表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触って! ヒーラーサノ先生!!  作者: 茶柱春子
♢ 第四話 大地の古龍と体の痛み ♢
PR
28/31

4-6

 シルクダイヤモンドのグローブをしっかりと装着し直して、古大地龍の右後ろ足の方へと移動した二人。人族や魔族とは、当たり前に違う形をしたそれに、緊張した面持ちで挑む。

「まずは、手にオイルを適量出して、足に広げながら塗っていく。……そうそう、で、最初は足の中央部分、ここから始まって、段々下に降りていく。人族とどこまで同じで良いか分からないから、焦らずゆっくりやって行こう」

「う、うん」

「そう、そうやって……オイルの残量は気にせず、じゃんじゃん使っていいから」

 一言一句聞き逃すまいと耳をそばだてながら、時折力を入れて手を滑らせた。すると、各ツボを刺激する度に、古大地龍から小さく呻き声が聞こえてくる。

「えっと、大丈夫ですか?」

「グルルルルウゥ……」

 なんでも無いように振舞う古龍に促され、アエラは気にしながらも作業を続行する。

「中央のツボが腎臓(じんぞう)、そこから下に尿管、(かかと)の上部内側に膀胱(ぼうこう)、うんうん、その調子」

 佐野の言葉に沿ってツボを押していた彼女は、ふと、無性に気になる部分を発見した。

 人で例えると足親指の少し下のあたり、師から甲状(こうじょう)(せん)と呼ばれる器官のツボだと教わった場所である。

(ここ、もの凄く硬いんだよねぇ……)

「それで……アエラ?」

 なぜだかそこから目が離せないアエラは、自分を呼ぶ佐野も無視して、そこを力いっぱい押した。

「ギュワアアアアアアアアア!?」

 何の前触れも無く、突然古大地龍が咆哮を上げる。アエラは驚きのあまり尻もちを着き、すぐ隣で指示をしていた佐野もひっくり返っている。

 唯一姿勢を崩さずいたカトゥですらも、目を丸くして固まっていた。

「ギュ、ギュウウウウウ……」

 どうやらかなりの激痛だったようで、自分の尻尾を抱えた古龍は呆然とこちらを見下ろしている。

「……師匠、前に足ツボって、体の不調が痛みとして出る整体だって言ってたよね」

「うん、言ったね」

「甲状腺って、どこにあったっけ?」

「えっとね、喉仏……まあ喉の下あたりだね」

 アエラは佐野と共に、古大地龍を見ていた。正確には、彼女の喉元を。二人の視線に晒されている古大地龍は、酷く気まずそうにしている。

「道すがら話してたと思うけど、古龍はブレスを吹けるのね」

「そう聞いたね」

「で、そのブレスを吹く為には喉元にある器官に空気を溜め込んで、自分の魔力と練り合わせる必要があるの」

「ほうほう。で、その器官は喉のどの辺りに?」

「それがね、丁度、甲状腺と同じ場所になのよ」

「ふむ。つまりアエラが言いたいのは、古龍の体ではブレスを吐くための器官と甲状腺が同一の物として存在していて、足のツボにも対応しているのでは。という事かな」

 互いの考えを合わせた後、無言で顔を見合わせた。そして、すくっと立ち上がると、アエラは手の関節を数回鳴らして、問答無用で古大地龍の足ツボを押しまくった。

「ギュウウウウウウウウ!! ギャアアアアアアア!?」

 山々には古龍の大絶叫が轟き、それでも師弟は、真顔で整体をし続けている。

「あああ、アエラ!! 古大地龍様は、大丈夫なんだろうな!?」

 手を止めることなく振り返ると、長とヴォクスを中心として、団子のように固まっている仲間達の姿があった。みなどこが青褪めていて、ガタガタと震えている者もいる。

 カトゥは一人、その集団から離れて佇んでいた。だがその目は、何処か哀れみを含んで古龍を見上げている。

「え、みんな震えてどうしたの」

「お前とその人族が恐ろしいのだ!!」

「あんたって、ほんと失礼な奴だな」

 だから嫌いなのだと、アエラは鼻息荒く睨みつけた。

「それよりも、一体全体どういう状況なのだ!!」

「古大地龍様は玉詰まりしているんです」

 整体を行うアエラに代わり、佐野が簡潔に答える。

「玉詰まりだと?」

「おそらく、ですが。ここ最近、古大地龍様がブレスを使われたのを見た方はいますか」

 誰も反応を返さない。

「人族は、喉仏の下に甲状腺と呼ばれる臓器を持っています。体全体の新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンを分泌する、大事な器官ですね。通常は、これが多すぎたり少なすぎたりしないよう、調整がされるのですが、甲状腺に異常が出るとこれが崩れてしまいます」

「それが一体何の関係があるのだ」

 いまいちピンときていない様子のヴォクスに、佐野が顔を向ける事無く続ける。

「さっき言っていたように、ブレスの為の器官……長いので、ブレス(せん)とでも呼称しましょうか。それが甲状腺と同じ場所にある。ツボ押しは、痛みが出ると反射で不調が押し出されると言う療法なんです。治すための方法と言うよりも、患部を見つける為の手段なのですが、それに引っ掛かっているという事は……」

「分かりにくいし、長いわよサノ。もっと簡単に」

 呆れたと言わんばかりに溜息を吐いたカトゥが、ズバッと切り捨てた。

「今回のツボ押しで、ブレス腺の中に無駄な魔力が溜まっているのが判明。原因は恐らく、長期間ブレスを使わなかった事で、体調不良もそれのせい。そのしんどさを発散しようと無意識に体を動かして、地震が起きていた」

 さっくりと断言された言葉に、ドラゴン達の動揺が大きくなる。誰も彼もが、不安そうにアエラと古大地龍を見ていた。

「でも、もう大丈夫」

 佐野がいつもの柔らかな笑顔を浮かべ、それに同調するようにアエラは笑いながらこう言った。

「古大地龍様の疲れは、あたしと師匠で癒すからね!!」

『ぎゃああああいたいいたい!! アエラ待ってお願いゆるしてぇ!!』

 若干のドヤ顔をしながらの台詞だったが、いきなり聞こえて来た女性の声に、佐野とカトゥがビクッと肩を跳ねさせて周囲を見回した。

「い、今の声は……」

「あ、これ古大地龍様の声だよ。アタシ達の頭に直接話しかけて来てるんだけど、普段は同族間にしか聞こえないようにしてるんだよね」

「こ、これがあの有名な、此奴、脳内に直接ってやつか……!! やっぱり異世界凄い!!」

 一名見当外れな事に驚いているようだが、アエラの言葉にカトゥは何処か納得した様子をしていた。

「貴方の世界の有名所は知らないけれど……なるほど、念会話(テレパシー)ね」

「てれぱしー、って言うの? 初めて知った!」

『ああああああああ、アエラああああああ、お願いもうやめてぇええええ』

 涙目になっている古龍を無視して、アエラはカトゥと他愛もない会話をしながら、どんどんツボを押していく。

 グローブが良い仕事をしてくれているおかげで、ぐいぐい力が入っていくので段々と楽しくなってきた。

(どうしよう……止められないわ)

 聞こえてくる悲鳴もそっちのけで、足ツボを続けていた。

「ちょいちょい、アエラさん。その辺で一端ストップしましょうねぇ」

「あ、ちょっと師匠!! 今すっごく良い所だったのに!!」

「いや、さっきあんな事言っといて、なに一人で楽しんでるの……僕も混ぜて!!」

「怪我人が何を言っているのです!! ダメに決まっているでしょう!!」

「大体、普通はそうはならんだろうが!?」

 二人で整体だと意気込んだところに、カトゥからストップがかかる。それとほぼ同タイミングで割って入って来たヴォクスに機嫌が一気に下降したアエラだったが、古大地龍が体を起こした事で気が逸れた。

『……なんだか、体がスッキリとしているわ』

「足ツボって体の血流を良くする効果もあるので、そのせいかと」

 呆気に取られている彼女に、佐野は満足気にのほほんと笑っている。

「今まで話せていないみたいでしたが、それも何か関係が?」

「多分、ブレス腺の詰まりが影響していたんだと思います。今は、整体を行った事で解れたから喋れるようになったんじゃないかと」

 カトゥの質問に、佐野がそう答えた。

「ほら、やっぱりセイタイは凄いのよ!! アタシが正しかったじゃない!!」

「そんな馬鹿な……」

 一方のアエラは、あれやこれやと文句を言っていたヴォクスにドヤ顔を決める。

「まあ、ツボ押してすぐ完治っていうのは中々無いから、これもノドゥス様みたいに、定期的にした方が良いけどね」

『ひえっ、あの痛みがまだ続くのですか……?』

 定期的にと言う言葉に、古大地龍は尻尾を抱きしめたまま慄く。流石にやり過ぎたかと、アエラはちょっぴり反省した。

「そんなに頻繁じゃなくて大丈夫ですよ。ただ……これからは何かしらの方法で、体の中に溜まってしまう魔力を放出してください。じゃないと、また痛みにのたうち回る事になりますよ」

『なにか方法を考えますわ……』

 もうこりごりだと、古大地龍は泣きそうな声で呟いた。

「……おい、貴様」

「おいこらヴォクス、お前師匠の事を貴様って呼ぶとか何様のつもりなんだよ」

 呼ばれた本人よりも早く反応するアエラに、ヴォクスがたじろぐ。

「いや君、僕の事大好きだよね」

「当り前じゃない!! 師匠がいなかったら、あたしはセイタイに出会えてなかったんだから!!」

「嬉しい事を言ってくれるねぇ」

 余程嬉しかったのか、彼は珍しく頬を染めて照れたようにはにかんだ。師弟のやり取りを古大地龍が微笑まし気に見ている。

「っ~……!! ああ、くそっ。おい、サノ!!」

 そんなやり取りに耐えられなかったのか、ヴォクスが佐野の名を呼んだ。叫んだ、と言った方が正しいかもしれないが。

「え、あ、はい。なんでしょう」

「ぐっ、その……その腕、悪かった」

(うわ、まじかよ珍しっ。こいつが誰かに謝るとことか、初めて見たんだけど)

 それだけ変化が、彼の中にもあったのだろう。いつもなら茶化すが、ここは空気を読んで何も言わずにいた。

 それにつられて、他のドラゴン達からも、ぎこちない謝罪がされる。

「ああ、平気ですよこれくら」

「いいえ、許しません」

 佐野が言い切る前に、カトゥがずいとヴォクスに近づいた。

「さっきから何度も言っていますが、彼は我々の大事な客人であり、魔都に無くてはならない人材なのです。生半可な反省では、彼の負った怪我と割に合いません」

「いやいやいや、だから、僕はだいじょう」

「分かっている。怪我を負わせたケジメは、きちんとつけなければ……。古大地龍様。この者達を都まで送って参ります」

 当人を置き去りにして進む会話に、佐野は嘘だろと言いたげだ。

 それよりも、ヴォクスの提案にアエラは驚いていた。彼の口から、人族を見送るなどという言葉が聞けるとは予想外にも程がある。

『それは良いですね。では、折角ですので、(わらわ)も参りましょうか』

 古龍が体を起こすや否やその背から(つる)のような物が伸びて来て、アエラ達に巻き付いた。

 こちらが何か言うよりも速くそれは三人を持ち上げると、古大地龍の頭に下ろしたのだ。

「え、あ、え!? そんな、古大地龍様! 私達は転移魔法で帰れますから……お、降ろしてくだ、降ろしてぇ!!」

「いや、いやいやいや。いくら何でも、古龍様の頭に乗せてもらうとか、贅沢というか、むしろ不敬なのでは」

『では、参りましょうか』

「聞いて!? っておうわ!?」

 動き出した古大地龍に、佐野とカトゥが急いで近くの出っ張りを掴む。その慌てようが面白くて、アエラはくすくすと笑った。

次回更新は、11/3(金)予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ