2.渋谷
渋谷の街に足を踏み入れたとき、最初は半信半疑だった。
ニュースで「異様にスクランブル交差点が空いてます」と言われても、本当にダンジョンがあるのかの確信はほとんどなかったからだ。
だが、目の前に――確かに、空間の歪みが広がっていた。
灰色の霧と、不自然に揺れる空気。
その中心に、ダンジョンの入口。
「……あったんだ」
ほっと息を吐いた。ただ、まだほっとは出来ない、ダンジョンのシステムのせいだ、
-ダンジョンはパーティーメンバーとしか入れず、一番最初に足を踏み入れたものに優先権が付く、
この文から考えるに早い者勝ち、無駄足の可能性があるんだ…
それに家から持ってきた日本刀が見つからなくてよかった、と安堵もした。
見つかってたら、今頃ここにはいなかっただろう。
恐る恐るダンジョンに足を踏み入れる。
中は、まるで漫画やアニメでよく見るような光景だった。
ゴブリンやスライムといったモンスターが数十体、散らばるように存在している。
でも、こちらから攻撃しない限り、襲ってくる気配はないようだ。
「……よし、まずはスライムか」
刀を取り出し軽く振ると、ぷるぷるした感触のままスライムが切り裂かれる。
すると、すぐに経験値が入ったようだ。
画面表示のない世界なのに、体が確かに成長を感じている。
次は、スキルの練習だ。
家で確認した通り、念動力は目標を定めてイメージすると対象を潰すことができる。
魔力操作は、魔力を使って剣のようなものを作る能力。
魔法も試したが、どうやっても上手くいかない。
しかも、両方使うと体力がぐんぐん削られることも分かった。
まず念動力を試す。
「潰れろ」――そう思っただけで、周囲のモンスターが一瞬にして潰れた。
圧倒的に便利だが、体力は大幅に消耗する。
疲れ切った体を抱え、周りにモンスターがいないことを確認してから床に倒れ込み、仮眠を取った。
目を覚ますと、周囲にモンスターが戻っていた。
腰を抜かすほど驚いた。
どうやら、ボスを倒さない限り、時間差で復活するらしい。
「……なるほど、練習にはちょうどいいな」
今度は魔力操作を試す。
手刀を鋭くしてゴブリンを斬る。
不思議と、殺しても吐き気がしない。
称号の効果かもしれない。
いや、称号も含め、ほとんどのことがまだ理解できていない。
ひたすら、寝て倒してを繰り返す。
レベルは10まで上がったが、それ以上は全然上がらない。それにここでもう1ヶ月過ごした、いくら外での時間がたたないとは言えこんな場所で寝袋を使って寝るのは面倒だ、外に別の覚醒者が居るかもしれないし...
最後にモンスターを一通り倒した
持久戦には向かない体質だと痛感する。
少しは持久力が延びたものの、やはり疲れる。
そしてついに、ボス部屋に到達する。
ボス部屋の扉には変な装飾がついている、そして、異様に軽い、
ボス部屋の扉を押し開けると、
空気が一変した。
湿った匂いと、どこからともなく聞こえる低いうなり声。
部屋の中央、巨大なスライムとゴブリンが、こちらを見据えていた。
スライムは半透明で、光を反射する表面が揺れる。
ゴブリンは筋骨隆々で、手には棍棒のような武器を握っている。
まるで、漫画やゲームのボスそのものだった。
こういう時に鑑定魔法とかが使えたらカッコいいんだろうな~と思う。
「……ふぅ、まずは落ち着け」
呼吸を整え、手にした日本刀を握り直す。
目標を定め、念動力の核を思い浮かべる。
「潰れろ……!」
手元から意志が伝わるような感覚とともに、スライムの体がぐにゃりと潰れ、弾けて消滅した。
拍子抜けするくらい簡単だったが、その分、ゴブリンが視界に入ると威圧感が増す。
「よし、次はこいつだ」
魔力操作を使って、刀の先端に魔力の刃を形成する。
透明な光の刃が、手刀に沿って鋭く伸びる。
ゴブリンの棍棒が振り下ろされる前に、まずこちらから斬りつける。
「くっ……硬い!」
棍棒で防がれながらも、隙をついて斬撃を重ねる。
一撃一撃、魔力操作で刃を強化するたびに体力が削られていくのが分かる。
でも、称号の力なのか、感覚的に耐えられる範囲だ。
ゴブリンは素早く回避し、反撃を狙う。
棍棒が肩をかすめ、痛みが走る。
踏み込んで距離を詰め、念動力で目標に圧力をかける。
「潰れろ……!」
集中した瞬間、ゴブリンの体がぐにゃりと歪み、床に崩れ落ちた。
体を起こす前に、もう一撃、刀で仕留める。
倒した瞬間、体中の力が抜け、膝から床に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……疲れる……」
息を整えながらも、達成感が込み上げる。
スライムは簡単、ゴブリンは時間がかかった。
でも、両方を倒しきった達成感は大きかった。
ふと、周囲を見渡す。
モンスターは時間差で復活するらしいが、今は静かだ。
この瞬間、少しの安堵と次の戦闘への覚悟が胸に湧きながらも眠りについた。
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ボスを倒したあと、全身の力が抜け、床に崩れ落ちた。
意識はまだ戦闘中の緊張に引きずられ、呼吸が荒い。
体中が痛く、疲労で手足が鉛のように重い。
そのまま、気づけば寝ていた。
夢も見ず、ただ床に横たわって、体を休める。
目を覚ますと、部屋は静かだった。
戦闘の気配は消え、モンスターの残像もない。
目の前には、あの宝箱。
「……またか」
疲労でろれつが回らないまま、手を伸ばし蓋を開ける。
中には光る小さな袋――マジックポーチが入っていた。
名前からしてただものではない気配。
試しに手持ちの日本刀や、モンスターから手に入れたドロップアイテムを詰め込むと、不思議なことに全部収まった。
重さも変わらず、何でも収納できるらしい。
準備を整え、ダンジョンの外に出る。
ダンジョンの外に足を踏み出した瞬間、街の空気が異様に重く感じられた。昼の光が差し込んでいるはずなのに、空がどこか灰色に霞んで見える。頭の奥で、戦闘中の緊張感がまだ残っているのが分かった。
「……あれ?」
視界の端で、人影が不自然に動いた。最初は誰かの錯覚かと思ったが、違った。目の前の男――おそらく覚醒者の一人――が、目を血走らせ、こちらに向かって全力で駆けてくる。手には鉄パイプのようなものを握り、口を歪めて叫んでいる。
「……うわっ、ちょっと待て!」
体が反応するより早く、男が飛びかかってきた。普段の自分なら瞬時に避けるところだが、戦闘後の疲労で体は重く、刀を取り出す手も鈍い。
「くっ……間に合うか……」
意識を集中させ、手にした日本刀を構える。だが、刀を握る感覚さえも少し揺らぐ。男の目は理性を完全に失っていて、攻撃の予測がほとんど不可能だ。
鉄パイプが振り下ろされ、肩をかすめる。衝撃が全身に走り、よろめく。呼吸が荒くなり、心臓が早鐘のように打つ。
だが、ここで手を止めるわけにはいかない。次の瞬間、念動力の核を思い浮かべ、強く意識を集中する。
「潰れろ……!」
男の体がぐにゃりと歪み、床に倒れ込む。だが完全には止まらず、怒りに任せて再び立ち上がろうとする。体力は削られ、動きも鈍いが、まだ襲ってくる意思は残っている。
「くっ……まだ終わらないのか……」
魔力操作で刀の先端に光の刃を形成する。透明な刃が手刀に沿って鋭く伸び、鉄パイプを弾き飛ばす。男の攻撃は力任せだが、無秩序ゆえに少しの隙も生まれる。
その隙を見逃さず、一気に距離を詰めて斬撃を重ねる。息が上がり、体中の筋肉が悲鳴を上げる。だが、倒さなければ自分も命を落とす。冷静さと緊張が、疲れ切った体をかろうじて支えている。
一撃、一撃を意識しながら、念動力と魔力操作を駆使して攻撃を重ねる。ついに男の動きが鈍り、膝をつく瞬間を逃さず、最後の斬撃を叩き込む。
男が床に崩れ落ち、周囲は静寂に包まれた。息を切らしながら膝をつき、頭の中でぐるぐると考えが回る。ダンジョンの外で待ち受ける危険……覚醒者の影響は予想以上だ。
「……まさか、外でも戦わなきゃいけないとは」
冷や汗が背中を伝い、心臓の鼓動が耳に響く。目の前には通行人がちらほら通るが、誰もこの異常に気づいていない。どうやらダンジョンのような物らしい、一般人には見えないようだ、
戦場は、ダンジョンの中だけではない。外の世界も、覚醒した人間の影響で安全ではなくなる――そんな現実が、身体の疲労以上に重くのしかかる。
膝をついたまま深呼吸を繰り返し、刀を握り直す。
次に何が来ても、倒す覚悟はできている。
ふと空を見上げ、街の景色を確認して――違和感に気づく。
「……時間、めっちゃ経ってる?」
前回のダンジョンのときとは違い、現実世界ではかなりの時間が経過していた。
スマホのカレンダーを確認すると、卒業式まであと2日。
「……は?」
心臓が跳ねる。
親には「友達とキャンプに行く」と言ってある。
でも、これはさすがに言い訳が通用しない時間のずれだ。
家に帰ると、スマホの電源を切れていて連絡できなかったことを言い訳にして、急いで卒業式の準備をする。
服を整え、必要な書類をまとめ、荷物を確認する。
疲労で動きが鈍い体を引きずりながら、何とか1日が終わった。
体は重いけど、心の奥では不思議な高揚感が残っている。
「……ま、何とかなるか」
卒業式も、これからも――俺にとっては、また別の試練の始まりにすぎなかった。
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