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お嬢様、その正義は許可できません。  作者: 葱市場
第二章  お嬢様、世界は広いので御座います。

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第四十話 お嬢様、その判決は許可出来ません!


「我、被害者である!」


 部屋のドアが開き、光が溢れ、抑揚の効いた声が部屋に響いた。

 ラティは楽しそうな笑顔を浮かべ、手を叩いている。

 ヴァルターは唖然とし、ヴィオレッタは額に手を当て呆れた顔をし、セバスチャンは……


「……はぁぁあああっ?」


 ——驚愕していた。


 ——鳥の登場後、私が思考停止している僅かな間でした。

 ふと気付くと、いつの間にか場所はエントランスへと変わっておりましたが……そこは私の知っているエントランスでは無くなっておりました。

 私は中央付近に立ち、正面には一段高い場所に設置された椅子に旦那様が座り、私から見て左側の椅子にはお嬢様と鳥が座っており、右側にはヴィオレッタ様が静かに座っておりました。


「……これは、何の茶番でしょうか?」


 私は尤もな疑問を口にします。


「被告人は静粛に!

 発言は許可を得てするように!」


 お嬢様が興奮気味に叫びます。

 ……とても楽しそうですね?

 興奮したお嬢様が、ぴょんぴょん跳ねるかの様な足取りで旦那様と私の丁度中間に出て来ました。

 そしてわざとらしく咳払いを一つすると、ドヤ顔で私を指差しました。

 ……人様を指差してはいけませんと、先程言われたばかりではありませんか?

 ヴィオレッタ様の目が、鋭さを増しておりますよ?

 あと旦那様、お嬢様を見て目尻が下がっておりますが、親バカも大概にしなさいと、先日ヴィオレッタ様に叱られたばかりと聞いておりますよ?


「——と、言う事で、私はセバスチャン氏の有罪を主張致しますわ!」


 現実逃避をしている間に、お嬢様の主張は終わり、何やら私は有罪になるらしいです。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい茶番と思われますが、こちらとしては言い掛かりも良い所、しっかりと反論して参りましょう。


「……発言、宜しいでしょうか?」


「あ〜なんだ、被告人は質問に答える以外では発言を禁ずる?的な感じらしい。

 ……すまんな、セバス」


 そう言いながら目を合わせようとしない旦那様。


「……」


 ……呆れました。

 これでは、最初から冤罪を作る為の裁判ではないでしょうか?

 理不尽極まりないとはこの事で御座います。

 そう私が嘆いていたその時、救世主が現れました。


「……では、私がセバスチャンの弁護を務めましょう」

 

 暫く黙って見ていたヴィオレッタ様が立ち上がり、静かにそう述べると、お嬢様は驚愕に固まり、鳥は鳥肌を立てました。


「では、まずは原告の鳥さんの代理人であるお嬢様、訴えをどうぞ」


「は、はいっ!

 えっと、被告人セバスチャンは、告訴人とりっさんに、報酬を約束しての雇用契約?を、結びました。

 そして、とりっさんが契約を履行?したのに、セバスチャンは報酬を払わずに、言葉巧みに言い逃れている状態です。」


 辿々しく原稿を読むお嬢様。

 ……もう少し国語の勉強時間を増やすべきですね。

 

「これは明確な詐欺行為であり、報酬が二人の未来に関する大事な事であった為、結婚詐欺に該当?すると断定致しますわ。

 よって、とりっさんの乙女心を踏み躙り、その純情を弄んだセバスチャンには、責任を取って貰う意味でも、とりっさんと夫婦の契りを交わして頂きますわっ!」


「ちょっと待って下さい!」


 あまりな暴論に、私は思わず制止の声を上げますが、


「被告人は静粛に!」


「……っ!」


 ——お嬢様に顎で促された旦那様が告げて来ます。

 

 (……いやいや、流石に無理が過ぎるというものです。

 何故、無実の私がこんな目に……)


「……旦那様、異議を申します」


 そんな中、颯爽と異議を申し立てるヴィオレッタ様、さすがは神です。

 私は期待に満ちた目で、ヴィオレッタ様を心から応援致します。


「うむ、異議を認め、発言を許可する」


 私の時とは違い、自分から発言する旦那様。

 何となく、忠義について考え直したい気分で御座います。


「まず、契約内容の開示と、ことの真偽を確かめる為にも、被告人の発言許可を求めます」


「……許可する。

 被告人は嘘偽り無く、誠実に話す様に!

 それと、質問への答えのみ、発言を許可する」


「……では、契約内容の開示を」


 ヴィオレッタ様がそう促すと、お嬢様が鳥に水を向けます。


「とりっさん?」


 お嬢様の言葉を契機に、お嬢様の近くまで躍り出た鳥が、その翼を広げて自信満々に話し始めました。


「では、我が説明してしんぜよう。

 主人から依頼を受けた我は、報酬として愛の証であるでえとなる夫婦の契りを求め、主人はそれを了承した。

 これは立派は契約であるぞ?」


 一息付き、ドヤ顔で周りを睥睨する鳥に、淡々とヴィオレッタ様が質問します。


「……でえとが、夫婦の契りでございますか?」


 その質問に、鳥は少しだけ自慢げに答えます。


「我、そう聞いたぞ!

 でえとなるは、互いに想い合う男女がより良き未来を作る為に行う、神聖なる行為であるぞ?」


「……まぁ、間違ってはおりませんね」


 鳥の主張に、ヴィオレッタ様が表情を変えずに肯定するかの様な返事を返しました。

 その発言は、私には信じられないものでした。


「ヴィオレッタ様?」


 思わず声が溢れますが、その私の声を掻き消すかの様に、お嬢様が勝ち誇った声色で宣言なさいます。


「弁護人のヴィオレッタも、認めておりますわ!

 さあお父様、私の正義を認める判決をっ!」


「あ、あぁ……」


「旦那様っ?」


 迷う旦那様に不穏な気配を感じている私の目の前には、勝利を確信した鳥が、まさに踊る様に翼と尾羽を広げて高らかに宣言致します。


「これで主人と我は夫婦よっ!

 いざ、はねむぅんとやらに行こうぞっ!」


「……あぁ、こんな馬鹿な……」


 有り得ない結末に、私は膝から崩れ落ちそうになるのを耐えながらも、絶望感がひしひしと押し寄せて来ていました。

 その瞬間に、


「旦那様、少々お待ちください。

 まだ真偽は定かでは御座いません!」


 そう言うヴィオレッタ様に、私は『我が神』の姿をみました。


「セバスチャンに伺います。

 原告の主張する内容を認めますか?」


「いえ、認めません」


「……なっ!」


「往生際が悪いですわよ?」


「……お黙りなさい、まだ審議の途中です」


「「……ひぃっ!」」


 なんか……鳥は兎も角、お嬢様が小物臭く感じてしまいますね。

 ……ちょっとだけ複雑な気分です。


「では、改めてお聞きしますが、どこを認めませんか?」


「……私は、あくまでも『でえとを検討する』と申しただけで御座います。

 故に、私は『検討した結果』今回はご縁が無かったと思っております」


「なるほど、確かに検討するだけなら一理ありますね。

 つまり、確約をした訳では無い以上、原告の契約には当たらないと思われます故……。

 旦那様、こちらは情状酌量の余地があると主張致します!」


 さすがは我が神です。

 情状酌量を主張して相手の主張を叩くとは……はて、情状酌量とは?


「……ふむ、弁護人はこう言っておるが、ラティはどう考える?」


「確かに、とりっさんにも落ち度はありますわね」


「……なっ?

 小娘よ、我被害者ぞ?」


 旦那様の問い掛けに、あっさりと不備を認めたお嬢様を見て驚く鳥でしたが——


「そうですわ、落ち度はあっても被害者は被害者ですわ。

 ……誠意ある対応を求めますわっ!」


「誠意ぞっ!」


 すぐにお嬢様が反論した為、翼をバタつかせて同調しております。

 そして、ヴィオレッタ様が意外な反応を——


「……なるほど、確かに一理ありますね。

 では、事の発端となったでえとを誠意を持って行う。

 これの結果次第では無罪とする。

 この辺りで如何ですか?」


 ——不味い!

 非常に不味い流れで御座います。

 何とかして流れを変えなければっ!


「……それならば、とりっさんの——」


「——お待ち下さい!」


「被告人は静粛に!」


「いいえ黙りません!

 私の名誉がかかって——」


「——セバスチャン、大人気ないですよ?

 黙って判決を受けなさい。」


「お父様、判決を!」


「お待ちを、お待ち下さい旦那様!

 私は、鳥とでえとなぞ……」


「……ヴァルター・フォン・アイゼンフェルトが判決を言い渡す。

 原告、鳥の訴えと、弁護人ヴィオレッタの主張を聞き入れ、被告人セバスチャンにでえとの約束の履行を命ずる。

 なお、でえとの内容は弁護人と原告代理人ラティ、この両名の審査をもって判断し、その内容が不誠実なものであった場合、更なる判決を言い渡すものとする」


「……控訴を!

 再審を求めます!」


 私はなりふり構わずに、喉が張り裂けんばかりに必死に訴えますが、


「セバスチャン、領主裁判に置いて再審は無いことを忘れているのですか?

 それと、口先だけのやり方は、お嬢様の教育に良くありませんよ?」


 そう言ってニコリと微笑むヴィオレッタ様の笑顔に私は……


「ああ……」


「私たちの勝利ですわっ!」


「我勝訴ぞっ!」


 盛り上がるラティと鳥を見る余裕もないセバスチャンは、ただただ四つん這いで床を眺めるだけであった。



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