第二十七話 お嬢様、三つ子の魂百までで御座います。
すみません、予約間違えて飛ばして投稿してしまいました。
アイゼンフェルト子爵家の屋敷では、何時もの雰囲気とは違い、張り詰めた空気が漂っていた。
領都全域に響いた鐘の音、慌ただしく武装を整える使用人達に混ざって、完全武装をしたアイゼンフェルト家当主、ヴァルター・フォン・アイゼンフェルトの怒号が屋敷のエントランスに響く。
「ええい、そこをどけぇぇえええっ!」
「なりませぬ、旦那様が指揮を執らずして、誰がこの場をまとめられましょう!」
激昂するヴァルターを前に、一歩も引かず諭すヴィオレッタの足は、微かに震えていた。
ヴィオレッタの背後に並ぶメイド達もまた、彼女を支持するように頷いていた。
その顔を見たヴァルターの意気が少しだけ下がる。
「……すまん、少し興奮し過ぎた。」
ヴァルターの様子に、明らかにホッとした顔になるメイド達を背に、ヴィオレッタが優しく声をかける。
「旦那様、ラティお嬢様はとてもしっかりとしたお方です。
あのセバスが六年、手塩にかけて育てた愛弟子なのです。
そこらの魔物でどうにか出来る存在ではありません」
「……だが、もし何かがあっては——」
「——大丈夫で御座います。
お嬢様には、沙織も付いております。
彼女ならば、己の命をかけてお嬢様をお守りする筈ですわ」
そう言い切ったヴィオレッタの指先は、無意識に強く握り締められていた。
ヴァルターはヴィオレッタの言葉に大きく頷き、その肩に手を置いた。
「……何時もすまんな」
「私も、このアイゼンフェルト家の人間で御座います。
何より、私はあの子の真っ直ぐな目が堪らなく好きなのです。
あんな素直で優しい子ですもの、きっと神様が守って下さいますわ」
「……そうだな、きっと大丈夫だ」
「それに、既に職務放棄をした者達もおります。
旦那様には、是非ともここをお守りになり、帰って来た者達を叱ってやって下さいませ」
——同時刻、領都外壁近隣。
魔の森へと続く街道では、大量の魔物が発生していた。
その魔物の群れに対し、毅然と立ち向かう十名程の集団がいた。
その集団の女性達はメイド服を身に纏い、手にする武器はバラバラで、中には箒を手に魔物を殴り倒す者すらいた。
そんなちぐはぐな集団の中で、一際異様な者がいた。
「お嬢様ぁぁぁああっ!」
そう叫びながら、魔物の群れに突撃し、文字通り薙ぎ払う初老の執事服を着た男……セバスチャン。
「貴様等ぁぁぁあっ!
何故邪魔をするかぁぁああっ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着いて!」
メイド服を着たセミロングの女性が、数メートル先で魔物を切り捨てるセバスチャンに向かって叫ぶ。
「……あれはぁ、止まらないと思うなぁ」
「エイダも、そんな事言わないで一緒に止めてよ!」
隣にいたエイダが呆れ顔でボヤくと、カチェットがエイダに食ってかかったが、エイダは気にする様子もなく話す。
「人間、何事も諦めが寛容?」
箒を肩に担いだエイダが、そう言いながら首を傾げる。
「また変なこと言って……そこは寛容じゃなくて肝心でしょう?」
「……そうとも言う。
じゃ、意味が通じた所でぇ……止める方が危険。
アレ見て……私はぁ、まだ死にたくは無い」
エイダが手に持つ箒で指し示す方を見れば——
「お嬢様ぁぁぁぁあああっ!」
振り抜かれた剣閃が森を走る。
次の瞬間、数メートル先にある数本の大木と、その近くにいた大型の猿達の上半身がまとめて滑り落ちた。
その惨状を見たカチェットは……集団に後退の合図を送り、エイダと共にセバスチャンが暴れている場所から距離を取った。
——それから数時間後。
「……セバスチャン様、全員息が上がってきております!」
カチェットの進言に、私は魔物を切り捨てながら考えると、口を開きます。
「総員、一度下がって補給をしなさい。
私はこのまま橋頭堡を築きます」
私は焦る気持ちを抑え、努めて冷静に屋敷の使用人達に指示を与えます。
魔の森から大量の魔物が溢れたこの状況、無理を重ね、一歩間違えれば我々とてどうなる事か……
「セバスチャン様、魔物が多過ぎます。
ここは一度撤退して増援を……」
「——却下します。
今は時間こそ大事、ここで更に敵を穿てば森への道が拓けます」
実働部隊のリーダーであるカチェットさんからの提案を却下し、私は先に進もうとしますが、カチェットさんからの更なる提案に足を止めました。
「では、セバスチャン様が突入後に、我々も突入してその穴を広げます」
「この状況下です、甘い事は言いません。
総員、忠義を示しなさい!」
カチェットさんの提案に、その忠義を感じた私は、その思いを汲む事にします。
「「はいっ!」」
「以後の指揮は、カチェットさんを指揮官に、その補佐をエイダさんにお任せします。
——では、参ります!」
手際良く人員の再配置を終えた私は、立ち塞がる魔物達を見据え、刀を握る手の感触を確かめると、そのまま突入を開始します。
後ろで何か言ってますが……まぁ、カチェットさんは優秀な方ですし、些細なことでしょう。
「お嬢様、今行きますぞぉぉおおっ!」
「あ、まだっ!」
凄まじい勢いで走り去るセバスチャンの背に、カチェットが思わず手を伸ばして声をかけたが、既にセバスチャンの姿は魔物たちの中に消えていた。
「……行っちゃったねぇ?」
行き場のなくなった手を伸ばしたままのカチェットに、エイダが苦笑いしながら話しかけてくる。
「と、兎に角、任された以上はちゃんとしないと!
エイダも補佐役なんだから手伝って——」
今一度、気合いを入れ直してエイダを見たカチェットの目に映ったのは——
「——総員傾注!
これより、人型災害兵器の有効活用作戦について説明するよぉ?」
「「——はっ!」」
既にエイダの前に整列する仲間たちの姿であった。
「ちょっ、ちょっと!
何勝手に話進めているの!」
慌ててエイダの隣にカチェットが来ると、エイダが手に持つ箒の持ち手の先をカチェットに向けた。
「はぁい、ここで指揮官から一言です」
「はぁっ、えっ?」
「ほら、ここは指揮官らしく部下に発破をかけて!
早くしないと、セバスチャン様が見えなくなるよぉ?」
「えっ! うそっ!」
エイダの指摘に、カチェットがセバスチャンが暴れている場所を見ると、既にその姿は見えず、遠くから魔物たちの断末魔の叫びが聞こえてくるだけであった。
「あの人どんだけ人外なのよ!
そ、総員突撃!
セバスチャン様を見失わない様に!」
「……なんとも締まらない突撃だねぇ」
エイダはそうぼやきながら、慌てて突撃して行くカチェットの後に従うのであった。




