表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季を巡る、少女たちのデスゲーム  作者: null
五章 陽炎、稲妻、水の月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

陽炎、稲妻、水の月.4

 肋骸骨との戦いを終えた次の日。ちょうど、ゴールデンウィークが始まり、明後日には『夢と煉獄の狭間』とやらでデスゲームが行われるというときに、雪花たちは再び喫茶コマチに集まっていた。


 目的はもちろん、次なるゲームの作戦会議。


 今度は対人戦を強く前提として組み立てる予定だ。つまり、『戦姫という駒』ではなく、『中身が人間』ということを土台にした作戦だ。


 小町姉妹が家業の手伝いを終えるのを待っていたため、四人が卓を囲めたのはすでに日が落ち始めてからだった。


 二人はエプロンを畳みながら腰を下ろすと、暮色蒼然とした外の様子と、絶え間ない雨垂れの音を気にして言った。


「ごめんなさいね、遅くなってしまって」

「いえいえ、無理を言っているのは私ですから。じゃあ、早速始めましょう」


 雪花は、以前は気づかなかったスタンドを広げて、パッドを自立させた。


 画面が点灯し、ゆっくりと青の世界が広がる。やがて、ふわふわと浮いて、天井を眺めているアリスが画面に映り、こちらに気がついた。


『おや、お嬢様方、日が落ちてからのお茶会とは…お行儀が悪うございますね』


 開口一番、皮肉とは良い身分だ。まるで自分を見ているようで複雑な気持ちになる。


「はいはい。いつも可愛いコメントありがとう。それで、これを見てほしいんだけど…」


 流されたような形になったアリスは優雅に微笑んでいるものの、不服そうだった。その証拠に、目の奥は笑っていない。


 慣れた動作でパッドを操作し、目的の画面に辿り着く。デフォルメされた自分の姿を見て、すぐに真莉愛が声を明るくした。


「まぁ、私の好感度が上がってるのね」

「そうなんです。真莉愛先輩のだけじゃなくて、ほら、紅葉のも」


 隣に座る彼女に見えやすいよう、半身になれば、紅葉は慌てた様子で画面を覗き込んだ。


「ちょっと、どういうことなの…」


 雪花の言う通り、真莉愛の好感度は『2から3』に、紅葉のものは『1から2』へと上昇していた。


 依然として紅葉は不服そうだが、軽く無視して本題の説明を続ける。


「それでですね、好感度が上がったことで、真莉愛先輩のクラスチェンジが可能になっているんです」

「それって確か、進化みたいなものよね?」

「そうです。レベルも十分な水準に達してます」

「そう…」


 おや、と雪花は真莉愛の物憂げな顔を見て首をひねる。


 あのデスゲームにおいて、生き残るために重要なのは戦姫の性能だ。それが分かりやすく向上するクラスアップが可能なことを伝えれば、てっきり、安心してもらえるか、喜んでもらえるかすると思ったのだが…。


 目をつむり、考え込むような態度を取る真莉愛を誰もが見つめる。


 やがて、彼女は目をゆっくりと開くと言った。


「私ね、最初に人を殺めてしまったとき…怖いと思わなかったの」


 きっと、口にするだけで勇気を要しただろう言葉。意味は違うが、自分だって、紅葉に説明したときは足が震えていた。


「日良李を馬鹿にされたとき、許せないと思った。日良李の命を狙われて――先にやらなくちゃって思ったの」


「お姉ちゃん…」と日良李が苦しそうに顔を歪める。まるで、同じ痛覚を持っているみたいに表情がリンクしている。


「必要に迫られて、という感じではなくて、その…殺すつもりでやったの。初めから」


 たどたどしく己の深い心情を語る真莉愛の声に、とうとう、この手の話題に敏感な紅葉が口を挟む。


「やめましょう、真莉愛さん」


 見れば、彼女の顔も歪んでいる。感心するような心持ちで聞いているのは自分だけのようだ。


「人って、そういうものです。自分の都合や価値観のためなら、それができてしまうんです。誰であっても…そうですよ。貴方だからじゃない。仕方がないんです…」


 真莉愛はフォローの言葉を並べる紅葉を驚いたような顔で見つめると、ややあって、口元を優しく綻ばせた。


「ありがとう、大神さん――いえ、紅葉さん。優しいのね、貴方は」

「私は、優しくなんてない…優しいというのは、日良李や真莉愛さんのような人のことを言うんです」


 自然と自分だけが仲間はずれにされていた。まあ、紅葉に話してしまったこと、この心が昂りを覚えてしまっていたことを思えば、当然の扱いかもしれない。


 照れ臭かったのか、顔を俯かせてコーヒーの水面を覗き込み始めた紅葉に代わり、雪花が明るい声を意識して話を続ける。


「ま、紅葉の言う通り。仕方がないんですよ、みんな命がかかっているんですから」

「雪花、そういう言い方は――」

「まあまあ、聞いてよ。紅葉」


 速攻で噛み付こうとしてきた紅葉を制する。彼女にしては珍しく、大人しく引き下がってくれた。


「物事には優先順位がある。そうですよね?全てを平等に、大事になんてできない」


 そうだ、それができないのが人間の良いところであり、悪いところでもある。人類というものが絶対的な善悪を決められない理由の一つだ。


 雪花は何気なくステンドグラスのほうを見つめた。女性が祈っている姿が印象的だ。


「――私は、みんなが一番ですよ…。短い期間だけど、三人とも一緒にいて面白い」


 そうだ、だから。


「…私たちを、終わりにはしたくない。だから、力を貸してほしいんです。真莉愛先輩、紅葉、日良李」


 他の人間は、二の次、三の次だ。


「ありがとう…ええ、そうね、ありがとう。私、少しだけおかしくなってしまったのかと思って不安で…だから、みんなに聞いてほしかったんだわ、きっと」


 真莉愛は、先ほどよりだいぶ朗らかな顔で笑うことができていた。それでホッとして本題に戻ろうとしていると、不意に、真莉愛の体がびくん、と跳ねた。


 一体、どうしたのだろうかと不思議に思っていると、さっきから黙ったままの日良李の顔が赤く染まっていた。


 じっと俯いている日良李の横顔を、信じられないものを見るような目で真莉愛が見つめている。


(あー…今、机の下を覗き込むのは野暮だよなぁ)


 やがて、真莉愛は頬を紅潮させたまま微笑むと、宣誓するみたいに告げた。


「二人を、日良李を守るために――もっと強い盾がほしいわ。雪花さん」


 その面持ちは、とても美しく、澄んでいた。


 紅葉の物憂げな顔立ちも綺麗だと思うが、やはり、真莉愛はこういう美しさが魅力的だ。


 小町真莉愛は、泥中の蓮。


 こんな血と泥に塗れたゲームの中でも、彼女の白銀の魂はきっと綺麗に咲き誇るのだろう。




「ふふ、おかしなことを聞くのね?そんなの、日良李が好きなほうに決まっているじゃない」


 返ってきた返事を聞いて、雪花はやはり、この女性は色々とアンバランスな人だと心底思った。


 自分の命を左右するクラスアップ先のジョブを選んでほしいと伝えた結果、真莉愛はろくに分岐先のジョブも見ずにそう答えたのだ。


「お、お姉ちゃん…」


 呆れた顔で日良李が姉をじっとりと見るも、真莉愛は不思議そうに首を傾げるばかりだ。


「ん?どうしたの?日良李。決まったの?」

「そういうことじゃなくて…ほら、二人とも驚いてるよ、もぅ」


 驚いているというか、呆れているというのが正しい。真莉愛らしいといえば、それまでだが、まさかここまで日良李に決めさせようとするとは思ってもみなかった。


「真莉愛先輩、私の説明聞いてましたよね…?」


 ダメ元で確認するが、真莉愛は、「ええ、もちろん」と日良李の顔ばかり見ている。


 可愛い妹に夢中なようだ。これでは使い物にならない。


 ある意味、真莉愛をダメ人間化させる発端になったといえる日良李に目を向ける。


 日良李は雪花の物言いたげな視線を受けて、顔を赤らめた。それから、自分の役目を理解したのか、慌てて真莉愛にジョブの選択を迫る。


「お姉ちゃん、どっちか早く決めて」

「えー、決めてくれないの?」


 甘えるような真莉愛の声に頭痛がしそうだった。いや、普段の大人びた口調に対しギャップがあって愛らしいのだが…今は勘弁してほしい。


「な、なんで私が決めるの。お姉ちゃんがそのジョブになるんだよ?おかしいじゃん」

「もう、強情ね――分かったわ。じゃあ、どちらの鎧がお姉ちゃんに似合うと思う?」

「え?」と日良李が目を丸くする。それから、じっと画面を覗き込んだ。


【ナイト】のクラスアップ先のジョブは二種類ある。


 防御に特化させた【護り手】と、多少、味方の補助が可能になる【ホーリーナイト】だ。


(…ま、正直に言って、どちらにしても今のパーティーのバランスを崩すものじゃないから、好きにしてもらっていいんだけど…)


 パッドを覗き込んでいた体を離し、コーヒーに手をつけ、ソファの背もたれに体を預ける。すでに紅葉も同じ姿勢をしていた。


『コンプレックスを抱いている』姉からお願いされた日良李は、まじまじと二つのジョブの鎧を見比べると、ため息を吐きながら真莉愛とは反対の方向を向いて言った。


「…お姉ちゃんだったら、どっちも似合うんじゃない」

「まあ!?本当?」

「…うん。現実の服装だってそうじゃん」

「うふふ、ありがとう」


 妹の言葉を真っ直ぐに受け取り微笑む真莉愛に、照れたように顔を背ける日良李。


(…なぁにが、姉妹仲が悪い、だよ。こんなもん、『素直になれない妹』と『素直になりすぎる姉』が距離感を測りかねているだけじゃん。あー…馬鹿らしい。次からは二人がもめてても、絶対に仲裁になんて入ってやんないから)


 ずずっ、とコーヒーをすすり、固く誓った雪花は、ふと紅葉がこちらに視線を向けていることに気がついた。


「なに?」

「…止めてくれないかしら。話が進まないわ」

「えぇ、嫌だよ。紅葉が止めればいいじゃん」

「嫌よ」

「じゃあ、私も嫌」

「どうして、貴方は仮にもリーダーでしょう」


 紅葉が自分のことをリーダーと思っていたことは意外だったが、四姫者であることを示しているのだろう。彼女がフォロワーとして自分について来ているとは考えられない。


「ずるいなぁ。こういうときだけリーダーなんて。いつもは私の指示なんて聞かないくせに」

「…私じゃ、あの子を怖がらせてしまいそうだもの」


 紅葉は言いづらそうに日良李のほうをチラ見すると、小さなため息混じりに肩を竦めた。


「なるほど、そういうこと…」


 それならば致し方ない。


 雪花は、一度咳払いをしてから姉妹の間に言葉を割り込ませた。


「ごほん、二人とも、そろそろ決めてもらってもいいですか?」

「あ…すみません」


 日良李は申し訳無さと羞恥が半分半分になった表情で頭を下げたが、真莉愛のほうは明らかに不服そうだ。その証拠に、「いいところだったのに」と消え入りそうな声で小言を発した。もちろん、聞こえないふりをして話を続ける。


 結果として、真莉愛は【ホーリーナイト】にクラスアップすることになった。


 日良李が、「お姉ちゃんは、白が似合うから」という理由で選んだのだが、画面の中のデフォルメされた真莉愛が、『可愛い妹のため、私は強くなるわ』などと言ったものだから、小町姉妹の収拾がつかなくなりそうになった。


「は、話はまだあってですね!」と無理やり話題を変える。


 壁に掛けてある古時計は、すでに午後七時を差していた。


 ダラダラと姉妹漫才に付き合っていたせいである。


 次に雪花がみんなに見せたのは、紅葉のステータス画面だ。


「…私は、クラスアップはできないようね」

「うん。レベルは誰よりも高いけど、まだ好感度が足りないね」

「…そう」


 紅葉のクールな横顔からは、何の感情も読み取れない。そもそも、何も思っていない可能性すらある。彼女は好感度の上昇を複雑に思っているようだったからだ。


「あら、そうなの?紅葉さんったら、まだ雪花さんと仲良くできていないのね」

「ちょっと、お姉ちゃん。そういう空気の読めない発言はやめてよ…」

「え?うふふ、ごめんなさい」


 妹と十分な交流ができた真莉愛は上機嫌な様子だった。


 彼女にしてみれば、こんな理不尽なゲームに巻き込まれたことの、唯一の利点かもしれない。


 すると、紅葉が心外であるというふうな口調で真莉愛に言い返した。


「私だって、全部を雪花のせいにするのはやめたんです」

「へ?」意外な言葉に面食らう。

「何よ、その顔は。そうでなかったら、こんなふうに貴方の招集に応じるはずがないでしょう」

「え、あ、そうだよね。ごめん。ごめん?いや、ありがとう?」

「一人で何をぶつぶつ言っているの」

「だって、今までツンツンしてた紅葉が急にデレるから…」

「で、デレ…?」

「知らないの?ツンデレ」

「つ、ツンデレ…!?――ああそう、いいわ。だったら、最初の頃と同じようにさせてもらうわ」

「ちょ、冗談、冗談じゃん!」


 ぷいっ、とそっぽを向く紅葉。


 つい、恥ずかしくて冗談っぽくごまかしてしまった自覚のある雪花は、素直にありがとうと言えないことを憎らしくも、自分らしくも思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ