第24話「二回目」
白紙から三日。
俺の書には、四十ページの記録が戻っていた。
仲間の書からの写し戻し。街の壁の定石。身体が覚えてた手順の再言語化。失った蓄積の、およそ三割。数字にすると絶望的に聞こえるが、逆から言えばこうだ——三日で、三割。
三日間は、こうだった。
初日、仲間の書からの写し戻し。ガルドの書の戦闘定石には、あいつの感想(「ここで儂が吠える」)が勝手に挟まってて、写しながら二回笑った。ミナの書は字が綺麗すぎて、写経の気分になった。ヴァーノの地図には、店の候補地に印がついてた。気が早い。
二日目、街の壁を回った。俺の貼った定石を、俺が写す。妙な気分だった。貼った時の俺は消えたのに、貼った紙は残ってて、それを今の俺が読んでる。分散保存ってのは——時間差の、自分との共同作業でもあるらしい。
三日目、身体の再言語化。素振りしながら、手が覚えてる型を言葉に起こす。夕方には、指がインクだらけになった。
街の反応も、妙だった。すれ違う奴が、そっと頷いていく。パン屋が一つ多く寄越す。壁の前で子供が「これ、白紙から三日の人の字だぜ」と自慢げに解説してた。誰だお前は。
「……化け物か、貴様は」
ガルドが、俺の再建計画表を見て唸った。
「化け物じゃない。手順だ。消えるのは書いた文字で、書いた俺は消えない。なら、もう一回書けばいい。二回目は、最短ルートを知ってる分だけ速い」
言いながら、引っかかった。
二回目は、楽——誰かも、そう言ってたな。
◇
夜、宿の屋根にAがいた。定位置になりつつある。
「順調そうじゃんw」
「……なあ、A。あんた、消えた朝の俺を見て言ったよな。『二回目は、少しだけ楽だぞ』って」
「言ったな」
「あれは一般論か? それとも——経験談か」
Aは、答えなかった。フードの奥で、夜空だか天井だか分からない灰色を見上げてた。
「なあ、A。あんた——何回、消えた?」
長い沈黙のあと、Aは笑った。
「……さあなw 途中から、数えるのやめたわ」
数えるのを、やめた。
その言い方が、冗談に聞こえなかったのは、初めてだった。
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。全部失った翌日にやることは、嘆く事でも探す事でもない。──残ってる物の、棚卸しだ。




