第14話「パーティ編成」
空っぽ、の答えは保留にさせてもらった。
「分からん」と正直に言ったら、ヴェラは「そう」とだけ返した。追撃はなかった。この人は、境界線の引き方が正確だ。踏み込む場所と、待つ場所を分けてる。
それはそれとして——五人になったパーティは、強かった。
〈針の回廊〉。中層の難所だ。天井から岩の針が生え、床は崩れやすく、針耳蝙蝠の群れが音に反応して降ってくる。平均的なパーティで、突破に二日。死人が出る率、三割。
俺たちは、半日で抜けた。
編成はこうだ。先頭ヴェラ。半歩の管理ができる者だけが、針の間を最短で縫える。二番手ガルド。崩れる床は、頑丈な奴が先に踏んで確かめるのが一番早い(本人も納得済みだ。「儂の頑丈さが戦術だと!?」と最初は怒って、次の瞬間には誇ってた)。中央にミナ。全体の傷を静かに閉じ続ける。俺は四番目で全体の呼吸を計り、最後尾のヴァーノが光の術で蝙蝠の感覚を撹乱する。
誰も、傷ひとつ負わなかった。
回廊の出口で、後続のパーティが呆然とこっちを見ていた。「……あの縦列、なんだ?」「五人であの速度は無理だろ」「先頭の剣士、足音がなかったぞ」
悪くない気分——のはずだった。
◇
その夜の野営は、賑やかだった。
ガルドが今日の武勇を三割増しで語り、ヴァーノがそれを五割増しに盛り直し、ミナが真に受けて感心し、ヴェラが正確な数字に訂正して二人がしおれる。いつもの流れだ。
ちなみに今夜のミナは、感心のあまり自分の椀を膝にひっくり返した。粥は救えなかった。彼女の名誉のために書いておくが、俺の椀から半分分けたら、世界で一番幸せそうな顔で食った。安い幸福——じゃないな。安く見えるだけの、ちゃんとした幸福だ。
途中、ヴァーノが「岩壁の鉱脈の光ってさ、瞬くよな。あれ、なんでだろうな」と言い出して、ガルドが「岩が呼吸しておるのだ」と断言し、ミナが「岩さんも生きてるんですね……」と感動し、ヴェラが「気流の屈折よ」と一刀両断して、それでも誰も結論を求めず、話はそのまま流れて消えた。
どうでもいい話だった。本当に、どうでもいい。……なのに、ああいう話をしてる間の焚き火は、なんでか、少しだけ暖かい。検証のしようがない話だ。
俺は少し離れた場所で、明日の配置を書に書き出していた。
ヴェラの消耗が今日は二割増しだった。先頭は明日、前半だけにして後半は俺が代わる。ガルドの盾の縁が欠けてた。次の拠点で交換。ミナの術の回数が限界に近い。明日は戦闘を三回以下に抑える経路を——
「ねえ、ミナ」
焚き火の方から、ヴェラの声がした。聞くつもりはなかったが、聞こえた。
「は、はい?」
「彼——ノボって、あなたの好きな食べ物、知ってると思う?」
「……え?」
ミナの、きょとんとした声。
「えっと……どう、でしょう? 私の術の回復量と、限界回数と、疲れが出る時間帯は、たぶん全部知ってると思いますけど……」
「そうね。全部知ってるでしょうね」
ヴェラの声は、静かだった。
「好きな食べ物以外、全部」
手が、止まった。
書の上で、ペンが止まってた。ミナの好きな食べ物。知らない。ガルドの好きな酒の肴。知らない。ヴァーノが夜中に書に何を書いては消してるのか——知ってる。知ってるが、聞いたことはない。
俺が知ってるのは、全部、編成に要る情報だった。
「……別に、責めてないわ」
いつの間にか、ヴェラが隣に立っていた。
「あなたの采配で、今日、誰も死ななかった。それは本物。ただ」
彼女は焚き火の輪を——笑ってるガルドたちを、見た。
「あなたの地図には、あの人たちの位置は載ってるのに。あの人たちの顔が、載ってない気がしただけ」
先輩冒険者Aのメモ
※現実世界の諸君へ。隣の奴の好物、言えるか? ──言えなかった奴は、明日聞け。攻略情報だぞ、あれは。




