三日後の夕方、俺は前線に戻っていた。
仲間の書からの写し戻し、一日半。身体の技術の確認、半日。街の依頼に復帰、三日目。前回三割だった再建は、今回、初動三日で五割を超えた。分散保存が、設計通りに回った。
街は、騒然となった。
「白紙になったんだろ!? なのにもう依頼を!?」「三日だぞ、三日」「予兆から対策まで、全部あの講習の通りにやったらしい」「——白紙病に、勝った男だ」
勝った男。
その呼び名が、また独り歩きを始めた。講習の席は、再び満員になった。サルヴァの聖印を外して来る者も、ぽつぽつと現れた。数字で負けた戦いを、実演が拾い返した格好だった。
順調だった。何もかも、設計通りだった。
◇
その夜の食堂で。
俺は席が離れてたから、あとになってミナから聞いた話だ。
ヴェラが、食堂の爺さんに、ぽつりと尋ねたらしい。
「……ねえ。彼、消えた日の夜——泣いたと思う?」
爺さんは、厨房の手を止めて、少し考えて、答えたそうだ。
「いいや。飯を食って、洗い場の手伝いをして、鍛錬して、寝とったよ。大したもんじゃ」
「……そう。大したものね」
ヴェラは、それだけ言って、席を立った。
その顔から表情が消えていたことに、気づいたのは、ミナだけだった。
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。立ち直りの早さは、才能だ。──ただな。早すぎる奴を見たら、拍手の前に、隣に座ってやってくれ。




