表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触って! ヒーラーサノ先生!!  作者: 茶柱春子
♢ 第三話 吸血鬼と腰の不調 ♢
PR
17/31

3-1

 佐野がこの世界に召喚され、早くも一か月が過ぎた。

(あれから、彼の世界との違いを色々と確認したけれど、年月に対する違いは無いみたいで驚いたわ。この世界にも馴染んでくれているみたいだし、一安心って所ね)

 カトゥは考えながら、昼時の雲一つない快晴の空を、初めて整体をしてもらった個室の窓から見上げる。

「うぅ……カトゥ様、私の事はお構いなく、兵士達の訓練へ……」

 そんな彼女の後ろから、弱弱しいノドゥスの声がした。振り返れば、彼は苦虫を嚙み潰したような表情で、ベッドにうつ伏せになっている。

「往生際が悪いですよ。もう間もなくサノが来るのだから、いい加減観念しなさいな」

「うぐぐぐぐ……あんな筋肉達磨の整体なぞ、二度と受けたくなかったのに……」

 とても嫌そうなノドゥスの様子に、カトゥは頭が痛くなる思いだった。

「そもそも、こうなっている原因は貴方なのよ」

 その言葉に、彼はさっと顔を背ける。

「全く、仕事に励むのは良い事ですが、体を壊してしまっては意味が無いでしょう。部下達には体調管理に気を付けるよう(くち)()っぱく言っているのに、上司である貴方が腰痛で動けないなど……」

「オッシャルトオリデス」

 厳しい口調での正論に、ノドゥスは酷く気まずげだ。

「は、反省はしておりますので……」

「反省した振りをしても無駄です。今月で既に十二回目なんですから、今日という今日は、サノのセイタイを受けてもらいますからね」

 そんなぁ、と悲痛な声を上げる彼を無視して、カトゥは佐野の到着を待つ。

「ノドゥス様の整体が出来ると聞いて! この佐野、城下から急ぎ駆けつけました!!」

 ドドドドと言う地響きが近づいて来たかと思うと、次の瞬間にはバンッと勢いよく扉が開いた。小脇に大きな箱の様な物を抱えながら現れた佐野は、息一つ乱しておらず、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。

(んぐう……久しぶりに見るこの笑顔は、なぜだか心臓に刺さるわぁ……)

「カトゥ、大丈夫?」

 余りの眩しさに下唇を噛みしめていると、彼の後から部屋に入って来たアエラに心配されてしまった。すぐに咳払いをして、何でもないと誤魔化す。

「久しぶりの魔城でしたけど、案外覚えてるものですね」

「師匠ったら……。一回間違えて調理場に行ったくせに」

 弟子の鋭い指摘に、佐野が目を泳がせた。それに呆れたカトゥだったが、それも仕方がないかと苦笑した。

 臨時整骨院を構えるようになってからというもの、佐野はで城で寝泊まりする事が無くなり、城下に半ば移住する形になった。

(ちょっぴり寂しいけれど、こうして出張セイタイとかで戻ってきてくれるからまだ良いわ。アエラのおかげで、一段と仕事に打ち込んでいるみたいだし)

 アエラが弟子になった事がよほど嬉しかったようで、彼は張り切って仕事をしている。近頃の整骨院は評判が鰻上(うなぎのぼ)りで、当初と比べても患者の入りが違うのが、その証拠だろう。

 院の設備関係も、彼の整体に心を奪われた職人達が善意で寄付するのだから、気が付けば魔王達が介入する隙間もない。あまりにも設備がしっかりし過ぎているので、時折、臨時の医院である事を忘れそうにもなる。

 そんな中、今や話題が話題を呼び、彼の整骨院は魔都にいるなら必ず通うべき場所として住人・冒険者問わず人気になっていた。

 つい一週間ほど前に様子を見に行った際も、院内に入りきらない患者を整列させ、書類を(まと)め、順に整体用のベッドに案内し、佐野の指示に従って低周波治療器を作動させ……と、それは凄い事になっていたのである。

 あまり目まぐるしい忙しさに、佐野とアエラを除く従業員達はげっそりしていた。

(まあ、あれじゃそうなっても仕方ないというか、むしろピンピンしてたサノ達の方がおかしいというか……)

 佐野の教え方か、はたまた覚えが良いのか。アエラも指導された事を数回こなせば一人で動けるようになっていたし、なんなら彼と同じ数の患者を担当しても苦にした様子もない。

 むしろ、嬉々として患者の対応をするほどであった。

(みんな、生きた(リビングデッド)みたいになっていたのに……やっぱり諸々規格外って事なんでしょうね……気を付けないと、また巻き込まれるわ……)

 少し前に、佐野とアエラが揃って出かけようとした事があり、二人でという所にもやもやとしたカトゥは、無理を言ってついて行ったのだ。

 だが、それがまさか、早朝からぶっ通しで街中を走り続けるものだとは夢にも思わなかったのである。

 開業して以来、日課にしているランニングというものらしく、仕事に入る前の準備運動なのだとか。

(これでも体力がある方だと思ってたんだけど……。アエラは走るのが得意な種族なだけあってめちゃくちゃ足速いし、なんならサノもそれに並走できるとか……そういう(たくま)しい所も彼の素敵なところなんだけども!)

 興奮が顔に出ないよう力を込めているものの、カトゥの鼻息は若干荒い。

 ちなみに、同じ事を父に愚痴った際に、最後の言葉は理解できんと言われてしまったカトゥは、否定されると思わず何気にショックだった。

「あら、アウルム達はいないのね?」

 カトゥがそう聞けば、アエラが休みなのだと答える。

「ついこの間なんだけど、ギベオンが持ち運びできるテイシュウハ装置を作ってさ。なんか、中に電撃属性を持ったクリスタルを入れてるとかなんとか……」

 拙い説明であったが、アエラの言いたい事は何とか理解できた。つまりは、試供も兼ねていると言う事なのだろう。

「セイコツインはどうしたのですか?」

「今日は、午後からお休みにしました。ノドゥス様の整体は、かなり骨の折れる作業だと思ったので」

 カトゥの問いかけに、笑顔でそう言った佐野。しかし、彼の纏うオーラが笑っていない。これには流石のノドゥスも顔が引き()っている。

「ぐ、ぬぬぅ……よもやお前の世話になるなんて……!!」

 が、それでも負けじと睨みつけているノドゥスに、先程の反省もやはり口だけだったかとカトゥは眉間を押さえた。

「なにもそこまで拒否しなくても良くないですか??」

 嫌そうな顔を隠そうともしないノドゥスの態度に、佐野は少し悲しそうである。

「いい加減にしなさいよ、ノドゥス」

「しかしですねカトゥ様!?」

 でもでもだってと駄々を捏ねる壮年の男に、深い溜息が零れた。

「まったく……。それより、あれからきちんと休息をとっているようで何よりです」

 話が進まないので、カトゥは駄々を捏ねるノドゥスを無視する。

「あ、あはは、いやー……流石にあれを経験した後じゃ、言いつけを破ろうと思う気にもならないです、はい……」

(うっ……お父様達もそうだったけど、そんなに怖かったのかしら……)

 明後日の方向を向きながら苦笑いをする佐野の言葉に、カトゥは静かに落ち込んだ。

「話は聞いてたけど、そんなに怖かったの?」

 純粋に疑問に思ったのだろう、アエラが首を傾げて聞いてくる。何を言ったのだと佐野の方を見れば、彼はサッと顔を逸らして目を合わせない。

「いや、僕じゃない、僕じゃないです。本当です」

「え、だって師匠この前むぐっ」

「そ、それよりも!! 整体はノドゥス様だけでよろしかったんですよね!?」

 何か言いかけた弟子の突き出た口を、慌てて上下から抑えた佐野が、わざとらしく話題を変える。

(あああああああサノの手が手が手がアエラのくくくちくち口ぃいいいいというか近いわよ二人ともどうしてそんな密着してでもでも師弟なんだからこれくらいでもぐううう、この何なのかわからないけれどものすごくムカムカしてるぅううあああああああ)

「…………そうよ」

 理解が出来ない謎の感情に内心発狂しながらも、それを表に出さないあたり流石である。

 が、それでも怒りのようなオーラは隠しきれないようで、明らかに佐野も、ベッドに寝ているノドゥスも冷や汗をかいているようだ。

 唯一平然としているのはドラゴン族のアエラだけである。

「で、では、すぐに準備しますね!!」

 そう言って、佐野は抱えていた荷物を、手近な机の上に置く。

 どうやら入れ物だったらしく、彼がカパッと蓋を持ち上げると、中には両手に乗るサイズの箱が入っていた。

 パッドやコード等も全て揃っているのを見るに、これがアエラの言っていた小型低周波装置の様である。

 それ以外にも様々な物が入っており、恐らく全て整体の為の道具だろうと辺りを付けた。

「一度、頂いてすぐに少し動かしたんですけど、性能事態は整骨院にあるものと大差ないと思います」

 佐野が装置の上部にある突起を押す。すると、低い駆動音が室内に響き、装置が動き出したのが分かった。

「……うん。起動は問題ないですね。さて、ではノドゥス様。改めまして、いくつか質問しましょうか」

 少しホッとした様な佐野がそう言えば、漸く観念したノドゥスが、渋々と首を縦に振る。

「まず、患部は腰だそうですけど、これはいつから痛み始めたんですか?」

「そうだな……ざっと二百年前だ」

「二百年ですか~……にひゃくねん??」

 人族には想像し難い数字だったようで、佐野はぽかんとしていた。ノドゥスはちょっと満足げにほくそ笑んでいる。ささやかな抵抗なのだろう。

「えー、にひゃくねん、にひゃくねん……そうですか……という事は、癖になっているわけですね」

「へ、くせ?」

 しばらく宙を見ながら二百年を繰り返していた佐野から突然告げられた言葉に、ノドゥスは素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

 佐野は失礼と一言断りを入れると、患部である腰にそっと触れる。ビクッと体を硬直させるノドゥスだったが、加減されているのか叫ぶことは無かった。

「痛みは腰全体にありますか、それとも限定的ですか?」

「うう、全体は全体だが、特に酷いのは下部(かぶ)の方だ」

「なるほど、でしたらこの辺り……」

「アッ、そ、そこっ、そこはさわるぎゃ!!」

 ノドゥスの話を聞いて、佐野が臀部に近い場所に触れる。軽く指を押し付けるだけで短い悲鳴が飛び出すほどのようで、相当痛いらしい。

「これ、大丈夫なの、師匠」

 ベッドの上で痙攣しているノドゥスを、アエラが覗き込む。

「ああ、元の世界でもよく見られる症状だったから、大丈夫だよ」

「じゃあ、治せるんだな!?」

(よかったぁ)

 ノドゥスは必死の形相で振り返り、カトゥも安心だと胸を撫でおろした。だが、二人の反応を見ていた佐野は、困った様な笑顔を浮かべている。

次回更新は、8/18(金)予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ