表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

2.渋谷


渋谷の街に足を踏み入れたとき、最初に感じたのは“違和感”だった。

 人はいる。車も動いている。信号も、雑踏も、普段と何も変わらない――はずなのに、どこか空気が歪んでいるように感じる。

 原因はすぐに分かった。


「……なんだ、あれ」


 スクランブル交差点の中心。

 そこだけが、ぽっかりと現実から切り離されたように歪んでいた。

 灰色の霧が漂い、空間がゆらゆらと揺れている。その中心にあるのは、明らかに異質な“入口”。

 見えているのに、誰も気づいていない。

 視線を周囲に向けると、違和感は確信へと変わる。

 普通にスマホを見ながら歩く人間。

 談笑するグループ。

 だが、その誰もが“そこ”を見ていない。

(……やっぱり、見えてる奴と見えてない奴がいるのか)

 プロローグで感じた違和感と一致する。

 つまり――

(これは“選ばれた側”にしか見えない)

 そう考えるのが自然だった。

 そして、もう一つ。

 入口の前に、誰もいない。

 それが意味するものは単純だ。

(……早い者勝ち、ってことか)

 頭の中に浮かぶ“ダンジョンの仕様”。

 パーティー制、優先権。

 どこから得たのか分からない知識なのに、妙に納得できてしまう。

「……なら」

 迷っている暇はない。

 誰かに先を越される前に、踏み込むべきだ。

 そう判断した瞬間、体は自然と前に出ていた。

 霧の中へ、一歩。

 視界が歪む。

 次の瞬間――

 世界が切り替わった。

 

 そこは、完全に“別の場所”だった。

 石造りのような床。湿った空気。どこからか滴る水音。

 そして――

 視界の先に、うごめく影。

「……マジで出るのかよ」

 思わず苦笑する。

 スライム。

 ゴブリン。

 ゲームや漫画で見たことのある存在が、そのままそこにいた。

 だが、不思議なことに――襲ってこない。

 こちらを認識しているはずなのに、一定の距離を保ったまま動かない。

(……こっちから仕掛けるまでは安全、って感じか)

 それなら好都合だ。

 まずは確認。

 そして、練習。

「……よし」

 刀を抜く。

 軽く振る。

 スライムへ踏み込む。

 ――斬る。

 ぷるり、とした感触とともに、あっさりと切断された。

 直後、体の内側に変化が走る。


「……これが、経験値か」


 表示はない。

 だが、確かに“成長した”感覚がある。

 曖昧だが、間違いなく強くなっている。

「……悪くない」

 次はスキル。

 念動力を意識する。

 対象を定める。

 圧し潰すイメージ。

 ――ぐしゃり。

 複数のスライムが同時に潰れる。

「……やっぱ強いな」

 だが、その直後。

 体が重くなる。

 息が荒くなる。

(消費、でかいな……)

 連発は危険。

 使いどころを見極める必要がある。

 次に、魔力操作。

 手の先に刃を形成する。

 不安定だが、形にはなる。

 ゴブリンへ接近。

 振る。

 ――弾かれる。

「っ……硬いな」

 スライムとは違う。

 明確に“敵”としての強さがある。

 だが、それでも。

 繰り返す。

 斬る。避ける。叩き込む。

 少しずつ、感覚が掴めてくる。

(……戦えるな)

 恐怖は、もう薄れていた。

 代わりにあるのは、適応していく感覚。

 

 どれくらい時間が経ったのか分からない。

 気づけば、何度も戦っていた。

 倒して、休んで、また倒す。

 その繰り返し。

 そして気づく。

「……復活、してるのか」

 倒したはずのモンスターが、時間差で再び現れている。

 つまり――

(ボスを倒すまで、無限に湧くってことか)

 面倒だが、同時に好都合でもある。

 練習には困らない。

 そうして、戦い続けた。不思議と、殺しても吐き気がしない。

称号の効果かもしれない。

いや、称号も含め、ほとんどのことがまだ理解できていない。

ひたすら、寝て倒してを繰り返していた。もうゲームの周回みたいな物になってきている。

レベルは10まで上がったが、それ以上は全然上がらない。それにここでもう1ヶ月過ごした、いくら外での時間がたたないとは言えこんな場所で寝袋を使って寝るのは面倒だ、外に別の覚醒者が居るかもしれないし...

最後にモンスターを一通り倒した

持久戦には向かない体質だと痛感する。

 体を慣らし、スキルを磨き、感覚を研ぎ澄ます。がスキルを使うと一気にバテてしまう。

 そろそろボスを倒そう、そう決めた。


「……ここか」


 ボス部屋。

 装飾の施された扉。

 異様なまでに軽いそれを押し開けると、空気が一変した。

 重い。

 圧が違う。

 そして――

「……でけえな」

 巨大なスライム。そして、明らかに格上のゴブリン。威圧感が段違いだった。

「……まずは」

 スライムから。

 念動力を集中。

「潰れろ」

 核が弾けた。

 あっさりと消滅した、だが問題は、残った方だ。どこに核があるかもわからず、皮膚も固そうだ。

「……来るか」

 ゴブリンが動く。

 速い。棍棒が振り下ろされる。

 ギリギリで回避。

 反撃するが、弾かれる。重い、そして硬い。

「くそっ……!」

 だが、止まれない。

 距離を詰める。

 念動力。

 歪む。が、完全には潰れない。

 だが――隙はできた。床に崩れ落ちた。

体を起こす前に叩き込んだ、魔力刃を叩き込む。

 一撃。二撃。...

 そして――

倒した瞬間、体中の力が抜け、膝から床に崩れ落ちる

「……はぁ、はぁ……」

 全身が重い。だが、それ以上に―(勝った)

 確かな実感があった。

 気づけば眠っていた。目を覚ますと、とても静かだった。そして、宝箱。

「……お約束かよ」

 開ける。

 中には小さな袋。

 マジックポーチ。

 試しに手持ちの日本刀や、モンスターから手に入れたドロップアイテムを詰め込むと、不思議なことに全部収まった。

 全部入る。

「……便利すぎだろ」

 苦笑する。

 だが――

 外に出た瞬間、それは消えた。 

 ダンジョンの外に足を踏み出した瞬間、街の空気が異様に重く感じられた。昼の光が差し込んでいるはずなのに、空がどこか灰色に霞んで見える。頭の奥で、戦闘中の緊張感がまだ残っているのが分かった。

「……あれ?」

視界の端で、人影が不自然に動いた。最初は誰かの錯覚かと思ったが、違った。目の前の男――おそらく覚醒者の一人――が、目を血走らせ、こちらに向かって全力で駆けてくる。手には鉄パイプのようなものを握り、口を歪めて叫んでいる。

「……うわっ、ちょっと待て!」

体が反応するより早く、男が飛びかかってきた。普段の自分なら瞬時に避けるところだが、戦闘後の疲労で体は重く、刀を取り出す手も鈍い。

「くっ……間に合うか……」

意識を集中させ、手にした日本刀を構える。だが、刀を握る感覚さえも少し揺らぐ。男の目は理性を完全に失っていて、攻撃の予測がほとんど不可能だ。

鉄パイプが振り下ろされ、肩をかすめる。衝撃が全身に走り、よろめく。呼吸が荒くなり、心臓が早鐘のように打つ。

だが、ここで手を止めるわけにはいかない。次の瞬間、念動力の核を思い浮かべ、強く意識を集中する。

「潰れろ……!」

男の体がぐにゃりと歪み、床に倒れ込む。だが完全には止まらず、怒りに任せて再び立ち上がろうとする。体力は削られ、動きも鈍いが、まだ襲ってくる意思は残っている。

「くっ……まだ終わらないのか……」

魔力操作で刀の先端に光の刃を形成する。透明な刃が手刀に沿って鋭く伸び、鉄パイプを弾き飛ばす。男の攻撃は力任せだが、無秩序ゆえに少しの隙も生まれる。

その隙を見逃さず、一気に距離を詰めて斬撃を重ねる。息が上がり、体中の筋肉が悲鳴を上げる。だが、倒さなければ自分も命を落とす。冷静さと緊張が、疲れ切った体をかろうじて支えている。

一撃、一撃を意識しながら、念動力と魔力操作を駆使して攻撃を重ねる。ついに男の動きが鈍り、膝をつく瞬間を逃さず、最後の斬撃を叩き込む。

男が床に崩れ落ち、周囲は静寂に包まれた。息を切らしながら膝をつき、頭の中でぐるぐると考えが回る。ダンジョンの外で待ち受ける危険……覚醒者の影響は予想以上だ。

「……まさか、外でも戦わなきゃいけないとは」

冷や汗が背中を伝い、心臓の鼓動が耳に響く。目の前には通行人がちらほら通るが、誰もこの異常に気づいていない。どうやらダンジョンのような物らしい、一般人には見えないようだ、

戦場は、ダンジョンの中だけではない。外の世界も、覚醒した人間の影響で安全ではなくなる――そんな現実が、身体の疲労以上に重くのしかかる。

膝をついたまま深呼吸を繰り返し、刀を握り直す。

次に何が来ても、倒す覚悟はできている。

ふと空を見上げ、街の景色を確認して――違和感に気づく。


「……時間、めっちゃ経ってる?」


前回のダンジョンのときとは違い、現実世界ではかなりの時間が経過していた。         

スマホのカレンダーを確認すると、卒業式まであと2日。

「……は?」                                  

心臓が跳ねる。                 

親には「友達とキャンプに行く」と言ってある。

でも、これはさすがに言い訳が通用しない時間のずれだ。                  

家に帰ると、スマホの電源を切れていて連絡できなかったことを言い訳にして、急いで卒業式の準備をする。                                      

服を整え、必要な書類をまとめ、荷物を確認する。      

疲労で動きが鈍い体を引きずりながら、何とか1日が終わった。

体は重いけど、心の奥では不思議な高揚感が残っている。                   

                   

「……ま、何とかなるか」                   

                              

卒業式も、これからも――俺にとっては、また別の試練の始まりにすぎなかった。

小説家になろうの読者の評価ほど信頼できる評価は無いと思っています!評価とコメント、お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ