表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この恋を叶えるために  作者: つよちー
PR
9/13

第九話「惨たらしい過去」

【前回のあらすじ】

春香を思い出の場所に連れて行った蓮は、彼女が記憶を取り戻していることを嬉しく思うが、同時に彼をまだ思い出していない事実に悲しくなる。

高校では合宿が始まるが、蓮と響子は全く興味を示さない。

同じ部屋の生徒のせいで眠れない彼は、外の空気を吸いに外へ行くと、響子がそこにいた。


「話したいことって?」

そう訊き返すと彼女は頷いた。

「....私が不眠症だった理由」

「別に、そんなの今更話さなくても」

「わかってる。でも、加藤くんには聞いてもらいたいの」

そこまで言うなら、と俺は彼女の話を聞くために口を閉じた。そして少し間が空いて、彼女は自分の過去を話し始めた。


私のお父さんは最低最悪の人間だった。私たちに内緒で多額の借金を背負い、挙げ句の果てに行方を眩ませた。そしてお父さんの借金はお母さんに全て肩代わりさせられ、お父さんがいなくなった日からずっと借金取りが家に押しかけて来た。女手一つで私を育て、私に不満な生活をさせないために無理してでも働いて、そして毎日借金取りが家に来る。お母さんはもう限界だった。私がお母さんの代わりに家事をしようとしても、お母さんはそれを止めさせる。そして、お母さんはずっとお父さんが帰って来ると信じていた。


お母さんが死んだ。私は今までにないくらいお父さんを憎んだ。そしてその日からお父さんと認識するのを止めた。あんな人間の屑が、私のお父さんであってたまるか。憎んで憎んで憎んで、殺意を抱くくらいに私はあの人を恨んだ。あんな奴、死ねばいいのに。お母さんが死んだ後、お母さんのお姉さんの家に預けられることになった。お姉さんはお母さんが死んでとても悲しそうだったけど、強い人だった。私には笑顔でいて、優しくしてくれた。高校受験が近かったから、お姉さんは

「ずっとそのことを背負ってちゃ、受験に集中できないよ。忘れろとは言わないけど、今は頭の奥底にしまっておきな」

と言って、私に勉強を教えてくれた。塾にも行かせてもらった。充分な暮らしをしていたけど、幸せはこれっぽっちも感じなかった。それに、お母さんの死がショックで不眠症になってしまっていた。私は不幸な人間だな、といつも思った。今頃、あの人は借金取りから逃げて裕福な暮らしをしているのだろうな、と夜になるといつもそう思っていた。夜はいつも眠れず、静かに読書していた。睡眠をとれたとしても、それはほんの少しだけ。私の眠気を無くすには全く足りなかった。時には、眠れないときもあった。

学校でも、授業に集中できず、睡魔に負けて寝てしまっていた。そんな日々が続き、ついに高校受験が間近になった。公立の高校に合格するために不眠症に耐えながらも頑張って勉強した。良い成果を出すために、自分の全力を出した。でも、結果は不合格だった。でも、私立に合格したのが唯一の救いだったかもしれない。でも、私は精神的に限界が来ていた。中学校の卒業式には行かなかった。

周りのみんなの幸せそうな姿を見たくなかったから。私には両親はいない。だから、卒業式に出ても、誰も私を祝わない。何もかもが嫌になった。どうして私だけこんな辛い思いをしなくちゃならないのと嘆いた。そんなある日、あの人が家に訪ねて来た。そしてお姉さんにお金を貸してくれと頼んで来た。その瞬間私は彼に殺意を抱いた。今この場で殺してやろうかと思うくらい怒りが込み上がってきた。お姉さんは彼の頼みを断り帰らせようとしたが、強引に家に入って来た。そして私を見てこう言った。

「お父さんはお前達に迷惑をかけたくなかったから行方を眩ませたんだ。響子は父さんを助けてくれるよな」

救いを求めるような表情だったが、目は誤魔化せていなかった。

「嘘つき」

そう呟いて私はあいつに面と向かって言いたいことを全部言った。

「私だって、最初はお父さんのこと信じてたよ。お母さんも、死ぬまで信じてた。でも、あんたは私達を裏切った。あんたがお母さんを殺した。あんたのせいで私は大好きなお母さんを無くした!」

そう怒鳴っている内に無意識に涙が溢れた。悲しくて、悲しくてもう泣かずにはいられなかった。

「結果的にはお前達に迷惑を掛けてしまった。それは本当にすまない。でも、あと少しで....」

と言ったところで私はそれを遮った。

「うるさい!もう聞きたくない!申し訳ないって思ってるなら二度と私のところに来ないでよ!その場凌ぎの言葉ばっかり並べて、また私を辛い目に遭わせないで!!」

そう叫んで私はあの人を思いっ切り押し飛ばして家の外から出した。そしてすぐに扉を閉めて鍵を掛けた。すっきりした。心に溜まっていた不穏な感情を全て吐き出したような気分だった。それからあの人は家に来なかった。借金で苦しんで、死ぬよりも辛い目に遭っているなら、それでいい。自業自得。そして私は不眠症が治った。良い結末とは言えないけど、私は助かった。


彼女の話を聞いて、俺は俯き沈黙した。俺よりも悲惨な人生を生きてきた。同情なんてできない。してはいけない。彼女は大事な母親が死んでいるんだ。それも父親の理不尽な勝手のせいで。

「それでも、やっぱり人と関わるのが怖かったの。でも、加藤くんが不眠症に苦しんでる姿を見たら、放っておけなくてさ」

そう言って苦く笑う。だから、彼女は俺に関わってきたのか。きっと、昔の自分と俺を重ねたんだろう。

「そうか。お前は俺を本気で助けようとしてたんだな」

「そうよ。なのに私を鬱陶しがってたじゃない」

「それは悪かった」

そう言うと彼女は全くよ、と言って笑った。俺は顔を上げて彼女に

「助けてくれて、ありがとう」

と言った。いつもなら彼女は俺から顔を逸らしていた。でも今回は、少し顔を赤らめながら優しい笑顔で微笑んだ。その彼女の素顔に、心が揺れたような気がした。

「じゃあ私、もう帰るね。おやすみなさい」

彼女が立ち上がると俺は咄嗟に立ち上がり彼女の腕を掴んだ。彼女は驚いた表情で俺を見る。俺は冷静になって彼女の腕を離した。

「すまん」

謝ると彼女は俺の手を握ってきた。彼女のその意外すぎる行動に驚いて固まってしまった。すると彼女は俺にそっと近付いて来た。互いの吐息が聞こえる距離まで。

「ど、どうした....?」

そして彼女は俺にこう言った。

「好きだよ」

その言葉を聞いて、俺の心臓の鼓動は激しくなった。状況を上手く飲み込めずに焦る。すると彼女は俺の頭をポンポンと叩いてきた。

「もう、何でそんなに戸惑ってるのよ。イエスかノーかを言うだけじゃない。答えは分かってるけど」

そう言うと寂しく笑う。本音はイエスを答えてほしいのだろう。でも、そうすると春香の気持ちはどうなる?ここで断るのは、彼女のためでもあるし、春香のためでもある。俺は申し訳なさそうに彼女の告白を断った。

「うん、それでいいの」

そう言うと彼女は後ろを向いて歩き出した。その後ろ姿は何とも寂しく感じた。このまま行かせたくない。俺は走り出して彼女を止めたい衝動に駆られたが、それを強く堪えた。ふと、テーブルの上を見ると、一口しか飲んでいないお茶が置いてあった。俺はそれを一気に飲み込んだ。俺は、彼女には何もしてやれない。そう思った途端、後ろから足音が聞こえてきた。俺は振り返ろうとした瞬間、頬に何かが触れた。東の唇だった。彼女の顔を見ると、涙を流していた。彼女の悲しみが、心の中に入り込んできたかのように、俺の心は苦しくなった。彼女は泣き顔で笑うと、服で涙を拭いながらその場を去って行った。何もしてやれない自分を罵った。


帰りのバスでは、行きとは違って彼女は俺に話しかけてきた。でもその内容は、どれもこれもどうでもいいことだった。彼女も分かっているだろうけど、きっとあれから一言も話さないというのが嫌なんだろう。俺もそれは同じだった。ただ黙って、彼女の隣にいるのは少し居心地が悪かった。時間が経つに連れて、話題は無くなっていき、ついには話さなくなった。俺はずっとあの告白のことを考えていた。彼女は不眠症だった俺を助けたかった。そんな事をしている内に恋が芽生えていた。彼女が春香のことを知ったときはどう思ったのだろう。自覚はなくても、彼女に対してそんな話をした自分を少し残酷に思えた。俺はいつも慰める側だ。だから、彼女に同情するなら、それ相応のことをするべきだ。俺はそう思い、彼女の手を握った。

「明日、お前の家行ってもいいか」

彼女はとても驚いていたが、頷いて承諾してくれた。

昨日、小説を投稿出来なくて申し訳ありません。

今後は次回を投稿出来ない場合、このあとがきでお知らせいたします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

響子の壮絶な過去。彼女はとても辛く苦しい人生を送ってきました。

人と関わるのが怖くなった彼女が出会ったのは、自分と同じ不眠症に悩まされている蓮。

彼を助けている内に彼のことを好きになったんでしょうね。

でも、彼には恋人がいる。その事実が、今の彼女を苦しめているのでしょう。

これを執筆している当時の自分は、響子を幸せにしたいと思っていたのですが、そうすると蓮が二股最低どクズ野郎になってしまうのでさすがにそういうシナリオには出来ませんでした(笑)

とにかく、響子さんは可哀想です。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ