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お嬢様、その正義は許可できません。  作者: 葱市場
第二章  お嬢様、世界は広いので御座います。

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第三十九話 お嬢様、人はそれを冤罪と申します!


その日、屋敷の裏庭で一羽の鳥が憤怒の炎を燃やしていた。


「……鳥よ、また火事になる故、火力を落とせ」


 池に半分体をつけた亀が、迷惑そうに鳥を見ながら注意すると、近くに浮かんでいた魚も抗議する。


「そうじゃ、このままではワシ、良い感じに焼き魚になってしまうわ!」


 そんなやり取りを眠そうな目で見ながらいぬっさんがポツリと言う。


「……暑苦しいのは流行らないよ?」


 三者三様に非難する亀、魚、犬を横目で睨み付けながらいつもの池にある岩に立ち、翼を広げ鳥が吠える。


「これは結婚詐欺と言える案件ぞ!

 いくら主人といえど、契約は絶対!

 蔵六よ、そうであろう?」


 鼻息荒く問う鳥を見て、面倒臭そうに亀が答える。


「……内容にもよる故、なんとも」


「ならば、魚ならばわかるであろ?」


 ぷかぷかと浮きながら興味無さげに、


「ん〜、ワシ、契約とかせぬからのぅ」


「ならば、若手の犬よ!」


 いぬっさんは後ろ足で首筋を掻きながら、欠伸混じりに答える。


「……ボク、そう言うの興味ないよ?」


「……我、泣くぞ?」


 仲間の態度に尾羽を垂らして落ち込む鳥に、一筋の光明が差した。


「何の話をなさっているの?」


 鳥が振り返ると、ランニング中のラティが興味津々な顔で立っていた。


「小娘、セバスチャンが我に酷い事したのだ!

 我は……我の純情を弄ばれたのよ……」


 ラティを認識した鳥は、即座に泣きながら身振り手振りを交え、大袈裟に訴えた。

 その姿に、亀は呆れて池に入り、魚は巻き込まれない様に姿を隠した。

 そして、そんな鳥を見たラティは——


「……とりっさんの乙女心を踏み躙るとは……それは即ち悪です!

 この、ラティ・フォン・アイゼンフェルトの名にかけて、たとえ相手があのセバスであろうと、この私の正義を示して見せますわっ!」


 ——大変激っていた。


「……これって、絶対碌な事にならないよね」


 いぬっさんだけが、未来を予測していた。


 ——その数日後、朝の散歩を終えたセバスチャンが屋敷の食堂で朝食をとろうとした時、その異変に気付いた。

 とても小さな事ではあったが、明らかにメイド達の態度にぎこちなさや、軽い蔑視等を感じたのだった。


 (……はて、何故この様な……私は特に何もしていないと思いますが?)


 多少の困惑を感じながらも、セバスチャンは朝食を食べ終わると、屋敷の主人であるヴァルターの執務室へと向かった。


「……入れ」


 いつも通りに執務室のドアをノックすると、いつもより固い声色の返事が返って来た事に、違和感を感じながらも入室したセバスチャンは、違和感の正体を知った。


 (……これは、何かがありましたか)


 部屋にいる人物を見たセバスチャンが内心の警戒度を上げる。

 いつもの執務机ではなく、応接用のソファに腰掛けたヴァルターが、対面に座るヴィオレッタとラティをチラ見しながらセバスチャンに声をかけて来た。


「おお、やっと来たかセバス。

 待ちかねておったぞ!」


 そう言いながらセバスチャンの所まで近寄り、何故かハグをしてきた。


「だ、旦那様?」


「……些か不味い状況だぞ」


 耳元で小さくそう述べたヴァルターが、わざとらしくセバスチャンの肩を叩き親しげにする。


 (……ヴィオレッタ様とお嬢様、そして旦那様の忠告ですか、面倒な予感しか無いですね)


「今日はどうなされましたか?

 先日のケチノス家との賠償金の話で、何か御座いましたか?」

 

 内心の面倒臭さを隠してセバスチャンが探りを入れると、ヴァルターが困った顔をして首を振る。


「ケチノス家の件では無い……そうなると……ああ、お嬢様のデピュタントで御座いますか!」


 (どれも違うのはわかっておりますが、ここはまず時間を稼いで少しでも情報を……)


「……わざとらしい時間稼ぎは無駄ですよ?」


 セバスチャンが辺りを観察し、対応を考えていたその時、ヴィオレッタの鋭い声がセバスチャンに刺さった。


「じ、時間稼ぎとは心外です。

 私はただ——」


「——セバスチャン!

 お嬢様と私がこの場に在ること、己の為した事です、貴方ならばわかるでしょう?」


 (……全く、これっぽっちもわかりません。

 私が為した事……全く身に覚えはありませんが、この様子は不味いですね)


 焦りが濃くなる内心を隠し、セバスチャンは姿勢を正して返答する。


「恐れ入りますが、私には何の事か全く身に覚えがございません。

 ヴィオレッタ様は何故、私にその様な疑念を?」


「セバスは、無実だと言うのですか!」


 セバスチャンの態度と返答に、それを聞いたラティが立ち上がりセバスチャンを指差して鼻息荒く叫ぶと、横からヴィオレッタの叱責が飛んだ。


「……お嬢様、はしたないですよ?

 あと、人様を指差してはなりません。

 それは淑女の所作ではありませんよ?」


「あ、はいっ!」


 ラティはすぐに姿勢良く返事をする。

 そのラティの姿に満足したのか、ヴィオレッタが優しく話しかけた。


「お嬢様は相変わらず素直で良いですね。

 ……それに引き換え、セバスチャン?

 貴方、結婚詐欺を行ったといいのは本当ですか?」


 眼光鋭く、ヴィオレッタがセバスチャンを見詰めるが、とうの本人であるセバスチャンは、思考停止状態であった。


「セバス、流石にお前がそんな卑劣な事をしたとは思えん。

 何か誤解か事情があっての事なのであろう?」

 

 黙ったまま固まるセバスチャンの様子に、見兼ねたヴァルターが助け船を出す。


「……いや、すみません。

 あまりに荒唐無稽過ぎて、考えが及びませんでした。

 私が、結婚詐欺ですか……そんな事、する訳が無いでしょう?

 と、申しますか、そんな荒唐無稽な話を信じている事自体が、甚だ不愉快な状況で御座います」


 セバスチャンは、不機嫌だという雰囲気を隠そうともせずに言い切ると、部屋にいる人々を見回した。

 すると、そんなセバスチャンに対し、ラティが何故か自信満々な態度を崩さずに問いかけ、その際には何故か懐から扇子を出して広げて口元を隠して腕を組んでいた。


「では、セバスは私の正義をあくまでも認めぬと?」


 (……また何か、よからぬ思い付きでもしたのでしょうね。

 こういう時のお嬢様は面倒臭さ……厄介ですね)


「お嬢様、認めるも何も、そもそもが事実無根の話で御座います。

 それとお嬢様、正義とはその様に噂話に踊らされた状態で使って良い言葉では御座いませんぞ?」


 ラティを諭すセバスチャンに、ラティは自信満々なまま、部屋のドアを指差すと部屋のドアを指差した。


「ならば、私の正義を見なさい!

 さあ、被害者の登場ですわ!」


「……はぁぁあああっ?」


 ドアが開き、入室して来た者を見たセバスチャンが、驚愕の叫ぶを上げた。

 


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