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お嬢様、その正義は許可できません。  作者: 葱市場
第一章 お嬢様、それが貴族で御座います。

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第十二話 お嬢様、偶には反省も大事です。


「奴らを逃すな!

 第三小隊、右からまわり込み半包囲せよ!

 ……遅いっ!

 第六小隊、方形陣を敷き左手の壁を厚くせよ!」


 ヴァルターが矢継ぎ早に指示を出す。

 その指示に従い、戦士達が草原を走る。

 熊に似た魔物がその膂力で盾ごと兵士を吹き飛ばし、狼に似た魔物がその鋭い爪と牙で襲い掛かる。

 兵士達は陣を組み、ヴァルターの指揮に従いながらその猛攻を凌ぎ、連携して槍を立てる。

 その戦場の様子を見て、ヴァルターの近くに居た騎士が口を開く。


「団長、流石に数が多過ぎます。

 このままでは、いずれ何処かが突破されます」


 側近の騎士の進言に、ヴァルターは渋い顔をする。


「……だが、今ここで退けば付近の民達はどうなる?

 我等の民を護らず何が騎士かっ!

 幸い、公爵閣下の軍も近くで戦っている。

 あちらは数が多い、いずれ援軍を率いて駆け付けるであろう、それまで何としても耐えるんだ!」


 部下の不安に対し、そう言葉を繋いだヴァルターが腰の剣に手をかける。

 そして剣を抜くと高々と掲げる。


「皆の者、このヴァルター・フォン・アイゼンフェルトが命じる。

 命を惜しむな。

 その命、民の為にこそ捧げよ!

 ……突貫っ!」


 ヴァルターの檄と共に、魔物へと突っ込んで行く姿を見た戦士達が声を張り上げる。

 その怒号に、魔物達が怯み、ヴァルターが剣を振るう度、一匹、また一匹と大地に倒れてゆく。

 その姿はまさに、英雄と呼ぶに相応しい姿であった。



 ――同じ頃、領都外壁。

 

「……なんて数だよ……」


 外壁の上で哨戒していた兵士が、外壁の外側を見て絶句する。

 兵士の喉が、ごくりと鳴った。

 暗がりの中、月明かりに照らされたその光景は、まさに悪夢であった。



「――急報、き、急報っ!」


「どうした!」


 外壁近くの詰め所に、若い兵士が飛び込んで来た。

 丁度中で防衛体制の見直しをしていた兵長が、落ち着いた声で叫ぶ。


「外壁の外側に魔物の群れが現れました!」


「群れとはどの程度だ?

 数は?」


「視界を埋め尽くす程だとの事です!」


「……」


 兵士の報告に、一瞬だが言葉を失った兵長は、口を開きかけて一度閉じる。

 それから少し考えると、今度ははっきりと指示を出した。


「至急ヴァルター様へ使者を送れ!

 それと公爵様へもだ!」


「は、はいっ!」


 慌てて詰め所を出る兵士を見送ってから、兵長は呆然と領都の地図を見詰める。

 そこには、今現在領都に配備されている兵士の数が書いてあった。

 その数500名……明らかに数が足りていなかった。


「……何だってこんな事に……」


 兵長の震える声は闇に溶けていった。



 ――外壁で兵士達が恐れていた頃、外界とは切り離された結界内では、鳥と亀が暇そうにしていた。

 

「……それにしても蔵六よ」


「なんぞ?」


「ちと、外が騒がしい気がするの」


 そう言って、鳥が外壁の方角を見る。

 だが、次の亀の一言で、その興味は急速に薄れていった。


「人は、夜こそ騒がしい生き物よ。

 これは、来年もまた人が増える前兆よ」


「……なるほどの。

 我も主人殿と騒がしくしたいものよ」


「それは我が願いでもあるの」


「……セバスチャンと仲良くしたいんですの?」


 鳥と亀がのほほんと話していると、不意に不思議そうなラティの声がかかる。


「おお、起きたか?」


 亀がそう言ってラティを見ると、ラティは寝ぼけ眼を擦りながら鳥の方を見ていた。


「我等の願いは、主人と添い遂げる事のみ故な」


「……種族が違いますわよ?」


 ラティが首を傾げながら疑問に思って聞くと、鳥と亀が食い気味に反論する。


「「種族なぞ飾りよ!」」


「ふ〜ん、そうですのね」


 ラティは、よくわからないが、そう言う事もあるかと納得する事にする。


「よいか、此度はそなたの願いに付き合っておるのだから、次は我等の願いに付き合うのが吉ぞ?」


「うん、ちゃんと、とりっさとかめごんの願いに付き合うよ!」


 ラティが真剣な表情でそう答えると、鳥と亀が叫んだ。


「「その名は認めておらぬわっ!」」


「……平和だよねぇ」


 途中から起きていたいぬっさんが、呆れ顔で小さく零した。


 

 外壁前に魔物達が姿を現してから少し経った頃、外壁の上では、戦士団が魔物達にひたすら矢を射かけていた。

 東西南北にそれぞれ百名、数こそ少ないが日頃の訓練の賜物か、その矢は正確に魔物達へと突き立ち、次々と倒れていった。


「……休まず放てっ!

 まずは今夜一晩、何とか保たせるのだ。

 陽の光を受ければ魔物の動きは鈍る、まずはそこを目標に耐え凌ぐのだ!」


 各小隊の兵長がそう鼓舞しながら、外壁の上にいる各部隊を激励して回る。

 だが、多少は減ったとはいえ、魔物の数は殆ど変わっていなかった――。



「セバスチャンはまだ戻らないのですか?」


 あれから既に小一時間は経ったが、ラティを探しに行ったセバスチャンとは連絡が取れていなかった。

 ヴィオレッタは、自身が感じる嫌な予感にどう対処すべきか迷い、決められずにいた。


(……私は礼儀作法の講師、斯様な事態に対し、対処法など持っておりませんのに……)


 ヴィオレッタは、思わず溜息の一つでも出そうになるが、それを堪えると、敢えて余裕のある顔をした。


 (セバスチャンが来るまでは、私がここの責任者です。

 無様を晒せましょうか……!)



 ――数時間後。

 領都外壁では未だ魔物の侵攻を許さず、耐え凌んでいた。

 外壁という鎧が戦士達を守り、弓矢の攻撃は本能のみで近付く魔物達の命を刈り取るのに効果的であった。

 ――だが、崩壊は確実にその足音を増していた。


「……矢が足りぬか」


 部下からの報告を受けた兵長が呟く。

 今はまだ備蓄も有り、街の工房でも量産している為、矢の密度を高く維持出来ている。

 だが、この状況が続けばいずれは矢が尽きる。


「……持って三日……と、いう所か」


 兵長が現実的な限界点を想定する。

 このラインを越えれば、打って出るしか無くなる。

 それは、実質的に部下達の死を意味する。


「……せめて、ここに領軍本体とヴァルター様が居れば」

 

 兵長は苦悩に満ちた声で希望を口にした。



 その頃、屋敷ではヴィオレッタが自室で仮眠を取っていた。

 その間、沙織がヴィオレッタの代わりに屋敷の指揮を代行する事になったのだが……。


 (――無理無理無理無理っ!

 わ、私なんかが先輩達を飛び越えて代行だなんて……)

 

 先輩メイド達からの視線に耐えられなくなった沙織は、厠に行くと言ってエントランスから出ると、緊張でおかしくなりそうな胃を摩りながら、廁の鏡の前で一人落ち込んでいた。


「うう……、胃がおかしくなりそう」


「……沙織さんは、胃が大変ですの?」


「そうです。

 だって仕様が無いじゃないですか!

 セバスチャン様はどこか行ったし、魔物が攻めて来るし、お嬢様はどこにも居ないし……。

 挙げ句の果てに、ヴィオレッタ様なんて、『あ、私は少し休みますので、後は頼みますね?』って!

「頼みますね?」って気軽に言って休んじゃうんですよ?

 私は、単なる使用人なのに、こんな重責……無理に決まっているじゃないですかっ!」


「……あら、大丈夫よ?

 私は、沙織が芯のしっかりした強い女性だって信じているもの!」


「お嬢様は他人事だから言えるんですよぉ!

 ……って、お嬢様?」


 沙織は、いつの間にか居たラティをまじまじと見詰める。


「……はい、ラティですよ?」


 不思議そうに首を傾げ、返事をするラティに沙織は――。


「――お嬢様ぁぁぁあっ!」


 沙織の絶叫が屋敷に響いた。


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