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何とか場を収めたカトゥ達は、近くの部屋から机や椅子をかき集め、ノドゥスの整体をする傍らでティーブレイクをすることになった。
「改めまして。私はクラルス。ノドゥスの妻で、ここにいる子供達の祖母でございます」
赤ん坊を抱きながら、クラルスが頭を下げた。
照明に照らされて輝く髪が、彼女の動きに合わせて流れていく。カトゥはその艶やかな髪に、思わずうっとりと見とれてしまった。
(おばあちゃまの髪、相変わらず綺麗だわぁ……)
「ふふ、そんなに見つめられると、照れてしまいますね」
嫋やかに微笑むクラルスに、ハッとする。
「あ、ご、ごめんなさい……。貴女の髪が、昔と変わらず綺麗だったから」
「まあ、嬉しいわ。ありがとうございます」
私の自慢なの、と優しい声色で答えた彼女が髪を撫でた。
あれ程騒いでいた子供達も、クラルスの鶴の一声により落ち着きを取り戻し、今はアエラの背や、佐野が用意した椅子に座って大人しくしている。
「こちらは息子のノックスと、娘のミコーです。」
「兄のノックスです……」
「妹のミコーと申します……」
紹介された二人はというと、まだ落ち着かない様子でそわそわしていた。
「ノドゥス様、御結婚されていたんですね。全然気付きませんでした」
「ふん、特に言ってないからな」
ノドゥスの背中に低周波パットを張り付けながら、サノが言った。それに素っ気無く言葉を返す夫を、クラルスがくすくすと困ったように笑う。
「もう、貴方ったら。ごめんなさいね、サノ先生。この人、こんなこと言ってますけど、帰ってきたら先生の事ばかり話してるのよ」
「こ、こらやめんか!!」
ノドゥスが否定するため大声を出したが、その顔は火が出るのではというくらい真っ赤になっていた。
「まあまあ、落ち着いてください。電気、流していきますね」
そんな様子を気にせず、佐野が装置のスイッチを押し、そっと強さを調整していく。
「これくらいでどうですか?」
「ふん……まあまあだな」
「では、少しの間このままにしておきますね」
素直じゃない反応に苦笑いをしながら、佐野が背中にタオルをかける。患者の背中を冷やさないためのものだ。
「カトゥ様とクラルス様は、どういったご関係なんですか?」
「アタシも気になってた!」
隣に腰掛けた佐野に同調し、アエラが知りたいと目を輝かせる。
「クラルスは、私の教育係だったのよ」
「カトゥ様ったら、昔はとってもお転婆だったのに、今では立派な女性になられて」
「く、クラルス!!」
自身の恥ずかしい過去を話されそうになり、カトゥは慌てて遮った。そんな様子に、クラルスがくすくすと笑う。
(うう、凄く楽しそうにしてるぅ……!!)
元教育係の楽しそうな姿に、カトゥは何とも言えない気分だった。
「えっと、お母様……」
そんな中、おずおずと口を開いたミコーが、何か言いたげに少々困惑気味のアエラを見る。正確には、彼女の背中で寛いでいる子供達の事だろうが。
(……そういえば、さっきと違って静かだったから忘れてたわ)
そもそも、ドラゴン族と言うだけで、逃げていく人は多い。アエラと出会った当初の街人達が、その証拠だろう。
そんな前例がある為か、自身に無条件で好意を向けてくる子供達の言動が予想外過ぎて、彼女もどんな反応をすれば良いのか分からないのだろう。
「貴方達、いい加減お姉さんの背中から降りなさいな」
娘の言いたいことを察した祖母がそう諫めるものの。
「えー、やっですの!」
「もっと乗るー!」
「乗るー!」
子供達は物珍しさからか、アエラの事を相当気に入ったらしい。
「えっと、アタシは気にしないんで」
「でもねぇ……」
「ほんと、大丈夫なんで!」
ほらと小さな客人を乗せたまま、アエラが院内を歩き回る。子供達もお気に召したようで、キャッキャッとはしゃいでいる。
(うーん、子供達も可愛いけれど、懐かれて嬉しさが滲み出てるアエラも可愛いわね……。はっ、この組み合わせ、もしや最強なのでは??)
などとカトゥが頓珍漢な事を考えていると、佐野が彼女達の傍まで近づいた。
「君達のお名前は?」
彼は目線を合わせる為に少し屈み、子供達に名前を問う。
「あたくしはフロースですの。あそこの赤ちゃんは、いもうとのマルガリータ! あだ名はマルですの!」
「おれはマグヌス!」
「ぼく、ドルミート」
彼の対応が良かったようで、フロース達は元気よく名前を答える。
「フロース姉妹はノックスの、マグヌス兄弟はミコーの子供達よ」
クラルスの補足もあり、佐野とアエラも、彼女達の親子関係を把握する事が出来たようだ。
「ねえ、せんせい。おじいさまは、どこかお体がわるいんですの?」
フロースが彼にそう尋ねる。
「えっと、君のお爺さんはね」
「余計な事を言わんでいい!!」
説明しようと佐野が口を開いた時、ノドゥスが声を張り上げた。驚いた皆が彼を見ると、背中についていたパッドを外し、起き上がろうとしている。
「あ、無理に起きちゃ駄目ですよ」
「ええい、うるさい! っ……私は帰るぞ!」
動く度にノドゥスの顔が痛みに歪んでいた。これは不味いのではと思ったカトゥが、彼をベッドに戻そうと立ち上がった。
「フロースちゃん?」
聞こえて来たアエラの声に、反射的にそちらを見る。ドラゴンの背中に座る少女は、呼びかけにも反応せず、俯いていた。
「とにかく、今すぐ帰るぞ」
「おじいさま、だっこですの!」
佐野に支えられながらも帰ろうとするノドゥスに、フロースが腕を広げる。彼はそれにたじろぐと、困ったように顔を逸らしてしまった。
フロースは黙ったまま、上目遣いでじっと祖父を見つめ続ける。
「……」
「……すまない、フロース」
その視線に耐えられず、ノドゥスは孫娘に謝罪した。先ほどの佐野の話を聞いて、彼女を抱き上げるには無理があると悟ったのだろうか。
「……おじいさま、もうずっと、だっこをしてくださいませんの。あたくしたちのこと、きらいになってしまわれたんですの?」
「そ、そんなことは」
「じゃあ、どうしてだっこしてくれないんですの? あたくしだけじゃないわ。マグヌスやドルミートがおねがいしても、今はむり、しごとがあるからと」
腕を下ろしたフロースが、拗ねたように呟く。ノドゥスはしゃがみこもうとするも、腰に響くようで、それもできないようだ。
「にひゃくねんまえから、おじいさまはあたくしたちをさけてらっしゃるの。だって、さっきもわたしたちをみて、げっていったんですもの」
「それは、その……」
「もう、おじいさまなんてしらない。おじいさまなんて、だいっきらいですの!!」
祖父に向かって叫ぶと共に、フロースの瞳からは止めどなく涙が溢れ出す。彼女に共鳴するように、下の子供達も次々と泣きはじめてしまった。
ノドゥスは自分のせいで孫達が号泣している事と、大嫌いと言われたショックで固まったまま動かない。
(こ、これは困ったわ……クラルスはマルに付きっ切りだし、兄妹があやそうとしてるけど、効果は無いみたいだし……えええええ……)
一気に騒がしくなった部屋で、カトゥはどうしようとオロオロする。
「にひゃくねん……ってなんさいだ??」
(こっちはこっちで年月の差異に処理落ちしてるぅ!? やめてサノ! 貴方までそんなんだと、本気で収拾がつかなくなるから!?)
混乱している様子の佐野に、カトゥは思わず駆け寄ると、その頬を軽くビンタした。
「はっ、ここはだれ、僕はどこ」
「サノお願い、正気に戻って」
「冗談です。いや、割と年齢とか姿の事とかは混乱してますけど」
懇願するカトゥに、佐野が苦笑する。そして、固まったままのノドゥスをベッドに座らせ、つかつかとフロースの元へ歩み寄って行った。
そのまま、彼女の脇に手を入れて持ち上げると、自身の逞しい腕に座らせる。
「こ、こらサノ、うちの孫に何をする気だ!」
孫娘が抱き上げられたのを見て、ショックから戻ったノドゥスが聞くが佐野は答えない。
フロースはと言えば、しゃくりあげてはいたが、突然高くなった目線に驚いたのか涙は止まっているようだ。
他の子供達の泣き声も徐々に小さくなっていく。
(お姉ちゃんが泣き止んだからかしら。こういう所は小さい子供の不思議よね)
鼻を啜りながらも抱えられた姉を見上げる子供達に、ほっとしながらも感心するカトゥ。
「さて、フロースさん」
黙り込んでいたサノが口を開く。
「ひゃいっ!」
(あら、噛んじゃった)
慌てた少女の様子に、場違いながらもカトゥは和んだ。
「君のお爺様はね、ちょっと疲れているんだよ」
「……??」
ふんわりと微笑んだ佐野が告げる。その言葉の意味が分からない小さな吸血鬼は、目を瞬かせ首を傾げた。
次回更新は、9/1(金)予定です。




