第95話「最後の隊列」
出発の朝は、晴れてた——という言い方が、奈落でできる日が来るとはな。
天井の透けた朝色の下、最終区画の大斜面を、俺たちは登った。
最後の隊列は、四人だった。先頭ガルド。中衛ヴァーノ。ミナ。しんがりに、俺。ヴェラの場所は、空けたまま登った。空けたままで、隊列は完成してた。いない人の場所を空けて歩けるのも、強さの一つだと、もう知ってる。
魔獣は、出なかった。
一体も、だ。Aの言った通りだった。ここの魔獣は「登りたくない理由」の数だけ寄ってくる——俺たちには、もう、一つもなかった。
登りの途中、一度だけ、短剣で素振りをした。三冊分の軌道は——来なかった。来ないことを、確かめたかったんだ。腕の中には、俺が自分で積んだ分だけが、残ってた。
「……ん。俺の腕だ」
悪くなかった。むしろ、軽かった。
道中は、静かで、うるさかった。
ガルドが武闘大会の作戦を語り、ヴァーノが店の内装で悩み、ミナが花の配置図を見せて回り、俺は三人の話に、相槌の一つずつを、ちゃんと打った。いい位置から見てるんじゃなく、中から聞いた。最後の登りの間、ずっと。
『……いい隊列だなあ』
内側で、声がした。
『俺の周回にはよ、この登りは、なかったんだわ。……いいもん見せてもらってるわ、家賃代わりに』
うるせえ。泣くだろ、w。
……移ってる。あいつの符丁が。まあ——家賃の一部ってことに、しといてやる。
登り切る、最後の百段の手前で、ガルドが足を止めた。
「——ノボよ。ここから先は、儂が先頭ではいかん気がするのだ」
「……なんでだ」
「最下層から登ってきた男の物語であろう、これは。————締めの一段は、貴様が踏め」
三人が、道を、空けた。
俺は、先頭に立った。
一段。また一段。膝が覚えてる登り方で。岩を一つ動かした日の筋肉で。百人の書に書かれた背中で。三冊分の積層と、一人分の先輩を、載せて。
最後の一段を、踏んだ。
——光が、あった。
先輩冒険者Aのメモ
『※現実世界の諸君へ。中の人からお届けしてるぞw ——長い登りの締めの一段はな、誰かに譲ってもらうもんなんだわ。覚えとけ』




