1.ダンジョンを終えて
目を覚ましたとき、最初に感じたのは静寂だった。
音がない。風もない。気配すら薄い。
ただ、自分の呼吸だけがやけに大きく響いている。
「……っ、は……」
荒い息を整えながら、ゆっくりと上体を起こす。視界に広がるのは、現実とは思えない歪んだ空間だった。天井も壁も曖昧で、どこまでが地面でどこからが空間なのかすら判別しづらい。そうだ、ダンジョンの中で眠ってしまったんだ。
それでも、自分が生きていることだけは分かる。
そして――
【???を撃破しました】
【経験値を獲得】
【称号効果の一部が反応】
視界の端に浮かぶ文字。
「……ああ、さっきのか」
黒い渦。あの異様な存在を斬った結果だろうと、半ば強引に納得する。理解できないことを一つずつ考えていたら、頭が持たない。
しばらくその場に横になり、呼吸を整える。
冷たい床の感触が背中に伝わる。現実のようで現実ではない、妙に曖昧な感覚。
「……なんなんだよ、マジで」
呟きは、誰に届くでもなく空間に溶けた。
思考を整理しようとするが、まとまらない。地震、空の亀裂、声、ステータス表示、黒い渦、フードの影――どれも現実として受け入れるには情報量が多すぎた。
恐怖というより、処理しきれない情報に脳が拒否反応を起こしている感覚に近い。
「……ダメだな」
考えるのを一度やめる。
今は理解よりも、生き残ることが優先だと直感していた。
ゆっくりと体を起こした、そのときだった。
視界の端に“それ”が映る。
部屋の奥。さっきまではなかったはずの場所に、ぽつんと置かれている箱。
「……宝箱、かよ」
あまりにも分かりやすい存在に、逆に警戒心が薄れる。ゲームのような展開だが、だからこそ罠の可能性も高い。
だが――
「今さらだろ」
ここまで来て引き返す理由はない。
刀を握り直し、慎重に近づく。足音がやけに響く中、箱の前に立つと周囲の空気が張り詰めたように静まり返った。
一瞬だけ躊躇する。
だが、結局その手は止まらなかった。
「……開けるぞ」
蓋を持ち上げる。
次の瞬間、光が溢れた。
眩しいわけではない。だが、確かに“異質な光”がそこにあった。
その中心に浮かぶのは、小さな青い結晶。
視界に文字が浮かぶ。
【スキルコアを入手】
【使用しますか?】
「……愚問だろ」
こんな状況で拒否する理由がない。
「Yes」
その瞬間、称号欄が微かに光った。
同時に、体の奥から熱が湧き上がる。
「……っ!?」
痛みではない。だが、何かが書き換えられていく感覚。
理解できない情報が流れ込み、体の内側で“何か”が組み上がっていく。
そして――霧が立ち込めた。
「……またか」
目の前に現れる黒いフードの影。
先ほどの存在と同じだと、すぐに分かった。
「私は先代の挑戦者。説明を忘れていたね」
頭に直接響く声。
その言葉を聞いた瞬間、苛立ちが先に立った。
「ふざけんなよ……!」
考えるより先に体が動く。
刀を振り上げ、踏み込む。
だが――届かない。
刃が触れる直前、影は霧のように消えた。
残されたのは、言葉だけ。
「君は私によく似ている。スキルを使いこなせ」
直後、再び文字が浮かぶ。
【スキル獲得】
【スキル"念動力"魔力操作"を習得しました】
【スキル詳細】
■念動力
込めた精神力によって威力が変化、精神力が消耗されると最悪の場合、自我を保てなくなるため注意
【補足】
精密操作には集中力を要する。精神状態が不安定な場合、制御が乱れる可能性あり。
魔力による代用も可能
熟練度の上昇により「不可視の刃」や「圧縮」など応用技術の解放あり。
■魔力操作
体内および周囲の魔力を感知し、制御する能力。
すべての魔法・スキル発動の基盤となる中核スキル。
・魔力制御:消費量の最適化、暴走の抑制
・魔力干渉:他者の魔力へ微弱な影響を与える
【補足】
高い適性を持つ者は「無詠唱」や「高速詠唱」が可能となる。
熟練度により、魔力の形状変化(武器化・防壁化)など高度な操作が解放される。
「……は?」
理解は追いつかない。
だが、体は理解していた。
試すように視線を動かす。
庭に戻り、転がっていた空き缶を思い浮かべ
る。
圧し潰すイメージ。
ただ、それだけ。
――ぐしゃり。
音を立てて潰れた。
「……マジかよ」
触れてすらいないのに。
完全に、自分の意思だけで。
次に、体の内側へ意識を向ける。
流れている“何か”。
それを動かし、形を与える。
手のひらの先に、ぼんやりとした刃が形成される。
「……これが、魔力操作」
便利すぎる。
そう思った直後――違和感に気づく。
体が重い。
息がわずかに荒い。
(……消費してるな)
試しにもう一度使う。
石を潰す。
ぐしゃり、と砕ける。
その瞬間、膝が崩れた。
「っ……!」
疲労が一気に押し寄せる。
「……無制限じゃねえのか」
当たり前だが、重要な事実だった。
強力だが、使いすぎれば終わる。
つまり――戦い方を考える必要がある。
部屋を出て、自室へ向かう。
スマホでこのことについて調べるといろいろなところで話題に上がっていた。
ニュースアプリを起動する。
そこに映っていたのは――
『全国各地で原因不明の錯乱状態』
『突然暴れ出す人間が続出』
『政府、緊急会見へ』
「……は?」
思わず声が漏れる。
画面の向こうで、人が叫び、暴れ、取り押さえられている。
まるで――
「……あれ、か?」
頭に響いた、あの声。
“選別を開始する”“試練を与える”
「……冗談だろ」
だが、笑えなかった。
現実が、それを否定しない。
それだけでない、
SNS。
普段はほとんど使っていないアプリ。、俺の黒歴史とも言える...
そこに表示されていたのは――
『ダンジョン見えてる人いる?』
『これ、俺だけ?』
『スキル使えたんだが』
「……やっぱりな」
自分だけじゃない。
覚醒者は、他にもいる。
「……なら」
少しだけ、安心する。
完全な孤独じゃない。
それだけで、だいぶ違う。
だが同時に―
「……面倒なことになりそうだな」苦笑する。
人がいるってことは、争いもある。
奪い合いも、裏切りも、全部あり得る。
「……まあ、今はいいか」
スマホをしまう。
とりあえず、ニュースになっていたのは感染型の精神病、と渋谷のスクランブル交差点に人が全然居ないことだ...ここにダンジョンがあるような気がした。
「……準備、するか」
使えそうなものを集める。
水、非常食、懐中電灯、寝袋。
そして、日本刀。
「……頼むぞ」
誰に言うでもなく呟く。
準備を整え、立ち止まる。
一瞬だけ、考える。
このまま何もなかったことにする選択。
だが、それはすぐに否定された。
「……無理だな」
もう知ってしまった。
この世界の異常を。
見なかったことにはできない。
それに――
(あの空の“目”……)
思い出しただけで、背中が冷える。
あれは、逃げても終わらない。
ならば――
「……自分で確かめるしかない」
そう呟き、俺は外へ向かった。
目指すのは、渋谷。
そして――俺は驚愕の事実を知ることとなる
試練はもう始まっている
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