表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季を巡る、少女たちのデスゲーム  作者: null
エピローグ ありがとうの言葉を

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

ありがとうの言葉を

「雪花」


 喫茶コマチの前で真莉愛や日良李と別れ、灰里と共に駅へ向かおうとしていると、不意に後ろから紅葉が声をかけてきた。


 いつもは反対側の通りに出てしまうので、てっきりもう帰路についているとばかり思っていた雪花は、少しだけ驚き、目を丸くして立ち止まる。


「え、なに?どうしたの、こんなところで。帰らないの?」


 紅葉は灰里のほうを一瞥すると、深刻な顔でまた雪花を見て続ける。


「まだ少し、時間はあるかしら」

「時間?うん、まあ、別に予定はないから…」


「そう」くるり、と紅葉が背中を向けた。まだ話の途中と思うが…。「貴方、電車は下りでしょう。一駅分だけ付き合いなさい」

「は?」


 こちらの返事も聞かずにツカツカと歩き出す紅葉の背中を、呆気に取られた表情で眺めていると、そのうち、振り返った彼女に催促されてしまった。


「何をグズグズしているの。行くわよ」

「いや、横暴でしょ…」とぼやきつつ、同じように足を止めていた灰里を振り返る。

「行きなよ、皇さん。私は先に帰るから。…なんか、大事な話でもあんだろ」


 雪花は、聞き分けのいい灰里に片手を上げてお礼を述べると、小言を口にしながら紅葉の隣に並んだ。


「で、なに。どうしたの」


 いつも喫茶コマチには徒歩で来ているはずだから、紅葉の家はここからそう遠くはないはずだ。とはいえ、用もなく彼女が自分と散歩することを選んだとは考え難い。


 しかし、紅葉はこちらの問いにも答えず、ただ黙って歩き続けていた。


 規則正しいメトロノームみたいに、コツコツと、彼女の足音が響く。


 夕暮れにはまだ少し早い、西日差す昼下がり。


 線路沿いの閑静な住宅街を進む。栄えている土地でもないから、人の姿もほとんどなかった。


(一体、何を考えているのやら…)


 端正な横顔を盗み見ながら、黙って紅葉に従い歩みを進めていると、そのうち、踏切の音が聞こえ始めた。


 交互に光る、赤の明滅。そして、本能的に身構えてしまう警報音。


 なんとなく、踏切というものからは死を連想してしまう。


 遮断器が下りる。この踏切は少しだけ待ち時間が長かった気がする。


 足を止めて、じっと警報機を眺めていると、ようやく紅葉が口を開いた。


「一つ、いいかしら」

「どうぞ」

「…どうして、私を止めたの」


 警報音に混じって聞こえてきたのは、感情を抑えるのに必死な紅葉の呟き。


 彼女が何を聞いているのか分からないほど、雪花は察しが悪くなかった。


「どうして…か」


 上手に言語化できるだろうか、と雪花は空を見上げる。


 春の匂いの薄まった、青々とした空がそこにはあった。


 ふと、海の底から星空を探すアリスのことを思い出す。どことなく、今の紅葉の顔つきと似ていた気がする。


「分かんないよ、そんなの」

「…分からない、とはどういう了見なの。あのデスゲームの情報が欲しい、というのは建前だったということ?」

「嘘じゃない。だけど、後付けした理由ではあるかな」

「だったら、どうして」


 首だけで紅葉が雪花を振り返る。同じタイミングで雪花も彼女を見ていた。


 真っ直ぐに輝きを放ち、その光で自分を貫こうとする、黒曜の宝石。


 本当に、驚くほど綺麗な顔立ちをしている。


 いっそ、禍々しいほどに。


「殺せと命じたのは、貴方でしょう。なのに、どうして止めたの」


 先ほどの答えでは納得するつもりはないらしい。まあ、自分でも納得できないのだから、当然なのかもしれないが。


 雪花は一度俯き、十秒ほど考えてから、また紅葉へと視線をやった。


「あのまま鏡花さんたちを殺してたら、紅葉が、その、すごい後悔するんじゃないかって、思った…んだと思う」


 我ながら煮えきらない言葉だったが、それでも紅葉にはなにか思うところがあったらしい。ひゅっ、と息を呑んだのが隣にいれば分かった。


「…そう。気を遣った、ということね」

「そうなるのかな…迷惑だった?」


 おそるおそる問いかければ、紅葉は伏し目がちになって首を小さく振った。


「いいえ…でも、どうせ後悔ばかりの人生よ。私の人生は」

「後悔ばかり…?」


 ぽつり、と漏らした孤独な言葉の意味を理解しかねていると、紅葉がさらに小さな声で、「今のは忘れて」と言った。


 忘れてと言われて、忘れられる響きではない。


 紅葉は、一体何を隠しているのだろう。


 それは、心の暗い場所にしまっていて、痛まぬものなのだろうか。


 そうは思えど、一度下りた扉を開ける勇気は雪花になく、仕方がなく頷く。


 やがて紅葉が、何度か…何度か、視線を雪花と地面との間で彷徨わせた。そして、そのうち、結局は下を向いたままで桜色の唇を動かした。


「雪花」

「ん?」

「あの…」


 瞬間、ぱっ、と目が合う。


 火花が散る、閃光そっくりの刹那。


 紅葉の陰りのある顔を見ていると…どうしてか、胸がずくんと疼いた。


 言葉もなく、ただ待つしかできない雪花に紅葉が言葉を紡ごうとする。


「あ、ありが――」


 彼女の口から言葉が放たれる瞬間、電車が轟音と共に通過し始めた。


「え、え?今、なんて?」


 雪花は、ガタン、ガタン…と鳴る音にかき消された言葉を追いかけようとしたが、そっぽを向いた紅葉が言うことは、「なんでもないわ」…ただ一つだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すごくいい設定で、ストーリーも面白かった [一言] 雪花が勝った際に願ったのはゲームで死亡した人を復活させるみたいなエンデイングを想定してましたが、まさかこんなストーリーの途中で完結になる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ