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四季を巡る、少女たちのデスゲーム  作者: null
四章 現実はコーヒーと共に

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17/30

現実はコーヒーと共に..4

 雪花の協力もあって、紅葉の仕事は早めに片付いていた。とはいえ、最終下校時刻がとっくに迫っており、みんな帰る準備を始めていた。


「明日も、お邪魔していいかしら、大神さん」

「…明日もですか」


 真莉愛の頼みを紅葉が速攻で断らなかったことを意外だった。さっきのやり取りを考えると、面倒がると思ったのだ。


「ええ。ね、いいでしょう?大神さん。雪花さんも、クラスじゃ気を遣って誰とも話せないらしいし」

「え」


 今の伝え方は明らかに大げさだった。


 確かにさっきは寂しいと言ったが、上っ面の関係を維持しなくて良くなったことは多少の解放感があったし、全く会話を行っていないわけではなかった。というか、途端に誰とも喋らなくなったら、それこそ別の問題が生じるだろう。


「…まあ、そういうことなら」

「うふふ、ありがとう、大神さん」


 不意に、真莉愛がこちらを数秒だけ振り返った。意味深にサムズアップして見せる彼女に、寒々とした思いがしたが、それを咎めるより先にまた違う問題が起きてしまう。


 ドンッ、と生徒会室の扉が開く。


 あまりに派手な音がしたため、誰かが扉にぶつかったんじゃないかと雪花は思ったが、そうではなかった。


「邪魔するぜ」


 入り口に佇むのは、少し小柄だが、明らかに自分たち普通の生徒とは異質な女生徒。


 鮮やかな金髪と、右耳に着けたトライアングルのピアスが印象的な少女は、必要以上に短くしたスカートを揺らすと、じろり、と一同を睥睨した。


(え、な、なに…)


 威圧感のある眼差しと、そもそも常識知らずの入室の仕方にすっかり身が竦んでいた雪花は、彼女の来訪に何も言えなくなっていた。しかし、紅葉は違った。


「…ノックをしなさいといつも言っているでしょう。――狐塚灰里こづかかいり。」


 同じく喧嘩越しの態度にひやりとするが、紅葉に意外なタイプの知り合いがいたことにも驚く。


「うるせえって、いつも言ってるだろ」

「論外ね、出て行きなさい」

「うるせえ」


 灰里は、段々と殺気立ってきた紅葉の言葉にも怯まず、もう一度生徒会室の中を見渡すと、静かにため息を吐いた。


「出て行きなさい。また生徒指導の先生を呼べばいいかしら」

「ちっ、教師の犬が。すぐに大人に頼って、情けないと思わねぇのか?」

「ふっ」と紅葉が鼻を鳴らす。


 どうでもいいが、クールな見た目にとても様になる仕草だった。


「愚問ね。貴方は、迷惑な人間を取り締まるために警察を頼るのに、いちいち情けないかどうかを考えるというの?」


 一刀両断。これには灰里も返す言葉がない様子で視線を逸らした。


「ちっ…」


 雪花には、そんな灰里の横顔がとても寂しげに見えた。肌がとても白いことも、彼女の薄幸感を助長している気がした。


 じろじろ見ていたせいで、ぴたり、と灰里と目が合う。嫌な予感が脳裏を巡るより早く、鋭く棘のある声で威嚇されてしまう。


「なにガン飛ばしてんだ、あぁ?」

「…おぉ、ステレオタイプなヤンキーだ…」


 普段ならありえないことだが、最近、遠慮の少ないコミュニケーションが増えているせいか、つい、衝動的に言葉が漏れてしまっていた。


「あぁ!?」案の定、灰里は激昂してこちらにずんずんと歩み寄ってきた。「誰がヤンキーだ、てめぇ!」


 どうする、言葉を交わしてもいいものか、と躊躇しているうちに、灰里が襟を目がけて手を伸ばしてきた。


 その白く美しい手が制服の襟を掴む寸前、パッ、と横から違う手が割り込む。


「やめなさい」紅葉の手だった。「竜野会長なら長期休暇に入ったままだと、この間、貴方に伝えたでしょう」


 竜野巴たつのともえ――急な病気か何かでお休みしている生徒会長だ。


 それを聞いた灰里は、息苦しそうに顔を歪めると、「あんたにも、何の連絡もないのか」と勢いを失って問いかけた。


「…ないわ。前にも言ったように、私は貴方が知っている以上のことを知らされていないのよ。…だから、何度来ても、無駄よ」

「…そうかよ」


 アシンメトリーに片側だけ前髪を伸ばした、その金糸の隙間から、黒々とした瞳が曇るのが見えた。


 灰里は、哀れみすら感じるほどに意気消沈した様子で背を向けると、一度だけこちらを振り返り、「カッとなって悪かったな」と謝罪した。


 こちらだって、見た目と口調だけで人種を判断したことを謝罪したかったが、言葉を交わすことを避けるため、頷くだけに留めた。


 そうして、部屋から出る直前、灰里は部屋の端で真莉愛に庇われるようにして立っている日良李に気づくと、「あ」と小さく口を開けた。しかし、真莉愛が妹を隠すように位置取りを変えたことで不愉快そうに顔を歪め、来た時と同じように扉をはね開けてから生徒会室を去った。


(そう言えば、今の子のタイ、日良李と同じ色だった…ってことは、一年生?一年生に私恫喝されのかぁ…んー…ま、年齢なんてあんまり意味ないしね。気にするのはやめよ)


 脳内で自問自答していた雪花は、それよりも大事なことがある、と隣に立つ紅葉を見つめた。


「守ってくれてありがと、紅葉」

「…私が守ったのはあの子よ。貴方と関わりすぎると巻き込まれる危険があるもの」


 そう来たか、と苦笑い。今は、名前呼びを訂正されなかったことを僥倖としよう。


「そうだね。でも、ありがとう」


 それから、真莉愛の後ろから出てきた日良李が、先ほどの生徒、狐塚灰里と同じクラスであることを語った。


「まあ、あんな不良生徒と一緒のクラスなの…!?どうしましょう、先生に言って、クラスを変えてもらおうかしら…」

「はぁ!?絶対にやめて!ただでさえ学年で浮いてるのに、もっと浮いちゃうでしょ!」

「え、日良李ったら、同級生と仲良くできていないの?大丈夫?」

「お姉ちゃんのせいだよっ!」


 ズドン、と高速の弾丸が真莉愛の胸を貫いたのが分かったが、今ので真莉愛が静かになってくれたので、これを幸いにと雪花は紅葉に質問する。


「あの子、何度も紅葉のところに来てるの?」

「名前で呼ばないで」


 さっきは良かったのに、とため息混じりに訂正すれば、紅葉は気難しい顔で頷き、事情を説明した。


「ええ、竜野会長が三月の暮れに急な長期休暇に入ってから、ずっとよ」

「へぇ、会長、体が悪かったの?」

「いえ、とても元気そうだったわ。だから、私も本当によく分からないのよ」


 人それぞれ、色んな事情があるようだと考えたところで、雪花はもう興味を失った。


 他人の事情を面白そうだ、とは思わない。モラル的なものではなく、他者と関わりになることの煩わしさを避ける雪花の本質がそうさせるのだ。


「でも、いい人なんだよ、狐塚さん」


 ふと、日良李が真莉愛に同級生のフォローをしているのが耳に入り、荷物をまとめた雪花はそちらに参加するべく足を動かした。


「でもじゃありません。いいこと、日良李?ああいう口調が乱暴で、人に手を上げるような友だちは作ってはいけないの」


 人差し指を一本立てた真莉愛も、珍しく日良李に対し真っ向から反対姿勢を取っている。説教臭い、といえばそれまでだが。


「なんで、そんなことをお姉ちゃんに決められなきゃいけないの?」

「私にはお母さんの代わりを務める義務があるのよ」


 淀みなく真莉愛がそう言えば、日良李は酷く不愉快そうに口元を曲げた。


「…そういうの、うざい」

「日良李!『うざい』なんて汚い言葉を使わないの!」

「だから、うざいってば!」

「日良李!」


 つん、と顔を背けた日良李は、そのままバックを背負うと、紅葉と雪花にだけ挨拶をして先に出て行ってしまった。


「あ、日良李…」


 しゅんと、水をやっていない花のようにしおらしくなった真莉愛が不憫に思えて、雪花は彼女のそばに立った。


「真莉愛先輩、大丈夫。次がありますよ」


 同級生だったら肩でも叩いてやるのだが、と考えていると、どうしてか真莉愛の顔が不服そうなむくれ顔に変わった。


「まあ、雪花さんったら、本当に意地悪だわ。大神さんがたまに言う通り、その皮肉屋なところは直したほうがいいと思うわよ」

「は?あー…」


 どうやら、さっきの仕返しをやりに来たと勘違いされたらしい。心外だが…これも自業自得、日頃の行いという奴だろう。


 雪花は、「善処します…」と返すと、肩を竦めて生徒会室を後にするのだった。

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