第15話「見栄の鎧」
黄金の一団と遭遇したのは、大階段への分岐路だった。
まぶしい。まず、まぶしかった。
六人全員が黄金の鎧。飾り紐、房付きの槍、家紋入りのマント。歩くたびに金具がじゃらじゃらと鳴る。中層のど真ん中で、祭りの行列みたいな音がしてた。
そして、全員が地面に座り込んでいた。
「……おおい、そこの! すまんが手を貸してくれんか!」
聞けば、崩落で本隊とはぐれ、この分岐で三日、動けずにいるという。理由は単純だった。鎧が重くて、崖の迂回路を登れない。
「脱げばいいのでは?」とミナが小声で言った。正論すぎて誰も返せなかった。
脱がないのだ、彼らは。よく見れば水も食料も尽きかけてるのに、鎧の金具ひとつ緩めてない。
そのやり取りの間、ヴァーノの様子がおかしかった。
フードを目深にして、一団から顔を隠すように、岩陰に半身を入れてる。
「──ん? おい、そこの魔術師殿」
遅かった。一団のリーダー格、恰幅のいい男が、ヴァーノを指した。
「その杖の意匠……見覚えがあるぞ。貴公、ヴァーノではないか? ほれ、あの、宮廷魔術師の」
「……や、やあ! ドムス卿! 奇遇だなあ!」
ヴァーノの声が、一段高かった。
「宮廷魔術師『の』?」ヴェラが正確に聞き咎めた。
「うむ? いや、確かこの男は宮廷魔術師の——」
「宮廷魔術師の、筆頭候補と呼ばれた男! それが僕だ!」
ヴァーノが割り込んだ。声の大きさで塗り潰すみたいに。
「候補『と呼ばれた』……? 待てよ、儂の記憶では貴公は確か、宮廷の書庫の——」
「書庫も含めて宮廷! 細かいことはいいんだ! それより卿、お困りだろう! この叡智が突破口を見つけて進ぜよう!!」
汗が、こめかみを伝ってた。焚き火もないのに。
◇
結局、突破口を見つけたのは俺だ。
といっても大したことはしてない。彼らの荷から縄を集めて滑車を組み、鎧を着たまま一人ずつ吊り上げる方式にした。鎧を「脱がせない」で解決する方法を。
「脱げば早いのに」とはもう誰も言わなかった。三日間水が尽きても脱がなかった連中だ。あの黄金は、たぶん皮膚なんだ。剥がしたら、血が出る類の。
ドムス卿は俺の手を握って何度も礼を言い、一団はじゃらじゃらと登っていった。
その夜。
俺は夜番の途中で、ヴァーノがいないことに気づいた。
探すと、いた。少し戻った岩場。昼間の一団が野営してる灯りの方へ、一人で歩いていくヴァーノの背中が。
物陰から見えた。ヴァーノがドムス卿の前で、深々と、頭を下げてる。
何かを受け取ってる。小さな袋。金の音がした。
「──いやあ、助かるよ卿! なに、すぐ返すさ。僕を誰だと思ってる? 金なら、あるよ? あるとも。ただ今は手元にないだけで」
軽い声が、夜気に浮いてた。
昼間より、ずっと軽く。軽すぎて、折れそうな声だった。
俺は、声をかけずに戻った。
見なかったことに——は、しなかった。書に書いた。事実だけ。
——ヴァーノ、夜、借りた。
それが何の借りの、何個目なのか。俺はまだ知らなかった。
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。脱いだら死ぬ鎧ってのがある。──他人のそれを、笑って剥ぐな。




