4-1
※ 注意 ※
この四話には、一部『地震』に関する描写が出てきます。
異世界仕様になっているので現実世界のものとは一切関係ありませんが、苦手な方は閲覧にご注意ください。
ノドゥスへの初整体から、数週間後の昼下がり。アエラが弟子となってから約一月、佐野が召喚されてから、二か月程の日々が過ぎた。
この日、整体練習の患者役として呼ばれたカトゥは、あの宣戦布告以来何かと妨害してくるフロースを出し抜いて、実に数日ぶりに仮整骨院へ向かっていた。
(まさか、私が外出しようとすると、どこからともなく現れるなんて……どうなってるのかしら。と言うか、何でわかるのよ。それが一番の謎よ……まあ、分からなくはないけど)
佐野が関わる事になると、どこからともなく現れるフロースには、頭を抱えたものの、彼女自身も同じようなものなので深くは咎めない事にしている。
(問題はノドゥスよ。やっとサノの事を認めたと思ったのに、フロースが彼に熱を上げてるからって八つ当たりのように接しちゃって……これじゃ何時まで経ってもセイコツインの正式営業を開始できないじゃないの)
整体を受けてからと言うもの、佐野へ対するノドゥスの対応はかなり緩和されていた。しかし、最愛の孫娘に気に入られているのが引っ掛かるらしく、そのせいもあって未だ整骨院が〝仮〟のままなのだった
どうしたものかと考えるものの、根気よく説得するしかないとカトゥは頭を抱えながら城を出て来たのであった。そうしてやって来たは良いものの、挨拶もそこそこに佐野から急遽予定を変更すると言われ……。
「あびゃああああああああ!?」
結果、カトゥは暇つぶしに自身の黒い髪を弄りながら、院内に木霊するアエラの絶叫を聞く事になる。
危険は無いと聞かされた為、そのまま傍観に徹することにした。
「ふんふん、この感じ……ここら辺は人の親指周りと同じ感じなのか」
感心したように呟きながら、佐野はアエラの足裏を、少しずつ場所を変えながら指で押す。彼曰く、アエラは異世界でユタラプトルと呼ばれる古代生物に近しいらしい。
それが余計に彼の好奇心を擽っているようで、暇さえあればアエラの体を触っているのである。
「あああ、ごめんなさいごめんなさい、ゆるしてししょおおおおおお!!」
一方のアエラは、かなりの激痛らしいそれに、涙目で意味も無く謝罪を繰り返していた。
逃れようとして、無意識に繰り出される蹴りが佐野をピンポイントに狙っているものの、受け流しながら手を動かしている姿は流石としか言いようがない。
「し、しょー……ししょ、おおおおおおおお!!」
「ドラゴンの足の裏って、思っていたよりも柔らかいんだね。にしてもアエラ、君ここ最近の食生活乱れてるな。このツボが痛むって事は、消化器官に難ありだよ」
「だってええええええ、ごはん、おいしかったんだもんんんんん」
感激して語りかける佐野に、アエラがそう答える。そう言えば、少し前に魔都の食事がおいしくてついつい沢山食べてしまう、と言っていたなと思い出し、笑いそうになった。
「んん。その、ツボってなんなのです?」
代わりにカトゥが問いかける。
「これはですね、神経の穴って言えばいいのか……足の裏や掌、体の至る所には、今話したツボって呼ばれる部分があります。秘孔とも呼ばれていて、ここを強く押すと、対応した部位の不調が痛みとなって出るんです」
(掌も……もしかして、手が疲れた時とかに良く押してた、気持ちが良い所がそうなのかも)
話を聞いて、思い当たる節のあったカトゥは、なるほどと一人納得していた。
「正確にはマッサージに近いんですが、体の悪い所が分かるので、僕は結構重宝しています」
「でも、貴方は見ただけで、その人の不調がわかるじゃない。別にそれを使わなくても、良いんじゃないの?」
言葉の通り、佐野の腕前は、一目見れば患部を即座に判別する程ある。その為、この術が何のために必要なのか、純粋な疑問であった。
「僕だって万能じゃないですよ。目測出来ない方もいらっしゃいますし、そういう人には、このツボ押しをするんです。どこが悪いのか、一目瞭然ですからね」
そう言って、彼はまたアエラの足ツボを押し始めた。
「みぎゃうううううう!?」
「うーん、それにしても、ちょっと大げさすぎない? そんなに強く押してないと思うんだけど……」
余りにもアエラが叫ぶので、おかしいなと言いたげである。
「それ……その道具のせいでは?」
そう言って、カトゥは彼の手元を指さす。
彼の両手には、不思議な光沢をしたグローブが。それが照明用のランプに照らされ、光の当たり具合で、淡い青や薄緑色に輝いていた。
「どうしたのです、それ」
「実はですね、アエラを弟子にした時から、ギベオンさんに相談していたことがありまして」
佐野が一度手を止める。
「アエラ達ドラゴン族のように、皮膚が硬い人を整体するにはどうすればいいかって。なら、ちょうどいい鉱石があるから、それを加工して道具を作ってやるって」
大輪の花が咲くみたいに、にぱあっと笑う姿が眩しく、カトゥは思わず目を瞑った。
(ぐ、かわいい)
「で、出来上がったのがこの道具です! これ凄いんですよ!! なんか、これの素材が武器とかにも使われる特別な鉱石らしくてですね!」
興奮気味に語る佐野に、絶対それのせいだとカトゥは確信した。
(武器とかに使うんだもの、そりゃ、ドラゴンの足の裏を押すぐらい簡単……ん、待てよ)
ふと、彼女の脳裏に、とある名前が浮かぶ。
(……あの光沢、素材は鉱石……いやいや、そんなわけないわよね……)
ある貴重な素材の存在が頭を過るが、それは無いだろうと否定した。
(一般に流通することはまずないし、そうそう手に入れられないはずだものね)
だが、どこか不安が拭えない。
「まあ、元々はこれ、アエラに渡すために作ってもらったんですけどね」
「……はえ?」
考え事をしていたカトゥは、驚きによって顔を上げる。放心していたアエラも素っ頓狂な声を出した。
「それは、どういう事です?」
「アエラの手って、僕達とは全然違うじゃないですか。通常の整体をしていると、爪が痛いって患者さんに言われていたので」
「師匠、気付いてたの?」
佐野の発言に、アエラは目を丸くした。
(そう言えば、ずっと前にそんな話をしたっけ)
——「一昨日ね、担当した患者さんに爪が痛いって言われちゃった……教えられた通りにやってたんだけど、それが逆に駄目だったみたい」
——「あ、別にその人の悪口を言いたいわけじゃないのよ!」
——「ただ……アタシも師匠みたいに、セイタイで誰かを笑顔に出来たらなって。そうなるには、まだまだ課題が山積みだけどね」
——「……このこと、師匠には内緒にしてね。何でって、だって恥ずかしいんだもん」
彼女が弟子になって少しした頃の話だった。アエラが一瞬こちらを見るも、もちろん、カトゥはこの事を佐野に言っていない。
ひっそりと首を横に振れば、彼がくすりと笑う。
「君は隠していたかったみたいだけどね。実は気付いてたんだ。ごめんね」
困ったような笑みを浮かべ、謝罪をした佐野。
飄々とした態度に、カトゥはやれやれと肩を竦めた。
「……ごめん、カトゥ」
「あら、それは疑った事に?」
「うっ……うん」
ベッドから起き上がったアエラは、気まずそうに歩み寄って来る。
「……許してくれる?」
すぐ目の前で立ち止まった彼女は、そのまま座り込むと、頭を低くしてカトゥを見上げる様に見つめてくる。
(ええ、許すわ)
「ヴァッ、がわいい」
「え?」
「カトゥ様、本音と建前が逆になってません? というか、真顔でその声出せるって、器用ですね?」
佐野の指摘にハッとして、咳払いをする。さも何もありませんでした、とばかりにアエラの頭を撫でまわした。
「クルル……擽ったいわ!」
「疑われた事への仕返し。これでお相子よ」
彼女は返事の代わりに喉を鳴らす。
(私のトモダチがこんなにかわいい)
「僕の事は無視ですか」
「貴方は何も聞かなかった、良いわね?」
「アッ、ハイ」
圧に負けてか、彼は即答した。若干納得いってなさそうだが、佐野は仕方ないと言いたげに苦笑する。
「あ、師匠。そう言えば、さっきのアタシ用ってどういう事?」
話題を見失っていたカトゥもハッとして彼を見た。
「ああ、そうだった」
佐野も思い出したようで、アエラを手招く。彼女が素直に戻っていくと、彼はグローブを脱ぎ、それを差し出した。
「はい」
「ありがとう……ってあれ……?」
受け取った彼女が困惑する様子に、どういうことかとカトゥも近づいて覗き込む。そこにあったのは、グローブと同じ色に輝く袋。
物を入れるにはやや大きいようだが、先ほどの話にあったグローブは何処にもない。
「サノ、先ほどのグローブはどうしたんです?」
「これですよ?」
口元に笑みを浮かべたまま、佐野が袋を指さす。アエラが、訳が分からないと視線で促せば、彼ははめてみてと彼女を急かした。
「え、この袋を?」
「いいから、いいから」
何が何だか分からなかったアエラだが、彼女は言われるままに手に袋を被せる。
すると、それは瞬きの間に形を変え、グローブへと変化した。しかも、彼女の手にぴったりとフィットし、鋭い爪も覆い隠している。
「ええ!? なにこれ、師匠どういうこと!?」
驚愕の表情を浮かべ、佐野と自分の手を交互に見るアエラとは対照的に、カトゥはそれが魔法の作用であると見抜いた。
「……なるほど、形状変形の魔法ですか……」
「そこに気付くとは、流石カトゥ様! ギベオンさん曰く、知り合いの魔法使いに頼んだそうで。見た目はただの道具袋に見えるんですけど、誰かの手にはめると、こうしてグローブの形になるんです!! こうすれば、アエラの爪も保護されて、患者さんに痛い思いをさせませんからね!」
そう破顔して大喜びしている佐野に対し、カトゥは複雑な心境だった。
(あっあっあっ、めっちゃ嬉しそうかわいい……じゃなくて、いやいや、これもの凄く高度な魔法よ!? なんつーもん貰っちゃってるの!? と言うか、ギベオンもなんてもん作ってるのよ!!)
彼の表情に悶えればいいのか、ギベオンの貴重な技術をポンポン流用するところに頭を抱えればいいのか。内心が忙しすぎて、本人でさえ目が回りそうである。
(と、言うか……この魔法とも相性の良い感じ、どう考えてもあの素材が思い浮かぶんだけど……)
ここまでの話を聞いて、先ほど否定した名前が過った。
「ねえ、そのグローブの素材、名前はなんていうの?」
当たってほしくない予感に、カトゥは祈る様に彼に尋ねた。だが、そんな思いも空しく、佐野は至極嬉しそうに口を開いた。
「シルクダイヤモンドって言ってましたよ!!」
「ぎゅあ!?」
(あたっちゃったあああああああああああああ!!)
彼の口から飛び出した単語に、アエラは飛び上がり、カトゥは天を仰ぐ。
シルクダイヤモンドとは、この世界で最も希少価値の高い鉱石だ。これで作られた防具はあらゆる物理攻撃を防ぎ、武具はありとあらゆる物を斬り倒す。
反面、出土する頻度は極めて稀であることから、幻のダイヤモンドとも言われているくらいなのだ。
「おかげで、ドラゴン族には普通の整体じゃなくて、足ツボの方が効果的って分かりましたし、本当にギベオンさん様様ですね!」
(どうしてギベオンがそんなもん持ってんのかとか、その足ツボってなに、って色々とツッコミたい所だけれども! そりゃドラゴンの皮膚も、余裕でセイタイできますよね!! シルクダイヤモンドだもんね!!)
新たなセイタイ術の名前に悶々(もんもん)としながらも、納得の性能にそりゃそうだと頭を抱えた。シルクと名が付くように、絹のように加工が出来るのだから。
(てかこれ、これ……一体いくらしたのよ!?)
ヒュッと喉がなる。よほど顔色が悪く見えたのか、佐野が心配そうに声をかけてきた。
「あの、どうかされたんですか?」
「サノ。貴方、この鉱石についてなんて聞かされたんですか」
「え、えーっと……滅多に手に入らないけれど、物凄く頑丈で加工もしやすいし、整体道具にするにはもってこいだ、って言われましたけど」
思っていた通りだと大げさな程に溜息を吐く。
「たしかに言う通り、その鉱石は希少よ。……換金すれば、爪の先程の欠片でも、一般的な町人四人家族が一生涯どころか数世代先まで遊んで暮らせる位の金額になりますからね」
「……はへぇ??」
その一言にすべてを察した佐野が、情けない声を出して固まった。ちなみに、アエラもここまで硬直したままである。
「あ、あのあのあの、それって、もしかしなくても、これ……」
「ええ、そうね。そのグローブ程になれば、下手すると国一つ……いえ、大陸丸ごと買い上げる事も出来るかもね」
「金銭に関心が無いと自覚はしてますよ、ええ。でも限度がありますよギベオンさん、なんつーものくれちゃってるんですか!!」
今この場にいないオークへと、佐野が叫びを上げる。
それを見ているだけでも、彼がどれほど動揺しているのか伝わってくる。
(ここまで狼狽えてるサノを見るのも初めてかも……かわいいと思っちゃうのは、なんでなのかしら)
その慌てぶりを見ていて、カトゥは冷静になった。アエラも、自身より取り乱している師匠の姿に、少し落ち着いたらしい。
「アエラ、大丈夫?」
「だいじょうぶ。名前は知ってたけど、まさかこんなところで目にするなんて思ってなかったから、ビックリしたけど」
しっかり返事をしていた割に、その手は収納されていたタオルを引っ張り出しては、別の箱に移す等、意味のない行動を繰り返している。
「まあ、その……貰ってしまった物を、返すのもどうかと思うので……後生、大事に使います……はい」
「それがいいわ」
アエラも首を縦に何度も振り、彼の言葉に同意していた。
「えっと、じゃあ、早速だけど整体を……」
佐野がカトゥをベッドに誘導した、――次の瞬間。
ドンッと突き上げるような大きな衝撃が襲い、続けざまに地面が激しく揺れた。
「きゃあ!!」
「カトゥ様はこっちに! アエラも机の下に潜って!!」
驚き悲鳴を上げたカトゥは、佐野に押し込まれる形でベッドの下に避難した。続けざまにアエラに指示を飛ばすと、彼は近くに落ちて来た整体用クッションを頭に乗せ、ベッドの傍に蹲る。
(あ、地震……しかも、大きい……!!)
無意識に閉じていた目を開いた。グラつく視界の先で、小物や本が落ち、棚が倒れ、書類が散乱し、院内にあるあらゆるものが揺り動かされていた。
大きな体を隙間に押し込めたアエラは、返事をする余裕もなさそうで、小さな手で必死に頭を守ろうとしていた。
(城の、城のみんなは大丈夫かしら……。サノは……平気そう。指示が的確だったし、こういう状況に慣れているのかしら……)
早鐘を打つ心臓を落ちゆかせようと、胸を抑えながら、幾分か冷静になっていた頭でそんな事を考える。
(心臓が痛い……これは恐れ? 私は、ただ地面が揺れているだけの事に、怖がっているの……?)
これまで、何度か地震を経験した事はあったが、ここまで大きなものはなかった。
今回の揺れは、今まで一番大きく、長い。立つ事も出来ず、力の入らない体を投げ出したまま、呆然と世界が震えているのを眺める。
(ああ、早く終わって……)
この日カトゥは、生まれて初めて、大地が揺れる事へ恐怖した。
それから、どれくらい経ったのか、カトゥには分からなかった。だが、地震はゆっくりと小さくなり、やがて彼女の願いを聞き届ける様に収束した。
「……終わった?」
アエラが蚊の鳴くような声で呟く。
「いや、まだ余震が来るかもしれない。とにかく、室内は危ないから、外に出よう。カトゥ様、立てますか?」
「ええ……大丈夫よ」
身を低くしたまま、差し出された佐野の手を取る。引っ張り出されたカトゥは、彼に促されるがまま、アエラと共に屋外へ。
通りには、同じように屋内から避難し始めた人々で一杯だ。
「だ、誰か、助けてくれ! 妻が、瓦礫の下敷きに!!」
「こっちに手を貸してくれ! 足を怪我した人がいるんだ!」
あちこちから聞こえてくる、焦りを含んだ声に、カトゥは一度呼吸を整えた。
「ママァ、ママァー!」
崩れ落ちた家屋の近くに座り込み、泣き叫ぶサキュバスの少女がいる。母親が瓦礫の下敷きになっていると察したカトゥが駆け寄るよりも速く、動く人物がいた。
「あ、えらちゃん……」
呆然と名を呼ぶ少女に返事はせず、アエラは持ち前の鋭い爪を使って、慎重に瓦礫をどかしていく。そうして、あっという間に少女の母親を見つけ出すと、素早く抱きかかえて救い出したのだ。
「ママー!」
「ああ、良かった、無事だったのね……!!」
少女の傍に降ろすと、母娘は涙を流して再会を喜んだ。それを見て、アエラだけでなく、カトゥもホッと息を吐く。
(良かった……うん、私が動揺しちゃダメ。私は魔王の娘、今こそ、しゃんとしなくちゃ)
「落ち着きなさい!!」
響き渡る王女の声に、通りは一瞬で静かになる。そこかしこから、彼女の名が口々に聞こえ、人々の視線が集中する。
「冷静さを欠いてはいけません。皆、落ち着いて行動するのです。女子供は先に魔城へ避難を。動ける者の一部は、怪我人の保護と、彼らの避難を手伝いなさい。次に、力に自慢のある者達は、敷きになった方々の救出をお願いします。しばらくすれば、城から軍が下りてくるはずです。それまでの間、出来る限りの事をしましょう」
凛とした彼女の指示に、次々に魔族達が動き出した。ある者は優先避難者を誘導し、ある者は怪我人を背負い、ある者は道具を手にして要救助者を元へと駆けつける。
「決して、無理をしないように。軍の者達が到着次第、みなさんも一度城へ避難をしてください。必ずです」
通り過ぎていく力自慢達に念を押すと、カトゥは佐野達にも非難するよう、告げようとして振り返った。
「貴方達も……って、サノは!?」
が、そこに佐野の姿がない。慌てて探せば、誘導係として女子供の列に混ざっていた。
「皆さん、落ち着いて、慌てずに。建物の傍や塀の近くは倒壊の危険があるので、出来るだけ道の真ん中を進んでください」
それを聞いていた他の者達も、彼に倣い誘導をかけている。
「彼、手慣れてるわね……」
その姿に感心しながら、カトゥはアエラに歩み寄って呟きかけた。が、なぜか返事がない。
「……アエラ?」
彼女は、どこか焦った様子で、街のあちらこちらに視線を彷徨わせている。
「アエラ、どうかしたの?」
「……なに、これ……ひどい、こんな……」
運ばれていく怪我人と、崩壊した家の数々に目を止めたアエラが、か細く呟いた。初めて見る光景らしく、酷く動揺しているのがわかる。
「……アエラ、ここも安全とは言えないわ。サノと一緒に、城へ避難して頂戴。ね?」
カトゥは、出来る限り優しく語り掛けた。そうして彼女の背に触れようとした時。
「……かえら、なきゃ」
「え? あ、ちょっと、アエラ!?」
そう囁くと、アエラはカトゥ達には目もくれず、突然走り出す。
余りにもいきなりの事に、カトゥはただ茫然と、その背中を見つめる事しかできなかった。
次回更新は、9/29(金)予定です。




