第五話「見えた希望」
【前回のあらすじ】
蓮は響子とどんどん仲良くなっていく。
そしてある日、春香が夢で記憶を思い出している可能性を発見した。
母さんに、たまには散歩してきなさいと言われた。ということで今散歩の真っ最中だ。いつも町の風景をじっくり見ていなかったからか、とても新鮮に感じる。昔の町の風景と重ねたりして変化に気付く。いろいろな発見があった。唯一変わらないのは頭上に広がる空だけ。雲の形は違えど、その奥に映る朝焼けや青空、夕暮れ、夜空は何年経っても変わらない。喉が渇いたので自動販売機で飲み物を買おうとしたら、向こう側から見慣れた人が歩いて来た。東だ。彼女に向かって手を振ると、彼女も驚いた様子を見せながら手を振り返してきた。彼女がこっちに来ると、適当に挨拶をした。
「奇遇ね」
「そうだな」
「何してたの?」
「散歩」
そう言って自動販売機にお金を入れ、ボタンを押して飲み物を取り出した。キャップを開けて一口喉に流す。
「そういうお前は何してたんだ?」
「散歩よ」
彼女も自動販売機で飲み物を買った。
「てことは近所なのか?」
「そうみたいね」
素っ気ない会話を交わす。特に話すこともないから彼女に別れを告げた。彼女も別れを告げ、お互いに反対方向へ歩き出した。ついでだし、春香のところに行くか。そう思い、病院へ向かった。
病院に着き、彼女の病室の扉を開けると早苗さんが楽しげに春香と話していた。
「あら、蓮くん」
早苗さんに向かって会釈をする。すると彼女は立ち上がって
「私はお邪魔ね。二人でごゆっくり」
と言って外へ出て行った。春香のほうを見ると彼女は俺に優しく微笑んできた。俺が二人の楽しい時間を邪魔したような感じがするが、特に気にしていない様子だ。
「お兄ちゃん、夢見たよ」
「本当か?」
「うん」
夢の内容を話し始めた。蓮くんと一緒に山に行って、迷子になった。俺の予想通り、春香は夢で記憶を取り戻していた。その思い出は、俺が初めて春香の手を引いたときの話だ。山で迷ってしまった。離れないようにと言って恥ずかしかったが力強く手を握った。無事に家に帰れるか不安だったが、彼女と手を繋げたことが嬉しかった。良い思い出を思い出すと同時に俺は希望を手に入れた。今までは春香がどう記憶を取り戻しているかわからなかった。希望はあったが、何処にあるかわからない。でも、この瞬間からその希望が見えるようになった。確信があれば安心する。あと少しで、あの頃に戻れる。
「そんな夢を見たのか」
「うん、蓮くんが私の手を引いてくれたんだよ。すっごくかっこよかった」
そう楽しそうに話す。そのときの彼女の感情を知れることもあって、夢を聞くのが楽しくて仕方がなかった。俺は彼女と駄弁り、そして時間が過ぎると家に帰った。その後早苗さんから聞いたが、もうすぐ退院するらしい。
不眠症が治った俺は早起きをし、誰よりも早く学校へ行った。と思ったが、既に東が来て本を読んでいた。俺を見た瞬間一瞬驚いた顔をしたがすぐに元に戻った。
「加藤くん、珍しいわね」
「不眠症が治ったからな」
そう言って彼女にさりげなくおはようと挨拶をした。彼女も挨拶し返す。自分の席に荷物を置いて座る。すると彼女は読書を中断して俺の席の前に来た。
「春香さんはどうなったの?」
「ああ、明日退院するよ」
そう言うと彼女は嬉しそうな顔をした。
「良かったわね」
何故そんな顔をするのか理解出来なかったが、とりあえず適当に返事をした。
彼女は振り返って自分の席に戻ろうとする。そこで俺は彼女を呼び止めた。どうしたの、と言って振り返る。
「一緒に春香の見舞いに行かないか?」
彼女は驚く。その後すぐに笑顔になって
「もちろんよ」
と言った。そして彼女は自分の席に戻り、中断した読書を再開した。何故彼女を見舞いに誘ったのかと聞かれると、特に理由はない。ただ、そうしたかっただけだ。俺も荷物の中から本を取り出し、彼女と同じく読書を始めた。
ホームルームも終わり、荷物をまとめ始める。すると東が俺の近くに寄って来て
「早く行くわよ」
と急かしてきた。
「ちょっと待ってくれよ」
慌てながらも素早く荷物をまとめる。まとめ終わると、彼女は早々に歩き出した。先に行っても場所がわからないから意味がないだろ。彼女よりも早く歩いて追い抜くと彼女のペースに合わせた。
「せっかちなのか?」
「うるさい....」
顔を背けながらそう言う。校門から外へ出ると横に並んで歩いた。誘ったときは嬉しそうな顔をしていたのに、今はそうではない。何を考えているのかわからない。
「乗り気じゃない顔してるけど、どうかしたのか?」
そう聞くと彼女は慌てて否定した。
「違う、ちょっと考え事してただけよ」
嫌なら帰ってもらってもいいが、そういうことではなさそうだ。
「春香さんってどんな人なの?」
唐突に聞かれ、すぐに出てこなかった。
上を向いて彼女を表現する言葉を探し出す。
「諦めが悪くて、負けず嫌いで、気になることは知りたくて仕方がない、って感じか」
「それ、褒めてるの?」
「でも、誰にでも優しいってのがあいつの一番のいいとこかな」
俺には特別にもっと優しいがな、と付け足すとそれは余計と突っ込まれ、そして互いに笑った。彼女と話していると何だか気持ちが晴れる気がする。春香と友達になって、仲良くしてもらいたい。彼女も喜ぶはずだ。病院に着くと、いつも通り春香の病室に入る。そしていつも通り、彼女は読書をしていた。俺が入って来たと分かっているのだろうか。俺を見ずに
「いらっしゃい、お兄ちゃん」
と言った。
「春香、紹介したい人がいるんだ」
そう言うと彼女は本を閉じて顔を上げる。俺と早苗さん以外この病室に来ることはなかったから、東のことを見て驚いた。
「俺の友達だよ」
そう言うと東は彼女に自己紹介をした。
春香も自己紹介をした。その後、東は自分から積極的に春香に質問した。春香も負けずと質問を仕返しす。見ているこっちも楽しくなる。俺はお邪魔だなと思い、静かに病室から出た。扉の向こうから微かに話し声が聞こえてくる。そっと病室から離れ、自動販売機に向かった。お金を入れ、適当にボタンを押して出てきた飲み物を取る。春香にも買ってやろうともう一度お金を入れ、春香の好きな林檎ジュースを買った。自分の飲み物を一口飲む。春香は高校入学直後に事故に遭ったから、きっと友達がいない。他校の人だが、友達になれたのは嬉しいだろう。携帯をいじって時間を潰していると、東からメールが届いた。
"早く戻ってきなさい"
了解と返信して春香の病室に戻った。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
完結させている話なので、話の流れが頭の中でごちゃごちゃになってあらすじを書くのに一苦労してます(笑)
『この恋を叶えるために』完結目指して頑張ります。
感想や指摘など頂くと嬉しいです。
続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。
これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。




