第十話「慰めるのはいつものこと」
【前回のあらすじ】
響子の壮絶な過去を聞いた蓮。
そして彼女は彼に結果の分かる告白をした。
彼女の涙を流す姿を見ていられなくなった蓮は、彼女を救いたいという思いで、彼女の家へ向かった。
東の家の前に着いた。一呼吸置いてから、インターホンを鳴らす。すぐに扉から彼女が出て来た。
「待ってたよ。早く入って」
「お邪魔します」
彼女はどうやら一人暮らしをしているようだ。なので家はあまり広くないが、一人で暮らすには十分な広さだった。
「狭いけど、くつろいでって」
適当に返事をして俺は座布団の上に座った。その前には小さなテーブルが置いてあり、しばらくすると彼女は飲み物をそこに置いた。そして向かい側に座って俺と向き合う。一昨日、彼女は俺に告白した。そんなことがあったせいでとても気不味い空気だったが、俺は彼女に問い掛けた。
「お前は....後悔してないのか?」
そう訊くと彼女は俯いた。俺の目を見ない。
「....後悔してないって言うと、嘘になる」
そう言って彼女は俺の目を見つめた。
「でも、伝えないで終わるよりはマシよ。やらなくて後悔するより、やって後悔する方がいいでしょ」
「場合によってはな」
彼女の言葉にそう付け足した。確かに、彼女の言う通り、やらなくて後悔するよりもやって後悔する方がいいかもしれない。でも、それは時と場合による。
「それで、何をしに来たの?」
俺が具体的に何をするのか、それを彼女に話していなかった。だから彼女はそう質問した。
「俺は....悲しんでるお前を慰めに来た」
面と向かって答える。すると彼女は俺を睨んできた。
「なに、それ?慰めなんていらない。それに悲しくなんかないわ」
不満そうな表情を見せていたが、どうも強がっているようにしか見えなかった。
「悲しくなんかない?じゃあ何でお前はあの時泣いていたんだ?悲しいからじゃないのか?」
「それは....」
そう言うと彼女は口籠る。
「どうしてお前が自分の過去を俺に打ち明けたのか理解出来ないんだ」
彼女は俯いて黙り込んだ。このまま一方的に質問するのは気がひける。俺はそこで黙った。彼女が答えてくれるまで待った。部屋の中はものすごく静かだった。時計の秒針が動く音と、窓の隙間から吹く風の音だけが部屋に響いた。随分と長い沈黙の末、彼女はついに口を開いた。本音を、俺に見せてくれた。
「強がってるだけなのは、お見通しだよね。貴方に過去を打ち明けたのは、受け止めて欲しかったから。私と同じ不眠症に苦しんでる人なら、私を分かってくれると思った。でも、貴方には春香さんがいる。だから私のこの恋は叶えられない....」
俺に本音を語る彼女の目には涙が浮かんでいた。そしてポロポロと流れ落ちる。
「本当は、貴方に慰めて欲しい。私を優しく抱き締めて欲しい。でも、そんなことをさせたらいけない。もしそうしたら、春香さんの気持ちを裏切ってしまうから」
確かにそうだ。春香の気持ちを裏切るのは一番やってはならないことだ。でも、そんなことで裏切ることにはなるとは俺には思えなかった。彼女は大事な友達だ。だから俺は彼女の悲しむ姿を見たくない。
「もう、この恋は諦める。そう決めたの。貴方といるとその決意が揺らいじゃう。だから、貴方といるのは今日で最後にして」
そう言うと彼女は俺からそっと目を逸らした。もう見ていられなかった。悲しい姿を。俺は彼女の傍に寄り、頬に伝う涙を指で拭った。
「春香は分かってくれるさ。だからお前が求めているものは、彼女を裏切る訳じゃない」
「でも....」
「俺たちは困ってる人は放っておけない、だろ?だから、今度俺や春香が困ったら助けてくれよな」
そう言うと彼女は俺に抱きついた。そして子供のように泣き噦る。俺は彼女の頭をそっと撫でた。
「ありがとう、加藤くん。お陰でスッキリした」
「なら良かった」
彼女から悲しみを感じなくなった。幸せに満ちた彼女の笑顔は、とても綺麗に見えた。彼女は俺の服の袖をそっと握ると
「これからも仲良くしてくれる....?」
と訊いてきた。
「当然」
そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。救いを求めているのなら、手を差し伸べてやるのが友達ってものだと俺は思っている。ふとテーブルの上を見ると、まだ一口も口をつけていない飲み物があった。そういえば忘れていた。俺はそれを手に取り半分程飲み込んだ。
東は今まで以上に俺と話すようになった。そして、とても素直になった。照れ隠しに怒っていたのが、最近では普通に照れている。そんな彼女をからかうのが少し楽しくなってきた。なんて、彼女には言えないな。きっと気付かれていると思うが。春香の方は試験の結果が返ってきたらしい。どうやらどれもこれも高得点だったようだ。春香は俺のお陰と言っているが、正直俺の力なんて借りなくても高得点を取れただろう。本当に彼女を尊敬するよ。勉強の方は。
春香の家の前まで来ると、ちょうど彼女も帰ってきた頃で鉢合わせになった。
「お兄ちゃん、こんにちは」
そう言って手を振ってくる。もうすっかり元の春香に戻ったな。俺を思い出していない部分を除けば。俺も彼女に手を振り返して挨拶をした。
「私の高校、もうすぐ文化祭なんだ」
「そうか」
「それでね、私演劇部に入ろうと思うの」
「....は?」
演劇とは一切無縁だった彼女が突然そんなことを言った。冗談にしか聞こえようがないくらい信じられない。
「お兄ちゃん、私が演技出来ないと思ってるでしょー」
顔を膨らませながらそう怒る。
「いやだって、今まで演劇のえの字も理解してない奴にそんなこと言われたらそうなる」
「頑張れば出来るもん!」
彼女のその言葉を聞いて俺は何故かものすごく安心した。そうだ、彼女は何事にも頑張る頑張り屋だ。
「お前が頑張るって言ったらなんか安心するな。そうだな、春香は頑張れば出来る」
そう言って春香の頭を撫でると
「私の演技が上手だと思ったらご褒美頂戴ね」
と言った。
「良いけど、ご褒美ってつまり何が欲しいんだ?」
「それは秘密」
そう言うと彼女は頭を撫でる俺の手を掴んでその手で自分の頭を撫でる。良く分からないがとりあえず俺は彼女の頭を撫でた。
投稿が遅れて申し訳ありません。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
これで響子は救われたでしょう。
この話を書いてるときに何度も
「これは浮気ですね」
と頭の中で流れてきました(笑)
決してそんなことはないのでご安心ください(笑)
少なくとも、僕はそう思ってないので(笑)
感想や指摘など頂くと嬉しいです。
続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。
これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。




