表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/23

第15話「見栄の鎧」


 黄金の一団と遭遇したのは、大階段への分岐路だった。


 まぶしい。まず、まぶしかった。


 六人全員が黄金の鎧。飾り紐、房付きの槍、家紋入りのマント。歩くたびに金具がじゃらじゃらと鳴る。中層のど真ん中で、祭りの行列みたいな音がしてた。


 そして、全員が地面に座り込んでいた。


 「……おおい、そこの! すまんが手を貸してくれんか!」


 聞けば、崩落で本隊とはぐれ、この分岐で三日、動けずにいるという。理由は単純だった。鎧が重くて、崖の迂回路を登れない。


 「脱げばいいのでは?」とミナが小声で言った。正論すぎて誰も返せなかった。


 脱がないのだ、彼らは。よく見れば水も食料も尽きかけてるのに、鎧の金具ひとつ緩めてない。


 そのやり取りの間、ヴァーノの様子がおかしかった。


 フードを目深にして、一団から顔を隠すように、岩陰に半身を入れてる。


 「──ん? おい、そこの魔術師殿」


 遅かった。一団のリーダー格、恰幅のいい男が、ヴァーノを指した。


 「その杖の意匠……見覚えがあるぞ。貴公、ヴァーノではないか? ほれ、あの、宮廷魔術師の」


 「……や、やあ! ドムス卿! 奇遇だなあ!」


 ヴァーノの声が、一段高かった。


 「宮廷魔術師『の』?」ヴェラが正確に聞き咎めた。


 「うむ? いや、確かこの男は宮廷魔術師の——」


 「宮廷魔術師の、筆頭候補と呼ばれた男! それが僕だ!」


 ヴァーノが割り込んだ。声の大きさで塗り潰すみたいに。


 「候補『と呼ばれた』……? 待てよ、儂の記憶では貴公は確か、宮廷の書庫の——」


 「書庫も含めて宮廷! 細かいことはいいんだ! それより卿、お困りだろう! この叡智が突破口を見つけて進ぜよう!!」


 汗が、こめかみを伝ってた。焚き火もないのに。


 ◇


 結局、突破口を見つけたのは俺だ。


 といっても大したことはしてない。彼らの荷から縄を集めて滑車を組み、鎧を着たまま一人ずつ吊り上げる方式にした。鎧を「脱がせない」で解決する方法を。


 「脱げば早いのに」とはもう誰も言わなかった。三日間水が尽きても脱がなかった連中だ。あの黄金は、たぶん皮膚なんだ。剥がしたら、血が出る類の。


 ドムス卿は俺の手を握って何度も礼を言い、一団はじゃらじゃらと登っていった。


 その夜。


 俺は夜番の途中で、ヴァーノがいないことに気づいた。


 探すと、いた。少し戻った岩場。昼間の一団が野営してる灯りの方へ、一人で歩いていくヴァーノの背中が。


 物陰から見えた。ヴァーノがドムス卿の前で、深々と、頭を下げてる。


 何かを受け取ってる。小さな袋。金の音がした。


 「──いやあ、助かるよ卿! なに、すぐ返すさ。僕を誰だと思ってる? 金なら、あるよ? あるとも。ただ今は手元にないだけで」


 軽い声が、夜気に浮いてた。


 昼間より、ずっと軽く。軽すぎて、折れそうな声だった。


 俺は、声をかけずに戻った。


 見なかったことに——は、しなかった。書に書いた。事実だけ。


 ——ヴァーノ、夜、借りた。


 それが何の借りの、何個目なのか。俺はまだ知らなかった。



先輩冒険者Aのメモ

※現実世界の諸君へ。脱いだら死ぬ鎧ってのがある。──他人のそれを、笑って剥ぐな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ