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29.進化の円環


会議が、ようやく終わった。

 

同一法の打ち合わせや、魔石を利用した新たなインフラなどでの国との調整など。

 

そこに費やした五時間。

 

詰め込めるだけ詰め込んだ結果、全員の顔に疲労が浮かんでいる。 

――正直、もう帰りたい。 

ここに長居すれば、どうなるかは分かりきっている。 

研究者、政治家。 

捕まれば、まず解放されない。  

そう思いながら廊下を歩く。

 

視界に入るのは、異様な面子ばかりだ。

 

ノーベル賞受賞者。 

犯罪心理学で国家単位の犯罪率を下げた人物。 

そんな連中の間を、すり抜けるように進む。

  

「……止まれ」 

正利さんの声。 

足が止まる。  

――空気が、おかしい。 ピリついている。

 

警備の探索者。ボディーガード。自衛隊。 

全員が、一斉に動き始めていた。  

その先。 

二人の男が、立っていた。 

「……誰だ」 

ボディーガードの声。 

あり得ない。 

ここは三重の警備網だ。  

一つでも抜ければ、即座に制圧されるはず。 

だが―― 

「ああ、やはり居ましたか」 

長身の男が、ゆっくりと周囲を見渡す。 

そのまま、一礼。 

「“挑戦者”」 

その言葉に、空気が一段階冷えた。 

「私は――進化の円環、司祭」 

「久我 朔」 

静かな名乗り。  

「以後、お見知りおきを」 

隣に立つ男を、軽く示す。 

「こちらは、“ペッカートゥム”が一人」  

詳細は語らない。 

だが、それだけで十分だった。 

 

「……目的は何だ」  

正利さんの声。  

一歩も動かず、ただ問う。  

「クフフ……」  

久我が、わずかに笑う。  

「確認ですよ」 

「あなた方が――どれほどのものか」  

ただ、それだけ。  

「とりあえず敵だろ」  

ヒカルが吐き捨てる。  

「さっさとやるぞ」  

メイスを振り下ろす。 

だが――  

「落ち着いてください」 

久我は、軽く身を引いた。

それだけで、回避。 

「今、あなた方と戦う理由がない」  

「分が悪すぎる」  

余裕の声音。  

「……なんだこいつ」  

思考より先に、手が動く。  

ナイフを投げる。  

だが――  

「だから、戦う気はありませんよ」 

あっさりと避けられる。 

速い。 

「……まあ、止まらないでしょうね」  

小さく、ため息。  

そして―― 

 

「我々、“進化の円環”は」  

空気が、わずかに変わる。  

「モンスターこそ、人類の進化の先にある姿だと考えています」 

「その力を取り込み、我々自身が進化する」  

「それこそが、理念」 

静かに。 

だが、確信に満ちた声で。 

「進化のためなら、手段は問いません」 

その言葉に―― 

薄い狂気が滲んでいた。 

「……」 

誰も、すぐには動かない。  

理解してしまったからだ。 

――こいつらは、止まらない。 

「本日は、それを伝えに来ただけです」  

一歩、後ろへ。  

「では――また、いずれ」

  

影が、揺らぐ。 

足元から、黒が広がる。  

そのまま―― 

“沈む”ように、消えた。 

 

「……何なんだ、あいつら」 

ヒカルの声。  

誰も答えない。  

答えは、もう出ている。 

 

「……対策が必要だな」 

正利さんが、静かに言った。 

 

――面倒な連中が、出てきた。




----------------------------------------------------------------




ギルドに戻った後。 


すぐに、臨時の対策会議が開かれた。 

室内には、佐伯さんをはじめ―― 

各国の中間管理職、軍関係者、研究者。 

それぞれの分野で“現場を動かす側”が集められていた。


「……進化の円環について、把握している者は?」  

静かに、会議が始まる。 

一人、手が上がった。 

アメリカ軍、デイヴィッド中佐。

「情報は断片的だが、存在は確認されている」  

低く、はっきりとした声。  

「ダンジョン発生以降に現れた思想集団だ」  

「モンスターの力を取り込み、“進化”を目指す」

 

「……つまり」 

誰かが呟く。  

「人間を捨てる連中、か」 

 否定は、出ない。 

それが最も分かりやすい表現だった。 

  

「問題は、そこじゃない」  

研究者の一人が口を開く。 

「どうやって侵入したか、だ」 

その一言で、場が引き締まる。

三重の警備。 

魔力認証。 

探索者による監視。

 

――それを、突破した。 

あり得ないはずの事象。

だからこそ、問題だった。

 

議論が始まる。


だが―― 

「この際、方法はどうでもいい」 

正利さんが、遮った。 

一瞬で、静まる。 

「侵入された」  

「それが事実だ」 

「なら、対策は一つ」 

視線が集まる。 

「“前提を変える”」 

短い言葉。

 

「……どういうことだ」 

防衛関係者が問う。  

「守る前提を捨てる」 

「侵入されるものとして動く」 

「その上で」 

一拍を置き、強く言う。 

「侵入した時点で、排除できる体制を組む」 

静かな提案。 

だが、その中身は重い。 

 

「……具体案は?」 

「探知系スキル保持者の常時配置」 

「及び、A級以上の覚醒者による即応体制」 

場がざわつく。

「“特別監視対象”と同等以上の個体が出た場合」 

「通常戦力では、時間稼ぎすら困難です」 

 

反論が、止まる。  

現実を突きつけられたからだ。

「……つまり」  

誰かが呟く。 

「常に“戦場前提”で動け、ということか」  

「そうなる」  

正利さんは、否定しない。 

「人を捨てるような者は、今後も現れるだろう」

 

静かな断言。 

それは、予測ではない。 

確信だった。

  

敵は――モンスターだけではない。 

進化の円環。

  

あれは、始まりに過ぎない。   

世界は、もう変わっている。 

そして――

  

これからも変わり続ける。




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