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四季を巡る、少女たちのデスゲーム  作者: null
三章 天秤は傾く

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天秤は傾く.4

 そこからの敵の動きは予測の範囲内だった。


 駆け出したシーフは、逃げるわけでもなく、むしろこちらへと向かってきた。


 狙うは四姫者である自分――ではなく、日良李だ。


「え?」急速で接近してくる敵の姿に、日良李がぽかんと口を空ける。


 多勢に無勢。まともにやっても勝てない以上、彼女はまた小町姉妹の関係性を利用するに違いないと思っていた。だから、雪花は真莉愛と違って驚くことはなく、冷静に日良李の前に飛び出していた。


「す、皇先輩!?」


 相手のほうも目を丸くして驚いている。だが、これを好機と素早くターゲットをこちらに変えてきた。


(大丈夫、大丈夫だ)


 やたらとスローに感じるときの中、心の内でそう呟く。


 用意していた短剣を構え、向けられた白刃に応じるも、真莉愛や紅葉のように格好良く防ぐことは叶わず、強い痺れと痛みが右腕を駆ける。


「うっ」


 きちんと逸らし損ねた切っ先が二の腕を引き裂く。


 これが現実だと思い知らされる未経験の痛みに、恐怖と緊張、そして、得も言われぬ興奮が生まれる。


(四姫者である私の防御ステータスで攻撃を受けてもこの程度で済んだってことは…私の読みは正しかったみたい)


 小町姉妹の大きな声を背に受けても、雪花は違うことを考えていた。


 この『シーフ』は、十中八九、『シーフ』ではない。


 以前、紅葉に説明した従者スキルの一つ、『四姫者が他の戦姫に化ける』ものだ。ほとんど人気のない従者【木阿弥】のものだから、判断が遅れてしまった。


 不意に、痛みが和らいだ。日良李が回復してくれているのだと直感的に察する。


 指示がなくても最適解の行動を取ってくれる日良李に感心しつつ、雪花は真新しい感覚に一瞬だけ目を閉じる。


 痛みが失われていく感覚。まるで、人間じゃなくなっていくみたいだ。


 ドン、と体ごと突進する。


 思わぬ反撃に敵は姿勢を崩し、握っていたナイフを落とした。


 好機と悟った雪花はそのまま躊躇なく、短剣を水平に振り抜いた。


「あっ」


 刃は敵の胸元を引き裂いた。


 赤い血と肌色のコントラストが、雪花のプリミリティブな衝動を加速させる。


「…チェックメイト」


 完全に痛みが無くなった腕で、鋭く、絶命の一突きを繰り出す。


 ずぶり、と鉛色の刃が肉をわけ、臓腑に達したのが手元の感触から分かった。


 ゆっくりと、相手の四姫者から抵抗する力が失われていく。


「…そっちだって、殺す気だったんだから、恨み言は言わないでね。――あと、日良李への暴言、正直言って不愉快だったよ」


 躊躇いなく刃を引き抜けば、ごぽっ、と嫌な音がして返り血が自分にかかった。


「日良李の力があったから、先輩は死ななかったし、四姫者対四姫者で負けるはずがないって分かってた。日良李がお荷物かどうかを見誤ったのが、貴方たちの敗因だね」


 相手の四姫者からは何の反応もない。


(もう、聞こえてないか)


 ずるり、と自分になだれかかる形になっていた相手の体を、膝を曲げながら地面に横たえる。


 マナーの悪い相手だったが、せめてもの礼儀はいるだろう。


 すでに、高揚感は冷めてしまっていた。


 ガタガタと、世界が揺れ始める。


 ゲームは終わりだ。


 ふと、雪花は血で染まった自分の指先が、カタカタと震えていることに気づく。


(私みたいなのでも、やっぱり、やってみると違う…か)


 彼女らは能動的に殺しにきていた。


 殺らなければ、殺られていた。


 私たちは悪くない。


 そのうち、夕暮れと血で赤く染まった地面に黒い影が差した。


 顔を上げれば、そこには自分と同じように返り血を浴びた紅葉が立っていた。


「…大神さん」


 凛としていながらも、悲愴に満ちた顔つきでこちらを見下ろす彼女が言う。


「どう?人を殺す感覚は」

「…気持ちよくはないね。少なくとも、感触は」


 皮肉のつもりはなかったが、どうやら紅葉の神経を逆撫でしたらしい。端正な顔が怒りに歪んだ。


「皇雪花」


 言葉と共に、紅葉が鞘滑りの音を発して手にした剣先を雪花の喉元に添えた。


 冷えた白刃が、とても気持ち良い。


「なに?」

「私は、貴方が嫌いよ」

「そう、だろうね」

「でも、貴方が死ねば、私だけじゃなくて二人も命を失うなら…」


 ゲームの終わりと共に剥離していく地面を、ゆっくりと小町姉妹が歩いて来た。彼女らは、膝をついたまま動かない雪花の両脇に佇むと、心配そうに二人を交互に見比べる。


 紅葉は二人の顔を真剣な顔で見つめると、嘆息混じりに告げた。


「――力を貸すわ。でも、勘違いしなで。貴方なんかと仲良くするつもりはないから」

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