第四話「友情を感じる」
【前回のあらすじ】
蓮は響子に不眠症について相談し、どうすれば治るのかを知った。
そしてその後、響子と友達になり仲良くなった。
春香の見舞いに行ったが、彼女に他のことで楽しんできてと言われ、響子に電話をした。
あの喫茶店で東を待つ。一人で来るのは初めてだな。途中から彼女が来るが。待つ間、暇なのでコーヒーのブラックにでも挑戦してみようと飲んだが、やはり苦い。頼んだものはちゃんと飲まなきゃいけないので、我慢して全て飲み切った。口直しにミルクコーヒーを頼んで口の中にあった苦味を消した。ブラックを飲む度に飲める人たちを不思議に思う。そんなことを考えていたら東が店に入ってきた。彼女は私服で、一目見た瞬間に彼女らしい服装だなと思った。俺を見つけると手を振ってきた。俺もさりげない感じで手を振り返す。そして彼女は向かいの椅子に座った。
「電話かけてきたけどどうしたの?」
「春香の見舞いに行ったら私なんかほっといて遊んできてって言われてさ」
そう言うと彼女は不満そうな顔で俺を睨む。俺は慌てて
「それにお前とは友達だから、お互いのことちゃんと知ったほうがいいかなって思って」
と付け足した。嘘ではないがその場凌ぎに利用した自分が少し嫌になる。
そんなことを知らない彼女は俺に向かって照れ臭そうに礼を言う。その後、趣味や好きな物はなにかといろいろ話をした。ふと外の景色を眺めると辺りはもう暗くなっていた。空には姿を消した太陽が残した仄か光が映っていた。
「すっかり暗くなったね」
適当に返事をすると彼女は立ち上がった。俺もそれに続いて立ち上がる。
「誘ってくれてありがとう。楽しかったわ」
そう言って彼女は笑みを浮かべる。すると俺の前に手を差し伸べてきた。何がしたいのか分からず彼女に向かって首を傾げる。すると彼女は
「握手よ、握手」
と言った。普段することがないんだからわかるわけないだろと突っ込もうと思ったが、その気持ちを堪えた。そっと彼女が差し伸べた手を握って握手する。
「これからもよろしくね」
そう言うと彼女は笑った。出会った頃は、彼女がこんな人間だなんて思ってもいなかった。会計のときに、店員さんにまるでカップルみたいですねと言われて互いに顔を真っ赤にしたことは思い出すだけでも恥ずかしい出来事だった。
東と一緒に喫茶店でお茶をしたとき以来、俺と彼女は仲良くなった。学校では少し冷たい態度を取られるが、まあ気にしない。学校が終わっていつも通り病院に寄る。珍しく春香はリハビリに行ってなかった。どうしたのかと聞くと、ほぼ歩けるようになり医者から負担をかけずに安静にしろと言われたそうだ。それを聞いた瞬間胸の中に嬉しさが広がった。最初は二度と歩けなくなるんじゃないかと不安になったが、そう心配する必要は無くなり、そっと安堵する。でもまだ記憶は戻っていなかった。早苗さんのことは思い出したようだが、俺をまだ思い出していなかった。彼女の記憶の穴はまだ埋まらない。俺の心の闇も完全に晴れていない。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?」
「私ね、夢を見たの」
「どんな夢だ?」
「蓮くんの家にお泊まりした夢。すっごく楽しい夢だったなー」
「そうか、それは良かったな」
そう言って俺も本を読もうと春香の側に置いてある本を取りに行く。お泊まりか。昔、春香と俺の家でお泊まりしたことがあったな。俺の母さんはちょっといじわるなとこがあって、夕食に春香の嫌いな食べ物を出していたな。それを無理して食べて、泣いちゃってたな。当時の俺は母さんにすごく怒ったけど。今思えばいい思い出だな。適当に本を選んで開く。すると彼女は夢の話の続きをした。
「蓮くんのお母さんが、夕食に私の嫌いな食べ物を出してきたんだよ。それでわざわざ作ってもらったから文句も言えなくて、無理して食べて泣いちゃった」
そう笑みを浮かべながら楽しそうに言う。そして俺は驚きの余り本を取ろうとした手が固まる。もしかして、と頭にある考えが浮かんだ。
「なあ春香、今度からその夢の内容をお兄ちゃんに教えてくれないか」
「別にいいけど....」
そう言うと俺は彼女にありがとうと言った。まだ確かではないが、春香は夢で記憶を取り戻しているかもしれない。思い出と一致したのはただの偶然かもしれないが。それを確信するためには時間がいる。
翌日、学校が終わるとすぐさま病院に向かった。春香の夢を聞きたいからだ。
今日はそれが気になって仕方がなかった。病院に着くと真っ先に春香の病室に向かった。扉を開けると、彼女は本を読んでいた。
「お兄ちゃん?息切らしてるけどどうしたの?」
俺の姿に驚いたのか目を見開いて俺を見る。気が付くと俺は汗を流してゼエゼエと息切れしていた。何でもないと言い、服で汗を拭い、椅子に座って春香に夢を見たかと聞いた。
「今日は見てないよ」
「そうか....」
毎日見る訳じゃないか。本当に春香は夢で記憶を取り戻しているかはまだ確信できていないが、時間が経てば分かる。そうなのかそうじゃないのか。そういえば春香はいつ退院するのだろうか。きっと近い間に退院するだろう。そのときは、彼女を思い出の場所へ連れて行こう。きっと何か思い出すかもしれない。そう考え、俺は静かに本を読み始めた。
「最近はあんまり眠らなくなったね」
休日の昼、家で母さんにそう言われた。彼女の言うとおり、俺の不眠症は最初と比べて随分マシになった。学校でも、授業も居眠りせずに受けられて成績も段々良くなってきた。これでもう東に心配される必要はなくなった。母さんに適当に返事をして自分の部屋へ向かった。携帯を手に取り電源を入れる。東からメールが届いていた。いつもの喫茶店が新食品を出すから一緒に行こうとのことだった。了解と返事をして電源を切る。服を着替え、支度をして家を出る。何もすることがなかったからちょうどいい。それに俺もあの喫茶店を気に入っている。新食品というのも少し気になる。喫茶店の近くまで来ると、彼女が喫茶店の側で待っていた。俺を見かけると、この間のように手を振ってきた。俺も軽く手を振り返す。
「突然メールしたけど、来てくれてありがとう」
「いや、俺も新食品が気になったから。わざわざ教えてくれてありがとう」
そう言うと彼女は早く行こうと言って歩き出した。俺も彼女の後を追って歩き出す。喫茶店に入ると、いつもの店員さんが出迎えてくれた。
「ご来店頂きありがとうございます」
と言って頭を下げる。
「いえ、わざわざ電話で知らせてくれてありがとうございます」
店が東に直接電話をしたのか。そこで彼女はどれくらいこの喫茶店に通っているのかを知った。店員さんは俺を見るとニコッと笑って会釈をする。俺も会釈を仕返した。すると東の方を向いて
「やっぱり彼氏さんと一緒なんですね」
と言った。その瞬間顔が熱くなるのがはっきり感じ取れた。からかっているのか勘違いをしているのか。きっと前者の方だと思うが。東は顔を真っ赤にして猛烈に否定をしていた。そんな必死に否定しなくても、と思ったが仕方ない。
「すぐに用意しますのでお待ちください」
そう言うと店員さんはキッチンに消えていった。気まずい雰囲気でいつものテーブルに座った。
「何であんなこと言うのかしら....」
彼女は恥ずかしそうにそう言う。まあこんなに一緒にここに来ていたらそう言ってくるのも仕方がないな。俺も少し恥ずかしかったがそう感じていても仕方がないのですぐに頭から消した。
「それで、新食品ってのはどんなやつなんだ?」
「私も分からないの。できたとしか聞かされてなかったから」
来てからのお楽しみってことか。まあその方が良いだろう。どんなものでも、ネタバラシをされては面白くない。キッチンからあの店員さんが出てきた。トレイに新食品らしき物を乗せてこっちに来る。
「こちらが新食品でございます」
テーブルの上に置かれたのはチョコレートパフェだった。確かにメニューにはない食品だ。店員に軽く会釈をしてそれを口に運ぶ。チョコレートの甘さとコクが口の中に広がった。そして後からクリームの甘さも広がった。簡単に言えば、すごく美味しかった。彼女も美味しそうにパフェを食べ続ける。店員さんも満足気に笑っていた。するとこのパフェについて説明をしてきた。
「普通のパフェだと飽きてきちゃうじゃないですか。
そうならないために味を二段階に分けているんです」
そう言われてパフェをもう一度見ると、確かにチョコレートだけではなかった。
「さっき食べたチョコが一層目で、二層目がイチゴなんです」
よく見ると真ん中から下の層は薄いピンク色をしていた。それを味わいたい衝動に駆られ少し急ぎめにチョコの層を食べ尽くした。そしてイチゴの層を食べる。
さっきのチョコとは全く違う美味しさが口に広がった。
「どうですか?」
「すごく美味しいです」
店員にそう言うとありがとうございますと俺達に言った。ではごゆっくりと言って店員さんは去って行った。
「すごく美味しいね」
「ああ、美味しい」
そう言って俺と彼女は楽しくパフェを食べた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
この小説を書いている当時は、メインヒロインの春香より響子の方が個人的にお気に入りでした(笑)
作者が何故かメインヒロインがお気に入りではないというのはどういうことなんですかね?(笑)
今は春香がお気に入りです。
皆さんはどちらがお気に入りですか?
今の時点ではまだ決め難いですが(笑)
感想や指摘など頂くと嬉しいです。
続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。
これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。




