エピローグ
朝、また君がいた。──これが、僕たちの日常。
翌朝。
目が覚めた。
ベッドに、誰かがいた。
美紀だった。
今日は、美紀が、先に起きていた。
俺の顔を、じっと見ていた。
*
「……おはよう」
「ああ、おはよう」
「よく眠れた?」
「ああ。美紀は?」
「……うん」
美紀が、俺の胸に、頭を乗せた。
*
「ねえ、博之」
「なに」
「これからも、こうしていい?」
「いつでも来い」
「……馬鹿みたい」
「そうか?」
「そうだよ。でも……嬉しい」
(……美紀の「馬鹿」は、もう、いつも、優しい音をしている)
*
階下から、物音がした。
「博之ー! 朝ごはん作るよ! 美紀ちゃんもいる?」
美香の声だった。
「……いる」
「じゃあ3人分ね!」
俺は、美紀と、顔を見合わせて、笑った。
*
「さて」
俺が言った。
「うん」
美紀が答えた。
「……行くか」
「行こう」
二人で、ベッドから起き上がって、階段を降りた。
台所から、美香の鼻歌が、聞こえてきた。
*
朝の光の中で、俺は、思った。
例の手は、今日も、しっかりと、握ってきた。
でも、今日からは、もう、そういうことではなくなった。
(……あの頃は、毎朝、誰かが来て、それに困って、それでも嬉しくて、という日々だった)
(……今は、美紀が、隣にいて、それが、当たり前の、日常になった)
それでも――
美紀が、ここにいて。
美香が、台所にいて。
三人の朝が、ある。
*
リビングに降りると、美香が、テーブルに、朝ごはんを並べていた。
卵焼き、味噌汁、白ごはん。
「いただきます!」
美香が、元気よく、言った。
俺と美紀も、それに続いた。
三人で、朝ごはんを食べた。
いつもと、同じようで、それでも、確かに、何かが違う朝だった。
*
「ねえ、博之」
美香が、味噌汁を飲みながら、言った。
「なに」
「今日、何しよっか」
「まだ決まってない」
「決めようよ! 三人で!」
美香が、いつもの調子で言った。
美紀が、小さく笑った。
「……変わらないね、美香」
「変わる必要ないでしょ!」
美香が、胸を張って、言った。
(……そうだな。変わる必要なんて、ないんだ)
(……変わったものもあるし、変わらないものもある。それで、いいんだ)
*
朝ごはんを食べ終えて、三人で、リビングで、しばらく、だらだらと過ごした。
美香が、テレビをつけて、何でもないバラエティ番組を見て、笑っていた。
美紀が、その隣で、本を読んでいた。
俺は、二人の様子を、ぼんやりと、眺めていた。
*
窓の外に、雪が、少し、降り始めた。
今年初めての、本格的な雪だった。
「あ、雪!」
美香が、声を上げて、窓に駆け寄った。
美紀も、本を置いて、窓の方を見た。
俺も、二人の隣に、立った。
三人で、降り始めた雪を、見ていた。
*
「綺麗だね」
美香が、言った。
「うん」
美紀が、頷いた。
俺も、何も言わずに、ただ、雪を見ていた。
白い雪が、静かに、降り積もっていった。
窓の外の景色が、少しずつ、白く、染まっていった。
*
俺は、思った。
昨年の春、俺は、こう思っていた。
「嬉しいけど困る。困るけど嬉しい。これが俺の、毎朝の現実だ」
その「困る」は、選べないことへの困惑だった。
二人を同時に大切に思う、その矛盾への、戸惑いだった。
(……今は、もう、その「困る」は、ない)
(……選んだ。誠実に、向き合って、答えを出した)
(……それでも、三人の関係は、壊れなかった)
*
美香が、こちらを見て、にっこりと、笑った。
「博之、なんかぼーっとしてる」
「……いや、なんでもない」
「変なやつ」
美香が、笑いながら、言った。
美紀が、俺の手を、そっと、握った。
「……何考えてたの?」
「お前たちのこと」
「……ふふ」
美紀が、小さく、笑った。
*
窓の外で、雪が、降り続いていた。
三人で、その景色を、ただ、見ていた。
この日常が、ずっと、続けばいい。
俺は、そう思った。
(……例の手は、今日もしっかり握ってきた)
(……でも今日からは、そういうことではなくなった)
(……それでも――)
(……美紀がここにいて、美香が台所にいて、3人の朝がある)
(……この日常が、ずっと続けばいい)
*
俺、桐島博之。
隣に住む、双子の幼なじみ、水瀬美紀と、水瀬美香。
生まれた日から、ずっと一緒だった、三人。
一年をかけて、俺たちの関係は、確かに、変わった。
でも、三人でいることの、あたたかさは、何も、変わらなかった。
これからも、きっと、いろんなことがあるだろう。
でも、三人で、それを、乗り越えていける気がする。
*
雪が、静かに、降り続けていた。
窓の外の世界が、白く、染まっていく。
その中で、三人の、あたたかい時間が、確かに、続いていた。
◇ ◇ ◇
「となりの双子はキケンすぎる」
全三巻 完
桐島博之 / 水瀬美紀 / 水瀬美香
生まれた日から、ずっとそばにいる。だから、ずっとキケンなんだ。
最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。
お読みくださり有難うございます!!
この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!
読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!




