幕間「聖剣ノーカン」
中継街の北の岩窟に、聖剣がある——という話は、依頼帰りの酒場で聞いた。
台座に刺さった古の剣。曰く、抜いた者は無敵になる。曰く、選ばれし者にしか抜けない。曰く、これまで千人が挑んで、千人が抜けなかった。
「行くぞ!!」とガルドが言い、「一攫千金じゃん」とヴァーノが言い、「無敵……!」とミナが目を輝かせ、ヴェラが「野次馬ね」と正確に言い、俺たちは行った。野次馬だった。
◇
聖剣は、本当にあった。
岩窟の奥、光の差す台座に、白銀の剣が、それはもう「抜いてください」という角度で刺さってた。
『——よくぞ来た、冒険者たちよ』
喋った。念話らしい。声が、無駄にいい。
『我を抜きし者は、無敵の力を得る。さあ、選ばれし者よ、我が柄に触れるがいい』
「儂だ!!」
ガルドが真っ先に掴んだ。全体重。全筋力。顔が洞鬼より赤くなった。
びくとも、しなかった。
『——汝ではない』
「ぬがァァァ!!」
「どいてろ脳筋。こういうのはね、交渉なんだよ」
ヴァーノが進み出て、懐から銀貨の袋を出し、台座にそっと置いた。
「——金なら、あるよ?」
『…………』
聖剣が、無視した。念話が完全に沈黙した。剣に無視される男を、俺は初めて見た。
「ノボさん、ノボさんはやらないんですか!?」
「その前に、確認したいことがある」
俺は台座の前に立った。
「聖剣。『無敵』の定義を言え。物理攻撃への耐性か? 状態異常もか? 検証データはあるか?」
『……は?』
「あと維持の話だ。あんた、研げるのか? 刃こぼれしたらどこに出す? 専用の砥石が要るなら入手経路は? 重量は? 逃げるとき邪魔にならないか?」
『な……抜けば分かる!! 我を抜けば全てが——』
「抜かないと分からないのか。つまり、検証できないってことだな」
『き、貴様——!!』
「検証できない無敵より、毎晩研げる短剣だ。……悪いな。うちの装備欄は、手入れできる奴しか採らない」
『待て!! おい!! 千年待ったんだぞこっちは!! ちょっとくらい抜こうとしろ!!』
聖剣が完全に素になってた。声の良さが台無しだった。
帰ろうとした、そのときだった。
「わっ」
ミナが、台座の段差でつまずいた。とっさに、手が、柄を掴んだ。
すぽん。
「「「「————」」」」
抜けた。
岩窟が、静まり返った。ミナが、白銀の剣を握ったまま、涙目で固まってた。聖剣の念話が、数秒、完全に停止して、それから。
『——————今のは、ノーカン!!』
「え、ええええ!?」
『違う!! 今のは違う!! 選ばれ方が違う!! つまずいて抜くな!! 千年の伝説をつまずいて抜くな!! 戻せ!! 早く戻せ!!』
ミナは涙目のまま、そーっと剣を戻した。すぽん。
『……こほん。——我を抜きし者は、無敵の力を得る。さあ、選ばれし者よ』
何事もなかったかのように、声のいい念話が再開した。俺たちは無言で岩窟を出た。
◇
後日、Aにこの話をしたら、あの男は腹を抱えた。
「あー、あれなw 百年前から、誰か抜けそうになるたび『ノーカン』つってんだわ、あいつ」
「……無敵の力ってのは」
「さあな。誰も最後まで抜いたことがねえから、検証されてねえw ——お前の判断で合ってるよ。手入れできねえ伝説より、研げる短剣だ」
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。「これさえあれば人生無敵」って商品な、大体ノーカンって言うぞ、あとで。




